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7.6-26 サウスフォートレスでの戦い11

ワルツが大量に作ったマイクロマシンは、彼女の思惑通り、街の周辺にいた大量のマギマウスたちを死滅させた。

ただ、それは、マイクロマシンを散布した街の周辺に限ったことであって、全てを退治したわけでは無かったのである。

故に、このサウスフォートレスよりも南の地方に広がっただろう残りのマギマウスたちの駆逐は、マイクロマシンが行き渡るまでの間、まだもう暫く先のことになりそうであった。


……その報告をするために、ワルツはこの地方の(まつりごと)を統括する伯爵のところへとやって来ていた。

街はマギマウス(と地竜)に襲われたものの、ワルツがマイクロマシンを散布するタイミングが良かったためか、正門周辺以外は無傷の状態で、新しく出来た伯爵邸も何事もなかったかのように、新築独特の匂いが立ち込めていたようだ。


その中にあった来賓室に、この街に降り立ってから一旦はバラバラに行動していたワルツたち4人が、再び集まっていた。

ワルツ、狩人、ルシア、イブ……そしてついでに、誰も名前を知らない魔女も一緒である。

ワルツは当初、彼女と一緒に来るつもりはなかったのだが、懐かしそうに話しかけてくる魔女と町中を歩いていた際、以前見たことのある騎士が『魔女も一緒に来て欲しい』と伯爵の言伝を持ってきたので、仕方なく一緒に来ていたのだ。


茶色の長い髪の先端から生えた白い獣耳と、長いまつげを揺らしながら、どこか優雅に緑茶を啜る魔女を前に、皆、混乱していたのだが……


「(この人、誰だっけ……?どっかで見たことあるんだけど……)」

『(魔導書屋の看板娘……じゃないよな?娘がいるって話、聞いた事ないしな……)』

『(稲荷寿司屋さん……。やっぱりやってなかった……)』

「(何でみんな、初対面の人に対して黙ってるんだろ……)」


どうやら、本当に初対面であるイブと、心ここにあらずなルシアを除いた2人には、薄っすらと彼女に関する記憶があったようだ。

尤も、それを思い出すには至っていなかったようだが。


魔女を除いた4人が、それぞれに別々の理由で、頭を抱えていると……


ガチャッ……


「遅れて申し訳ない」


いつも通り腰の低そうな伯爵と、


「皆さん、ご無沙汰しています」


伯爵夫人の2人揃って部屋へとやってきた。


故にワルツは、魔女のことはとりあえず思考の片隅に追いやって、早速、報告をすることにする。


「いえいえ、お忙しい中、お時間を作っていただいて、こちらこそ申し訳ありません。例のマギマウスの一件も、元はといえば、私たちに原因があったわけですから……」


そしてワルツは、今回のマギマウスの事件が、元を辿れば自分たちが原因であることを、伯爵たちへ改めて説明した。


……一人の少女を救うために始めた研究。

その過程で生み出してしまった化け物たちを投棄した話。

結果、サウスフォートレスを滅ぼしかけてしまったこと。

そして、これからのこと……。


もしも、これが、まったく知らない東西北の要塞を所有する領主なら、ワルツは事故を装って、不都合な事実を知られては困る領主ごと、真実を闇の中へと葬る……かもしれなかったが、サウスフォートレスの領主は、狩人の父であり、浅い付き合いというわけでもなかったので、事件を有耶無耶にすることは出来なかったようだ。


とはいえ、今回が初めての事情説明、というわけではない。

今日まで問題を隠蔽していたわけではなく、マギマウスが無人島から逃げ出したことが分かっていた1ヶ月前の段階から、報告と対策と費用について、コルテックス経由で報告と議論を重ねてきていたのである。

全世界から傭兵(ぼうけんしゃ)たちを集めていたことや、その賃金の支払に国費が投じられていた事からも、それは明らかだろう。

なお、国家議会の方には、本当の原因は伝えられていない……。


……ただ、問題がどうにかなりそうだからといって、ワルツたちの責任が無くなるわけではなかった。

迷惑を被った地の領主なら、苦言の一つでも言いたくなるはずである。

人を救うという口実があれば、実験で民を犠牲にしてもいいのか、と。


……しかし、そういった言葉が飛んで来ることを覚悟していたワルツのその予想とは裏腹に、伯爵がそれを口にすることはなかった。

むしろ、彼は柔和な表情を浮かべながら……こんなことを口にした。


「以前に大きな痛手を受けて再建途中にあったこの街にも、今回の件で新たな被害が出てしまいましたが、以前の分とは別に対策費用は頂いているので、問題はありません。それに……結局、マギマウスとの戦闘で、()()()()()怪我人は出ても、死者は出なかったですから。故に、我が領地としては、これ以上、この件に関しては、追求いたしません。コルテックス様にもそうお伝え下さい」


つまり、一部の浮足立った外部の冒険者に、多数の死者は出ても、街の者たちには犠牲者が出なかったので、問題はない、というわけである。

地竜が結界の中に突然現れて、少なくない人々が吹き飛ばされたはずだが、何らかの理由があって、その中に死者は出ていなかったようだ。

なお、地竜がやってきて街の正門を破壊したことについては、地竜がいなくなった後で街にやって来たワルツたちは、未だ知らなかったりする……。


「そうですか……。そう言っていただけると助かります。今後はこのようなことが起きない……とも言い切れないので、伯爵の領地の中や近くで何かをする場合は、事前にご相談させていただきます」


「また何かある……というのは困りますが、ご相談があれば前向きに検討させていただきますよ。ワルツ様方の研究のおかげで私たちも助かっている部分がありますから」


そう言い合ってから、頭を下げ合う2人。

こうしてとりあえずは、騒動の原因となったワルツたちと、被害を被った領地の領主は、被害についての補填を国が行うということで和解したのであった。

まぁ……急激に増えたミッドエデンのGDPによって、同時に増えた税収の事を考えるなら……住人にケガ人が出たとはいえ、被害らしき被害が正門の破損だけしか無かったサウスフォートレス側が、国に補填を要求する必要はあまり無いかも知れないが……。




それから、暗い話はここまで、と言わんばかりに、話題は変わっていく。

それを切り出したのは……趣向を凝らしたデザインが所々で輝いている銀色の甲冑に身を包んでいた女騎士、もとい狩人の母(伯爵夫人)であった。

引退していたはずの彼女も、どうやら今回のマギマウス退治では駆り出されていたようである。

むしろ、戦闘に立って、指揮を執っていた可能性も否定はできないが……。


「今回の一件、魔女さま方のご協力については、深く感謝いたします」


急にそんな言葉を向けられた魔女は……今まで迫害される存在でだった自分たちが、まさか、伯爵夫人ともあろう人物から感謝されるとは思ってもいなかったようで、顔を真っ赤にしながら、その前で手を振りつつ、謙遜の言葉を口にし始めた。


「いえいえ!とんでもございません!私たちの行動はすべて、ワルツ様の教えに従ったゆえの行動です。この救われた命は、最初から、ワルツ様と共にありますので!」


その言葉を聞いて……


(あー……そう言えば、魔女として迫害されていた女性たちを救ったことがあったわね……ずっと前に。……で、誰だっけ?)


と、魔女を救った事自体は思い出せたワルツ。

しかし、どんなに考えても、具体的な彼女とのつながりについては思い出せなかったようだ。

それには理由があるのだが……それについては、ワルツだけでなく、その魔女の自身も、気づいていないようである。


故にワルツは……適当に話を合わせて、その会話の中から、魔女の名前とつながりを探ることにした。


「ううん、そんな謙遜することはないわよ?何かを教えても、実際に行動できるかどうかは、その人自身の選択なんだから(何を教えたかは知らないけどさ?)」


「ワルツ様にそういっていただけると……私たちは幸せものです……!」ぐすっ


「……そう(なんで泣き出すのよ……)」


記憶の中にある魔女たちの中に、喜怒哀楽の変化が激しい魔女がいたかどうかを思い出そうとするワルツ。

それから彼女が、そんなキャラの濃い人物が知り合いにいたら、絶対に近づかないだろう、という自分の思考を自覚して……それから、もしかして偽物の魔女なのではないか、と疑い始めた頃……。


「……あっ!」


突然、狩人が、何かを思い出したかのように声を上げた。


その反応を見て……


「……?どうしたんですか?」

「何かあったんですか?狩人さん?」

「淑女が急に声を上げるなど、みっともないですよ?リーゼ」


と、それぞれに言葉を口にする魔女、ワルツ、女騎士(狩人母)

そんな3人の姿を見て……


「おっと……これは失礼しました。つい、昔のことを思い出しまして……」


狩人はそう口にしてから、誤魔化すようにお茶を飲んで、黙り込んでしまった。

……なお、彼女の内心では、こんなことを考えていたりする。


「(危ないところだった……。魔女さんの名前を今思い出した、なんて言ったら、今まで忘れてたことが知れて、失礼になるからな。でも……ワルツはすごいよな。きっと、顔を合わせた瞬間に、彼女が誰かってすぐに思い出せたんだろう。そうじゃなきゃ、あんな普通の態度で接せれないはずだからな。……でも、どうして、お茶を飲む手が震えてるんだろうか……。あ、そうか。こういう場の空気に慣れないって言ってたからそのせいだな)」


そう考えてから、ワルツのためにこの場の空気を柔らかくしようか、と思い悩む狩人。

それから間もなくして、ワルツのためなら、いかなる行動も(いと)わない、と考えた狩人は、思い切って行動に出ることにしたようだ。


もしも、その場の空気に馴染めないというのなら、馴染めるような話題を提供すればいい……。

即ち、その場にいる者がお互いに気兼ねなく話せるような、共通の話題の提供である。


その結果狩人は、魔女を代表して夫人から謝礼の言葉を受け取っていた彼女に対し、頃合いを見計らって、その口を開いた。


「いやー、それにしても久しぶりだ。確か、前回会ったのは、アルクの村だったか……」


「はい。あの時は、まだ生活になれない私に、魔物を差し入れていただいて、ありがとうございました」


「そんな気にしなくていい。日課のついでみたいなものだったからな」


そんな会話から始まって、談笑をする狩人と魔女。

ここがモダンな雰囲気に飾り付けられた伯爵邸の中ではなく、鬱蒼とした森の中だったなら、より雰囲気が出ていたかも知れない。


……しかし、一見して穏やかに見えたその空気は、狩人の意図とは反して、一瞬にして凍りついてしまう。

それは……彼女のこんな一言が原因だった。


「ところで、隣に住んでいる道具屋のおばあさんは、まだ元気だろうか?」


「……え?私の家の隣は道具屋ではなく、ワルツ様の家ですよ?」


「えっ……ワルツの家の隣りに住んでる……?もしかしてあなた……ササキさんじゃない?」


『……誰?』


そして、場に妙な空気が立ち込めた。

どうやら狩人の中にあった魔女の記憶は、結局、違う人物のものだったようだ……。

何か書こうと思っておったのじゃが……活動限界を迎えた妾の頭では、思い出すことが出来なかったのじゃ。

いや、正確には、活動限界なわけではないのじゃ?

実は……押し入れから、なにやら怪しげな音が聞こえてきて……その音の原因が何なのか気になって、集中できなくなってしまったのじゃ。

こう……ひたっ……ひたっ……と、のう。


で、恐る恐る調べてみたのじゃ。

何が怖いって……あの大きな軍曹(アシダカ)が出てきたらどうしようと考えたら……のう?

……え?妾の世界にはもっとおきなクモがおる?

そりゃいるかも知れぬが……大きすぎた場合や、家の外で遭遇した場合は、何も思わないのじゃ。

いや、家の中に、体長5mくらいのクモがおったら、そりゃもう、大惨事決定じゃがの?

主に、ルシア嬢の魔力が暴走して、の……。


まぁそれはいいのじゃ。

それで、少し離れ場所から、ライトを当てて確認してみたのじゃ。

そうしたら……なんと……!


……エアコンのドレーンホースから水が漏れておったのじゃ。

どうやら、接続が悪くて、外れかかっておったようじゃのう。

詰まっておらねばよいのじゃが……。


というわけで、深夜なのに色々と忙しくなる故、今日のあとがきは省略させてもらうのじゃ!

……省略しておるのじゃぞ?(震え声)



あ、そうそう。

一つだけ補足なのじゃ。

これは実話なのじゃが……『ササキ』という偽名を使うのは、妾の話なのじゃ。

どういう当て字なのかは、妾も分かっておらぬがの?

『佐々木』か、『笹木』か、『佐々城』か、『Sasaki』か……。

個人的には、最後のSasakiが気に入っておるのじゃ?

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