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7.6-23 サウスフォートレスでの戦い08

「〜〜〜っ。ひははひはい……(舌が痛い……)」


かつてルシアが使っていたものと同じほどに大きな杖を振り回しながら、噛んだ舌の痛みに悶える魔女アンバー。

そんな彼女の手に握られていたその大きな杖は……繰り返すようだが、魔法使いにとって、自身の能力を増幅するための道具であった。


杖の大きさは、その魔力に適したサイズでなければ、最適な力を発揮しない。

例えるなら、水道の蛇口のようなもの、と言えるだろうか。

建物に大流量の配管が通っていても、出口が小さければ、流れ出る流量は、普通の蛇口とあまり変わらないのである。

逆に、少しの流量しか無いのに、大きな蛇口をつけても、ただ流れるだけで勢いは無いのだ。


故に、術者が自身の魔力に応じた適切な杖を装備している、という前提条件は必要となるが、杖の大きさとは、術者の魔力を視覚的に判断するバロメータのようなものであった。

そのため、冒険者の中には、見栄を張って、無駄に大きな杖を装備する者もいたようだが……そもそも魔法を使える者があまり多くはないこの世界においては、強い魔法が使えただけですぐに有名になってしまうので、名の知れていない者が大きな杖を持ってたとしても、後ろ指をさされて、マトモに相手にされることはなかったようである。


なお、これは余談だが……ルシアの場合は、この国に現存する一番大きな杖ですら出力過多で吹き飛ばしてしまったので、今は一周回って装備すらしていない……。


まぁ、それはさておいて。

つまり、魔女として迫害されつつも、最近は徐々に名声を集めつつあったアンバーが、ハッタリではなく、自分の魔力に応じた適切な杖を装備しているのだとすれば……彼女は相当な魔力を保有する人物、ということになるだろう。

それも、杖を使っていた頃のルシアと同じほどに……。


……ただし、である。

何事にも、例外はあった。

得意、不得意、と言う名の例外だ。

例えルシアが化け物じみた魔力の保有者だとしても、カタリナのような万能の結界魔法が使えるとは限らないのと同じく、である。


つまり、アンバーには……


「さてと……。転移魔法しか使えないんですけど、どうやって戦いましょうかね?」


という、魔法使いとして致命的な欠点があったのだ……。

まぁ、この世界の転移魔法使いが殆どいないことを考えるなら、(あなが)ち致命的な欠点とも言い切れないのだが。


「グルルルル……!」


転移魔法によって生成されていた異相空間に、一時的に溜まっていたドラゴンブレスが全て放出され、自身に降り注ぐ自ら放った攻撃が無くなったところで、ようやく身体が自由になった地竜は、怒りを表現するように、転移魔法の術者であったアンバーへ向かって唸り声を上げた。

そんな地竜の背中には、赤熱した岩石の装甲はあっても、出血などは見られない所を見ると……どうやら、彼は、ほぼ無傷と言っても過言では無さそうである。


「勇者様の手前、格好を付けて啖呵(たんか)を切ったのは良かったけど……コレはちょっとまずいかも……」


と言いながら、自身に向けられた殺意に対して、アンバーは苦笑を返した。


そんな、どこか余裕を見せていたアンバーの表情通り……実のところ彼女は、地竜に襲われたとしても、大きなダメージを負う可能性は殆ど無かった。

もしも、どうにもならない事態が起ったなら、その直前で、転移魔法を使って逃げてしまえばいいのである。

あるいは、地竜自体を、どこかへ飛ばしてしまうというのも手かもしれない。


ただ……ダメージは負わなくても、地竜にダメージを与えるという観点においては、勇者以上に、決定打にも有効打にも欠けていた。

それには、転移魔法特有の問題が関係していたのである。


結論から言うと……アンバーの転移魔法は、彼女が一度でも実際に行ったことがある以外の場所に、物体を転移させることが出来なかったのだ。

それは一般的な転移魔法全般に言えることで、多少の違いはあっても、基本的には、術者が一度でも訪れたことがある場所……即ち、その場所に関する記憶があって、明確にイメージできる場所でなくては、転移させることも出来なければ、自身が転移することも出来なかったのである。

まだ若かった彼女が明確にイメージできる場所は、目の前に見えている景色を除けば、ごく限られた場所……例えば、普段の活動の中心となっている『自宅』や『施療院』、あるいは……忘れることの出来ない思い出があるらしい『王都の教会』くらいしか無かったのだが……まさか、そんな場所に、怒り狂った地竜を送り込んだならどうなってしまうのか、わざわざ説明するまでもないだろう。


「……施療院でいっか。ソフィーがいるだろうし……」


……実際にはやらなかったが、ボソッとそんなことを呟くアンバー。

どうやら彼女にとってソフィー……ソフィアという女性は、こういう時、頼りになる人物らしい。


ところで……。

先程まで文字通り命を削りながら戦っていた勇者と、これから地竜と戦おうとしているアンバーには、こう言った荒事に対処する上で、考え方に大きな違いがあった。

主にスタンドプレー中心で、一部の優れた仲間たちとだけタックを組んで戦うか……あるいは、最初から一人で戦うようなことはせず、周囲にいる者たちの力を借りて、他力本願な戦闘を行うか、である。

2人のどちらが、どのスタイルで戦うのかについては、言うまでもないだろう。


……そのスタンスは、物語の登場人物としては失格と言えるかもしれない。

目立つこともなく、先頭に立つこともなく……群れの中で、皆の力を借りつつも、ひっそりと周りの者たちを支えて、皆の安寧を願う……。

それはアンバーだけに言えることではなく、勇者のような特殊な人物を除いた、他の者たちに共通して言えることだったようだ。


しかし、それがどれだけの大きな力を秘めているのか。

そして、そんな者たちが作り上げる『群』とは、どれほどに恐ろしいものなのか……。

少なくとも、目の前にいる地竜は知らなかったようである。


故に彼は、周囲に散らばる単なる障害物としか見なしていなかった有象無象の者たちを無視して……自身に小さいとはいえ、痛みを与えてきたアンバーに対してのみ、その敵意を向けた。


「グォォォォ……!!」


たとえ転移魔法を使われて、再び自身の攻撃を受けたとしても、身体にダメージはなく、単なる痛みだけしか感じないのなら……相手の魔力が尽きるのが先か、自分の魔力が尽きるのが先か、根比べるするのも悪く無い。

あるいは、相手が大事にしていそうな(まち)を、攻撃のついでに吹き飛ばすというのも手かもしれない……。

そう考えたかどうかは定かではないが……地竜は、再びドラゴンブレスを吐き出すことにしたようで、その口を開いて、魔力のチャージを始めたのである。

それも、いきなりアンバーだけを狙うのではなく、彼女の背後にあった町並みごと薙いで吹き飛ばそうと、首を横に捻りながら……。


チュィィィィン……


……もちろん機械ではないので、そんな甲高いタービン音は聞こえなかったが、そんな擬音が聞こえてきそうな様子で、着々とその口の中に、光の粒子を集めていく地竜。

そして間もなくして、彼がブレスを吐き出そうとした……そんな時である。


ボフッ……


どこからともなく、小さな火球が飛んできて、地竜の顔に当たったのである。


「グォッ……?」


当たりどころが悪かったのか……地竜は吐こうとしていたドラゴンブレスを一旦飲み込むと、火球の飛んできた方向に向かって真っ赤な眼を向けた。

するとそこには……


「うぉっ?!やっべ……俺死んだ!」


顔を真っ青にしながら、挙動不審な動きを見せつつ、そう口にする一人の若い冒険者の姿が……。

どうやら、彼自身に攻撃するつもりは無く、気を抜いた瞬間に間違えて魔法を暴発させてしまったらしい。


「グルゥ……!」


そんな矮小な者に注意を向けてしまった事自体が腹立たしかったのか、地竜はその尻尾を鞭のように使って、その冒険者のことを吹き飛ばそうとした……。

そんな折、


ポフッ……


先程よりもずっと小さな氷魔法が彼の額へと飛んでくる。


「ボクたちのまちから出て行け!」


それは年端もいかない少年からのものだった。

街の路地から現れた所見ると……避難していた家から出てきて、大好きな街を襲撃する者に対し、その思いをぶつけたのかもしれない……。


……それが始まりであった。


ボフッ……

ポフッ……

ボンッ……


街の正門を潰すような形で陣取っていた地竜に対し、まるで大小の雨粒が当たるかのように、様々な大きさの魔法が、周囲から水平に降り注ぎ始めたのである。

……それは、何も、その場にいて無事だった者や、当たりから駆けつけてきた者たちだけが放ったものではない。

瓦礫の中に沈み込んでいた兵士、冒険者、市民、それに魔女や、挙句、ミノタウロスたちまでが、瀕死の状況のはずなのにもかかわらず、持てる力を振り絞って放った魔法も多く含まれていたのである。


そしてそれは徐々に勢いを増して、数秒後には……


ドゴゴゴゴゴ!!


小さいながらも……しかし、数えきれないほどの魔法へと発展し、あたかも、雨粒で周囲を見渡すことが出来ないの大きな嵐のように、地竜に向かって吹き荒れたのだ。

見直すこと10回以上……。

もうダメかも知れぬ……。

恒例のゲシュタルト崩壊を起こしたのじゃ。

おそらく今日は、どんなに頑張っても、修正しきれないのじゃ。

じゃから……妾は、しかたなく、その眼を瞑ることにしたのじゃ……zzz。


……はっ?!

危ないところだったのじゃ。

また、あとがきを書いておる最中に、真理の向こう側を覗いてしまうところだったのじゃ……。

……まぁ、そんな駄文を掻いておると、本当にあちらの世界に旅立ってしまいそうじゃから、さっさと今日の分のあとがきを書いてしまおうと思うのじゃ。


ここいらで、書いておかねばならぬ、釈明の言葉があるのじゃ。

……魔女たちがどうして迫害されていたのか、という話。

それを書こうと思っておったのじゃが、どこにも書くスペースが見つからなかったのじゃ……。

じゃから、それを書くタイミングを見つけようと延々と書いておったら、気付いた時には、いつもの倍以上書いておって……実は、明日の分も、既に書き終わっておったりしなくもないかもだしなのじゃ?

そのせいで……冒頭の通り、ゲシュタルト崩壊を起こした、というわけなのじゃ。


……どうしようかのう。

あとがきで補足するには、すこし美味しそうな話じゃから、下手に書きたくないしのう……。

……いや、2時間くらい噛み続けたガムみたいな味じゃがの?

まぁ、そのうち、思い出して、機会を見つけたら書くことにするのじゃ。

意外に明日辺り、追記で書く可能性も否定はできぬがの?

というわけで、魔女の迫害理由については、もう暫くお待ち下さいなのじゃ。


……え?随分前の話で、迷子になっておった教皇は、無事に教会へと帰れたのか?

……さぁの。

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