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7.6-21 サウスフォートレスでの戦い06

……その光景は、現実離れしていた。

数千馬力にも及ぶ戦車が、まったく障害物を気にせずに住宅街に突っ込んで行ったとしても、そうはならないだろう。

例えて言うなら……物理シミュレーションのソレであった。

ある投影面積Sを持った物体Pを、一定の速度Vで真っ直ぐに街中を移動させたらこうなる……そんな光景だ。


グルァァァァ!!

ドゴォォォォ!!


「うおっ?!下手に逃げれねぇ!!」


大きな黒い山のような物体が、障害物という障害物を根こそぎ破壊しながら、真っ直ぐに自分の方へと向かってくるその姿を見て……地面に倒れている者たちや、住民たちが避難しているだろう街に、これ以上被害を出したくなかった勇者は、前にも横にも、そして後ろにすらも逃げることが出来なかった。

あるいは、逃げずにその場所にいて大人しく犠牲になったとしても、突っ込んでくる地竜が止まるわけもなく……自分を撥ねたあとで、後ろに広がる町並みに突っ込んでいく……それを分かっていた彼は、逃げたり身を守ったりするのではなく、むしろ攻撃に転じることにしたようだ。

殺られる前に殺る……。

弱肉強食な世界で生きてきた勇者らしい考えと言えるだろう。


……しかし、1対1で地竜ほどの大きな魔物と戦うことを考えた時、勇者には、()()()になる攻撃はあっても、()()()になる攻撃が無かった。

たとえ、大きな破壊力を誇る必殺技(?)を持っていたとしても、弱っていない強敵に使ったなら、それは単に普通よりも強いだけの攻撃でしかないのである。

しかも、技を使った直後は、大きく態勢が崩れる上、疲弊して隙だらけになるので……少なくとも、相手が健在で、いつ反撃してくるのか予測不能な状況下では使うべきではないのだ。

なお、勇者は、そのことで痛い目に遭ったことがあるのだが、それが何時(いつ)だったのかについては……とある黒い森が消滅した日、とだけ言っておこうと思う。


故に彼は、地竜に対して、ボディーブローを仕掛けるところから始めることにしたようだ。

……とは言っても、実際に拳をぶつけるわけではない。

そう。

幸いなことに、彼の手の中には、自身の命を預けられる相棒があるのだから……。


「身体がガラ空きだぜ!うおぉぉぉぉ!!」


突っ込んでくる地竜に向かって、そんな雄叫びを上げながら、逆に突進を始める勇者。

それから彼は、大きな口を開けて自身に襲いかかってきた地竜の顔の横スレスレを、最小限の身体の動きだけでどうにかすり抜けると……今度は、180度ターンして、地竜の頭の動きに合わせて来た道を戻り、そして、地面に適度な足場を見つけてその上で跳躍すると、地竜の首によじ登った。


そして、地竜の背中を殴打し始めたのである。


ドゴォォォォン!!

ドゴォォォォン!!

ドゴォォォォン!!


「オーラオラオラオラ!!」


ドゴゴゴゴゴ!!


巨大なパイルバンカーがコンクリートの地面を穿(うが)つかのように大きな音を上げながら、地竜の背中に向かって、一心不乱に鉄パイプを叩きつける勇者。

地竜の体型的に、首の付け根辺りは、尻尾も頭も手も足も届かないので、そこに乗ればやりたい放題できる、と彼は考えたようだ。


実際、


「グォォォォ?!」


突如として背中から伝わり始めた衝撃に、地竜は急ブレーキをかけて、届かない自身の背中の様子を確認しようとしていたようである。

まぁ……分厚い装甲のような岩石によって身体を守られていた彼にとっては、電動マッサージ器からの適度な振動程度にしか感じられていなかったようだが……。


「硬てぇ……。なんつー硬さだ……」


何度、鉄パイプを叩きつけても、少しだけしか欠けることのない地竜が纏う天然の装甲を前に、痺れ始めていた手から武器を落としてしまいそうになる勇者。

そこまでしても、彼の武器が変形してしまわなかったのは……ルシア製の鉄パイプだったから、それともミノタウロスたちが守っていた伝説の武器だったからなのか……。

どうやら最初に折れてしまいそうなのは、彼が手にする武器の方でも、地竜の硬い装甲でもなく、今はある程度回復しているとはいえ、つい数時間前までは息も絶え絶えな様子だった勇者の腕の方だったようだ。


そして、勇者が鉄パイプを握り直すために、一旦、手を止めた……その瞬間だった。


「グルゥ……!」

ゴゴゴゴ……


『手』が届かないことを自覚した地竜が、背中のうるさいハエを排除しようと、身体をひっくり返そうとしたのである。

痒い背中に手が届かなければ、壁か地面で擦ってしまえばいい……。

人と違って道具を使うことのできない動物たちが、背中を掻く際の常套手段である。


その結果、


「ちょっ!」


寝転がろうとする地竜の身体の上を、玉乗りのようにひたすらに走って、どうにかバランスを取ろうとする勇者。

……しかし、起伏の激しい地竜の身体の上を、そう易々と移動できるわけもなく……


「ふがっ?!」

ドスン!


勇者は、地竜が身に纏っていた岩と岩との間に足を取られて、地面へと落下してしまった。


ただ、幸いだったのは、彼が落ちた先が、布でできた屋台の屋根の上だったことだろうか。

そのおかげか、防具をまったく身に着けていなかった彼でも、大きなケガを負ってしまうようなことは無かったようだ。


ただ、その代わり……


「くそっ!動けねぇ……!」


勇者の身体を受け止めた布は、人という重量物が落下した瞬間に、まるで彼を包み込むかのようにその身体にまとわりついてしまい……勇者はすぐに身動きがとれない状態に陥ってしまう。


……それが、戦闘中において、一体どのような意味を持つのか。

もはや、説明の言葉すら要らないほどに明確である……。


ドゴォォォォ!!


勇者の感覚器官に、大きな音と、急激な加速度と、妙に暗い景色が同時に訪れ……そして暫くの後に、


ドゴォン……


「かはっ!」


肺の中身だけでなく、身体の中身のすべてが口から出てきてしまいそうな衝撃が、彼の身体に伝わってきた。


……ただし。

それは、勇者が予想していたほど大きな衝撃では無かったようだ。


彼はすぐに呼吸を整えると、自身に巻き付いていた布を、冷静に破り始めた。


「いったい何が……」ビリビリ


その結果、どうにか視界と身体の自由を確保することに成功する勇者。

それと同時に、簀巻状態の自身が地竜の尻尾に吹き飛ばされてしまったことを直感的に察した彼は、着地の衝撃でどうして大怪我を負わなかったのか……その原因が何であるかを確かめるために、自身と地面の間に挟まっていたものに対して目を向けた。


するとそこには……


「ム、ムオォ……」ぐったり


勇者の憧れる(たく)しい筋肉を持った、ミノタウロスの白と黒のマダラ模様の身体があった……。


「み、ミノタウロス!?……またしても筋肉に救われたか……」


まさか、今日だけで2回も、魔物であるミノタウロスに命を救われることになると思っていなかったためか、悔しそうな表情を浮かべる勇者。

ただ、その視線には、ミノタウロスの筋肉に対する嫉妬のような色が含まれていたところを見ると……彼の中では、何かが大きく変わりつつあるようだ。


「お前の筋肉に救われた命……無駄にはしないぞ!」


勇者はモノ言わぬミノタウロスに対してそう口にすると、彼の上からそっと降りて、破った布の半分をミノタウロスに掛け……そして半分を、同じく上半身が裸だった自身の身体にマントのように巻きつけた。


それから勇者は、手から離さなかった相棒の感覚を確かめながら、ありったけの殺意をその眼から放った。

もちろんその先は……体勢を立て直して忌々しそうな視線を自身に対して向けていた地竜である。

だが、殺意だけで状況をひっくり返すことが出来るほどに彼のプレッシャーは強くなく、その上、相手にまともなダメージが与えられていない事もあって……地竜の方は小さな獲物が捕まえられないことにうんざりしているだけのようであった。


そんな先の見えた戦場に……不確定要素満載の援軍がやってくる。


「ああ!?私のミノがまた倒れてる!!」


勇者が施療院で出会った魔女であるアンバーが、フラリとその場に姿を現したのだ。

どうやら、勇者の命を救ったのは、2回とも、彼女がテイムするミノタウロスだったようである。


そんな彼女に対して……


「な、なんでここに?!こ、ここは危険だ!すぐに戻れ!あいつに喰われるぞ!」


勇者は地竜から目を背けること無く、慌てて避難を促した。

しかし……


「え?何を言ってるんでしょうか?私たちは戦うためにここに来ているというのに、逃げろとか……。勇者様?本当に頭を打ったせいで、おかしくなったのではないですか?」


と反論して、帰る様子を見せないアンバー。

その間にも、地竜には何やら怪しげな動きがあって……隙を見せた瞬間に事態が大きく動いてしまうのは間違い無さそうだ。


それから、どうやって説得すればアンバーに帰ってもらえるか……悩みに悩んだ勇者が、彼らしく、力づくでも帰ってもらおうかと考えた……その時の事だった。


30mほど先にいた地竜が、全身に纏った重い岩石の装甲を軽々と震わせると……急にその口を大きく開いたのである。

それが意味するのは、すなわち……


「ブ、ブレス?!」


……である。


「ヤバッ!」


ドゴォォォォ!!


そしてサウスフォートレスの街は、夕方だというのに、白一色の光に包まれることになったのだ……。

今日はネットワークが軽いのう……。

昨日のようなことがないように、予め、ダミーの話の投稿でもしておこうかと思ったのじゃが、まったく重くなる気配が無かった故、結局普通に投稿することにしたのじゃ。


いやー、よかったのじゃ。

もしも、ネタに尽きておって、やる気メーターがマイナスの値を示しておる状態で、昨日のようなことが起ったなら……妾はきっと、今日から来年の今日くらいまで、何も書かない自堕落な生活を送っておったはずだったのじゃ。

じゃがそうはならなかったのは……書くことが決まっておったからかも知れぬのう。


勇者と魔女とドラゴンの話……。

実はここに、もう一人、役者が入るのじゃが……それが書けるかどうかは、明日の妾のモチベーションに掛かっておるのじゃ!

……いや、ミノではないのじゃぞ?


さてと。

今日は特に補足することも無い故、早めにお暇させてもらうのじゃ。

布団乾燥機で数時間乾燥させた布団と枕が、妾のことを呼んでおることじゃしのー。

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