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7.6-19 サウスフォートレスでの戦い04

読み難く注意なのじゃ?

本来は、人の生活を脅かす魔物を蹴散らし、人と敵対する魔族と、そして彼らの国を滅ぼす存在であるはずの勇者。

それは、単なる少年に過ぎなかったレオナルドが、彼の母国であるエンデルシアの教会で、『勇者』として任命された際に、同時に言い渡された使命だった。


その日から彼は、ただ一心不乱に剣を振り、魔物という魔物を駆逐し、いつか訪れるだろう魔王との戦いの日に備えて、力をつけていったのである。

いつか運命の日に、勝つのが自分たちであることを確固たるものにするがために……。


そんな彼の運命の歯車が狂ってしまったのは、今から数ヶ月前、強い魔物と戦うために、エンデルシアの隣国であるミッドエデンへ、人生で3度目の遠征をした時のことであった。


サウスフォートレス周辺に出没するという魔力特異体のバケモノの噂を聞きつけた勇者たちが、町から歩いて数日の場所をグルグルと歩き回りながら索敵していると……尋常ならざる殺意をその身体から染み出させつつも、どこか間の抜けた様な表情を浮かべていた少女が、森の中の道を反対側から歩いてきたのである。

その結果、それまでの経験から、彼女が人間に化けた『何か』だと察した勇者たちは、彼女が率いているだろう3人組のパーティーに対し、当初の予定を変更して……戦いを挑んだ。


ドゴォォォォン!!


……気づくと勇者たちは、周囲に何もない地面上で、壊れた武器を片手に、立ちすくんでいた。

しかも、先程まで黒い壁のように立ちはだかっていたはずの森は、まるで最初からそこには無かったかのように消え……ただ、焦げ臭い平地だけが辺りに広がっていたのである……。


その光景を見て、彼ら勇者パーティーが事態を把握したのは……それからたっぷり2日経ってからの事だった。

カタリナが彼らのパーティーから抜けたのもその頃の話である。


それは、絶対に勝つことのできない存在との初めての出会いであった。

そもそも、戦いや、勝ち負けという概念すら当てはめていいものかどうか疑ってしまうような、一方的すぎる蹂躙だったのである。

それまで、『弱肉強食』という言葉で世界の全てを表現できると思っていた勇者の思考は、その瞬間、決して手の届かない存在を知って、大きく変わってしまった。

彼は、このままだと、どう足掻いても『弱い肉』にしかなれないことを悟ってしまったのだ……。


……では、負けることが運命づけられた『勇者』とは何者なのか。

彼は欠けてしまった歯車を必死に回しながら、脱調する人生の終着地を、ひたすらに考え続けた。

自分は何者で、一体どこへ行こうと言うのか……。

考えても決して答えが出るはずのないそのデッドロックに、彼は無駄に頭を悩ませる日々を送ったのである……。


そんなある日。

彼は、さらなる失意のどん底に突き落とされてしまう。

仲間の一人だった幼なじみの魔法使いリアの、その何気ない微笑みを失ってしまったのだ。

それと同時に、見たことも聞いたこともない者に自身の記憶を書き換えられ、『勇者』として母国から任せられた使命すらも見失ってしまい……彼は、ますます、無力な自分の存在意義を疑ってしまうことになる。


……しかし、そんな勇者の眼には、絶望だけが写っていたわけではなかったようだ。


どうにもならないバケモノだと思っていた少女が、気まぐれに治め始めただろう国の人々から、どういうわけか笑顔が絶えなかったことに、彼は気付いたのである。

そこに物理的な力……暴力は介在せず、その代わりに、見たこともない技術と知識が、人々の間を取り持っていたのだ。


しかしそれは、人々に安寧(あんねい)をもたらすとともに、一方で、勇者の存在を、完全に否定するものでもあった。

『弱肉強食』が『勇者』を説明するための唯一の言語だとするなら……弱者も強者も、魔物も魔族も、そして魔王すらも、皆、笑顔を浮かべている彼女の国では、そもそも強弱を比較する必要が無かったために、力の権化とも言うべき『勇者』を記述する方法もまた、その意味を成さなかったのである。

……まるで現代世界に現れた勇者が、特別扱いされること無く、単なる人と同等に扱われるのと同じように……。


そんな彼女の国に、少しでも憧れを感じてしまった勇者が、余計に自分自身を見失ってしまったのは、まさに皮肉と言えるかもしれない。

ただそれは絶望ではなく、どちらかと言うと……希望のソレに近かったようだが……。


……そのためか、本来なら敵であるはずの隣人に対して、彼はこんなことを呟いた。


「俺も……ミノタウロスの仲間がほしいな……」ぼそっ


「えっ?」


「い、いや、なんでもない……」


自身のベットに再び腰を下ろすと同時に、隣で寝そべる筋骨隆々な命の恩人の上腕二頭筋に対して、羨ましげな視線を向ける勇者レオナルド。

そんな勇者が口にした、彼らしくない一言を聞き取れなかったらしく……魔女アンバーは、その頭に乗る大きな魔女帽子と共に、首を傾げてしまったようだ。


それから勇者は、先程アンバーに言われた通り、大人しくベッドに横になった。

これまでの彼なら、戦線がどうなっているのか心配になって、居ても立ってもいられなかったはずだが……どうやら、彼は、心配の必要が無いことを悟ったようである。


……だが、


ガバッ!


勇者は背中がベッドに着いた瞬間、まるで腹筋を鍛えるかのように飛び起きる。

もちろん、ミノタウロスの筋肉に触発されて、腹筋を鍛えようとした……というわけでは無い。


起きた彼は、急に自身の身体中をまさぐり始めると、こんな言葉を口にしたのである。


「な、無い!なぁ、そこの……アンバーさん?俺の相棒を知らないか?」


「え?隣で寝てるじゃないですか?」


「え?いや、こいつじゃなくて……」


「……そっちは私のミノです」


賢者の方ではなく、ミノタウロスの方を向いて、首を横に振る勇者に対し、困ったような表情を浮かべるアンバー。


そんな彼女の反応を見て、勇者は舌っ足らずを自覚すると、補足するように言葉を続けた。


「相棒ってのは……俺の武器のことだ」


その言葉を聞いて……


「……武器?」


と、再び首を傾げるアンバー。


「勇者様……武器なんて持ってましたっけ?」


「武器無しでどうやって戦えって……あ」


……そして彼は思い出した。

自分の武器が、表現に困る形状であることを……。

……いや。

その形状自体は単純明快だったのだが、彼はその形状を認めて口に出すことが許せなかったのである。

その一言で、自分の相棒の価値が、勝手に決まってしまうような気がしたのだろう。


それから彼は、その表現しがたい武器のこと伝えるために、身振り手振りと共に、アンバーへと説明を始めた。


「こう、なんというか……剣……ではないんだが、これくらいの長さの棒きれで、中に穴が開いていて、先端が少し曲がってるやつだ」


「……全然分かりません」


しかし、勇者の説明では、アンバーに伝わらなかったらしい。


「んー……困ったぞ……」


それから勇者が、身近にあるもので、具体的な形状を説明しようと考えて、辺りに目を向けると……丁度いい形状(?)をした物体が目に入ってきたようだ。


「……あぁ。あそこでシーツを干してる棒みたいな……って、アレ、どこから持って来た?!アレだよ、俺の武器……」


「えっ?あの、物干し竿が……武器?ちょっと、勇者様?頭を強打されたのではないですか?」


「違っ……」


そして否定しようとして……しかし、彼には、否定の方法が思いつかなかったようである。


それは、ミノタウロスたちが地底で守っていた伝説の武器(?)だった。

もっと正確に言うなら、地底湖のマナに浸かっていたために魔力的に変質した『鉄パイプ』である。

ワルツたちが、いらない、ということで譲り受けた勇者は、まるで何十年ものあいだ慣れ親しんできた相棒のように、その鉄パイプを愛用の武器として使い込んでいたのである。


見た目は単なる鉄パイプでしかないソレを、『単なる鉄パイプ』という言葉を使わずに、自身の武器だと説明するためには、一体どうすればいいのか……。

勇者は、喉から出てこない説明の言葉に、言い知れないもどかしさを感じていたようだ……。




そして、『魔神(ワルツ)に貰った』という言葉を出せば、もしかして簡単に納得してもらえるのではないか、と勇者が思いついた……その瞬間の事だった。


ゴォォォォン……


どこか遠くで、大きく重い何かが地面に倒れたような……そんな振動と音が、勇者たちのいた施療院に響いてきたのである。


「……何の音だ?」


これまでの経験から、何か問題が起ったことを察した様子の勇者。


一方、勇者の中々出てこない武器に関する説明を待っている間、患者の書類に目を通していたアンバーには、そもそも音にすら気づかなかったらしく、


「……やっぱり、まだ寝てないとダメですよ?勇者様。それ、幻聴です」


と、真っ向から、勇者の言葉を否定した。


「……そうか?……じゃなくて!」


そして勇者が、いよいよ、武器の説明に入ろうとした……そんな時である。


バタン!


「ゆ、勇者様!」


全身に甲冑を着込んだ兵士が、乱暴に施療院の扉を開けて、中へと入ってきたのである。

そして彼は、部屋の中に勇者の姿を見つけると、周囲に傷だらけの患者がいることなどお構いなしに、声を上げた。


「市壁を……と、突破されましたっ!」


そう口にすると……


ドシャッ……


と、膝から崩れて、その場に倒れてしまう兵士。

彼の背中に大きな切り傷があって、そこから大量の血液が流れいるところを見ると……彼は、失血によって意識を失ってしまったのだろう。


その姿を見て、血相を変えながら、危険な状態にあるだろう倒れた兵士に駆け寄るアンバーたち。

そして勇者も……


「……行ってくる」


物干し竿(?)を手に取ると……混乱する施療院から一人だけ抜け出した。


そんな傷だらけの彼の行き先は……未だ彼の存在を許してくれる余地が残っているだろう、戦場だ。

……もう少しで、毎日更新の記録が止まってしまうところだったのじゃ。

アップロードページにアクセスできなくてのう……。

まぁ、それでも、どうにかなったのじゃが……あと5分、アクセス出来ないことに気づくのが遅れたなら……恐らく今ごろ妾は、勇者殿以上に失意のどん底に叩き落とされていたことじゃろうのう……。

……リアルで。


それはそうと……サウスフォートレスの話が始まってから、ナレーター率を大幅に引き上げておるのじゃ。

そのせいで、読みにくい部分があるかも知れぬが、お付き合い下さいなのじゃ。

……え?比率が変わらずとも読みにくい?

の、脳内補完して欲しいのじゃ!


あ、そうそう。

あと、ナレーターの書き方自体も、ちょっとだけ変えたのじゃ。

これまでは、コルがナレーションしたなら、こんな感じ〜、といったような雰囲気で書いておったのじゃが、言い切りの文の書き方を変えた結果、雰囲気が少々変わってしまったのじゃ。

今日の最後の一言とかも、普段とは違うじゃろ?……いや、違うのじゃぞ?

どうすれば、話がもっと深くなるのか……それを探求するための、いのべーしょんなのじゃ!

……そのせいで、余計に読みにくくなっておる気がしなくもないのじゃがの?

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