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7.6-18 サウスフォートレスでの戦い03

勇者が次に気づいたのは……妙に温かくて、アルコールの匂いが立ち込めていて、そして石造りの部屋の中にあったベッドの上だった。

どうやら、彼は満身創痍で地面に顔をつけた結果、泥の中で溺れてしまったらしい……。


「……かはっ!うえっ!」


口の中一杯に広がる砂や土などの異物を、絞りだすかのように吐き出して、近くにあったタオルで口を拭う勇者。


その際、彼は、隣りにあったベッドに目を向けることになった。

そこでは……


「…………」ぐったり


と、意識なく横たわる、ゲッソリとした病人モードの賢者の姿が……。


「……またか」


その姿を見て、勇者は……なぜか心配すること無く、その代わりに溜息を吐いたようだ。


そんな彼の視線に先にいて、意識のなかった賢者は、天使モードの際に魔法を使いすぎて魔力を枯渇し、意識を失ったに過ぎなかった。

それがいつものことであることを知っていた勇者は、賢者の身体のどこにも包帯が巻かれていないことを確認して、彼がケガを負っていないことに安堵したのだ。


それから勇者は、まだ重かった身体を一旦、ベッドへと戻そうとして……反対側を振り向いた。

その瞬間、


「……うおっ?!」


……痛む身体のことなどお構いなしに、勇者は思わずベッドから飛び退いてしまう。

何故ならそこには……


「ムォォォォォ……」


身体中、包帯まみれになっていたミノタウロスが、苦しんでいそうな声を上げながら、別のベッドの上に横たわっていたからである……。


「なんでミノタウロスが……?」


本来なら討伐されるべき魔物が、どうして同じ部屋の中で横になっているのか……。


寝起きのためか、未だ混乱状態にあった勇者が、彼の赤い褌を見て、何かを思い出したようにプルプルと震えながら頭を抱えていると……そこから少し離れた場所で他のベッドで横になっていた怪我人の様子を、手にしたボードに書き込んでいた施療士らしき女性が、目覚めた勇者のことに気づいて、足早に近寄ってきた。


「ダメですよ?勇者様。まだ、完全には治療が終わっていないので、もうしばらくは大人しく寝ていなくては……」


そう話しかけてくる彼女に、勇者が顔を向けた……その瞬間である。


「……?!」


彼は、ここがどこで、どうして自分がここにいるのかを聞くことすらも忘れて、彼女に対して眼を見開き、驚愕したような表情を見せた。

まるで、ありえないものを見た、といった様子である。

恐らくイブが本物の幽霊を見たなら、おそらく同じような表情を浮かべるのではないだろうか。


……ただし、彼の表情には、何かを恐れたような色は含まれておらず、むしろ、懐かしむような、あるいは嬉しいような……今にも泣き出してしまいそうなものだったようである。


そして彼は、声を上げた。


「り、リア!」


勇者はその名を口にした後で、迷うこと無く、


ぎゅっ!


施療士らしき女性に抱きついた。

どうやら彼は、その女性がもつ雰囲気に、どこか幼なじみの面影を感じてしまったようだ。


……しかし、元々、魔法使いをしていたはずのリアが、長い眠りから眼を覚ました瞬間、施療士になるはずは無かった。

そう。

彼女は、リアとどこか面影は似ているものの、紛れも無く、赤の他人なのである。

故に……事情を知らない人々や、その女性本人には、勇者のその行為は単なるセクハラ行為にしか見えなかったようだ。


その結果、


ドゴォォォォン!!


「ぐへっ?!」


前触れもなく、猛烈な勢いで、突然地面に沈み込む勇者。

体術……にしては、2人とも殆ど動いていなかったので、恐らく何らかの魔法が発動したのだろう。

護身魔法があるかどうかは不明だが、それと同等の使い方ができる魔法のようである。


それからすぐ、勇者のことを地面に沈めたと思わしき女性が、彼に対して呆れたような視線を向けながら、溜息混じりに口を開いた。


「……勇者様が、何をお考えなのかは存じませんが、私はリアなどという人物ではございません。最近、アルクの村からこの街にやって来て、訳あって施療士を始めたアンバーと申します。しかしながら、勇者様には、こう言ったほうがよろしいでしょうか?」


そして彼女は……この世界の者たちから見ても、魔法を超えた何かにしか見えない方法で、何もない空間から大きく黒いシワシワのハットを取り出すと、それを頭に乗せて……怪しげな笑みを浮かべながら、こう口にした。


「……魔女、と」


すると……その様子を傍から見ていた、別の施術士と思わしき女性が、わざとらしく(かかと)で歩きながら2人の所へとやって来て……


「なに、ふざけた自己紹介をしてるのよ!アンバー」


バコーン!


と、容赦なく、アンバーと名乗った魔女の後頭部に、彼女の魔女帽子の上から手刀を入れた。


「あいたーっ!」


「まったく……。おっと、これは見苦しいところをお見せいたしました、勇者様。ですが……見知らぬ女性に急に抱きついたりなどしたらダメですよ?……これは警告です。次、同じようなことをしたなら……男性でも女性でもない性別になってもらいますからね?」にっこり


そう口にしながら、先程アンバーが帽子を取り出した際と同じように、異様な大きさのハサミを異空間(?)から取り出す女性。

その手際を見る限り、どうやら彼女も魔女の一人、ということらしい。


「……?!は、はいっ!」


「うん。よろしい!」


床に寝そべったまま、真っ青な顔で、急に股間を押さえ始めた勇者に対して、女性は満足気な表情を浮かべると……手に持っていた巨大なハサミ(?)を再びどこかへと収納して、その場を立ち去っていった。


「……ほんと、ソフィーって、空気よめないんだから……」ぼそっ


「……聞こえてるわよ?アンバー」


「…………!」びくぅ


距離が随分と離れているというのに、仲よさげ(?)にそんなやり取りをしている女性2人の様子を見ていた勇者は、その場からようやく立ち上がると……急にハッとしたような表情を浮かべて、アンバーと名乗った女性に対して問いかけた。


「ところで、ここはどこなんだ?俺はどうしてここにいる?それとミノタウロスがどうして隣で寝てる?今は何時だ?なんであんたは……リアに似てる?」


「えっ……いや、そんないっぺんに問いかけられても……」


勇者の矢継ぎ早な問いかけに、戸惑っているような表情を見せるアンバー。

それから彼女は一旦眼を瞑って、そして深呼吸をした後に再び開いてから……本当に戸惑っていたのか疑ってしまうような速度で、返答を口にした。


「ここはサウスフォートレスの施療院で、このミノは私がテイムの担当をしている『ウシちゃん』で、勇者様はウシちゃんに助けられてここに運ばれて、勇者様が倒れてられてからは半日が経過して夕方になっていて……あとほかに質問ありましたっけ?」


「なんでリアに似てr……」


「知りません!」


「そ、そうか。ありがとう……」


そしてアンバーの最後の一言を聞いて短く礼を言ってから……沈黙する勇者。

その見た目はともかくとして、共に行動していた頃の陰気な魔法使いのリアと、目の前にいてハキハキと喋る魔女のアンバーは、180度以上、性格が異なるようだ。


それはそうと……。

ここでミノタウロスたちと魔女たちについて説明しておかなければならないだろう。


ここにいるミノタウロスたちは、元々はサウスフォートレスの街の地下にあるトンネルに住み着いていた者たちである。

コルテックスが遊び半分で乳牛用の牧場を経営する(?)ために捕まえた哀れな犠牲者たち……とも言えるだろうか。


そんな彼らをワルツが地上へと連れて出て、勇者や伯爵に預けたのが1ヶ月前。

それから伯爵は、ミッドエデン政府から貰った復興補助金を使って……本当に町の郊外にミノタウロス牧場を作り、そこで彼らを飼育(?)していたようだ。


そんな折。

アルクの村でひっそり(?)と生活を営んでいた魔女たちが、久しぶりの気晴らしをするために、自分たちが危険人物扱いされないことが保証されているサウスフォートレスへとやって来たのが今から1週間ほど前である。


その際、テイム能力を持っていた魔女の一人が、牛舎(?)で鎖に繋がれていたミノタウロスたちに気付いて、屈強そうな彼らを自由自在に操ってからというもの……魔女たちの間で、ミノテイムブーム(?)が到来していたようだ。

サウスフォートレスの自治政府としても、飼育したところで何の利益も生まないミノタウロスたちの扱いには手を焼いていたらしく……ワルツから魔女たちの話を聞いていた伯爵の一声もあって、ミノタウロスたちは、引取りを希望する魔女に無償で提供される事になっていたのである。


そして、予想外の収穫にほくほく顔になっていた魔女たちが、ミノタウロスたちと共にアルクの村に戻ろうとすると……運悪く、マギマウスたちの襲撃に遭って戻れなくなって……。

その結果、ミノタウロスと自身の食費によってじわじわと路銀を失いつつあった彼女たちは、渋々、自分たちの得意な能力(例えばアンバーとソフィアは薬の調合)を使って、当面の生活費を稼いでいた、というわけである。


それ自体は、誰かが謀ったものではなく、単なる偶然だったのだが……この街の新しく構築された市壁の内側は、彼女たちがいたことで、どうにか無事に平穏を保っていたのだ。

もちろん、勇者たちの活躍があったことも、これまで町が無事であった理由の一つと言えるだろう。


……そんな背景があって、しかもそれを承知していたはずなのに、寝ぼけていたためかミノタウロスのことを思い出せなかった勇者は……自身を救った際に大怪我を負ってしまい、全身を包帯まみれにしながら苦しそうなうめき声を上げるミノタウロス『ウシちゃん』に眼を向けて……


「勇者って何なんだろうな……」


ワルツに出会ってから、何度となく考えたその疑問によって、またしても頭を悩ませてしまったようだ……。

アンバー殿がテイムするミノタウロスの名前の『ウシちゃん』……。

原案では、『ハナコ』だったのじゃ。

でも流石に有名すぎる名前じゃったから、渋々『ウシちゃん』にしたのじゃ?

本当は『ハナコ』にしたいのじゃがの……。


まぁ、そんなどうでもいいことは置いておいて、一つだけ補足しておくのじゃ。

ミノタウロスについては、最近(2ヶ月前?)に取り上げたばかりじゃから、彼らの事はとりあえずはいいとして……。

……魔女について……。

彼女たちの話が出てきたのは1年以上前……それも修正前の黒歴史的な文にまみれておる話ゆえ、ここで簡単に説明しておくのじゃ。


……彼女たちは、常人よりも大きな魔力を持った女性たちなのじゃ。

ただそれだけの理由で、旧国教会や神たちに眼を付けられ……そして迫害の対象になっていたのじゃ。

以前、ワルツも妾も、魔女として捕らえられて、処刑されそうになったことがあるのじゃ。


それで、あまりに理不尽な扱いに激怒したワルツが、王都の教会を潰して、魔女たちを王都から避難させて……そして彼女たちをアルクの村に匿ったのじゃ。

一旦、魔女というレッテルを貼られた者たちが、旧態依然とした思考を持つ人々の間で社会復帰できる見込みは、強権を使っても、あまり高いものとは言えなかったからのう。

そんな背景があって、魔女たちは避難したアルクの村で、今まで迫害されていた分の人生すらも取り戻すかのごとく、自由気ままに生活を送っておったのじゃ。

……もう発展しすぎて、村ではなくなっておるがの?


で、今日の話の通り、たまにサウスフォートレスに遊びに来ておった、というわけなのじゃ。

狩人殿の父である伯爵は、元々、魔女たちには寛容だったからのう。

故に、サウスフォートレスでは、それほど迫害の根は深くなかったこともあって、魔女たちにとっては、アルクの町以外で唯一、大手を振って歩ける都市だったのじゃ


……というのが、1年以上前の話なのじゃ?

早く、この辺の物語も、ちゃんと読めるように修正したいのじゃ……。

今の文が読める文かどうかは、また別の話じゃがの……。

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