7.6-04 赤い珠04
床に散らばる書類の海の上に、顔から沈んでいる様子のユリア。
その姿を見て・・・
「あーあ・・・遂に死んじゃったのね。ユリア・・・」
ワルツは特に慌てる様子もなく、いつも通りに話しかけた。
本当に、死んでいるかもしれない、と考えたなら、ワルツは生体反応センサーなどで、生きているかどうかを確認するはずだが、そうではなく、単に話しかけたところを見ると、彼女が死んでいないことは最初から分かっていたようだ。
実際、最初は身動きしていなかったユリアだったが、ピクリ、と身体を動かすと・・・ヨダレのせいで書類が張り付いていた顔を上げて、ワルツの問いかけへと返答を口にした。
「・・・もう無理です」
そう言いながら上体を起こし、頬にくっついていた書類を剥がして・・・その紙に眼を向けながら、大きな溜息を吐くユリア。
どうやら、彼女の肩にのしかかっていた何かが、彼女の処理能力の限界を超えて、彼女を地面に沈めてしまうほどの重しになっていたようである。
「何かあったの?話した感じが普通になってるリサとか、この書類の山とか・・・」
「えっと・・・新入りちゃんのことについては、まだ何も進展していませんよ?それと・・・この報告書の山は、長い休暇のツケが一気に回ってきた、ってやつです。・・・ペットのポチが逃げ出したとか・・・誰ですか?こんな報告を寄こしたのは・・・」
「・・・え?」
ユリアの言葉に、聞き捨てならない発言が幾つか含まれていたためか、耳を疑ってしまうワルツ。
・・・いや、正確には、最初の一言だけに反応したと言うべきだろう。
「進展・・・してない・・・?」
「え?新入りちゃんの治療の効果がまだ出てない、っていう話ですか?いやー、この前、テレサ様に、精神支配系の最上位魔法の言霊魔法を使って治療してもらったんですけど、まったく効果がなくて・・・。それからも、地道に治療を続けていたんですが、どうにも効果が・・・って、どうしたんですか?ワルツ様?そんな怖い顔をして・・・」
「・・・ううん。なんでもない。気にしないで・・・(アトラスが気をつけろって言ったのって・・・この事だったのね・・・)」
と、背中に何か物理的に冷たいものを感じつつも、表情を和らげるワルツ。
その際、彼女の後ろに、何故かピッタリとリサの姿が重なっていたようだが・・・ワルツ自身にそれを気にした様子はないので、問題は無いのだろう・・・。
「それで・・・どうしたんですか?私に何かご用でも?」
地面にへたり込んでいたためか、ワルツの陰に完全に隠れていたリサの姿には気づいていない様子のユリア。
そんな彼女に対して、ワルツはここに来た理由を思い出しながら問いかけた。
「そうそう。ちょっと聞きたいんだけど・・・ユリアたちって、サウスフォートレスの南部で何が起こってるか知ってる?」
「・・・・・・!」
「その表情は・・・知ってるってことね」
空気の読めないワルツでも、ユリアのその反応には気づいたらしく、何処か呆れたような表情を彼女へと向けたようだ。
まぁ、実際に呆れられていたのは、ワルツの方なのだが・・・。
「・・・遂に、対策の準備が整ったのですか?」
「えぇ、そんなとこ。これからエネルギアを使って、作った機械を空中から散布しようと思うんだけど、効果的に散布するためにも、現状を聞いておきたい、と思ってね?」
「・・・そうですか・・・」
ワルツの言葉を聞いた後で、ユリアはそう言うと、その眼を床へと伏せてしまった。
「・・・何かあったの?」
ユリアの様子が少し妙だったことで、眉を顰めながら問いかけるワルツ。
するとユリアは、おそらくワルツが聞きたくなかった一言を口にしたのである。
「実は・・・サウスフォートレスが滅びそうになってるようです」
「・・・・・・」
「正しくは、今すぐに滅びる、というわけではないみたいですが・・・あまり雲行きは良くないみたいですね」
「ちょっ・・・どういうこと?」
「離れた場所での出来事なので、私にも詳しいことは分かりかねますが、マギマウスの大群が押し寄せて、サウスフォートレスの町を飲み込みそうになったところを・・・勇者様方が先頭に立って戦って守っている、という話です。押し寄せてくるマギマウスたちは、異常な速度で増えているという話ですよ?」
「どうして、早く・・・・・・いや、なんでもないわ」
・・・どうして早くそれを言わなかったのか。
ワルツはその言葉を口にしようとして・・・しかし、言えなかったようである。
さすがの彼女でも、ここまで問題を先延ばしにしてきたことについては、多少の罪悪感があったようだ。
「まだ、マイクロマシンに対するプログラムが終わってないから、後一日は頑張ってもらうように伝えてもらえるかしら?話を聞く限り、もう少し量産しておくべきだと思うしね」
「かしこまりました。ベルツ伯爵や勇者様方には、そのようにお伝えしておきます」
ワルツが行動を始めると言う話を聞いて安心したのか・・・それとも、書類の山の大半が片付くことに安堵したのか・・・。
ユリアは床から立ち上がると、局長室のデスクに置いてあった受話器を取ろうとして・・・そして気付いた。
「・・・あの、ワルツ様?もしかして・・・背中に何か刺さってます?」
・・・それから、ロープでぐるぐる巻きにされても、何故こんなことになったのか分からない様子のリサの前で、ユリアとワルツは2人で頭を抱えていたようだが・・・その話はあまり重要ではないことなので、ここでは割愛しよう。
というわけで、急遽、明日からネズミ退治の旅に出かけなくてはならなくなったワルツは、工房の直下・・・六角形型の施設の中心部に位置する第7区画へと足を運んで、ある作業に従事している者たちのところへと、一時的に施設を離れることを告げるために顔を出した。
ちなみに、この第7区画は、ワルツたちの工房の一部でありながら、一部の職員たちも出入りすることの出来る、特殊な区画である。
地面から上部の工房に至るまでの階が、すべて抜かれた広大な空間で、排気設備はあるものの、窓が一切ないという、ワルツたちが従来から作業をしていた工房の特徴を色濃く残した場所だ。
テレサが以前、作業部屋が欲しい、と言っていたのをワルツが覚えていて、新しく作ったエリアである。
むしろ、職員たちが度々口にしている通称の名前で言ったほうがいいだろうか・・・ミッドエデン国営工場『ヘルズキッチン』と。
・・・ただ長いので、以降は第7区画と呼ぶことにしよう。
そんな大空間の中では、昼夜を問わず、幾つかのプロジェクトが進行していたようだ。
その中でも最も大きいプロジェクトを指揮しているのが・・・
「おいテメェ!そんな気の抜けた面しながら作業してると、指ぃ落とすぞ?」
・・・と、相変わらず口汚い、ブレーズである。
「いや、これは元々の表情で・・・」
「あァ?うるせぇ!テメェは明日まで休憩だ!」
「あ、はい・・・」
とブレーズの言葉に大人しく従って、帰り支度を始める職員。
その際、彼の表情に、ブレーズの言葉を気にした様子はなく、むしろ尊敬したような色が含まれていたのは、口汚い現場監督の言葉の裏に隠されていた副音声をしっかり理解していたからだろうか・・・。
そんなブレーズのところには・・・
「随分と荒れてるな?ブレーズ。そんな様子だと、皆から誤解されて嫌われるぜ?」
と口にする剣士ビクトールと、
『〜〜〜♪』
先程は裸で飛び出していったはずのエネルギアが・・・おそらくはユリアから貰っただろう真っ白なYシャツを来て、彼の作業に協力していたようだ。
そんな2人の方を振り返ったブレーズは・・・深くため息を吐いた後で、剣士に対して話しかけた。
「ビクトール・・・。エネルギアちゃんというエロスな彼女がいるお前に、俺のこのやり場のない嘆きと悲しみと喜怒哀楽が理解できるか?あァ?」
「すまんが・・・お前が何ってるか分からん。・・・エロスってなんだ?」
「えっ・・・?!」
『えっ・・・?!』
剣士のその一言に、耳を疑ってしまうブレーズとエネルギア。
ブレーズの変わった価値観については、とりあえず触れないでおくとして・・・。
エネルギア自身も驚愕の声を上げて、この世の終わりが訪れたかのように、頭に手を当てて天井を仰ぎ見ていたところを見ると・・・どうやら彼女は、自分の行動が破廉恥だという自覚をもっていたようである。
そんな微妙な雰囲気が支配している空間へと、空気を読まないワルツが入り込んだ。
「はーい、ちょっと失礼するわね。・・・ブレーズ?明日、一日だけ、エネルギアを借りるけどいいかしら?」
「・・・ん?魔神か・・・。俺にも彼女をくれよ・・・」
「は?何ってるのよ。前から言ってるじゃない?自分で作れって・・・」
「だから、自分で造ってるんだが、イマイチ自身がねぇんだ。エネルギアちゃんみたいに可愛い妖精ちゃんが宿ってくれるか・・・」
「いや、そう言う意味じゃないんだけど・・・」
完全に、自分の世界に入り込んで話しているブレーズに対して、ワルツは色々と言いたいことがあったようだが・・・。
それを言ったところで、理解してもらえるか分からなかったようで、彼女は結局、口を噤んでしまったようだ・・・。
・・・実のところ、なのじゃ。
今日の話から、1話以上ストックを用意した状態で書くことにしたのじゃ。
その方が、フラグを回収する際にも楽じゃし、日々の執筆活動にも余裕が出るからのう。
問題は・・・そのせいでサボりグセが付かないかどうか、それが心配なのじゃ。
夜、この時間は、特に眠たくて・・・さっさと寝てしまいたい、とサボってしまいそうなのじゃ・・・。
まぁ、それでも、どうにかこうにか頑張って、やっていくしかないんじゃがのー。
というわけで、今日の補足に入ろうと思うのじゃ。
・・・じゃが、相変わらず無いのじゃ。
ユリアの情報局局長室と、コルと妾の議長室がどこにあるのか、その辺の具体的な説明があってもいいかとは思うのじゃが、次話で語られる予定じゃから、ここでは言わないでおくのじゃ〜。
あーそうそう。
この第7区画にはシラヌイ殿はおらぬのじゃ?
引きこもりのエースをしておる彼女は、不特定多数の人物がおる場所には、滅多に姿は見せないからのう。
彼女はこの時、上層階の工房で、何やら作業をしておるのじゃが・・・その話は、この章では語られない予定なのじゃ?
8章で触れる予定なのじゃ!
・・・いつも通り、覚えておったらのう。
一方で・・・。
カタリナ殿も引きこもり気味じゃが、定期的に町の施療院などに姿を見せるのじゃ。
まぁ、彼女の場合は姿を見せると・・・逆に人の方が逃げていくんじゃがの・・・。
医者の性、というやつなのじゃ?
その話は・・・本編ではしないかも知れぬのう。
ってなわけで、駄文はこの辺で切り上げて・・・もう寝ようと思うのじゃ・・・。
昨日は寝違えて、今日一日、首が痛くて・・・もう駄目かも知れぬ、と思ったのじゃ。
それでもどうにか頑張ったのじゃが・・・今、そこで枕が、うわなにをするやめくぁwせdrftgyふじこlpなのじゃ・・・zzz。




