7.5-20 王城代替施設20
ドゴゴゴゴゴッ・・・・・・ゴン!
「ふぅ・・・。完成」
「・・・本当に出番、無かったね・・・」
ワルツが重力制御で、ただひたすらに材料を積み上げるだけの作業だったために、やることがなかった様子のルシア。
もしも、簡単なネジや杭などの作成が必要になったなら、幾ばくかは彼女の仕事もあったかもしれないが・・・一切、ネジを使わずに組み立てられた王城代替施設、もとい新工房には、今回、ルシアの力は必要なかったようだ。
「不具合が起こらなかったからね。ま、でも、外側が出来ただけで、内側は単なる空洞だから、やることはまだまだたくさんあるわよ?」
「んー・・・そうだね。自分の部屋とか作らなきゃならないしね」
姉の横で浮かんでいたルシアは、そう口にしながら・・・頭の上にあった2つの太陽が今まさに隠れようとしている位置にそびえ立っていた、黒い巨大な塔へと眼を向けた。
彼女たちが建設した(?)そんな新しい王城代替施設は、上下で大きく役割が異なっていた。
下部の土台となる、一辺が約200m、高さが50mほどの六角形型をした壁のない骨組みだけの部分が、従来までの王城の代替となる施設で・・・その上に載っている土台よりも一辺の長さが2周りほど小さく、高さ350mほどの六角形の柱のような部分が、ワルツたちの新しい工房である。
その工房の上には、自由の女神の頭に載っている冠のような形状をした突起が6つあり・・・どうやらそこが、エネルギアの発着場になっているらしい。
まぁ、その形状を考えるなら、エネルギアだけが停泊するには数が多すぎるようなので・・・もしかすると、ワルツは、エンデルシアの飛行艇の発着についても考慮したのかもしれない・・・。
そんな施設は、前述の通り、ネジも杭も使わずに建設されていた。
通常、金属同士の固定には、ネジなどを用いる方法の他に、溶接やはめ合いなどの手段があるのだが、今回ワルツが選択した工法は、接着剤を用いた・・・わけではなく、バネを用いた方法だったようである。
どうやらこれも、金属の熱膨張を考慮した結果らしい。
なお、使用したバネは、所謂スプリング式のバネだけではない。
板バネやトーションバー・スプリングと呼ばれる、一見すると素材そのものと見間違えてしまいそうな形状をした、金属の素材そのものが持つ復元力を用いたシンプルなバネも使用していたようだ。
後者2つの方がそのシンプルな形状ゆえに簡単に作れることもあって、ワルツが採用したタイプも後者2つの方が多かったようである。
そんなこんなでネジを使っていないこともあって・・・イブくらいのひ弱な少女であっても、部品を引っ張るだけで崩壊させることのできる区画があるとかないとか・・・。
とはいえ、適材適所で様々な種類のバネが使われていることもあって、地震程度では、まったくビクともしないことについては、言うまでもないだろう。
・・・まぁ、それはさておき。
ルシアがその姿を見て感想を口にする。
「・・・魔王城かな?」
「・・・やっぱ、そう思う?」
「せめて素材元々の黒っぽい色じゃなくて、違う色だったらよかったかもね・・・。例えば、稲荷寿司の輝く黄色とか」じゅるっ
「・・・斬新ね」
ルシアに好きな色のペンキを無限にもたせたなら・・・おそらくは新しい施設だけでなく、世界中のすべてのモノが、黄色か・・・あるいは金色になってしまうのではないか、と思いながら、苦笑を浮かべるワルツ。
「まぁ、外の見た目に関しては、誰か絵心のある人に任せましょう?私が色を塗ると・・・多分、真っ白になっちゃうと思うし・・・」
「えっ・・・う、うん・・・(別にそれでいいんじゃないのかなぁ・・・)」
「それに、私たちにはやらなきゃならないことがたくさんあるわけだしね?・・・そうね。この際だから、王都の人たちに任せてみましょうか?」
「・・・いいの?なんか、すごいことになりそうな気がするけど・・・」
「ま、いいんじゃない?本来なら、この施設は、この国の人たちのものだし、私たちの方がそこを勝手に使わせてもらってるわけだからね」
「お姉ちゃんがそれでいいって言うなら・・・私もいいかな?」
そして結局、自身が持っていた懸念を口にせずに、姉の考えに任せることにした様子のルシア。
彼女の頭の中では、さらに悪化する施設の外見が思い浮かべられていたようだが・・・果たして、本当にそうなってしまうかどうかは今のところ不明である。
「さてと・・・それじゃぁ、内側も作るわよ?」
「うん!」
そして、新工房の内側へと移動していくワルツたち。
それからも、もちろんのこと、彼女たちの作業は続いていくのだが・・・流石に、失われてしまった工房内の設備の復元までは、そう簡単にできるものではなかったようだ・・・。
一方、その頃・・・。
『うぉぉぉぉ〜〜〜!!』
堀の外側でその様子を見ていた王城職員たちや市民たちは、皆、歓喜していた。
すさまじい速度で組み上がっていく巨大な新しい施設・・・。
皆、それを見て喜んでいたようだ。
ただ、そんな中で一人、あまり嬉しそうではない表情を浮かべる者がいた。
・・・議長専任騎士、兼、現場監督のアトラスである。
急ピッチで建設されていく王城の、その土台部分に難しそうな視線を向けていた彼は、騒ぎ立てていた職員たちに向かって、おもむろに・・・喝を入れた。
「おい、お前たち!喜んでる場合じゃねぇぞ!」
すると、それに反応したのは・・・狩人が率いている方の騎士団の面々である。
「なに言ってんすか、アトラスさん!眼の前で新しい城が出来上がっていってるんすよ?これ以上、嬉しい事なんてそう簡単にあるもんじゃ無いっすよ!」
「そうですよ、アトラスさん。アトラスさんは、団長と同じで、すこし真面目なんじゃないですか?」
「また、コルテックスさまに、皮肉れてるって言われまっせ?」
と、口々に、嬉しそうに話す騎士たち。
そんな彼らに対してアトラスは・・・一言、問いかけた。
「・・・分かった。じゃぁ、一つだけ聞こう。・・・お前ら?姉貴たちが、あれ以上、あの建物を組み立ててくれると思うか?」
すると・・・
『・・・・・・』ピタッ
と、鳴り止む、兵士や王城職員たちの喧騒。
むしろ、空気が固まった、と言うべきか・・・。
それからやや暫くあって、再び兵士たちが話し始める。
「・・・ど、どうしてそのようなことをおっしゃるのですか?」
「いや、まさかそんな・・・」
「そう言えば・・・資材置き場に、途轍もない量の材料が余っているような・・・」
と、頭の中に浮かんできた事態について、まるで、認めたくない、といった様子で呟く兵士たち。
すると、問いかけた本人であるアトラスは、床材は設置されているものの、まったく壁が作られていない下部の施設に眼を向けて、こう言った。
「そりゃ、あれだ。残りは俺たちが作れ、ってこったな」
その瞬間、
『・・・・・・』しーん
と、再び静まり返る一同。
中には、その場に崩れ落ちるほどにショックを受けていた者いたようだが・・・それには理由があった。
・・・ルシアによるエンチャント済みの超々強度特殊鋼を建設の材料に使う・・・。
資材置き場に置いてあった、その軽くて錆びなくて靭やかな強さをもった特殊合金が、一般人にとって、一体どれほどに使い勝手の悪い材料なのか・・・その場にいた者たちは、特殊鋼の塊であるモノリスから材料を自分で切り出そうとし《・》た際に、その困難さを嫌というほど身を持って知っていたのである。
魔法を使っても、道具を使っても、殆ど削ることが出来ない特殊な材料・・・。
それにネジや杭などを固定するための穴を開けるのに、いったいどれほどの労力が必要になるのか・・・。
そのことを考えて、皆、絶望的な表情を浮かべていたようである。
ただアトラスは、その困難さは分かっていても、不可能なことではないこともまた分かっていたので、皆ほど絶望的な表情は浮かべていなかったようだ。
「なーに。大丈夫さ!皆で力を合わせればどうにか・・・」
・・・しかし、そこまで言って、固まってしまうアトラス。
何故ならアトラスに対して・・・彼のことを頼もしそうに(?)見つめる人々の視線が、一斉に集中したからである・・・。
「・・・なんだ、お前ら?」
「流石は議長専任騎士様です!頼りにしています!」
「そういえば、アトラス様がいたんでした!失念していましたよ」
「アトラス様がいれば、100人力・・・いや100万人力です!」
と、アトラスに色々と放り投げようとしている様子の一同・・・。
どうやらアトラスは、ワルツたちだけでなく、兵士や王城職員たちからも、弄らr・・・頼りにされているようだ。
そのことを知ってか知らずか・・・アトラスは少し考えた後、ニンマリと笑みを浮かべてから、口を開いた。
「・・・仕方ねぇ奴らだなぁ?よし!俺に任せておけ!」
『流石、アトラス様っ!』
そして皆、嬉しそうに笑みを浮かべてから、作業へと取り掛かったようだ。
そんな部下たちの様子を見て・・・アトラスは内心でこんなことを思う。
「(・・・ふっ。穴開けなんて、ドリルを使えば大した問題じゃねぇからな。切断もレーザーを使えばいいし・・・。一番の問題は・・・材料を目的地に運んで、設置することだ。奴ら、それが分かってねぇ・・・)」
そして誰にも悟られないように、怪しげな笑みを浮かべるアトラス。
・・・そんな時であった。
「・・・あれ?アトラスさん。ドリル無いっすよ?」
「レーザーカッターも無いみたいだ・・・」
と、資材置き場と併設されていた工具置き場から、テレサ直属の王城職員たちから声が上がる。
どうやら、一部の者たちは、ドリルとレーザーカッターの存在を知っていて、アトラスよりも先に使おうと考えていたらしい・・・。
「・・・は?」
アトラスが色々な意味で、ポカーン、としていた時のことであった。
彼の後ろから、声が飛んで来る。
「あ〜、すみません。工具は、電池が切れてしまっていたので、魔道具の材料にしてしまいました〜。工房の核融合炉が使用できないと、充電もできないですからね〜。鉄くずですよ、鉄くず〜」
・・・コルテックスである。
『えっ・・・』
「皆さん、そんな暗い顔をせずに安心して下さい〜。今回、皆さんのために、魔力で動く新製品を開発しましたので〜」ドン!
『おぉ・・・』
「それでは、早速、アトラスに実験してもらいましょう〜」
「何で、実験・・・」
「当然ではないですか〜?もしも、使っている最中に爆発なんてしたりしたら、一大事ですからね〜」
「ちょっと待てよ!俺はどうなってもいいのかよ!」
「男がツベコベ言うものではありませんよ〜?さぁ、コレを持って、いざ、切削です!」
「・・・・・・」
何やらアトラスには、嫌な予感しかしていなかったようだが・・・いつものことなので、彼はコルテックスに貰った魔導ハンドドリルを受け取って、適当な端材へと試しに穴を開けてみることにしたようだ。
「・・・ボタンを押した瞬間、いきなり爆発しないよな?」
「・・・・・・多分〜」
「何だよその間・・・。ボタン押したくねぇ・・・」
だが、荒事に慣れているアトラスは、受け取った魔導ハンドドリルを投げ捨てるようなことはせず、端材にドリルの先端をあてがって・・・一思いにボタンを押した。
チュウィィィィィィン!!
「おぉ・・・。意外に悪くないな」
「だから言ったではないですか〜。新製品だと〜」
「おまっ・・・さっき爆発するかもって言っt・・・」
「しゃらっぷ!無駄口を叩いてないで、さっさと作業を進めて下さい!」
「・・・・・・まぁ、いいか・・・」
そして、予め決められた規格に則って、板材に高精度の穴を開けていくアトラス。
チュウィィィィィィン!!
チュウィィィィィィン!!
チュウィィィィィィン!!
「おぉ・・・すげぇ・・・。全然、出力が落ちねぇな。どんな原理で動いてんのかは知らねぇけど・・・これは使えそうだ!」
それからも、狂ったように穴を開けていくアトラス。
そんな彼の姿を見て、部下たちは皆・・・後悔していたようだ。
いったい何を後悔していたのかは・・・コルテックスのこんな言葉から、推測できるのではないだろうか。
「あ〜。やっぱり失敗だったようです。まだ燃費が悪くて、術者の魔力をバカスカ勝手に持っていってしまうみたいですね〜」
と、見る見るうちにガリガリに痩せていくアトラスに向かって、残念そうな視線を向けるコルテックス。
どうやら、アトラスは、勇者の体細胞を元に作られていたとはいえ、魔法が使えないホムンクルスとして作られたために、魔力に対する感度が非常に低かったらしく、勝手に減っていく自分の魔力には気づいていないようである。
それからもアトラスは、まるで干物のような姿になるまで、ひたすらに穴を開けていくのだが・・・そんな彼から加工した材料を受け取った部下たちが、皆、一様にやるせない表情を浮かべながら作業をしていたのは・・・わざわざ言うまでもないことだろうか・・・。
うーん・・・コルをどうにかシリアス回に出したいのじゃが・・・難しそうなのじゃ。
コルが出ると、基本的に謎の強権が発動されて、ギャグ回に変わってしまう気しかしないのじゃ・・・。
まぁ、彼女も、完璧というわけではない故、まだどうにかできる可能性は残っておるのじゃがの?
さて。
そんなわけで、王都の日々的な話は、ここでおしまいなのじゃ。
この章では、カタリナ殿とテンポとシュバルが出ておらぬが、まぁ、彼女たちの話は、今度にしようかのう。
2人とも主役級じゃからのう。
あ、そうそう。
作画効率の上昇に伴い、1日でカタリナ殿が描けたのじゃ?
じゃがのう・・・・・・まぁ、細かいことはよいか。
で、今、次を描いておるのじゃが、次は・・・どこに上げればいいのじゃろうかのう・・・。
やはり・・・あとがきかのう?




