7.5-18 王城代替施設18
そして再び、場面はシフトする。
今度は・・・王城があった場所。
王都の中心部にあって、一辺の長さが500mほどの堀に囲まれていた王城跡地である。
そこには、つい先日まで、壮大な石造りの城が建っていた。
しかし、諸般の事情により、突如として地面から生えてきた大樹の根によって、城は地下から完全に破壊され、今ではその痕跡すら残っていなかったのである。
・・・更地・・・。
その場所は、まさに、その言葉がぴったりと合う光景が広がっていた。
・・・とは言っても、王城と隣接して設置されていた、旧ミッドエデン王国を治めてきた代々の王家の墓である宗廟までは、壊れたからといっても流石に撤去するわけにはいかなかったので、王城職員たちや王都の職人たちの手によって、今なお丁寧に、修復作業が進められていたりするのだが・・・。
まぁ、それはさておき。
その瓦礫の撤去作業を指揮したのは・・・この国の議長専属の騎士(?)であるアトラスであった。
騎士団に所属しない彼が、なぜ騎士を名乗っているのかは・・・命名した議長を含めて、誰も分かっていなかったようだが、ただはっきりしていたのは、皆が彼のことを、ミッドエデンを代表する騎士である、と認めていたことだろうか。
それには、歴とした理由があったようである・・・。
「おーらい!おーらい!おーらい!・・・はい、ストップ!」
と、王都の跡地で声を上げるアトラス・・・。
もしも、現代世界の人間がその声を聞いたなら・・・おそらくは、工事現場の作業員を想像してしまうかも知れないところだが、この世界の人々にとっては、勇者と並ぶほど、頼もしい存在に見えていたようだ。
何故なら、そのバックしてくるダンプカーに向かって投げかけられていそうな彼の言葉は・・・
「ふぅ・・・。アトラス殿?そろそろ休憩にせぬか?」
と言いながら、巨大な鋼材を運んでいた、大きな身体の飛竜と、
「何を言っているのですかな?カリーナ。その程度の準備運動でヘタっているようでは、主様の部下など務まりませんぞ?」
・・・シーサーペントなのにもかかわらず、蛇のように地面を這って、同じように建材の輸送をしていた水竜の2匹に向けられたものだったからである。
要するに市民たちの眼からは、アトラスがドラゴンたちを使役しているように見えていたのだ。
これまでに何度か取り上げたことがあるのだが、一応この世界には、魔物を使役するテイマーが僅かながら存在していた。
しかし、高い知性と巨大な身体を持つドラゴンを2匹も自由自在に操る者は、さすがにいなかったので、市民たちや王城職員たちは皆、アトラスに対して、畏怖のようなものを感じていたようである。
・・・ただし、わざわざ言うまでもないことかもしれないが、実際のところは、彼はドラゴンを使役している、というわけでは無かった。
その証拠に・・・休憩した後(?)も手伝う気が満々だったドラゴンたち2人に対して、アトラスはこんな言葉を口にしたのである。
「そうだな。そろそろ姉貴たちが作業を始める頃だから・・・俺たちはもう帰るか」
『えっ・・・』
その言葉を聞いて、そのままの体勢で、ピタッ、と固まってしまう水竜と飛竜。
そして最初に抗議の声を上げたのは水竜であった。
「い、いや、まだ日は昇ったばかりでございます!サボっておったら、コルテックスさまに何と言われるか分かったものではございませんぞ?!」
その後で、飛竜も声を上げる。
「そ、そうだとも。アトラス殿は、変なサボり癖でも付いているのではないですかな?テレサ様みたいに・・・」
・・・と2人が口にするように、実際のところは、アトラスと水竜と飛竜の間に殆ど上下関係はなく、むしろ『仲間』と表現ほうが適切と言えるような関係にあったのである。
そんな3人のやり取りを知らない者たちにとっては、人の姿をしているアトラスが、まるでドラゴンを従えているように見えていたようだが・・・それは人間にとって都合のいい解釈であったことは言うまでもないだろう。
・・・だが、その勘違いは、人間側だけの話ではなかったようである。
バッサ、バッサ・・・
そんな大きな布か紙のようなものがはためくような音が、まっ平らな王城跡地に響き渡り・・・そして空から灰色の影が5体ほど現れたのだ。
「・・・ん?なんだ?」
空から急にやってきた『珍客』に眼を向けながら、疑問の声を口にするアトラス。
それでも彼が身構えなかったのは・・・やはり、彼も、訪れた客が無害な存在だと知っていたからだろうか・・・。
それから、彼の反応に続くように、運んできた鋼材の荷解きをしていた飛竜も振り返ると、おもむろにその口を開いた。
「あぁ・・・あれは、我の部下のワイバーンたちだ」
『グエーーーッ!!』
『・・・は?』
「つい先日、あの大きな樹の上を、テレサ様を連れて飛んでいたら、偶然、古い誼みを見つけたものでな。声を掛けたら、ついつい話に花が咲いてしまって・・・。王都に住んでいると言ったら、今度遊びに来る、と言っていたんだが・・・その今度というのが、今日だったようだ」
と言いながら、5匹(羽?)のワイバーンたちに目配せする飛竜。
するとワイバーンたちが、水竜だけに対して、各々に頭を下げたのは・・・おそらく飛竜が、彼らに対して、人間式の挨拶の仕方を教えたからなのだろう。
・・・ただ、アトラスに対して礼をしなかったのは・・・つまり、そういうことなのだろう。
その姿を見て・・・
「・・・まさかとは思うんだが・・・あいつら喋れたりするのか?」
と、思わず飛竜に対して問いかけるアトラス。
すると飛竜は・・・
「あぁ、それはもちろん。・・・だろう?皆!」
とワイバーンに対して水を向けた。
その結果・・・
「グエーーーッ!!」
「グエーーーッ!?」
「グエッ?」
「グエッ」
「グエ〜ッ」
と何やら、グエーッ、を基調に、言葉のようなものを話している様子のワイバーンたち。
だが、日本語(?)しか分からないアトラスにとっては・・・
「・・・ちょっと、俺には、すぐに理解できなさそうだが、確かに何か喋ってる雰囲気はあるな」
・・・残念ながら、話の内容までは理解できなかったようだ。
もしかすると、狩人あたりなら、時間をかければ会話できるようになるのではないか・・・彼はそんなことを考えていたようである。
「そうか・・・。我には普通に喋っているようにしか聞こえないのだが・・・」
アトラスの感想を聞いて・・・残念そうな雰囲気を纏う飛竜。
そんな彼女に対してアトラスは、少々気配りが足りなかったかもしれない、と思ったようで、フォローの言葉を口にし始めた。
「・・・でも、すごいと思うぜ?俺、今日はじめて、ワイバーンが社会的な魔物だって知ったよ」
「そ、そうか?」
そして、徐々に回復していく飛竜の機嫌。
それからまもなくして、彼女のテンションが、元の状態よりも高くなっていった原因は・・・まったくもって不明である。
・・・ただ、飛竜の機嫌が良くなった反面、逆に機嫌を悪化させた者がいた。
2人とワイバーンたちのやり取りを見ていたものの、会話に入っていけなかった様子の水竜である。
どうやら彼女には、飛竜と違って、ワイバーンたちの話が理解できなかったようだ。
その結果、水竜は、後輩である飛竜と対抗するような形で、口を開き始めた。
「・・・アトラス殿?なにも部下がいるのは、カリーナだけではないのですぞ?」
「・・・急に、どうしたんだ?水竜・・・」
「まぁ、見ていてくだされ」
そう言ってから、空に向かって顔をもたげる水竜。
それから彼女は・・・人の耳には聞こえないような超音波の周波数帯を使った『歌』を歌い始めたようだ。
・・・その直後である。
王城跡地を取り囲むように作られていた堀から、何やら・・・
ズズズズ・・・
と、触手が大量に湧き出てきた・・・。
『・・・?!』
『グエッ?!』
その様子に、思わず後ずさりしてしまうアトラスと飛竜と、そしてワイバーンたち。
流石に、今の状況においては、ワイバーンたちが何を思って、どんなワイバーン語(?)を口にしたのかは、手に取るように分かりそうである・・・。
まぁ、それはさておき・・・
「な、何だあれ?」
アトラスは、突然現れた巨大な触手に対して、思わず声を上げた。
すると水竜が、どこか嬉しそうに、説明を始める。
「ふっふっふ・・・。あれは、儂の部下・・・人の言葉で言うなら『クラーケン』でございます。先日、狩人様が堀にてお育てになられていたテンタクルオクトパスを譲り受けて・・・我が魔力と、サウスフォートレスのマナを使い、丹精込めてさらに育て上げた結果、ご覧のような立派な部下に育った、というわけでございます」
「・・・ごめん、水竜。ちょっと、何言ってるか、分からないかもしれん・・・」
「えっ・・・」
水竜の言葉が分からない・・・と言うよりは、どうしてこうなったのか事情が分からない、といった様子で頭を抱えるアトラスと、彼の言葉をそのままの意味で捕らえた様子の水竜。
すると彼女は・・・当然のごとく、自身の言葉を補足するように行動を始めた。
「そ、そうでございますか。・・・なれば、直接見ていただくのが早いでしょう!」
そして水竜は、巨大なタコ・・・クラーケンに対して、次なる司令を超音波で伝えたようだ。
・・・その結果、
ドゴォォォォ!!
と、その全長50mにもなる身体の全てを、陸に上げ始めるクラーケン・・・。
・・・それも3体。
「いや、上げなくてもいいって。っていうか、上げたら乾燥して、あいつら大変なことになるだろ」
「いえいえ。大丈夫でございます。マナの効果からか、皆、儂のように、陸に上がっても乾燥することは無いのでございます」
「そ、そうか・・・・・・い、いや、そうじゃなくて・・・」
今の気持ちを、一体どう表現していいのか・・・。
結局、全てのクラーケンたちが陸に上がってしまった中で、アトラスは眉間にしわを寄せながら、痛そうな頭を抱えたのであった・・・。
・・・なお、その様子を遠目から見ていた市民たちや、王城職員たちの眼には・・・
「ママー?アトラス様すごいねー。あんな大きな魔物を一人で操ってるんでしょー?僕もいつかあんな風になれるかなぁ?」
「あらあら。この子ったら、将来は勇者か騎士になるのが夢なのかしら?」
「あのタコ、美味そうだよなー。もしかして、アトラス様、少しずつペットのことを食べてたりするんだろうか・・・」
「アナタ・・・。子どもの前では、そういった発言は控えてくれないかしら・・・?」
・・・といったように、アトラスに対して敬意のようなものを抱くことはあっても、突然現れたワイバーンやクラーケン、その他、ドラゴンたち対して、恐怖感を抱くことは無かったようだ。
恐らくは、水竜と飛竜たちが、普段から町中で、さり気なく人々と接していることが、その原因なのだろう。
それを考えるなら・・・もしかすると、この街の住人たちは、危機感がマヒしかかっている、と言えるのかもしれない・・・。
この章は、予定ではあと2話ほどで終える予定なのじゃ?
それからは、しばらくの間、特定のキャラクターだけが参加する話になる予定なのじゃ?
そうでないと・・・全然話が進まないからのう・・・。
それはそうと。
これは、どうでもいい話なのじゃが・・・(ルシア嬢が)寝坊したのじゃ。
そのせいで、アメの実家に行けなかったのじゃ・・・。
というわけで、明日こそ、行ってくるのじゃ?
・・・もしかすると、主殿が、反対方向に走り始める可能性も否定はできぬがの?
そう言えば・・・最近、すごく嫌な夢を見るのじゃ。
おおまかに分けると2パターンあるのじゃ?
・・・いつも夕方に仮眠をとって起きてから執筆するのじゃが、起きずに寝過ごす夢。
・・・起きたら起きたで既に10時ころになっておって、そこから必死に12時まで執筆する夢。
しかも、朝起きる際、それぞれ25%ほどの確率で、その夢を見るのじゃ・・・。
合計50%の?
・・・もうだめかもしれぬ・・・。
というわけで・・・いや、何がどういうわけなのか、まったく繋がっておらぬのじゃが、今日のあとがきは、ここで終わらせてもらうのじゃ。
これから何をするのか・・・詳しく言わずとも分かるじゃろう?
今日中に描き終わって・・・明日は流星群を見に行きたいものじゃのう・・・。




