7.5-17 王城代替施設17
イーストフォートレスの領主が、嬉しそうに補助金の申請理由を考えていた頃・・・。
ユリアやシルビアの家からほど近いアパートの中には・・・
「・・・・・・」ずーん
「・・・・・・」ずーん
と、何やらゲッソリとした様子で、青い雰囲気を纏っている者たち2人の姿があった。
鍛冶屋の孫娘(?)のシラヌイと、元魔王のユキである・・・。
「困りました・・・」
「困りましたね・・・」
食卓で向かい合いながら、同じ言葉を口にするシラヌイとユキ。
彼女たちは一体なぜ、困っていたのかというと・・・
「・・・誰にも会えませんね」
「・・・もしかして、皆さん、ボクたちのことが嫌いなのでしょうか?」
そんな2人の言葉通り、王城が倒壊してからの数日間、仲間の誰にも会うことが無かったからである・・・。
正確に言えば・・・空に浮かんでいるワルツやルシアの姿は、王都のどこからでも見えていたので、完全に誰にも会わなかった、というわけではなかった。
ただ、例えそうだったとしても、ユキたちは、空に浮かぶワルツたちを含めて、仲間の誰とも会話していないので、実質的には、誰にも会わなかったと言っても、間違いではないだろう。
「流石に嫌われてる、と言うのは・・・少々、言い過ぎではないでしょうか・・・?」ずーん
「えっと・・・なんか、申し訳ありません・・・」ずーん
もしも嫌われているとするなら、洒落にならない・・・。
そんな意味合いが込められていたシラヌイの言葉に気付いたユキは、ネガティブな発言だったかもしれない・・・と、ネガティブに考えて、暗い表情を浮かべた・・・。
・・・といったように、この家の空気は、住人2人のマイナス思考のスパイラルによって支配されていたようである。
元々、あまり社交的ではない性格をしていたシラヌイと、人間社会での市井に紛れた生活に慣れていないユキは、新しい環境での生活に適応することが出来ず、少々うつ気味になっていたと言えるだろう。
とはいえ、病気と言えるほどに深刻な様子ではないようだが・・・。
・・・しかし、そこは、一人で世界中を旅していたと自称するシラヌイと、御年250歳のユキ。
2人ともすぐに気を取り直して、話題を変えることにしたようだ。
「えっと・・・暗い話題じゃなくて、明るい会話をしましょう!」
「そうですね。多分そのうち、ワルツ様方が迎えにくてくれるはずですから」
「・・・でも、よくありますよね。魔王が捕らえた人間側の姫を、勇者が・・・迎えに来ないという話・・・」
「あー、それと似たような経験あります。昔、『大河』の向こう側から、人間側の国によくちょっかいをかけられることがあって・・・イラッとして、相手の国の料理人を誘拐したことがあるんですよ」
「えっ・・・姫じゃないんですか?」
「はい。姫なんて誘拐しても、ボクには何の得もないですから。それなら、人質になっている間、美味しい辛い料理を作ってもらおうと思って料理人を連れ帰ったんですよ。でも・・・結局、配下の者たちから『毒が入ってるかもしれない』って止められてしまって、一度も食べられなかったんですけどね・・・。その後も、結局、誰も助けに来なくて・・・気づいたら皆、死んでいました。本当に、人間とは脆い生き物だと実感しましたね・・・」
「・・・あ、そうですか・・・」ずーん
ユキの発言が、色々な意味であまりに残酷すぎたためか、再び暗い顔を見せるシラヌイ・・・。
なお、捕まった料理人たちの死因は、餓死・・・ではなく、老衰である。
医療水準が低いために平均年齢の低いこの世界においては、一般的な人間の寿命など、ユキのあまりに長すぎる寿命を考えるなら、一瞬の出来事のようなものだったのだ。
そのことに、シラヌイが気付いた様子は無かったが・・・彼女は再び、ネガティブスパイラルからの脱却を目指して、話題を変えることにしたようだ。
「えっと、シリウスさ・・・ユキさんは、辛い料理の内、どのような料理が好きなのですか?」
「んー・・・それは中々に難しい質問です。最近、口うるさい配下の者たちがいなくなったおかげで、ようやく好きなものが食べられるようになったのですが・・・まぁ、強いていうなら、スパイスそのものでしょうか?」
「・・・え?スパイスそのものって・・・」
「熱々のご飯の上に、加熱した真っ赤なヘルチェリーを載せて食べる・・・。口の中の全神経が急激に失われていくあの感覚・・・本当にたまりません。シラヌイさまも一度いかg」
「いりません!」
「そ、そうですか・・・」ずーん
シラヌイに自分の好きなモノを全否定されたような気がして・・・俯いてしまうユキ。
しかし、彼女も、暗い雰囲気をどうにかしたいと考えていたためか、すぐに顔を上げると・・・逆に問いかけた。
「ちなみに質問ですが、シラヌイさまは、どのような食べ物が好きなのですか?」
「えっ?私の・・・好物ですか?」
そう口にしてから、考え込む様子のシラヌイ。
好きな食べ物が数多くあったのか、それとも、まったく無かったのか・・・。
しばらく考えこんだ彼女は、何かを思い出したかのように両手を合わせると、明るい顔を見せながらこう口にした。
「お味噌汁です!」
「お味噌汁ですか。それはどうしてですか?」
そのユキの問いかけに対してシラヌイは・・・んー、と唸りながら、再び考え込むような仕草を見せて、ややあってから話し始める。
「えっと、では逆に聞きますけど、ユキさんはどうして辛いものが好きなのですか?すぐにその理由が思い出せますか?」
「あ・・・確かに、何故と聞かれても、すぐには出てこないかもしれませんね。熱くて辛いものが好きとしか答えようがありません」
「・・・私もそれと同じです。好きだから、好きなんです。でも・・・強いて言うなら、おじいちゃんの作ってくれた美味しいお味噌汁を思い出してホッとするから・・・でしょうか?もうこの際、全ての飲み物が、お味噌汁でもいいくらいです。それもできれば、汁よりも具沢山の・・・」
「それ飲み物では・・・いえ。なんでもありません・・・」
と、シラヌイの言葉に、何か言いたげな様子だったものの、結局、口を閉ざしてしまうユキ。
そんな彼女が黙ってしまったのは、シラヌイの想像しているだろう味噌汁が、決して飲み物と言えるものではなかったから・・・という理由からではない。
それよりも何よりも、他に聞きたいことがあったからである。
そのきっかけは、シラヌイが口にした『おじいちゃん』という言葉だったようだ。
「ところで、シラヌイさま。ふと気になったのですが・・・シラヌイさまのお話の中に時折出てくる御祖父さまについて、お聞きしてもよろしいですか?」
と問いかけるユキ。
すると、シラヌイは何故か・・・
「えっ・・・」
と言って、固まってしまったようだ。
どうやら彼女は、嫌がっているわけでも、戸惑っているわけでもなく・・・単に、『えっ』を口にした状態で、文字通り固まってしまっているようである。
まさか、聞かれるとは思わなかった・・・そんな様子に近いかもしれない。
「あのー・・・シラヌイさま?大丈夫ですか?」
「あ、はい・・・」
ユキが問いかけたことで、シラヌイは硬直が解けたようだが・・・
「あまり聞かない方がいいことでしたか?」
「いえ、そんなことは・・・ありません」
そう言うものの、ぎこちなさまでは誤魔化せていないようである。
するとユキは・・・いや、その原因について大体の予想が付けられていたユキは、彼女を試すかのように、短くこう言った。
「・・・今は無き鬼人たちの国」
「・・・!?」
「えっと・・・なんか、余計な事を聞いてしまったみたいですね。申し訳ありません・・・」ずーん
シラヌイの反応が思った通りのものだったので、わざわざ聞くほどのことでもなかったと後悔したためか、再び青いオーラを纏うユキ。
ともあれ、先日まで魔族の領域でボレアス帝国の皇帝をしていた彼女は、どうしてシラヌイがおかしな反応を見せていたのか、完全に把握してしまったようだ。
シラヌイの方も、今更、誤魔化しきれないと考えたらしく・・・
「あの・・・他の皆さんには内緒にしておいていただけませんか?シリウス陛下」
ユキのことを敬称付きの名前で呼んで、彼女に対して真っ直ぐな視線を向けたようである。
「それは一向に構いませんが・・・せめてボクには、詳しい事情を説明してくれても?」
「・・・はい。分かりました・・・」ずーん
そして、色々と諦めたように、ユキに事情を説明し始めるシラヌイ。
こうして魔族たちの事情をある程度把握していたユキは、シラヌイの秘密について知ることになるのだが・・・それが仲間たちの知るところとなるのは、もうしばらく先の話である・・・。
・・・いやの?
正直な話、VON休みに入ったというのに、時間が無いのじゃ。
明日は・・・ちょっと、アメの実家まで、喧嘩を売りに・・・いや、なんでもないのじゃ。
朝の内に行って、暑くならぬ内にさっさと帰ってくるつもりじゃから・・・まぁ、執筆等には問題は無いはずなのじゃ。
問題は・・・ルシア嬢が、『稲荷寿司食べたい!』とか言って、神社近くの店を漁り始めないか・・・それだけが心配なのじゃ。
その場合、夜になっても帰れない気しかせぬからのう・・・。
まぁ、そんなことはさておいて、補足に入るのじゃ?
今日は・・・むしろ、補足せぬほうが良いじゃろうか。
シラヌイ殿の話し方が、これまで妙に丁寧だった(?)その理由が、徐々に明かされていく・・・的な感じなのじゃ!
・・・そろそろ、リア殿の話にしろ、シラヌイ殿の話にしろ、アトラスの話にしろ、次の章に向けた準備をしていかねばならぬからのう?
問題は・・・ちゃんと終わるかどうか・・・。
それが全てなのじゃ・・・。
というわけで、駄文はこの辺でお開きにして・・・寝るのじゃ・・・zzz。




