7.5-16 王城代替施設16
説教注意なのじゃ〜。
演説注意なのじゃ〜。
ワルツたちが、朝食を摂っていたその頃・・・。
今日も王城跡地前の広場に刺さっていたエネルギアの中のだだっ広く真っ暗な一室では、議長代理(?)のコルテックスと、各地に散らばる貴族を始めとした地方議員たちとの毎週定例の会議(?)が、無線機越しに行われていた。
「・・・まったく、酷いとは思いませんか〜?急に増えた魔物に、作物を食い荒らされたからと言って、つい最近までいがみ合っていた隣国が、急に擦り寄ってくるんですよ〜?一体、どうしてくれましょうか〜?」
最早、テレサのフリをする気のないコルテックスの、そのボヤキのような議案に答えた(?)のは・・・ウエストフォートレス地方を治めている貴族であった。
『そ、それどころではありませんよ!我々の地方では火山が大噴火して、作物も家畜も、それに民たちも、酷いことになっているんです!支援するなら、国外の連中などからではなく、まずは身内である我々のところからにしていただきたい!』
すると、彼に発言を聞いていたノースフォートレス出身の議員が、抗議の声を上げる。
『それを言うなら、俺たちのところもそうだ!魔物が急に増えたせいで、迂闊に森への出入りができなくなっているんだ!しかも、町の周囲が森に囲まれてるってのに・・・。領地の産業が壊滅的な被害を受けているのは、お前らんところだけじゃないんだぞ!』
そして、ついでに・・・、と言わんばかりの様子で、イーストフォートレス地方を治めている貴族も口を開いた。
『あの・・・』
「しゃらっぷ!」
『・・・・・・』
・・・しかし、コルテックスが言葉を遮ったために、結局、言いたいことを言えなかった様子のイーストフォートレス領主。
まだ若かった彼は、実は会議でいつも、コルテックスに虐げられていたりする・・・。
ただ、今回コルテックスが言葉を遮ったのは、イーストフォートレスの領主の発言が気に食わなかったから、というわけではなさそうだ。
「みなの者〜、落ち着くが良い!それでも騒ぐというのなら、おね・・・ワルツ様をけしかけてやるのじゃ〜」
その途端・・・
『・・・・・・』
『・・・・・・』
『・・・・・・』
と、急に黙りこむ、貴族や議員たち・・・。
どうやら、皆、ワルツのことを苦手にしているようだ
・・・とは言っても、ここで会話している者たちは全員が地方議員たちなので、ワルツがどのような人物なのか、彼女に直接会ったことが無かったために、よく分かっていなかったようである。
そのことが、コルテックスにとっては、逆に好都合だったらしく・・・彼女はユリアたち情報部を使って、ワルツに関する出所不明の噂を流していたのだ。
・・・曰く、空腹になったら、人(の血液)も口にする。
・・・曰く、気に食わない(犯罪)者がいたら、容赦なく殺害する。
・・・曰く、魔王と勇者を従える魔神である。
まぁ、出所不明なだけで、嘘は言っていなかったようだが・・・。
その他にも、ワルツに関する怪しげな噂(?)が出回っていて・・・議員たちは皆、自分たちの領地に、ワルツが来ないようにと願っていたようだ。
そんな議員たちの反応に満足気な表情を浮かべていたコルテックスは・・・それから、自身が会話を遮った理由を口にし始めた。
「皆の者〜!よ〜く聞くのじゃ〜!支援は〜・・・・・・無いですよ〜?」
『えっ・・・?』
コルテックスのその一言に、言うまでもなく、耳を疑っている様子の議員たち。
助けて、と言っているのに、一方的に突っぱねられたようなものなので、すぐには理解できなかったようである。
景気がいいはずの中央政府から拒否されたような形になってしまったことも、余計に言葉の意味が理解できなかった原因と言えるだろう。
ただ、コルテックスの言葉は、議員たちからの嘆願を無下に拒否して終わり・・・というわけではなかったようだ。
「・・・ですが、完全に支援しないというわけではありません。それよりも何よりも、中央への集権が進む前に、地方創生を推めようと思います。そのための支援ならしてもいいですよ〜?国が大きくなってからでは、なかなか出来ないことですからね〜」
『ちほう・・・そーせい?』
「・・・何ですか〜?言葉も理解できないほどに、貴方の頭は愚かだったのですか〜?・・・地方の産業に付加価値と効率化を求め、そして活性化し・・・中央集権からの脱却を目指す・・・そんな考え方です。まだ集権されてないですけどね〜?」
『は、はぁ・・・』
罵倒されたことについても然ることながら・・・急にコルテックスが、『中央集権からの脱却』などという言葉を口にしたために、混乱している様子のイーストフォートレス領主の少年。
その言葉の意味が分かっていなかったのは、彼だけではなかったようで・・・議員たちは皆、無線機の向こう側で首をかしげていたようだ。
それを察してか・・・コルテックスはそのまま、言葉を続けた。
「・・・何故、皆、支援を求めるのでしょう?本当に今の自分たちは、どうしようもないほどに、首が絞まった状態なのでしょうか〜?領地の中には、富の種は転がっていないのでしょうか〜?今、このピンチこそ、チャンスである・・・そうは考えたことは無いのでしょうか〜?」
と、連続して、疑問を口にするコルテックス。
対して、他の議員たちにとっては・・・そんなことは百も承知で、実際苦しんでいるから支援を求めているんだ・・・と言いたげな雰囲気を出していたようだ。
だが、実際に誰もそれを口にすることが無かったのは・・・やはり、コルテックスのバックに、ワルツという名の政治的脅し(?)が存在していたからだろうか・・・。
ただ、コルテックスにとっては、都合が良かったようである。
彼女は、異論が上がらないことをいいことに、言いたいことを話し続けた。
「・・・例えば、ウエストフォートレスの火山の件。確かに、火山灰で領地が酷いことになっていることは、こちらでも報告を聞いています。しかしそれは、何も悪いことばかりではないはずですよ〜?・・・こう言えば分かるでしょうか?ウエストフォートレスにある火山は・・・ミッドエデンにある唯一の火山、と」
『・・・!』
「火山灰の活用方法はいくらでもありますよ〜?大規模な建物を建築する上でのコンクリートの材料、割れにくいガラスを作る上での添加剤、水質改善への応用・・・。灰だけでも、探せばいくらでも活用法はありますが・・・火山の近くから湧き出る温泉や地熱を利用すれば、新たに一大産業が創生できますよね〜?まぁ、確かに、畑が酸性の土壌になってしまい、民たちが食べていくのに困ると言うのなら支援することについては吝かではありません。しかし、結局それは、一時しのぎでしか無いことを、領主は理解しておくべきです。いつ、火山の噴火が収まるとも分かりませんし・・・その間ずっと支援されるだけというのは、いかがなものかと思いますからね〜?その支援の資金がどこから捻出されるのかといえば、国の民たちから回収した税金なわけですから〜」
『あ、はい・・・』
コルテックスのマシンガントークと、『税金』の2文字に、思わず同意する以外の言葉を失ってしまった様子のウエストフォートレス領主・・・。
次にコルテックスの言葉の矛先は、ノースフォートレス領主の方へと向けられた。
「次はノースフォートレスの話です。・・・まったく、ノースフォートレスの領主は、恥ずかしいとは思わないのですか〜?魔物が怖くて、町から出られないとか・・・どこの箱入り息子です〜?何のために貴族を名乗っていると思っているのですか〜?国が攻められた時に、国民の代表として、身を呈して戦う存在・・・それが貴族ですよね〜?」
『・・・!』
「もちろん、このご時世、民のために魔物に喰われて死ね、とは言いません。しかし、あなた方は考える力を持った人間のはずです。我々、人間が、この世界でより大きな力を持ったドラゴンたちよりも繁栄できたのは・・・その考え力があったからではないですか〜?力を合わせて罠を仕掛けたり、そして追い込んだり・・・。魔物たちを一網打尽にする方法はいくらでもあるはずです。それが出来ないというなら・・・即ち、生きることを放棄したことと同義ですよ〜?ノースフォートレスの地に入植したご先祖様方に対して、今の生き方が恥ずかしいとは思わないのですか〜?」
『・・・・・・ぐすっ』
そして、何故か無線機の向こう側で泣き出すノースフォートレス領主・・・。
どうやら彼は、先祖たちに対して、申し訳無さで心が一杯になってしまったようだ・・・。
そこでコルテックスは一旦言葉を区切って・・・そして総括するように、再び口を開いた。
「皆さんには皆さんの生き方と、そして大切な領地があるはずです。それをもっと効果的に活用する方法を共に考えましょう〜。・・・中央で大きな顔をして、座り心地の良さそうなソファーでふんぞり返っている議員どもに、一泡吹かせてやる・・・。そのくらいの勢いが、今のあなた方には必要ではないでしょうか〜」
その言葉に・・・
『・・・そうだな』
『やってやるか!』
『地方創生・・・いい言葉だ』
と、やる気を見せる地方議員たち。
そんな中で、イーストフォートレスの若い領主が・・・
『あの・・・議長様?我々の領地は・・・』
と、問いかけるものの・・・
「え?今日は疲れました〜。適当に考えて下さい」
『・・・・・・』
結局、コルテックスに冷たく扱われてしまったのは・・・何も、コルテックスが彼のことを嫌いだったわけではないようだ。
「・・・あ、そうそう。一つ、言い忘れていました〜。支援についての申請は、こちらで用意した書類に計画を書いて貰って、私たちの方で審査する予定です。その際、下らないことが書いてあったら・・・どうなるか分かりますよね〜?おね・・・ワルツ様をけしかけますからね〜?なので・・・一応相談には乗りますが、基本的には自分たちの頭で、これからの領地の未来のことをしっかりと考えてください。・・・というわけです、コロナ卿?誰かに相談してもいいので、ちゃんと考えてくださいね〜?」
『・・・えっと・・・はい。頑張ります・・・』
そして・・・どうやら、手元のノートに、コルテックスの言葉を書き込んでいる様子のイーストフォートレス地方の領主コロナ。
コルテックスから毎回のようにつっけんどんな扱いを受ける彼が、しかし、憤った様子を見せない理由は・・・不明である。
ともあれ・・・
「それでは、今日の会議はここまでです。次回はまた来週の定例会議の時に行うことにしましょう〜」
『はいっ!』
『うむ』
『お願いします』
こうして、コルテックスと地方議員たちの会議は終わったのであった・・・。
・・・まぁ、どちらかと言うと、勉強会のようだが・・・。
・・・おかしいのじゃ。
コルの話を書くと、妙にキーボードが進んでいくのじゃ・・・。
いつも時計とにらめっこして、ヒィヒィ言いながら、執筆しておるのじゃが・・・コルが登場するときだけは、スラスラと書ける気がするのじゃ・・・。
逆に書くのが大変なキャラクターは・・・あれ?
意外といないかもしれぬのじゃ。
強いていうなら・・・狩人殿くらいのものかのう?
狩人殿は、酒を飲んでも真面目じゃから、普通に書こうとすると、固っ苦しい内容になってしまうのじゃ。
対してコルは、その存在自体が・・・いや、なんでもないのじゃ。
さて。
補足は・・・特に無いかのう?
まぁ、釈明すべきことはあるかも知れぬがの?
・・・地方創生と中央集権について。
地方が力を持てば、中央に権力が集中する構図を分散できる・・・的な考え方で書いたのじゃが、それらを繋げて考えるためには、もうワンクッションあっても良かったかも知れぬ、と少しだけ後悔しておるのじゃ。
権力にも色々な種類があって、単に地方が力を持てば、中央の権力が弱まる・・・というわけではないからのう。
力にも色々と種類があるしのう。
・・・まぁ、大体は、金の流れがすべてなのじゃが・・・。
さて・・・・・・あ、そうそう。
これは昨日の話とも関係することなのじゃが・・・コルが議会から危険視(?)されておるというのは、今日みたいな話があったからなのじゃ。
それと、ワルツから危険視されておったのは、彼女が急激に増加しつつあったGDPを抑えるつもりでおったのに、コルは相反して逆に上げる方向に行動しておったからなのじゃ。
それによってミッドエデンがどうなるのかは・・・・・・どうなるのじゃろうのう?
乞うご期待なのじゃ!
・・・いや、期待されても困るかも知れぬがの・・・。
というわけで、今日はこの辺でお暇させてもらうのじゃ!
・・・早く明後日にならぬかのう・・・。




