7.5-15 王城代替施設15
翌日の朝。
仮設の狩人邸には、朝食狙いでやってきていたワルツの姿があった。
まぁ、ワルツにとっては、朝食だけが目的ではなかったようだが・・・。
ワルツと家の住人たちが、それほど大きくはない食卓を囲んで食事を摂っていると・・・狩人がワルツに対して、おもむろに、こう口にする。
「・・・ってことが、昨日あったんだ」
「そう・・・。物騒ねぇ・・・」
「・・・何言ってるの?2人共・・・」
あまりに説明を端折り過ぎていた・・・どころか、まったく説明していなかったために、ルシアには2人が何を話しているのか分からなかったようだ。
「何って・・・イブがお化けを怖がって逃げ出した話よ?」
「んあ?!そ、そんなこと無いかもだもん!狩人さんが戦術的撤退だって言ってたかもだもん!」
「あ、そう。じゃぁ、また行ってくるのね?今度こそ、幽霊を退治しに、さ?」
「んぐっ!」
そして悔しそうに唸り始めるイブ。
その様子は、どう見ても・・・犬である。
まぁ、それはさておいて・・・。
この仮設狩人邸には、狩人とイブ、そしてテレサとルシアの4人が住んでいた。
保護者(?)である狩人の元に、似たような身長の子どもたち(?)が身を寄せている、と言った形である。
連日のようにテレサとイブが共に行動していたのも、それが理由だったようだ。
故に・・・ここにはもちろん、テレサもいた。
「のうのう、ワルツ?新しい城の建設状況はどういった具合なのじゃ?」
と、その言葉通り、ワルツに向かってどこか嬉しそうに問いかけるテレサ。
すると、彼女の言葉にいち早く反応したのは、ワルツ・・・ではなく、昨日もテレサに連れ回されていたイブであった。
「・・・あれ?テレサ様。昨日、草の陰から皆のこと覗き見してるから、工事の状況が分かるかも、って言ってなかったっけ?高尚な趣味だー、とも言ってたかもだよねー?」
「いや、そうではないのじゃ。皆の作業を邪魔したら失礼じゃから、遠くで見守っておっただけなのじゃ!じゃから、細かいところまでは、妾には分からないのじゃ!」
と、頬を膨らませながら、イブの発言に対して、釈明の言葉を口にするテレサ。
すると、今度は、その会話を聞いていたワルツが口を開いた。
「あー、そういうことだったのね・・・。何か、いやらしい視線を感じると思ったのよ・・・」
「んなっ・・・!」
ワルツから言葉を受けて、テレサがどのような表情を浮かべたかについては・・・まぁ、詳しく説明せずとも、分かってもらえるのではないだろうか・・・。
どうやら彼女には、いやらしい視線を向けていたという自覚は無かったらしい。
それから・・・この世の終わりが訪れたような表情を浮かべているテレサを見て、ルシアが苦笑を浮かべながら口を開く。
「あのね、テレサちゃん・・・。作業してる人たち、みーんな、テレサちゃんたちが見てたこと知ってるよ?」
「・・・・・・へ?」
「だって、毎日見てたら・・・今日も見てるんじゃないか、って話になるでしょ?テレサちゃんたち、姿を隠してたみたいだけど、休憩を摂ってた人たちが、こぞって探してたみたい。見たら幸せになれる・・・的なことを言ってたかなぁ」
「・・・な、なんということじゃ・・・」がっくり
そう言って・・・後悔するように両手で頭を抱えてしまうテレサ。
彼女がそんな反応を見せたのは、自分が浮かべていた怪しげな表情を誰かに見られたかもしれないことを考えて、羞恥心を感じてしまったため・・・ではない。
彼女が工事現場へと向けていたその視線の殆どは、ワルツに向けたものであって・・・必死になって働いている国民たちには殆ど向けられていなかったのである。
しかし、国民たちからは、逆に自分に対して視線が向けられていたことを、ルシアに言われて初めて知って・・・自身の行動を恥じらってしまったようだ。
国家のトップとして、いかがなものか・・・。
彼女の頭の中では、そんな自責の念が渦巻いているに違いない。
そしてテレサが沈黙してしまってから・・・。
彼女に対して呆れたような表情を向けていたイブが、一旦首を捻ってから、ワルツに対して問いかけた。
「もしかして・・・ワルツ様も、イブたちが見てたこと知ってたの?」
「・・・うん。そりゃ、遠く離れてても、ある程度はよく見えるからね。・・・例えば、今、イブが、胸元にこぼしたごはん粒くらいなら、その表面に文字がかかれてても、多分読めるわよ?」
「・・・んあ」
そして、溢れていたごはん粒を重力制御で摘んで、イブの口に運ぶワルツ。
その際、イブには恥じらった様子はなく、むしろ嬉しそうに食べていたのは何故だろうか・・・。
それから、少々カピカピになりつつあったイブのメイド服の胸元から視線を移したワルツは、自身の隣で、美味しそうに狩人製の稲荷寿司を頬張っていたルシアに対して声をかけた。
「・・・今日で内装以外は完成するはずだから、頑張ってね?ルシア」
「うん!」もぐもぐ
うん、とは言ったものの・・・流石に口の中いっぱいに入っていた稲荷寿司のせいで、それ以上、言葉を返せない様子のルシア。
すると、その様子を見ていた狩人が、彼女の代わり・・・というわけではないが、ワルツに対して問いかける。
「今日で完成?それはちょっと早すぎないか?現場に直接入ってないから中の事情までは分からないが・・・あの大きな樹の上から覗いた限りだと、今日明日で完成するような雰囲気には見えなかったぞ?」
そう言いながら、昨日大樹の上から見た、今は更地になっている王城跡地のことを思い出す狩人。
そこには一切の建築物はなく、単にまっ平らな土地が広がっているようにしか見えなかったようだが・・・ワルツの話によると、まるで9割方、すでに建物が完成したように聞こえなくなかったのは、何も彼女の聞き間違えというわけではないはずである。
それから狩人が・・・自身の見た王城跡地の景色が、実はフェイクだったんじゃないか・・・などと考えていると、ワルツがとんでもないことを口にする。
「えぇ。今日一日で完成させますからね」
「・・・え?」
「ちょっ・・・」
「うむ。流石は我が夫なのじゃ!」
「うん!」もぐもぐ
「地下に工房の名残があって、岩盤が薄かったりすると思うので、色々としなくてはならないことがあるんですけど・・・建物の基本的な内部構造と外見は、今日中に完成させるつもりです。そうじゃないと、問題が立て込んでてて・・・このままだと、この国、滅んじゃいそうですからね・・・」
『・・・え?』
「うん!」もぐもぐ
「いや、ルシア嬢・・・。そこは頷くところではないのじゃ・・・」
「・・・ううん」もぐもぐ
「・・・一体何が言いたいのか分からぬのじゃ・・・」
どうして、この国が滅びてしまいそうなのか・・・。
ワルツの口から突然語られたその言葉に、ルシア以外の3人が、実は冗談なのではないか、といった様子で首をかしげていたが・・・ワルツ自身にとっては至って真面目な発言だったようで、
「えーと、マギマウスの暴走でしょ?コルテックスの暴走でしょ?火山の大噴火でしょ?他国からの侵略でしょ?・・・あと他に何かあったっけ?」
と、彼女は現状においての深刻な問題を具体的に羅列した。
「・・・ねぇ、ワルツ様?その問題のほとんどって、もしかして・・・ワルツ様が原因?」
「ううん。違うわよ?ほとんどじゃなくて、全部。・・・でも、コルテックスの件は・・・あ、やっぱり私か・・・」
「そっかー。そうだと思ったんだー・・・・・・は?!どうするの?!」
「・・・イブ?そういった反応は嫌いじゃないわよ?」
そう口にしたワルツは、イブ以外の仲間たちの反応があまりにも薄すぎることに、警戒感(?)を強めていたようだが・・・残念なことに、これまで数多くの刺激に曝されてきたルシアたちにとっては、国が滅びてしまいそうだと聞いても、大した驚きは無かったようだ。
そもそも、実際に一度、国が滅びてしまったことがあるので、彼女たちには今更感が拭えなかったのだろう・・・。
ともあれ・・・
「そんなわけだから、今日中にさっさと王城の代替施設を組み立てて、明日辺りからは、通常営業に戻るわよ!」
付き合いの長い仲間たちの反応が薄れてしまっていくことには慣れていたらしく・・・ワルツは仕切りなおすかのように、そう声を上げてから、最後に残されていた焼き鳥を口にして、席を立ち上がった。
こうして、王城代替施設の建設作業は、迎えるべくして(?)、大詰めを迎えたのである・・・。
・・・妾は思うのじゃ。
狩人のやつ、いつ寝てるのか、とのう。
夜は遅くまで飲んだくれておるのに、朝はちゃんと朝食を作る・・・。
きっと、肝臓の作りが、すごいのじゃろうのう・・・。
少し分けてもらいたいのじゃ・・・。
・・・そうそう。
妾が狩人殿のことを呼ぶ際に、『狩人殿』と呼ぶ場合と、『狩人のやつ』と呼ぶ場合があるのじゃが、これは、その時の空気で変わる故、あまり深く考えないで欲しいのじゃ。
敬意を払って接する時と、友として接する時、という違いなのじゃ?
そういうことって・・・よくあるじゃろう?
それと少しだけ関連するのじゃが・・・今日のイブ嬢の一人称について。
ワルツと接する際は、『私』が多いのじゃが、今日は『イブ』だったのじゃ?
これをどちらにするのか、2分くらい悩んだのじゃが・・・結局、『イブ』で行くことにしたのじゃ。
・・・甘えモード(?)的な感じなのじゃ?
まぁ、補足としては、こんな感じかのう。
・・・で、一点謝罪。
・・・狩人殿のイラストがなかなか書き終わらぬのじゃ・・・。
狩人装備とは何か・・・。
森に入って、ダニなどの虫に噛まれないような、実用的な装備とはどのようなものか・・・。
まったくもって、理系的な考えで申し訳ないのじゃが、たまにRPGなどで見る非実用的なファッション性重視の装備を見ておると・・・
『その装備でいっぺん山の中に入ってみるのじゃ!一撃でダニやらヒルやら蚊やらハチやらに噛まれて、以下略なのじゃ!』
と、思ってしまってのう・・・。
変な装備を描けぬのじゃ・・・。
・・・いや、経験者は語る、なのじゃ?
まぁ、それはさておいて。
次回、まとまった時間が取れるのは・・・木曜日ころかのう?
できれば、その前に時間を見つけて描きたいのじゃが・・・難しいじゃろうのう・・・。
・・・はぁ・・・帽子・・・山に入る者にとって、髪を隠す帽子は何よりも必需品じゃというのに、獣耳が邪魔で描けないのじゃ・・・。
かと言って、帽子に穴を開けるわけにも、帽子の下に獣耳を隠すわけにも行かぬ故・・・参ったのじゃ・・・。




