7.5-13 王城代替施設13
地平線の先に2つの太陽が沈み、そのどちらよりも遥かに大きい月がちょうど頭の上を通過していく頃・・・。
部下の兵士たちからのひどい仕打ち(?)を受けた狩人がやって来たのは・・・故郷のサウスフォートレスの近くにあるような、静かな小川の流れる森の中であった。
彼女が早朝に狩りをすることの多い、お気に入りの場所である。
狩人はそんな小川の畔にいつもの定位置を見つけて、そこへと腰を下ろした。
そして、カバンの中から王都の地酒を取り出して、干し肉とともに口へと運ぼうとした・・・そんな時のことである。
『・・・ぐすっ』
どこからともなく、川のせせらぎとは異なる湿った音・・・それも、すすり泣きのような音が聞こえてきたのである。
その音を聞いて狩人は・・・
「・・・!?(ま、まさか・・・)」ビクゥ
尻尾と獣耳の毛を逆立てて、思わず身構えてしまったようだ。
どうやら彼女には、昼間、突然襲ってきた巨大な蜘蛛などと比較のしようが無いほどに、怖がっているものがあるらしい・・・。
それから彼女は、せっかく取り出した酒とツマミを、音も無く再びバッグの中へと入れると・・・背筋に感じる薄ら寒い感覚から逃れるように、その場を急いで立ち去ろうとしたのである。
しかし、彼女が後ろを振り向く際、川の上流へと視線を向けたのが悪かったのか・・・。
彼女にとっては、眼に入ってこなくてもいい・・・むしろ、眼に入ってきてほしくなかった者の姿が、見えてしまったようだ・・・。
『・・・ぐすっ』
「・・・ひぐっ?!」
口から漏れそうになった悲鳴を、両手を抑えることでどうにか我慢する狩人。
そんな彼女の視線の先では・・・見たこともない赤い珠が、不気味に宙に浮いて、川の淵を漂っていたのである・・・。
「・・・・・・!」
シュタッ!
・・・そして狩人は一目散に森の中を走り始めた。
振り向いたなら、実は後ろにつかれているのではないか、などと考えながら、彼女は普段の冷静沈着(?)な様子とは大きく異なる取り乱した様子で、気配を消すことなどお構い無しで、必死に走っていく。
「(くそっ!私のお気に入りの場所で、バケモノと出くわすなんて・・・!)」
そして彼女が、この際、ワルツに作ってもらった相棒を信じて、いっそのこと退治してみようか・・・そう思った時の事だった。
「っ・・・!」
「・・・んあ?」
ドスン!
狩人が胸ほどの高さはありそうな草むらから獣道へと走り出た瞬間、彼女は何か黄色い塊にぶつかってしまったようだ。
「お、おばけっ?!」
その物体に対して、ここまで我慢していた叫びに近い声を上げる狩人。
・・・しかし彼女がぶつかった相手は、幽霊やお化けの類などではなく・・・メイドの姿をしたコスプレイヤー・・・でもなく、どういうわけか一人で暗い森の中を歩いていたイブであった。
「っ〜〜〜!ひ、酷いかもだし?!レディーの頭を強打しておいて謝罪も無しとか・・・。もしも、自慢の獣耳が無かったら、きっと頭部を粉砕骨折してたかもなのに・・・」
「・・・なんだ。イブか・・・」
「なんだ、とは失礼かも・・・って、狩人さん?」
と言いながら、ぶつけたはずの頭ではなく、痛そうに肩を押さえるイブ。
そんなよく分からない行動をしている彼女は、続けざまに当然の質問を、狩人に対して投げかけた。
「こんなところで、何してるの?」
「実は、部下たちに虐めr・・・・・・お化けを見たんだ・・・」
「おば・・・」
イブはそこまで言ってから・・・どういうわけか固まってしまったようだ。
理解しがたい狩人の言葉を、頭の中で何度も繰り返して考え込んでいるのか、あるいは理解したくないと、精神が拒否しているのか・・・。
ただし、それも短い時間のことで・・・狩人が何を言っているのか理解したイブは、子供扱いされることが嫌いな彼女らしい言葉を口にし始めた。
「そ、そ、そんなのいるわけないかもじゃん!お化けとかカタリナ様とか・・・」
「・・・よっぽど、カタリナのことが嫌いなんだな・・・」
と、カタリナと幽霊を同列に考えている様子のイブに対して、思わず苦笑を浮かべる狩人。
以前、イブに対して、痛そうな注射器を振りかざしているカタリナの姿を見たことがある狩人は、イブの言葉を聞いて何となく同意してしまったようだ。
どうやらこの時点においては、狩人の心の中から、幽霊(?)に対する恐怖心は消え去っていたようである。
そのせいか、今度は狩人が、逆にイブに対して問いかけた。
「ところで・・・イブはこんなところを、どうして一人で歩いてるんだ?」
「んー・・・本当は一人じゃなくて、テレサ様と一緒に来たかもなんだけど、途中で光る虫に見入ってたら、はぐれちゃった・・・的な?」
「・・・そうか」
どうして、という問いかけに対して、的確な回答を得られなかったが、イブの言葉を聞いて大体の事を把握し、頭を抱える狩人。
なお、彼女が頭痛を感じたのは、イブが迷子になったことが典型的すぎる理由だったからというわけでも、彼女が偏頭痛持ちだったからというわけでもない。
「・・・2人で来たのか?」
「うん・・・」
「じゃぁ・・・テレサも今頃1人ってことか・・・」
「多分・・・」
・・・つまり狩人は、ミッドエデンの国家元首とも言うべき国家議会議長が、危険な魔物と得体のしれない幽霊(?)の潜む森の中で、一人、迷子になっているかもしれない、と考えたのである。
テレサの仲間であって、友人で・・・そして彼女のことを守るべき立場にあった狩人にとっては、頭痛を感じない方がおかしい状況だったのだ。
「・・・どこで逸れたか分かるか?」
「んー・・・ここ?」
「・・・そうか」
一人だけで森の中にいたというのに、特に取り乱した様子を見せていなかったイブの様子を思い出して、逸れてからまだ間もないと判断した狩人は、闇の中でも見える鋭い視線を森の中へと向けて、常人ならざる感度を持った耳と獣耳を欹て・・・そしてテレサのことを森の中から探そうとした。
その結果・・・
「・・・いた。こっちだ」
狩人は難なく、テレサの居場所を突き止めたようだ。
「本当?」
「あぁ。テレサが気配を隠蔽するような魔法を使ってたら、もしかしたら分からなかったかもしれないが、あいつ変身できても気配までは誤魔化せないからな」
「ふーん・・・。今度、機会があったら、イブにもその方法を教えてほしいかもだね」
「・・・気配を消す方法か?」
「んー・・・全部?」
「気配を消す方法なら教えてやれなくもないけど・・・他は・・・ちょっと難しいかもな」
そう言うと狩人は、自身に対して視線だけで『意地悪・・・』と言っていそうなイブの小さな手を取って・・・木々の隙間から大きな月が見え隠れしていても、その大半が暗闇によって支配されていた森の中を、ゆっくりと歩いて行くのであった・・・。
・・・そして、彼女たちが辿り着いた先は、森の切れ目である。
切れていた森の先は、丘の下り坂で、そこからは王都の町並みだけではなく、畑や大樹、それに新しいモノリス(?)が一望できる場所であった。
そんな場所でテレサが・・・
「・・・うらやましいのじゃ・・・」
と、独り言を口にしながら、所々で閃光を放っていたモノリスへとその眼を向けていたのだ。
そのモノリスは、3日前にワルツたちが採掘してきたもの・・・ではない。
流石に3日前のサイズのままだと大きすぎて、王都の近くに置くには適さなかったために、ワルツたちは巨大なモノリスを採掘現場へと戻した後、適度なサイズにカットして、その一部を以前モノリスがあった場所へと置いたのである。
そこでは、夜も作業が続いていた。
それも、ワルツたちによる精錬加工の作業だけなく、王都の人々をも巻き込んだ、随分と賑やかな様子で・・・。
そんな王都の人々の手には、コルテックスが開発した魔導バーナーが握られており・・・前述の通り、直視するのも大変な光を放ちながら、素材の切り出しを行っていたようである。
・・・なお、コルテックスは遮光板も開発していたようで、作業をしている者たちの顔には、木製の板に黒っぽいサングラスのようなものが嵌めこまれた面が付けられていたようだ。
彼らが切り出したその素材は、言うまでもなく王城の建設に使われるものであった。
そしてその昼夜関係ない王城の建設作業を指示したのは・・・紛れも無く、ここにいるテレサである。
国の中枢ともいうべき王城が無くなってしまった今、王城の建設作業を急ぐのは、ワルツたちだけなく、議会側としても最優先課題だったのだ。
・・・とはいえ、それは、政府の機能が停止しているためではない。
今はコルテックスが、整備した無線通信ネットワークを用いて、地方に拠点のある貴族や代議士たちに仕事を分散せることで執政を続けていたので、政府の機能が停止しているわけではなかったのだ。
だが、いつまでもその状態を続けるわけにはいかなかったのである。
・・・異様にハイスペックな議長の影武者を放置しておけば、このミッドエデンはどうなってしまうのか・・・。
議会側にも、ワルツ側にも、最早予想が立てられなかったようだ。
それを慮って(?)、テレサは指示を飛ばしたわけだが・・・指示を飛ばすだけで、自分は参加できないことに、彼女はもどかしさを感じていたようだ。
その結果、仕方なく、作業をしている皆の姿を、文字通り草の根の影から覗き込んでいたのである。
「・・・・・・ぐへっ」ニヤリ
・・・ただし、果たして、本当に、皆を見守っているだけなのかは不明だが・・・。
空を見上げて・・・つまり、作業をしているワルツを見上げて、急に怪しげな笑みを浮かべたテレサに対し・・・
「・・・気持ち悪いかもだし・・・」
ジト目を向けながら、今の気持ちをストレートにぶつけるメイド姿のイブ。
するとテレサは、無礼なメイドに対し流し目を向けると、再び、目の保養とばかりに空へと視線を向けて、話し始めた。
「・・・迷子になったイブっころが何を言っておる?妾の高尚な趣味にケチをつけるでない!」
「・・・もう、テレサ様・・・駄目かもだね・・・」
救いようのないテレサに対して、呆れた視線を向けながら、呟くイブ。
ただ、その後で彼女も、テレサと同じように空に眼を向けて・・・そして、あこがれの色を含んだ表情を浮かべたのは、一体何故だったのだろうか・・・。
その後、しばらくして・・・。
空へと傾けていた首が痛くなったのか、イブが視線を下ろすと・・・妙なものが彼女の眼に入ってきたようである。
・・・テレサを見つけたというのに、一向に近づいてくる気配のない狩人の姿だ。
「・・・何やってんの?狩人さん」
そんな彼女の姿を見て、痛くなった首を傾けながら問いかけるイブ。
すると狩人は・・・何を見たのか、こんなことを口にし始めた。
「い、イブ・・・。それにテレサ・・・。お前たちには、見えないのか・・・?」
「んぬ?もちろん見えておるのじゃ?ワルツの勇姿がのう?(隣りにいるルシア嬢は邪魔じゃがの・・・)」
「狩人さんが何を言ってるのか分かんないかもだけど、イブの眼もちゃんと見えてるよ?」
「・・・・・・」
しかし、そんな2人の言葉を受けても、狩人の引き攣った表情は変わることなく・・・。
それどころか、彼女は、誰もが聞きたくないだろうこんな一言を口にしたのである。
「・・・お前たちの後ろにお化けが・・・」
そして・・・遂には、腰についていた2本のダガーを引き抜く狩人。
・・・どうやらイブとテレサの後ろには、狩人の冗談ではなく、本当に幽霊・・・のようなものの姿が迫っていたようだ・・・。
読者のことを考えた文とは・・・一体どういったものじゃろうか・・・。
というのも、最近、もっと読みやすい文を、どうすれば書けるのか勉強しておるところなのじゃが・・・その際に『読者のことを云々』という記述を見つけて、自分なりに考えておったのじゃ。
例えば、伏線はちゃんと考えておくべき・・・。
例えば、丁寧な説明を心がける・・・。
・・・そりゃ・・・まぁ・・・当然のことなのじゃ?
それとも、妾がその本当の意味を分かっておらぬだけか・・・。
マトモに文を読めぬ者が、マトモに文を書けるわけがない、という基本的な原理は分かっておるつもりなのじゃが・・・うーむ。
読みにくい文を見ると、3行でページを閉じる妾のこの性格を、まずはどうにかせねばならぬかのう・・・。
そんなこんなで、執筆のくおりてぃーが向上するように努力を続けておる、今日このごろなのじゃ!
・・・え?まずは『・・・』を止めろ?
・・・無理なのじゃ。
まぁ、それは置いておいて・・・。
今日も補足は無いと思う故、質問のコーナーに突入・・・しようと思ったのじゃが、例の作業がある故、今日は両方共お休みさせてもらうのじゃ?
・・・休んでおる内に入らぬかもしれんがの・・・。
・・・やっぱり、描くのはベクターが良いかのう・・・。
試しにルシア嬢をラスターで描いておったら、書いた後で足の長さや頭の大きさなどを調整できないことに気づいたのじゃ・・・。
ラフ画のルシア嬢、妙に頭が大k・・・いや、なんでもないのじゃ。




