1.2-24 町での出来事15
パァンッ!!
それは破裂音。内部から圧力が掛かった物体が、耐えきれずに弾けた音である。そう。ルシアが持っていた、小さな魔法の杖が弾けた音だ。
その音を聞いて、3人ともが驚いた。店主は、ルシアが持っていた杖がどうして破裂したのか分からず。ルシアは自身の手に持っていた杖が弾けるとは思っていなかったために。そしてワルツは――弁償代を払わなければならないかもしれないことを思って……。
「お、お姉ぢゃん……」ぷるぷる
「だ、大丈夫?ルシア……?(これもしかして、2本分買わなきゃダメかしら?)」
妹の手の中で弾けた結果、茶道に使う茶筅のような見た目になっていた杖へと目を向けるワルツ。
そんな杖は、先端部分だけが弾けていて、ルシアが手に持っていた部分までは弾けておらず。幸いなことに彼女がケガをするようなことはなかったようである。尤も、目には見えない心の部分に、小さくない傷を負ってしまっている可能性は否定できないが。
「私は大丈夫だけど……づえが……」ぶわっ
「そうね……。まぁ、杖はもう1つ買えばいいんだけど……でも、これって、どうなんです?店主さん。この杖、確かにルシアが吹き飛ばしましたけど、魔力を通してみろ、って言ったの、店主さんですよね?私たちが杖代を弁償しなきゃダメですか?」
ワルツはそう口にすると、妹の手から弾けた杖を指でつまみ上げ、そして再び木箱の中へと仕舞い込み、箱ごと店主の前へと差し戻した。それも、まるで、不良品を返品するかのように……。
対して店主は、難しそうな表情を浮かべながらその箱を受け取ると。それをカウンターの下へと仕舞った後で、今度は、先程の倍以上長い箱を、2人の前に差し出しながらこう言った。
「いや……元はと言えば、嬢ちゃんの魔力の大きさを見誤った俺に落ち度がある。壊れた分の杖代については、請求しねぇ。今度はこっちの杖を試してくれねぇか?」
「……それなら良いかしらね?えっと……ルシア?さっきは怖かったかもしれないけど……こっちの杖も試してもらえる?」
「……また爆発しない?」うるうる
「多分、大丈夫よ?店主さんのオススメなんだし……」
「……分かった」
姉の言葉を信じたのか、店主が開けた箱の中から、長さ60cm程度の杖を手に取るルシア。
その杖の先端には、青い水晶のような装飾品がつけられていて、先程の割り箸(?)のような杖とは異なり、明らかに金額が高そうで、そして性能も高そうな見た目だった。
それを見たワルツは、お財布事情を気にしたようだが、まだ買える、と思ったのか、そのままの成り行きを見守ることにしたようである。
「じゃぁ、嬢ちゃん。魔力を――」
バァンッ!!
「「「?!」」」
そして、無情にも繰り返す杖の破裂。
いよいよルシアの顔は青くなって、ワルツの表情も険しくなって……。姉妹は、杖の購入を諦めようか、と本気で考え始めたようだ。
……しかしである。その場に1人だけ、諦めていない人物がいた。
「……ほう!」にやり
武具屋の店主、その人である。彼は吹き飛んだ2本目の杖を見て、どういうわけか嬉しそうに笑みを浮かべ始めたのだ。
すると、その理由が分からなかったワルツは、怪訝そうな表情を浮かべたまま、彼に事情を問いかけた。
「ちょっと、店主さん?笑ってる場合じゃないですよ?」
「これはすまねぇ。でも、まさか、騎士団長クラスが使う杖まで吹き飛ばすたぁ、思ってなかったもんでな?」
「「えっ……」」
店主の発言がにわかには信じられなかったのか、唖然として固まるワルツとルシア。
すると、店主は2人に背を向けると、そこにあった箱の山のかなり下の方にあった巨大な箱を取り出し、それをカウンターの上へと置いて、こう口にした。
「さっきの杖代も払わなくていい。金額は……一番小さい杖と一緒にしておこう。だから、どうだ?これを試してくれねぇか?」
「えっ……ま、またやるの?それに、これ……私の身長くらいあるよ?」ぐすっ
「……勇者パーティーの魔法使いの嬢ちゃんが買っていったものと同じ杖だ」
「うん、試してみる!」きりっ
直前まで泣きそうな表情を浮かべていたというのに、店主が”勇者パーティー”という言葉を口にした途端、俄然やる気になった様子のルシア。どうやら彼女は、勇者パーティーのメンバーに対し、対抗心を燃やしていたようだ。
「じゃぁ、行くよ?」
パァンッ!!
「爆発しちゃったねー」しれっ
「「…………」」
もはや、わざと爆破しているとしか思えないルシアの杖の相性チェックを前に、言葉を失う店主とワルツ。その際のルシアが浮かべていた表情については、あえて言うまでもないだろう。
対して、武具屋の店主の表情も、それを見た途端、まるで太陽に輝くひまわりのような様子へと変わった。その結果、彼は、再び後ろを振り向いて、今度こそ箱の山の一番下にあった最も大きなものを取り出すと――
ドスンッ……
――と重そうに、カウンターの上へと置いた。それは箱の重さなのか、はたまた中身の重さなのか……。それから店主は、箱の上に積もっていたホコリを、濡れた布で拭いて取り除き、その蓋に手を掛けると、それをゆっくりと開き始めた。
そこに入っていたのは、一言で言うなら、木の幹のような見た目の杖だった。これまでの杖のように飾り気は無く、手で持つ場所に、ただ布が巻いてあるだけの武骨な杖だったようである。あるいはこう表現した方がいいかもしれない。――どこかの仙人のような老人が好んで使う、巨大な杖だった、と。
「……ウチにある杖の中で一番大きなやつだ。この国が誇る最強の魔法使い……魔術師様が使ってる杖のスペアだ」
「えっと……これ……持って歩けるかなぁ?」
「まぁ、私が運べばどうにかなるんじゃない?作業するときだけ取り出して、なんでもないときは、普通の杖代わりに使えばいいと思うけど?」
「そっかぁー。そうだね」
「……この杖まで吹き飛ばしたら、おそらくこの国に、嬢ちゃんが使える杖は、存在しないだろう……」
「ふーん……。でも、そんな大事そうな杖に、魔力を流しちゃってもいいの?もしかしたら、吹き飛んじゃうかもしれないけど……店主さん、その場合、大赤字だよ?」
「その点は心配しなくていい。大丈夫だ。何しろ……おめえさんたちが、杖を買っても買わなくても、もうすでに大赤字だからな!」きらっ
「「…………」」
そんな痛々しい店主の笑みを見て、なんとも言い難い複雑そうな表情を浮かべる姉妹2人。
その後、ルシアは、最後の杖にも魔力を通して、無事に破裂しないことを確認して……。ワルツはその、妹の身長どころか、自身の身長より大きな杖を、購入することにしたようである。――もちろん、一番小さな杖と同じ金額で。
◇
こうしてワルツたちは、長い長い買い物を終え、宿屋への帰路についた。
その際、ワルツの前を歩いていたルシアは、千切れんばかりに尻尾をブンブンと左右に振っていたようだが、それを後ろから眺めていた姉の方は、妹と違い、優れない表情を浮かべていたようだ。
「(お金が……ない。店主さん、一番小さな杖の金額と同じで良いって言ってたのに、なんであんな割り箸の片割れみたいなやつが、30万ゴールドもするのよ……。その辺でちょっと木を削ってきて、漆塗っただけじゃないの?それとも何?ぼったくられた?……はぁ。これから2日間……どうしようかしら……)」げっそり
杖の金額を思い出して、頭を抱えるワルツ。とはいえ、お金を得る事自体は、それほど労力が掛かるわけではなかったので、また貯めればいい、と彼女は思うことにしたようである。それになにより、次なる金策については、すでに手を打ってあるのだから……。
「さてと……。それじゃ、帰りましょっか?」
「うん!」
軽くなった財布のことは脳裏の端の方に追いやると。ルシアに追いついて、彼女の手を引っ張って、そして妹の横に並んで、道を歩いて行くワルツ。そんな彼女たちの夕食は、狩人がおすすめしていた宿屋の夕飯だ。
◇
それと同時刻。
「…………ひもじぃ」ぐぅ……
ワルツたちが居た場所から少し離れた町の中。そこにあった美味しそうな匂いを放つ屋台に向かって、そんなことを呟く人物の姿があった。その人物は、これから先、ワルツたちにとって、掛け替えのない存在になるのだが……。ワルツたちがその人物と接点を持つのは、あと少しだけ先の話である。
「…………そこに生えてる雑草って……食べれるでしょうか……?」ごくり
…………。




