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7.5-10 王城代替施設10

それからさらに2日後・・・。

・・・狩人の朝は、やはり忙しかった・・・。


「ふぅ・・・ようやく8割ってところか・・・」


日が昇る前から行動を初めて・・・そして、今では斜め20度くらいの高さで輝いていた2つの太陽に眼を向けて・・・。

狩人は眩しそうにその眼を細めながら、額からしたり落ちてくる汗を、首に巻いていたハンカチ・・・ではなく、手ぬぐいで拭った。


そんな彼女の背中には、まるで登山をするかのような、しっかりとしたリュックが背負われており、実際、複雑な形状をした登山用のピッケルのようなものも括りつけられていたようだ。

他にも、ロープや鉄杭、それに船の(いかり)のような形状をしたアンカーのようなものが、リュックの所々に吊り下げられており・・・その様子を見る限りでは、どうやら彼女は、日課にしている朝の狩りをしている、というわけではないようである。


「・・・他の連中、無事に付いてきてるだろうか・・・」


自身よりも遥かに()にいるだろう、お供の兵士たちの事を(おもんぱか)りながら・・・次に手足を掛ける場所の目星をつける狩人。

そして彼女は、安定した足場を見つけると、そこへと移動して・・・そして適当な場所に、鉄杭を深々と打ち込んだ。


そんな狩人は・・・紛れも無く、ロッククライミング(?)を楽しんでいたようである。

ただし、そこは岩ではなく・・・世界樹(?)の幹だったようだが・・・。


ビュォォォォ!!


「今日もいい風が吹いてるな・・・」


彼女は、ミッドエデン地方における冬特有の乾燥した空気を肌で感じながら、そんなことをつぶやきつつ、自身のことを下から追いかけてきているだろう部下たちの事を待つ間、杭以外に自分の命を守ってくれない(みき)の真っ只中で、おもむろにバックから食料を取り出して、口に放り込み始めた。

高所の登山においてのエネルギー補給は、安全確保に次ぐ、優先事項なのである。


「気のせいだろうか・・・。兵士たちの姿が見えないんだが・・・」


まるでどこかのカロリー補給食品のようなスティック状の食べ物を口に運びつつ、同時に少し甘めの果実水のような飲み物を口にしながら、地面の方を覗き込みつつ呟く狩人。

樹自体は()()まっすぐに伸びているので、もしも彼女の事を兵士たちが追いかけてきているなら、一目で分かるはずなのだが・・・見えなかったために、彼女は少々心細くなってしまったらしい。


「・・・まぁいいか」


ワルツやテレサに習い、細かいことは気にしないことにして・・・狩人はとりあえず、腹ごしらえを優先することにしたようだ。




それから、休憩によって、彼女の身体が冷めてしまわないギリギリの時間が経過したころ・・・。


「これ以上待っていると、私の身体がダメになってしまいそうだから・・・すまないが、先に行かせてもらおう」


狩人は・・・ここまで来る際に、()()()繰り返して呟いていたその言葉を、再び口にすると・・・幹に刺していた鉄杭とロープを回収して、その場から上に向かうためのルートの選択を始めたようだ。


そう・・・。

彼女の体力と、兵士たちの体力が圧倒的に違いすぎて、部下たちは狩人について来れなかったのである。

・・・いや、正確には、兵士たちのほうが体力はあった、と言えるだろう。

それでも彼らと比べて、狩人のスピードと持久力が圧倒的に高かったのは・・・ワルツ直伝による運動法のおかげだったようだ。

呼吸方法や身体の動かし方だけでなく、カロリーの摂取のタイミングや休憩の取り方、その他、背中に背負うバッグの重量バランスなど、現代世界の知識(データベース)を利用するだけで、狩人の総合的な運動の効率は、従来とは比較にならないほどに大きく改善していたのである。


ちなみに、これらの知識も、ワルツがカタリナに対して教えている医療の知識と同じく、門外不出の情報だったために・・・狩人は、部下たちを指導することが出来ず、もどかしい思いをしていたようだ。

皆の先頭に立つポジションにあって・・・しかし、知識を深めて運動の技術を身につけるほど、周囲の者たちから孤立していく狩人・・・。

まさに、孤高なネコ・・・の獣人である、と言えるだろう。


「・・・寂しいな・・・」


彼女は、一瞬だけ、そんな本心を口にしてから、再び上に向かって進み始めた。

他の兵士たちと合流するのは・・・どうやら、下るタイミングでの出来事になりそうである・・・。




「・・・ふぅ・・・。ようやく、着いた・・・」


空を覆い隠すように茂っていた緑色の葉が生い茂る領域を超えて・・・。

狩人は、久しぶりに見る青空に向かって、満足気に大きく息を吐いた。


「空気が・・・さすがに冷たいな。・・・さてと」


麓の町の暖かな空気と違い、身を刺す・・・とまではいかないが、それなりに冷え込んでいた空気を肺いっぱいに吸い込んだ狩人は・・・早速、仕事にとりかかることにしたようである。


そんな彼女は・・・単に世界樹クライミング(?)を楽しむためにここに来たわけではなかった。

国の中枢である王城が無くなっていたために、国家議会が開けず、テレサたちと同じく暇を持て余していたのは狩人も同じだったが・・・ミッドエデンの国家騎士団団長、もとい国防省長官を任されていた彼女にとっては、『休み』の2文字を素直に受け入れることができなかったようで・・・彼女は、世界樹(?)自体の調査と、市民たちが目撃したという謎の魔物の確認、そして、無線中継機器の設置という仕事をこなすために、遥々ここまで足を運んできたのである。

・・・まぁ、長官自ら危険を(おか)すというのもおかしな話なのだが、彼女の『狩人』という性分を考えるなら、今更なことなのかもしれない・・・。


「・・・帰るときは、颯爽とパラシュートで帰りたかったんだが・・・他の連中のことも回収しなきゃならないから、今日は空の散歩はお預けだな・・・」


狩人は、見た目よりも拡張されていた魔法のリュックの中から、30cm角の無線中継機器を取り出した際、リュックの底の方にあった、背負っているリュックよりもさらに大きなリュックを眺めながら・・・空から王城で作業しているだろう部下の兵士たちのど真ん中に舞い降りる自分の姿を想像して、ため息混じりにそんな言葉を呟いた。


それから彼女が、設置した無線中継機器のスイッチを入れて、そしてちゃんと動作しているかを確認した・・・そんな時である。


グォォォォ・・・!!


どこからともなく、そんな泣き声が聞こえてきて・・・その直後、狩人の頭の上を、黒い影が高い風切り音を纏いながら通過していったのだ。


「・・・飛竜か?」


自身の頭の上を飛んでいった、大きな翼と長い尻尾が印象的なその爬虫類らしき生物に眼を向けながら、首を傾げる狩人。

しかし、それは明らかに飛竜よりも小柄で・・・しかも、


グォォォォ・・・!!

グォォォォ・・・!!


といったように、1匹だけでなく、何匹かいるところを見ると・・・飛竜では無いことは明らかだった。


「ワイバーンか・・・」


その灰色で、ゴツゴツとしたウロコの生えていない、鮫肌のように滑らかなシルエットを見て、そんな結論を口にする狩人。

どうやら、数匹のワイバーンたちが、世界樹(?)の上に住み着いてしまったようだ。


「どうしようか・・・。放っておいても、特に害は無いように思うんだが・・・」


市民たちが見かけた怪しげな魔物の影が、おそらくはワイバーンたちだということが分かって・・・狩人は、国防を任された者として、どう対処すべきかを考えた。


この世界において、ワイバーンとは・・・現代世界で言う、猛禽類とスズメを足して2で割ったような存在であった。

彼らは、確かに身体の大きさから言えば、飛竜と並んで空の王者なのかも知れないが・・・臆病で、少食で、しかも群れていないとストレスで死んでしまう実は()()な魔物だったのである。


そのためか、余程のことがない限り、魔法や武器を使って反撃してくる人を襲うことは無かった。

無駄に対空設備が充実している王都において、蜂の巣になって落下してきたワイバーンについての報告が無いことからも、それは明らかだったのである。

もしも、飛行性の魔物たちが、皆攻撃的だったなら・・・おそらく今頃、王都は屍の山と化していることだろう・・・。


とはいえ、人が恐怖を感じる対象というのは、いつの時代も、そしてどこの世界でも、自分たちの理解の範疇に無い、未知なるものに対して向けられるものなので、例え彼らが無害だったとしても、そこに存在するというだけで、容赦なく討伐対象になってしまうのだが・・・。


ただ、狩人の場合は、日頃の狩りのおかげか、ワイバーンの習性は良く分かっていたので・・・


「・・・うん。見なかったことにするか・・・」


優しげな視線を、自分がいた場所よりも更に高い空で旋回しているワイバーンに対して向けてから・・・結局、彼女は何事も無かったかのように、元来た道を戻ることにしたのであった・・・。

・・・え?オチが無い?

いやの?

ちょっとした、いのべーしょんを模索するために、狩人殿単独の話を書いてみることにしたのじゃ。

狩人殿の良くも悪くも真面目な性格を使う場合、どんな話を書けば面白くなるのか・・・。

それを考えてみようと思っての?


というか、シラヌイ殿も同じなのじゃが、普段は単独で行動することが多いキャラクターを、他のキャラの濃いメンバーと共に行動させると、変態的・・・ではのうて、尖った行動をさせなくては、どうしても埋もれてしまう傾向にあることが、最近の研究によって明らかになったのじゃ。

まぁ、よく考えてみれば分かることなのじゃが・・・7章を書いて、それが実際によく分かったのじゃ。

じゃから、真面目な彼女たちが、まとも(?)に輝けるような話を書くために・・・少し、書き方を工夫してみようと思ったのじゃ?

そんなわけで、ここから数話は『いのべーしょん』を試してみるのじゃ?

・・・ただし、妾が眠くなければ、の。


さて。

それでは補足に入ろうかのう?

今日は1点。

・・・ワイバーンについて。


話によると・・・地方の小さな集落などでは、住人が朝起きて家から外に出ると、ワイバーンが屋根に数匹とまっている・・・そんなことがあるらしいのじゃ?

全長5〜10mほどの巨体をもつ彼らが、まるでスズメか何かのように、家の屋根に並んでとまっておる・・・。

きっと、ワイバーンに慣れておる田舎の者たちでも、思わず腰を抜かしてしまうのじゃろうのう・・・。

まさに、ゴゴゴゴ・・・、なのじゃ?


ちなみに彼らは、一般的な鳥類と同じように、身体の骨がスッカスカじゃから、見た目よりもずっと軽いのじゃ。

その代わり、筋肉で身体を支えておる・・・そんな感じなのじゃ。

その辺は、大きな鳥類と同じと言えるじゃろうのう。

そう言えば・・・飛竜も大体そんな感じなのじゃ、という話を、以前したかも知れぬのう?


他の補足は・・・多分無いと思うのじゃ?

ロッククライミングについて、もっと詳しく語るというのは・・・運動不足な狐まっしぐらな妾にとっては、少々難しい話なのじゃ・・・。

まぁ、『運動』についてはある程度語れるかも知れぬが・・・分かりにくい専門的な話になってくる故、割愛させてもらうのじゃ?


そんなわけで・・・勇者の質問に答えるコーナー・・・に入りたかったのじゃが、やはり平日にそれをやるのは、妾の体力がもたぬから、週末に回させてもらうのじゃ。

そう言えば、今日は、例の液晶ペンタブレットが発送されたというメールが届いておったから・・・今週末は忙しくなりそうじゃのう?

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