7.5-08 王城代替施設8
「・・・んはっ!?」
次にイブが机から身体を起こすと・・・何故か夕方だった。
「ま、まさか、転移魔法?!」
「そんなわけ無かろう・・・」
とツッコミを口にしたのは、恐らくユリアから貰っただろうボレアス産の煎餅(?)を口にしながら、その場にいた者たちと談笑していたテレサであった。
「じゃぁ、一体何が・・・」
「いや、単に寝ておっただけなのじゃ?」
「そ、そんなはずは・・・」
そう言いながら、背筋を伸ばし、肩と首を回すイブ。
その結果、分かったことは・・・
「・・・うん。すっきりしてるかも!」
身体から疲れが取れて、眠気がサッパリ無くなっていることだったようだ。
「まったく・・・。お主は何を考えておるのじゃ?コレで妾たちのワルツを追いかけるという計画が台無しになってしまったのじゃ」
「えっ・・・う、うん・・・ごめんなさい・・・」
寝起きだったために反応できなかったのか、冗談交じりのテレサの叱責(?)に対して、俯いてしまうイブ。
そんな彼女に助け舟を出したのは、テレサ・・・ではなく、彼女の隣りに座っていて、まるでトンボか何かを捕まえようとするように、新入り情報部員の眼の前で、指をグルグルと回していたユリアであった。
「イブちゃん?気にすることはないですよ?寝てたイブちゃんのことを『起こさなくてもいい』って言って、寝かせたままにしてたの、テレサ様なんですから」
「むっ?・・・お主。ネタバレは、もう少しイブ嬢の困った表情を見てからにすべきなのじゃ!」
「テレサ様・・・性格悪いかも・・・」
「ぐ・・・。そ、そんなことは無いのじゃ?眠っておった主のことを起こさなかったのは妾なのじゃぞ?さっき、ユリアが言った通り、の?」
「ふーん・・・」
「ぐ・・・ぐぬっ・・・。その表情は、全く信じておらぬ表情なのじゃ・・・」
そう言いながら、自業自得なのにも関わらず、渋い表情を浮かべるテレサ。
とは言え、始めから、彼女にイブをイジメるつもりは無かったらしく、寝ぼけていたメイドがすっかり眼を覚ましたことを感じ取って、鼻から小さくため息を吐きながら、頬を緩ませた。
「さてと・・・長い時間、世話になったのじゃ。そろそろ行こうかのう?」
それからテレサが、単に眼を覚ますのを通り越して不機嫌になっていたメイドのことを放置し、食卓の椅子から立ち上がったところで・・・。
それに反応して真っ先に問いかけたのは・・・何故か後輩の両肩を、まるで支えるように後ろから押さえていたシルビアであった。
「えっと・・・ルシアちゃんのところまで送りますか?」
「いや、よく考えてみたら、シルビア殿に、妾とイブ嬢を連れて空を飛んでもらうのは、自殺行為だということに気づいたのじゃ。主がどうやって呼吸しておるのかは分からぬが、生身の人間が超音速飛行なんぞしたら、呼吸が出来ないどころか、空気の摩擦熱や断熱圧縮でやけどして死んでしまうのじゃ!」
「・・・もう少しで私、死んじゃうところかもだったんだね・・・」
「そうじゃぞ?なんじゃったら、シルビアに連れて行ってもらって、実際に体験してくるが良い!妾はその結果を教訓に、超音速航空機の設計を進めるのじゃ!・・・主の究極の犠牲は、決してムダにしないのじゃ!」
「それ、単なる人体実験かもだし・・・」
そう言ってテレサに、ジト目を向けるイブ。
一方、テレサの方はシルビアに対して何か言いたいことがあったようで、彼女に向かって言葉を続けた。
「というわけで、送ってもらわなくとも構わぬのじゃ?それにのう、ワル・・・2人とも、王都に戻って来たみたいじゃからのう?」
そう言って、テレサが視線を向けた窓の外にあったのは・・・
ドゴォォォォ!!
と、明らかに夕日とは思えないほどの熱量が、空から降り注いでいる光景であった・・・。
彼女たちがいた角度からは見えなかったが、恐らく、王都の上空で、ルシアが超強力な火魔法を行使しているに違いない・・・。
そんな、窓から見える、文字通り真っ赤な町並みの様子を見て・・・
「・・・ねぇ、テレサ様?」
おもむろにイブが呟く。
「私がみんなの役に立てることって・・・どんなことがあるのかな?」
「何じゃ、お主。そんな下らぬことで悩んでおるのか?」
「く、下らないって・・・。コレでも、かよわいレディーのハートが引き裂かれそうなくらいに悩んでるかもなんだからね?イブから見れば、みんな強く見えるかもなんだから!」
「はぁ・・・。まったくコレじゃから、イブっころは・・・」
そう言ってテレサは、机の上においてあった皿から、最後の煎餅を手に取ると・・・
「イブっころじゃないし!イブもがっ?!」
・・・抗議の声を上げているイブの口に、容赦なく詰め込んだ。
それから、呆れたように話し始める。
「・・・お主がここに来てから、一体、何日が経ったのじゃ?まだ、1週間や2週間そこそこじゃろう?そんな短い時間で、ホイそれとワルツやルシア嬢たちと肩を並べられるというのなら・・・今頃、世界中、化け物で満ち溢れておるのじゃ。努力もせず手に入れた力に、一体、何の意味があろうて?」
そう言ってから、大きく溜息を吐いて・・・。
そしてスタスタと家の玄関へと歩いていくテレサ。
「・・・ほれ。何を惚けておるのじゃ?妾たちのワルツ調査は、未だ終わっておらぬのじゃぞ?さっさと行くのじゃ!」
「・・・・・・うん・・・」バリボリ
テレサの言葉の意味が分かっていて・・・しかし、素直に受け入れられなくて・・・。
イブは悩ましげな表情を浮かべながら、少し湿気た煎餅をかじりつつ、テレサのことを追いかけようとした。
その際、この家の住人に対して一言、言い終えたユリアが、イブの頭に手を乗せて、こう口にする。
「あまり深く考え込まなくてもいいですよ?イブちゃんはイブちゃんのできることをすればいいんです」
「イブにできることかぁ・・・。何があるのかなー・・・」
ユリアの言葉に、イブは何を考えたのか・・・メイド服のスカートを掴んで握り締めると、
「・・・うん。頑張ろ!」
彼女は前向きに歩くことにしたようで、玄関への道のりを、テレサの背中を追って歩き始めたのであった・・・。
・・・まぁ、そこでは良かった、と言えるだろう。
・・・そう。
こんなユリアの余計な一言が無ければ・・・。
「・・・実は、私も、自分に何が出来るのか分からなくて悩んでるんですよ」
『えっ・・・』
「私にできるのって、空を飛ぶことや、幻影魔法を使って皆を誑かすこと・・・。それを利用して、情報を無理矢理に集めるとか、時には拷問することくらいしか出来ないんです。これって、サキュバスという種族が持っている固有の能力であって、私自身の力で手に入れたものじゃないんですよね・・・。ホント、ワルツ様の下で働かせて頂いているのに、まるっきり進歩のない自分が恥ずかしいですよ・・・」
「いや、それだけできれば充分かもだし・・・」
「っていうか先輩、それだけじゃないですよね・・・。迷宮に飲み込まれそうになっても余裕で戦ってましたし、謎魔法で魔物の虐殺してましたし。その他にも、裏の世界で色々と手を回してたりしますよね・・・(嫌味ですか?)」
「え?そんなことないわよ。それを言うんだったら、後輩ちゃんだって、たまに天使化したり、悪魔化(?)したりして、とんでもない速度で空を飛んだり、石投げて迷宮の土手っ腹に大穴開けてたりしたじゃない・・・(よっぽど、私より凶悪だと思うけど?)」
「えっ・・・?」
「えっ・・・?」
「・・・もう、このパーティー、嫌かも・・・」
言い合いをしているのか、それとも単に話が噛み合っていないだけなのか・・・。
そんな2人の情報部員たちのやり取りを見ながら、頭を抱えるイブ。
それから彼女は、2人のことをその場に置いて、1人だけでテレサの後を追いかけようとするのだが・・・その際、最後まで黙っていた情報部の新入りのリサが、眼を開けたままで、口から涎を垂らしつつ、寝ている姿(?)を見て・・・。
イブは何となく、身の危険を感じたとか、感じていないとか・・・。
1点、補足しておくのじゃ?
途中、『ワルツ』という発言が2回出てくるのじゃが、これは間違いではないのじゃ?
イブが発言した『ワルツ』は、イブ嬢自身が間違えて発言したため。
そして、ユリアが発言したのは、リサが寝ておることを知っておったためなのじゃ。
・・・え?もう一点、補足すべき点がある?
イブ嬢がどうして寝ておったか?
・・・さぁの。
てなわけで、いつものあとがきとは少し異なる書き方をしてみたのじゃ。
いつもは、駄文の後に補足が来ておったのじゃが、今日は補足のあとに駄文が来るパターンなのじゃ?
いやの?
補足の内容を忘れてしまいそうだったからのう・・・。
ただのう・・・。
今日も・・・質問に答えるコーナーを書く余力は、残念ながら残っておらぬのじゃ・・・。
ユリアに、睡眠魔法(?)を掛けられて、zzzな狐になって・・・・・・zzz。




