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7.5-06 王城代替施設6

トントントン・・・


キッチンから鳴り響く、定期的な音。

言うまでもなく、包丁が素材を切断して、そしてまな板に当たる・・・その繰り返しの音である。


そしてその包丁を振っていたのは・・・


「シルビア先輩?サラダの準備は、こんな感じでいいですか?」


と、シルビアのことを先輩と呼ぶ、リサであった。


彼女は、一時的に精神が破綻して(?)、ユリアに助けてもらい・・・それから、再び、昼食作りへと戻ったのである。

その際の彼女の見た目に、妙なヤル気のようなものが見え隠れしていたのは・・・彼女が尊敬している(?)情報部の部長であるユリアが、昼食へと参加することになったためだろうか・・・。


「・・・のうユリアよ?やはり、食事を頂いて行かねばならぬのかのう?」


「・・・ワルツ様を追いかけるという当初の計画が大きく狂ってしまったことについては、深くお詫び致します・・・。しかし、現状、リサを放置して後輩ちゃんだけを連れ出すことが出来ないことも、ご理解いただけないでしょうか・・・?」


「えっ・・・わ、ワルツ・・・」プルプル


『・・・・・・』


「(この家、すっごく嫌かも・・・)」


包丁を持ちながら、再び震え始めたリサを前に、がっくりと肩を落とす他のメンバーたち。

彼女が暴れだしたところで、大した問題にはならないはずだが・・・しかし、暴れださなくても、彼女たちの心が休まることは無いようだ。


「・・・で、食事を頂いた後はどうしようかの?」


リサが落ち着いたのを横目に見ながら、食卓に座って食事が出てくるのを待っていたテレサが、自身の横で同じく椅子に腰を下ろしていたユリアに対して問いかけた。


するとユリアは、この家にテレサたちを連れて来てしまったことについて後悔しているような表情を見せながら、文字通り真摯(しんし)な態度で、新しいプランを口に・・・しようとして、逆にテレサに問いかける。


「ところで、テレサ様?どこにワルツ様がおられるのか、ご存知なのですか?先程までは、空中でルシアちゃんと精錬作業をしていたようですが・・・今ではどこにいるのか、皆目見当が付きませんよ?」


「お主・・・。良くそれで、エネルギアに乗って、ワルツを追いかけようと思ったのう・・・」


策があるように見えて・・・実は全くの無策だったユリアに対して、テレサは思わず呆れたように溜息を吐いてしまったようだ。


その後で彼女は、ニヤリ、と笑みを浮かべると、自身に対して訝しげな表情を向けてくるユリアとイブに対して、こう言った。


「妾には・・・高性能なルシア嬢センサーが付いておるのじゃ!」ピコピコ


そう言って、自身の銀色の髪と同じ色をした獣耳を動かすテレサ。


そんな彼女に・・・イブがツッコむ。


「それ、ワルツ様のこと探してないかもじゃん・・・」


「ふっふっふ・・・。これじゃから、(イブ)っころは・・・。ルシア嬢がおるところに、ワルツがおる。これ即ち、世界の真理なのじゃぞ?」


「い、いぶっころじゃなくて、イブだし・・・。それに、高性能ルシアちゃんセンサーとか言ってるかもしんないけど、魔法が()()()()獣人なら、誰でもルシアちゃんの居場所くらい分かるかもだし!」


そう言って、垂れ下がった黄色い獣耳を、持ち上げようとして・・・しかし、持ち上がらず、結局垂れ下がったままのその獣耳で、ルシアから放たれているだろう魔力の痕跡を探知しようとするイブ。


・・・その結果、


「・・・あれ?おっかしいなぁ・・・。最近、耳掃除してないから、分かんないかもだね!」


どうやらイブの獣耳は、単なる飾りだったようだ・・・。


「・・・イブ嬢・・・。聞こえないなら、素直に聞こえないというがよい・・・」


「じゃぁ、逆に聞くけど、テレサ様は聞こえてるの?」


「うむ。もちろんなのじゃ?」


そう言って、眼を閉じて・・・そして、四方八方へと獣耳を傾けるテレサ。


しかし、しばらく経っても、彼女がルシアの魔力の痕跡を探知することは叶わなかったようで・・・徐々に焦りの色が表情に浮かんできていたテレサに対して、それまで黙ってその様子を見ていたイブが抗議の声を上げた。


「やっぱ、テレサ様も出来てないかもじゃん!」


「ぐ、ぐぬぬ・・・!」


テレサは眼を瞑ったまま、歯を食いしばり、獣耳に神経を集中させていたようだが・・・やはり、出来ないものは出来なかったらしく、遂にはこんなことを口にしたのである。


「くっ!わ、妾の獣耳よ!『ルシア嬢の魔力を探知するのじゃ!』」


その瞬間・・・


ボンッ!


という間の抜けたような音が部屋の中に鳴り響いて、3本生えていたテレサの尻尾の内、1本が消えた。

彼女は無意識の内に、自身に対して、言霊魔法を行使してしまったらしい・・・。


そのおかげか・・・


「・・・来た!来たのじゃ!」ビシッ


と、言いながら、とある方向を指さすテレサ。

その方向には・・・


「・・・え?何ですか?」


偶然、サラダを配膳しに来ていたリサの姿があったようだ。


「え?ワルツたちがおる方向じゃが?」


「わ、ワルツ・・・」プルプル


『・・・・・・』


そして繰り返す、デッドロック・・・。

どうやら、テレサには、この家から生きて帰るつもりは無いようだ・・・。




それから昼食の準備が整って、5人で食卓を囲みながら、あーでもないこーでもない、と雑談をしながら食事をしていると、不意にイブがユリアに対して問いかけた。


「ユリア様?そういえば、ついこの前までは、リサちゃんがワル・・・神様の名前を普通にしゃべっていたような気がするかもなんだけど、どうしてこんなことになってるの?」


すると同然のごとく、


「・・・?私がどうしたんですか?」


リサが自分の名前に反応を示すのだが、そんな彼女に対して、


「ううん。なんでもないわ。ちょっと『寝ててね?』リサ」


ユリアはそう口にすると、熱々の野菜スープに口をつけようとしていた彼女のことを一時的にサスペンドモード(?)に移行させてから、イブに対して理由の説明を始めた。


「実は・・・スイーツコンテストの時に、リサはワルツ様の顔を模したスイーツを作成したんだけど、その際、精神状態の悪化が疑われるような行動と発言があって・・・今は、一時的に、ワルツ様のことを思い出せないように処置しているのよ。しばらく考えないようにすれば、破綻的な思考が落ち着くかもしれないって、カタリナ様が言ってたから・・・」


「なんか・・・すごく複雑かもなんだね・・・」


「むしろ、悪化しておるようにしか思えぬのじゃ・・・」


ユリアの説明を聞いて、眼を細める2人。


すると・・・そのやり取りを静かに聞いていたシルビアが・・・


「・・・あ!そうだ!」


と言いながら、両手を合わせて、おもむろに立ち上がって・・・そしてテレサに対して言った。


「テレサ様!新入りちゃんに魔法を掛けて治して下さい!」


「む?妾に此奴の処置をせよと?ワルツにもカタリナ殿の手にも負えなかったというのに、妾がどうにかできると思うてか?」


「モノは試しですよ!でも・・・確かに、テレサ様が魔法を使うと、体力が大きく削がれてしまうようなので・・・やっぱり、いいです・・・。先輩やみんなと一緒に、ゆっくり治していこうと思います・・・」


「・・・これが・・・無言のプレッシャーというやつなのじゃな・・・」


勢い良く頼みごとを口にしたはいいが、急にしょんぼりしたような表情を見せ、そして椅子に腰を下ろして俯いてしまったシルビアの姿を見て・・・言い知れないもどかしさを感じるテレサ。


一方、ユリアの方は、そんな態度を見せたシルビアに対して、何故か満足気な表情を浮かべていたようだ。

どうやら、シルビアの行動には、リサの問題が解決するかもしれない・・・ということ以上の何か特別な理由があったらしい。


とはいえ、テレサがそれに気づいた様子は無かったようで・・・彼女は大きくため息を吐いた後で、その場に立ち上がると、スイッチが切られたコミュニケーションロボットのように固まっていたリサの頭に手を向けて・・・そして再び口を開いた。


「仕方ないのう・・・。で、何をどうすればいいのじゃ?」


「ありがとうございます!んーと・・・いきなり全ての記憶が戻る・・・っていうは、ちょっとどうかと思うんですよ。放っといたらワルツ様の事をまた刺しちゃいそうで・・・」


と、言って、腕を組みながら頭を傾げるシルビア。


そんな折、考え込んでいる後輩に変わって、先輩のユリアの方が代わりに要望を口にする。


「では、こうしていただけませんか?ワルツ様の忠実な性奴隷にn」


「いやじゃ」


「じゃぁ、他にどうすればいいんですか!」


「それ以外にも色々あるじゃろう・・・」


テレサはそう言うと・・・結局、自分で判断して、言霊魔法をリサに行使した。


「・・・リサよ。『ワルツ(きょう)に入信するのじゃ!』」ボンッ


しかし・・・


「・・・あれ?尻尾は減ったのに、何も起きませんね?」


先程3本から2本へ、そして今し方2本から1本へと尻尾の本数を減らしていたテレサに対して、そう問いかけるシルビア。

彼女にとって、テレサの掛けた魔法の内容に、否やは無かったようだが・・・何かが変化したような様子が見られなかったためか、少々残念そうな表情を浮かべていたようだ。


「そりゃそうじゃろう?ユリアが魔法だか魔眼で眠らせておるのじゃからのう。そっちを解除せねば、結果がどうなったのかは分からんじゃろうて」


「あ、そうでした。リサ?『おはよう?』」


そう言って・・・電源が切れていたリサのスイッチを再び入れるユリア。

すると・・・


「・・・・・・」ズズズズ


と、何事もなかったかのように、リサはマグカップに入ったスープを口に流し込み始めた。


「・・・あれ?何か、冷めてるような・・・」


「気のせいなのじゃ。で、お主。なにか変わったことは無いかのう?」


「え?変わったことですか?スープが冷めて・・・」


「いや、それじゃのうて・・・こう・・・身体が軽くなったり、頭がすっきりしたり・・・」


「・・・テレサ様?それ、ダメなやつですよね?」


リサに問いかけた内容が、この世界でも禁止されている危険な薬物に関係しそうなものだったためか、思わず指摘の言葉を口にするユリア。

しかし、リサには、それを気にした様子はなく・・・


「・・・いえ、特に何もないようですが・・・スープに何か混ぜたのですか?」


相変わらず、そんなことを口にしていたようだ。


「あれ?おかしいのう・・・?あ、もしかして、こう言えば効果が分かるかのう?」


そう言ってテレサが口にしたのは・・・


「・・・ワルツ」


先程まで、この家の住人にとっては、破滅の呪文のような意味を持っていた言葉であった。


・・・その瞬間、


「・・・わ、ワルツ・・・」プルプル


再び、震え始めるリサ・・・。


その様子を見て、テレサは結論を口にした。


「・・・残念じゃが、この感じは、効果なし、じゃろうのう?」


「そうですね・・・。ありがとうございました、テレサ様」


「あとで、マナがたっぷり入ったボトルを届けさせますね」


「うむ。かたじけないのじゃ」


言霊魔法に効果がなかったことで、そんなやり取りをしてから、食事を再開するテレサたち。


ただ、その様子を見ていたイブだけは・・・


「(テレサ様・・・同音異義語のこと、知らないのかも・・・)」


どうしてリサに言霊魔法の効果が無かったのか、見当が付いていたようだ・・・。


・・・なお、イブのその予想があっているかどうかは、不明である。

あるいはもう一つ、別の可能性があるのだが・・・それに気づいている者は、イブも含めて、残念ながらそこにはいなかったようだ・・・。

・・・新しいペンタブレットが届くのはいつになることやら・・・。

今日は勇み足で、複合機を購入してきたのじゃ?

これで紙に書いたものがスキャンできるのじゃ!

・・・修正できねば、意味は無いがの・・・。


次回のイラストは、フォトショを使って書いてみようと思うのじゃ。

イラレでも書けなくはないのじゃが、ベクターだけでキャラクターの睫毛を書くのは、正直、しんどいのじゃ・・・。

凄まじいファイルサイズになるしのう・・・。


まぁ、それはさておいて。

今日の補足に入るのじゃ。


今日は1点。

一部、ユリアのしゃべり方が変わっておる部分について。

これは・・・わざわざ補足しなくてもいいかも知れぬが、話しかけられた相手がイブ嬢じゃったから、特に敬語を使うことも無く、普通に話したせいなのじゃ。

自分よりも年下で、新入りで・・・その上、メイドなイブ嬢に対して、敬語を使って話すほど、ユリアは丁寧な性格ではないのじゃ?

・・・そんな丁寧なしゃべり方のキャラクターがいてもいいかとは思うのじゃが・・・とりあえず当面は、『奴』を登場させることが第一目標故、もしもそんなキャラクターを出すとするなら、7章が終わった後の話になるじゃろうのう。


今日の補足はこんなところなのじゃ?


というわけで、昨日・・・だけでなく、今週ずっと言っておった課題の消化を始めようと思うのじゃ?


サウスフォートレスの興りについて・・・・・・前回(1週間前)はどこまで書いたかのう?

・・・あぁ、そうそう。

アレクサンダーが浮気して、村から追い出されて・・・代わりに新しい村を起こして、そして戦争に巻き込まれた・・・的なところまでだったはずなのじゃ。

で、今日は戦争に巻き込まれたところから話そうと思うのじゃ。




アレクサンダーが作った村・・・後にサウスフォートレスが作られる場所と、西側の大きな山脈を挟んで反対側にあるエンデルシアは、その当時、魔族の国だったのじゃ。

・・・()エンデルシア国王のアルコア=エンデルスが、()()()勇者だった頃の話なのじゃ?

それと、当時は、エンデルシアという国名ではなく、別の名前じゃったがのう?


その魔族の国は、本編で語った通り、後に現エンデルシア国王によって人間の領域になるのじゃが・・・それまでは、例えばユリアたちのようなサキュバスなどの翼を持った魔族たちを、山脈を超えて、たまにミッドエデン側の平野にも侵攻させて・・・そして略奪を行うような攻撃的な国だったのじゃ。


それはアレクサンダーの作った村も例外ではなかったようで、彼の村は、まさに戦争の最前線の村となってしまったようじゃのう。

・・・とは言っても、攻めてくる魔族の数は、絶対的に世界の人口が少なかったこともあって、多くても数百、というレベルだったようじゃがの・・・。


まぁ、数の話はさておいて。

村長をしておったアレクサンダーは、村人たちを守るために、村の武装化を決意するのじゃ。

最初は、村の周りに設置しておった、魔物避けようの木製の柵を補強して、幾重にも村を囲う、厳重な塀を作ったのじゃ。

周りが森で囲まれていたこともあって、木材だけは大量にあったからのう。


じゃが・・・塀を木で作ったのがいけなかったようじゃのう?

火魔法を使って、森ごと塀を燃やされて・・・そして、更には家々も燃やされてしまったのじゃ。


その結果、アレクサンダーの村の人口は、一度、1/10ほどに減らされてしまったようなのじゃ。

ただし、魔族たちの撃退自体には成功したようじゃがの?



・・・ちょっと事情があって、今日はここで切り上げさせてもらうのじゃ。

・・・エアコンから水漏れが・・・。


この話は、一応、明日で完結の予定なのじゃ。

・・・どうしようかのう・・・最後は全部つなげた方が良いのじゃろうか・・・。

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