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7.5-04 王城代替施設4

「俺なぁ・・・実は、転移魔法の事故で、この大陸に来たんだ(と思っているんだ)」


「はぁ・・・そりゃ困ったなァ?」


酔っ払っているのか、酔っ払っていないのか・・・。

聞いているのか、それとも聞いていないのか・・・。

男たち2人の会話は、酒場でたまに見かける、酔っぱらい特有の空気を纏いながら、ゆっくりと進んでいった。


「それでこの国に来て、勇者と一緒に、ワルツに対して喧嘩を売って・・・。それで気づいたら、エネルギアに抱きつかれてたんだよ」


「はァ?テメェの惚気話(のろけばなし)はいいんだよ!っていうか、エネルギアちゃんのこと俺によこせよ!・・・じゃなくて、テメェの故郷の話はどうした!?あァ?」


「・・・そんなに聞きたいか?」ニヤリ


「・・・いや、いいわ」ガタッ


「いや、まて!俺が悪かった!」


立ち上がって帰ろうとするブレーズを、必死になりながら呼び止める剣士。

彼の話し方は、完全に酔っ払いそのものだったが・・・その必死な呼び止めが功を奏したのか、ブレーズは再び椅子に腰を下ろした。


「下らねぇ話だったら、途中で帰っからな?」


と、ワルツ曰く、『人畜無害』なブレーズ。

アルコールに弱かったためか既に酔っぱらっている様子の剣士の話に、それでも付き合おうとする彼は、もしかすると本当に、心優しい中年男s・・・青年なのかもしれない・・・。


「下らない・・・か。確かに下らない話かもしれない。だけど俺には、懐かしくて・・・そして大切な場所の話だ」


そう前置きをしてから、一旦、口を閉じる剣士。


それから彼は、細めた眼を再びジョッキの中身へと向けて・・・そして、それを口の中へと一気に流し込んでから、ようやく話し始めた。


「俺がやってきた故郷の島っていうのは、端から端まで歩いても、1週間くらいは掛かりそうなほどに、大きな島だったんだ。この大陸と違って、春夏秋冬がはっきり分かれていて、それぞれの季節に特色があって・・・。そんな島国で俺は・・・運送業者の見習いをしていた」


「・・・はァ?剣士してたんじゃねぇのかよ」


「あぁ、運送業者だ。島自体は小さいんだが、東西には長くてな・・・。南北を移動するには、海から海まで、大体1週間くらいなんだが、長い国の中を本当に端から端まで歩いたら・・・多分、3ヶ月かかっても歩ききれないんじゃないだろうか・・・。やったことは無いから分からないけどな?それで・・・そんな長い国なもんだから、知人に荷物や手紙を送り届けたいっていう需要がそれなりにあって、賃金も高いし、運送業は人気のある職業だったんだ」


「ほう?メルクリオやこの国だったら・・・転移魔法を使う冒険者に頼みゃぁ、やってくれそうな仕事に聞こえんだが?」


「実はなぁ・・・俺にも何がなんだか、さっぱり分からないんだが・・・俺のいた国、たぶん魔法が使えない島だったんだよ。それらしきものを使ってる奴を見たこと無いしな」


「ふーん・・・そんじゃぁ、どうやって、この大陸に来たんだァ?さっきゃ、転移魔法で来たって話だったじゃねぇか?」


そう言ってから、ジョッキの中身を口の中へと傾けるブレーズ。


すると剣士も、彼の仕草を真似るように、ジョッキの中身で口の中を潤わせると、それから・・・何故か大きな溜息を吐いて、ブレーズの質問に答え始めた。


「繰り返すような説明になるかもしれないんだが・・・実は俺にもよく分かってないんだ。状況的に、転移魔法だったような気がする、ってだけで、実は転移魔法じゃなかったかもしれない。ただ、気づいたら、この国の南西にあるエンデルシア王国の王の前にいて・・・そして無理やり勇者の仲間にされて、今に至る、ってわけだな」


「何がどんなわけなのか、分かんねぇよ・・・」


「あぁ、俺自身もそう思う・・・」


そして、自嘲するように苦笑を浮かべる剣士。


そんな彼に対して、再びブレーズが問いかける。


「ちなみに・・・お前んところの国、なんつー名前なんだ?もしかしたら聞いたことあるかも知んねぇから、教えろよ?」


「ん?言ってなかったか・・・」


「なーに、恥ずかしがるなよ?もしも魔族の国だったとしても、バカにしねぇから、正直に言えよ?」


「・・・・・・その言葉、信じるよ」


と、口にしてから、自身の国の名前を思い出すように眼を瞑る剣士。

もしも、自分の国が魔族の国だとするなら、自ずと自分は『魔族』ということになるので、それを誰かに知られたなら、勇者の相方として大問題に発展しかねなかったためか・・・。

剣士は今まで出身国の名前を、誰にも言わずに伏せていたようである。


しかし、魔神(?)であるワルツの元にいる現状では、魔族も人間も関係なかったので、剣士は思い切って友人に対し、自分の国の名前を打ち明けることにしたようだ。

・・・しかし、である。


「んー・・・何て言ったかなぁ・・・」


「おまっ・・・。そこまで言って、話せねぇのかよ・・・」


自身の国の名前を思い出せず、顎に手を当てながら考えこんでいる剣士を前に、呆れたような表情を浮かべる老け顔のブレーズ。

そんな彼に対して、剣士は・・・


「別に、いまさら隠そうとは思ってないんだが・・・ちょっと複雑な理由があって、ド忘れしちまったみたいだな」


と、酔っているためか、真っ赤になった頬を掻きながら、そんなことを口にした。


「はぁ・・・。コレだから、酔っぱらいは・・・」


「酔ってねぇって!俺んところの国は、たくさんの小国がくっついて、それぞれ別の国の名前を名乗ってるから、わけ分かんなくなっちまっただけだ。でも、最近、統括する政府・・・みたいなものができて、国全体をひっくるめて、なんとか、って国を名乗り始めたはずなんだが・・・肝心のそれを思い出せないんだよ・・・」


「じゃぁ、何だァ?もう耄碌してるってぇのか?」


「んー・・・そうかもしれん。やっぱり、思い出せない・・・。俺がいた場所の地域の名前なら覚えてんだけどな・・・」


「なら、それを言ってみろよ」


「言っても、多分、外国には有名じゃないから、知らないと思うけどな・・・。で、俺の住んでいた場所の名前は・・・」


そして剣士の口から語られたのは・・・()()世界人から姿を隠そうとしているワルツが聞いていたなら、もしかすると、口封じに消される・・・かもしれない場所の名前であった。


「・・・遠江国(とおとうみのくに)


「とおと・・・あァ?」


「遠江国。もっと広い地域の名前で説明するなら、東海道と呼ばれる地域の真ん中くらいに位置する場所だな」


「全然、知らねぇ・・・。聞いたこともねぇよ」


「だから言っただろ。知らないと思うって・・・」


そう言って、溜息を吐いてから・・・しかし、ブレーズの知っている限りの範囲で、魔族の国の中にある地方の名前ではなかったためか、安堵の表情を浮かべる剣士。


それから彼は、生まれ故郷では茶が美味しい・・・などという、この大陸の者にとっては分からないだろう故郷の自慢話や、元の職業の詳細、あるいは国の中の様子などを友人に対して紹介した。

まぁ、ブレーズにとっては、前述の通り、全く理解できない・・・まるでこの世界ではない場所の話のように聞こえていたようだが、文句を言いながらも剣士の話に耳を傾けていたのは・・・やはり見た目とは違って心優しい青年だったためか・・・あるいは、見知らぬ土地の話を聞くことが、エンターテイメントに乏しいこの世界なりの楽しみだったためか・・・。

いずれにしてもブレーズは、帰ることなく、ジョッキの中身を追加で何度か注文しながら、剣士の話に相槌(?)を打ち続けたのである。


・・・その結果、剣士の話が徐々にヒートアップしていった。


「・・・実はなぁ・・・ヒック・・・ここだけの話・・・ヒック」


「オメェ・・・やっぱり酔っ払ってんじゃねぇか・・・」


「あぁ?まぁ、黙って話聞けよ・・・ヒック」


「・・・・・・お前、またキャラ変わってんぞ・・・」


「実はなぁ・・・俺には故郷に許嫁(いいなずけ)がい()んだが・・・」


剣士がそんなことを口にした・・・その瞬間であった。

まるでその言葉が召喚の呪文だったかのようにして・・・


ドゴォォォォン!!


『び、ビクトールさん?!僕に内緒のお婿(むこ)さんがいたの?!』


エネルギアが、酒場の天井を抜いて、剣士たちが囲んでいた円卓を破壊しながら、その場へと落下してきたのである。

幸いだったのは、落ちてきたのが船体の方ではなく、ミリマシンの方だったことだろうか・・・。


「ぐ、ぐえっ!?・・・ど、どうして・・・」


『ビクトールさん!ちゃんと答えてくれるまで、ここから動かないし、逃さないからね!』


机を破壊した後で、剣士に馬乗りになって・・・そして、彼の首に手を当てて、それを雑巾のように握りしめて・・・。

どうやら、エネルギアのその言葉通り、剣士は、彼女に対して隠していることを正直に全て話さない限り、逃げるどころか、生きて帰ることすら叶わなそうであった。

まぁ、最短時間で話したとしても、話し終わる前に昇天してしまう可能性も否定は出来ないのだが・・・。


「・・・じゃぁ、俺は帰るぜ?」


2人のやり取りが長くなりそうだったので、先に帰ることにした様子のブレーズ。


それから彼が酒場を出る際、剣士の分の食事代も払って出て行ったのは・・・やはり、見た目よりも心優しい青年(?)だったから、なのかもしれない・・・。

酔っ払った剣士の話し方を、遠州弁か東三河弁にしようと思って・・・でも、出来なかった今日このごろ。

今度、時間があったら、訛り言葉の剣士殿を書いてみようかのう?


というわけで、剣士ビクトールは、日本出身なのじゃ。

とはいっても、現代世界とは限らないがの?

それと・・・彼の名前が、日本人のはずなのに、ビクトールというロシア人みたいな名前がついておるのは、改名したからなのじゃ?

その名前の意味を考えれば・・・元の名前については大体想像が付けられるのではないかのう。


その他、補足すべき点が、いくつかあるのじゃが・・・それについては、明日に回そうと思うのじゃ。

・・・今日も時間がないのじゃ・・・。

・・・ただし、眠たい、という理由からではないのじゃがの?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ちっと気になったので。 もし剣士さんの郷土が、どこかの平行世界の日本列島ではなく、現実の日本と同じ時間軸だった場合、 時代背景は、鎌倉~明治初期までのどこか、多分江戸→明治の変遷期あた…
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