7.5-03 王城代替施設3
そしてイブたちがやってきたのは・・・旧王城前にあった、大きな広場。
3日前のスイーツコンテストでは、メイン会場があった、王都の中を東西南(北)に伸びる大通りの交差点である。
そこに3日前の面影は、すでにまったく残っていなかった。
とは言っても、祭りが終わったために全てのものを撤去したから、というわけでもなければ、世界樹と思わしき植物の根による侵食が酷かったために町並みが原型をとどめていなかったから、というわけでもない。
では、一体何が、どのように大きく変わっていたのか、というと・・・
「今日もおっきなお船が地面に刺さったままだよ?ママー」
「あらあら、この子ったら、毎日確認してるのねー」
「まったく壮観だ・・・」
「アナタも・・・だったのね・・・」
と、集まった人だかりから聞こえてくる声の通り、そこにはエネルギアの船体が刺さっていたのである。
それも、尖った船首を真下にした状態で・・・。
「・・・どう見ても、墜落してるようにしか見えないかもなんだけど、なんでこの街の人たちは、みんな嬉しそうなんだろ・・・」
空へとそびえ立つように停泊(?)していたエネルギアの船体と、その周りに出来上がっていた人だかりを遠目に見て、腕を組みながら考えこむイブ。
そんな彼女の問いかけに答えたのは・・・
『なんか、よく分かんないんだけど、お姉ちゃんが言うには、この街のごほんぞんだからだってさ?』
・・・真っ黒い影のような姿をした、少女の方のエネルギアであった。
今日は珍しく彼女の隣に剣士はおらず、エネルギアは一人だけの様子である。
そのためか彼女は、完全な人型の姿ではなく、スライムが上半身だけを人の形にしたような・・・中途半端な姿をしていた。
例えるなら・・・彼氏と会わない日は、家でズボラな生活を送る彼女・・・に近いのかもしれない。
「ん?あ、エネルギアちゃん。ところでさー・・・ごほんぞんって何?」
後ろから飛んできた声のその持ち主に対して、分からない単語があったためか、問いかけるイブ。
するとエネルギアは、んー、と悩んだ後で、ワルツから聞いただろう説明を口にし始めた。
『えっとねー、普通は何処か古い建物の中とか、特別な場所とかにある、ありがたいものなんだって。なんか、みんなが手を合わせるものらしいよ?』
「ふーん・・・古い建物や特別な場所にある、ありがたいもの・・・」
そう呟いてから、首を傾げて、何やら頭の中で想像を始めた様子のイブ。
そんな彼女の頭の中では・・・誰かの名前が書かれた木の板や石のブロックなどのオブジェに対して、登場人物たちが皆で厳かに手を合わせていたようだ・・・。
「・・・それ、もしかして、お墓じゃないの?」
『おはか?なにそれ?』
「えっと・・・・・・うん。ありがたいかどうかは分かんないけど、特別な場所にあって、みんなが手を合わせるやつ・・・かも?」
そもそも生き物ですら無いエネルギアにとっては、『死』という概念が理解できていなかったのか、お墓の存在自体、知らなかったようである。
そんな彼女に対してイブは、お墓が何なのかを説明しようとしたようだが・・・彼女自身も『お墓』とは何なのかを詳しく説明できなかったらしく、彼女は困ったような表情を浮かべながら、曖昧な言葉を口にした。
・・・そんな時。
イブの前を歩いていたテレサとユリアの2人が、いつまで経っても付いてこないメイドに気づいたらしく、彼女の方を振り向くと・・・少しだけ重苦しかった空気を壊すように、何故か満面の笑みを浮かべながら、近づいてくる。
「おぉ。こんなところにおったのじゃな?エネルギア嬢よ」
「エネルギア様?ちょっと、お話があるのですが・・・」
『ん?なんかあったの?』
妙な気配を出している2人に対して・・・しかし、それを訝しむことなく、問いかけるエネルギア。
そんな彼女に対して、テレサがニカッとした笑みを浮かべながら、こんなことを口にした。
「今すぐ、お主の船に妾たちを乗せて、ワルツのことを追いかけて欲しいのじゃ!今の妾たちでは、ワルツやルシア嬢のスピードに追いつけないのじゃ!」
『何か問題でも起こったの?』
「いや、そういうわけではないのじゃ。実はのう・・・妾たちには、ワルツの行動を事細かく観察せねばならぬというらいふわーくがあるのじゃ。・・・主にも、剣士を事細かく観察せねばならぬという仕事(?)があるじゃろう?それと同じなのじゃ!」
『?!』
テレサの言葉を聞いて・・・何やら、心にあった、重要なスイッチが入ってしまった様子のエネルギア。
『おっと、こうしちゃいられない!』
彼女はそう言うと、3人に背を向けて、その場から立ち去ろうとする・・・。
しかし、それでは困るので・・・今度はユリアがエネルギアのことを呼び止めた。
「お待ち下さい、エネルギア様。情報部の調査によると・・・本日、剣士様は、ブレーズ様と親交を深めておられるご様子・・・。今日ここに、エネルギア様が一人でおられるのも、それと何か関係があるのではないですか?」
そう言いながら、エネルギアの背中に対して、微笑みを向ける情報部部長ユリア。
まさに、国家権力の無駄遣いである・・・。
しかし、彼女が具体的な理由を挙げて呼び止めたためか、エネルギアは、アメーバやスライムが移動するように動かしていた自身の足(?)を止めると・・・その場でプルプルと震え始めて・・・そして、泣きそうな表情を浮かべながら、呼び止めたユリアの方を振り向いた。
『が、我慢・・・。我慢するんだもん!今日は剣士さんに、お友達と一緒の時間を作るって決めたんだもん!』ぐすっ
「・・・応援していますエネルギア様」
そして、タイミングを見計らったかのように、自身の白いハンカチを、涙(?)を浮かべていたエネルギアへと差し出すユリア。
『グシューッ!・・・ふぅ。スッキリした!ありがとう、ユリアさん!』
「どういたしまして・・・(予想はしてましたけど、ね・・・)」
そしてユリアは、エネルギアから、彼女の涙と鼻水まみれになってしまった自身のハンカチを受け取るのであった・・・。
まぁ、実際には、本物の涙と鼻水まみれではなく、ミリマシンから分泌(?)された機械油まみれだったようだが・・・。
さて・・・。
ここで一旦、視点は変わる。
場所は・・・休日と営業時間を完全に無視して、昼間から開店していた王都の酒場だ。
そこでは、昼食を摂りにきた者たちの姿で賑わっていたのだが・・・その中に、全身に黒いタトゥーの入っている見た目が20台前半くらいの青年と、そして見た目は中年男性にしか見えない・・・一応、彼と同い年の青年が、小さな円卓を挟んで、昼間から杯を交わしていた。
剣士ビクトールと、シルビアの兄のブレーズである。
剣士はブレーズの杯が空になっているのを見て、その持ち主に対して、おもむろに問いかけた。
「ブレーズ氏〜。次、何飲むのでござるか?」
「はァ?お前、もう酔ってんのか?いつもとキャラ変わってんぞ?」
「まったく・・・拙者がこの程度の安酒で酔うはずが無かろう?」ヒック
「いや、完全に酔ってんだろ・・・」
と、まさに男の友人同士、といった様子で、酒と肴を口に運びながら、しょうもない会話を繰り広げる2人。
そんな会話の中、剣士がおもむろに、こんなことを呟いた。
「はぁ・・・家に帰りたいのでござる・・・」
「そいやー、お前ん家・・・どこだったっけ?」
これまで、勇者パーティー専用の部屋と化していた、王城の来賓室。
それが3日前に突然、無くなってしまって・・・剣士は、王城の外に、それほど大きくはない戸建ての借家を借りたはずであった。
ブレーズはてっきり、剣士が新しく住み始めたその借家に何か(エネルギア的な)問題があって、彼は居心地の良かった王城の来賓室へと帰りたいと言っている、と思ったようだが・・・そういった話ではなかったようである。
「拙者の家は、この大陸の東の端・・・。それも海の上に浮かぶ孤島にあるのでござる」
「そうか・・・そりゃ大変だなァ。酔っ払って帰れないとか言っても、送れないからな?頑張って帰れよ?」
「はぁ・・・。頑張って帰れるような距離なら、とうの昔に帰ってるよ・・・」
と、不意に元のしゃべり方に戻ると、眼を細めながら、手にしたジョッキの中で黄金色に輝いている液体に向かって、眼を細める剣士。
その液体に映っていたのは、お世辞にも綺麗とはいえない酒場の天井か、あるいは向かいに座っていた老け顔の青年の微妙な表情のはずだが・・・恐らく剣士にとっては、違うものが見えていたのだろう・・・。
その結果、剣士は、喉の奥からこみ上げてくる言葉を我慢できなくなったように、自身の故郷の話を始めたのである・・・。
・・・今日もテレサちゃんは不貞寝をしています。
基本的には、昨日と同じ理由なのですが・・・今日は、サポートに連絡を取って、一旦返品をすることになって・・・それで、今週中に挿絵を書けなくなったみたいで、凹んじゃったみたいです。
そのせいで、今日もあとがきを、私に投げてきました。
今日は・・・1点、補足してほしいことがあるという話を聞いています。
イブちゃんが、『お墓』の説明が出来なかったことについて、らしいです。
テレサちゃんいわく、「お察しなのじゃ!(原文ママ)」と言ってました。
色々、複雑な事情があるみたいで、単にお墓の説明が難しくて言えなかった、というわけではないようですね。
・・・私から言えるのは、それだけです。
というわけで、今日も遅くなってしまったので、あとがきはここで切り上げさせてもらいます。
それでは・・・。




