7.5-02 王城代替施設2
ワルツたちが、さらなる材料を求めて、ミッドエデン国内の何処かへと飛び去った後・・・。
旧王城の機能が一時的に移されていた、ギルド連合が所有する会館のとある一室では、変わった組み合わせの2人による、こんな会話が繰り広げられていた。
「・・・妾は思うのじゃ。何かがおかしいと・・・」
「・・・そうかもだね・・・。確かにおかしいかもだね・・・」
・・・テレサとイブ。
パーティーの平均身長を下げる原因になっている2人が、部屋の中に妙な空気を漂わせながら、応接用のソファーの上で向き合いながら、膝を抱えていたのである・・・。
「イブ嬢も、そう思うのじゃな・・・」
「うん・・・せっかく出来たイブの下僕が、忙しくて下僕をしてくれないかもなんだよね・・・」
「・・・一体お主は、何を言っておるのじゃ・・・」
・・・しかし、どうやら、テレサの言葉通り、2人とも悩んでいる内容は大きく違ったようだが・・・。
「実は・・・コルテックス様たちの勝負に勝って、アトラス様を手に入れたかもなんだよね・・・。だけど、お城があんなんになっちゃって、アトラス様、『げんばかんとく』とか言う偉い役職に就いちゃったから、イブには全く構ってくれないかもなのさ・・・」
「ふーん・・・そりゃ、困ったのー(現場監督にならくても、構ってくれんじゃろう・・・普通・・・)」
イブの嘆き(?)に対して、どんな反応を返していいのか分からなかったためか、適当な返答をするテレサ。
そんな彼女に対して、今度はイブが問いかけた。
「そういえば、テレサ様は何を悩んでいるの?」
「べ、別に悩んでおる・・・というわけでは無いのじゃが、最近、ワルツと会うことが少ないのう・・・と思ったのじゃ。昔は、昼夜問わず、あんなに仲良くしてくれたというのに・・・」ぽっ
「はあ・・・(テレサ様、何言ってんだろ・・・)」
どこからどう聞いても、戯言にしか聞こえないテレサの嘆きを聞いて、先ほどのテレサ自身と同じく、イブは適当な空返事を返した。
そんなこんなで、2人ともが反応に困る悩みを持っていて、妙な空気を部屋の中へと放出(?)していたわけだが・・・そんな仮設議長室へと、不意に来客がやってきた。
コンコンコン・・・
「・・・入るが良い」 ゴゴゴゴ
「失礼しま・・・どうしたんですか?」
やってきた来客は情報部部長のユリアであった。
彼女は、部屋を開けた途端、自身に対して妙な気配を送ってきたテレサへと、その理由を問いかけたわけだが・・・質問を向けられたテレサは、何を思ったのか、こんなことを口にした。
「・・・イブ嬢が、アトラスにゾッコンらしいのじゃ」
「んな!?ち、違うかもだし!っていうか、不機嫌になってるのテレサ様の方じゃん!」
と、抗議の声を上げるイブ。
彼女はこの時、『やっぱり、アトラス様なんていらなかったかも・・・』などと思っていたようだが・・・コルテックスからアトラスを譲ってもらってから今日までの3日間、一体どれだけの回数、同じことを考えたのかは・・・不明である。
タダでもいらないが、有ったら有ったでどうにかしなくてはならない・・・。
イブはそんなジレンマに苛まれていたようだ・・・(?)。
・・・ただ。
テレサと付き合いが長かったユリアには、眼の前にいた長髪の狐娘が本当は何を考えているのか、だいたい分かっていたようで・・・
「・・・はいはい。ダメですよ?テレサ様。イブちゃんをネタにして不機嫌なことを隠そうとしたら・・・。原因はちゃんと分かってるんですからね?どうせまた、ワルツ様に関連したことなんですよね?」
迷うこと無く、そう言い切った。
「えっ・・・何で分かったの?ユリア様・・・」
どこにも『ワルツ』という単語が出てこなかったにも関わらず、テレサが不機嫌だった理由を断定したユリアに対して、驚いた表情を浮かべながら聞き返すイブ。
するとユリアは、さも当然のごとく、こんなことを口にした。
「簡単なことです。テレサ様が悩むとすれば、それしか無いですから」
「えっ・・・」
「そ、そんなわけなかろう!妾にだって、ワルツ以外に、悩みの一つや二つくらいあるのじゃ!」
「・・・でも、ワルツ様が原因で悩んでいることは、否定しないんですね・・・」
「ぐ、ぐぬぬ・・・!」
結局、テレサは、ユリアの口車に乗せられて(?)、不機嫌な原因を自ら吐露してしまったようだ・・・。
それから彼女は、何か見られたくないものを誤魔化すように、ユリアへと逆に問いかけた。
「ところで主は・・・一体、何しに、ここに来たのじゃ?まさか、妾の揚げ足を取りに来たわけではあるまい?」
「え?そりゃ・・・情報部の部屋も、通信室も、書類も何もかもが無くなって、業務が滞ってるせいで、暇だったので来ました。理由はありません!」 ドン
「・・・ふっ・・・奇遇じゃな。よーし、ユリア。表に出るのじゃ!」 ゴゴゴゴ
「・・・ふっ・・・仕方ありませんね。受けて立ちましょう!」 ゴゴゴゴ
「えっ・・・」
急にいきり立った様子で言い合いを始めたテレサとユリアの姿を見て、表情を凍らせてながら、戸惑ったような声を上げるイブ。
それから彼女は、ワナワナと肩を震わせているテレサと、妙な笑みを浮かべていたユリアの後を追って、部屋の外へと・・・・・・いや、むしろ、
「ほれ、イブ嬢!出かけるのじゃ!」
「新入りのメイドさんには、ウチのメンバーに入る上で、特別なお勉強をして貰う必要がありますからね!」
「えっ・・・・・・えっ?!」
・・・強制的に連れて行かれることになったのである・・・。
そして、太陽たちがもう少しで頂点にさしかかろうとしている時間帯に、人が多く行き交う町の中へと出てきた3人組。
そんな場所に、この国の議長で元王女のテレサが出てきたなら、普通は大騒ぎになってしまうところだが・・・彼女は今、自身の幻影魔法を使って変身しているので、市民たちにはバレていないようだ。
なお、その姿は・・・どこかの誰かと同じく、黒狐娘の姿である。
ちなみに、サキュバスのユリアの方は、王都で(知名度的な)市民権を獲得したらしく、幻影魔法を使った変身はしていない。
「・・・そいで、まずは、どうするのじゃ?」
「いつも通り、プランBでいいのではないですか?」
「ふむ・・・。つまり、行き当たりばったり、というわけじゃな」
「・・・いったい何言ってるの?2人とも・・・」
と、いちおう魔族ではあるものの、見た目も中身も単なる犬の獣人でしかないイブが、先程まで血気盛んだったはずの2人に対して問いかけた。
彼女にとっては、そろって怪しげな笑みを浮かべているテレサとユリアの様子が、奇妙に見えていたようだ。
そんな、テレサとユリアの先程までのやり取りは、実のところ、喧嘩をするような意味合いを含んでいるものではなかった。
むしろ、同じ目的を持った仲間か・・・あるいは友人同士が交わすような、砕けたやり取りだったのである。
その証拠に、イブの問いかけに対して、テレサが嬉しそうに返事を口にする。
「これからのう・・・ワルツの追跡調査をするのじゃ!」
「えっ・・・それって、単なるストーk」
「尾行、ってやつですね。イブちゃんも、メイドの嗜みとして、覚えておいたほうがいいですよ?」
「いや、メイド服は着てる・・・っていうか着せられてるけど、メイドをやるつもりは無いかもだし・・・」
抗議しようとして・・・しかし、いつの間にか、話をすり替えられていることに気づかず、自身のメイド服に視線を向けるイブ。
どうして毎日、コルテックスにメイド服を着せられているのか、彼女自身も分かっていなかったらしく・・・日に日に、それが当たり前の服装になりつつあることに対して、イブは危機感を抱いていたようだ。
まぁ、その危機感自体も、日が経つにつれて、徐々に薄まっていっているようだが・・・。
「まぁ、それはともかく、なのじゃ。妾たちが、ワルツの行動を知りたいと思うのは、自然の摂理のようなものなのじゃ。1+1が2になるようなものなのじゃ!」
「えっと・・・なに言ってるか、全然分かんないかも・・・」
「はぁ・・・。これはやはり、新しいメイドに対して、洗脳が必要なみたいじゃのう?ユリアよ?」
「・・・確かに。というか、そのためにイブちゃんを連れてきたんですよね?」
「なんか・・・身の危険を感じるかも・・・」
自身を取り巻く者たちが、普段の見た目とは違って(?)、実は変態なのかもしれないことに気づいて、頭を抱えるイブ。
しかし、巻き込まれた彼女に、『撤退』や『逃亡』という選択肢は無く・・・そこにはただ『連行』の2文字しか残されていなかったようだ。
こうしてイブは、怪しげなしゃべり方の狐娘と、どこからどう見ても魔族にしか見えない怪しげな笑みを浮かべているサキュバスに手を引かれて、昼下がりの王都の中を、どこかへと連れ去られていったのである・・・。
テレサちゃんが、『自分の話を書くときに、あとがきまで書きとうないのじゃ!』って言って、特技の不貞寝を始めたから、私が代わりにあとがきを書きますね。
・・・え?私はルシアですよ?
もちろんイブちゃんではないです。
だって、それはそうです。
イブちゃんは共著者じゃないですから。
・・・でも、たまに書いてますけど・・・。
実は・・・今日、テレサちゃんは、自分の話を書く回だから、っていう理由で不貞寝をしているわけじゃないんです。
もちろん、4割くらいはそれが理由かもしれないですけど・・・もう一つ、6割くらいを占める別の理由があったみたいなんですよ。
なんか、液晶ペンタブレットを買ったはいいけど、初期不良で動かなくて・・・『もうグダグダな狐なのじゃ!うわーん!』って言って部屋に消えていった・・・的な感じです。
まぁ・・・気分は分からないでもないですね。
そんなわけで、補足すべき点とかは聞いてないので、今日もあとがきはお休みです。
・・・テレサちゃん、狩人さんの依頼を中途半端なところまで書いて止めてるみたいだけど・・・ちゃんと一気に書かないと、読者の皆さん、忘れちゃうんじゃないかなぁ・・・。




