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7.5-01 王城代替施設1

・・・え?8章はどうしたかって?

・・・あれは、嘘なのじゃ。

冬に相応しい風が吹き抜けている、とある高台のさらにその上で・・・


「まったく・・・」


ワルツはそこから見える景色を見ながら、腕を組み、溜息を付いていた。


全く・・・。

その言葉は、完全を表す言葉であると同時に、そこから派生した意味として、呆れや否定的な意味を含んだ言葉と共に使う副詞である。

今回、ワルツがその言葉を呟いたのは・・・いつも通りに後者の意味合いで使うためだったようだ。


それはさておいて。

彼女は、一体何に・・・あるいは誰に対して、その言葉を向けていたのかというと・・・


「AからDブロック、基礎工事完了しました!」

「鋼材供給が滞ってるぞ!仕入先を増やせ!」

「安全第一だぞ!安全第一!そこ、分かってんのか!?」


と、血気盛んに作業を進める()王城職員と、急ピッチで建設が進んでいく新しい王城の代替施設の建設状況に対してだったようだ。

これまで王城は、現代世界でいう役所としての機能を担っていたために、そこで働く職員たちは書類と格闘することを主とする事務作業を行ってきたこともあって、本来なら彼らに建築工学などに関する知識は全く無いはずだった。

・・・しかしどうやら、彼らの働きと会話を聞く限り、そういうわけではなかったようである。


「まったく、コルテックスには困ったものね・・・」


ワルツがそんなため息混じりの呆れたような言葉を向けたのは、彼女が遠くから眺めている王城職員たちに対してか・・・それとも彼らに対して入れ知恵をしただろう黒幕(コルテックス)に向けてか・・・。

いずれにしてもワルツは、現状に対して、呆れた表情を浮かべつつも・・・一応、満足はしているようであった。


・・・王城が崩壊してから3日。

ミッドエデンの国家としての機能は、一時的に()()していた。

犠牲者が出なかったために、完全に機能を停止したわけではなかったが・・・本来なら国家の情報がすべて集まるはずの中枢部たる施設が機能していないのだから、当然と言えるだろう。

とはいえ、ワルツたちがやってくる前までの、言伝などの原始的な手法によって情報が集められていた当時よりは、遥か高度で、そして近代的な機能を有したままだったようだが・・・。


それでも、ミッドエデン国内外に山積している急いで対応しなくてはならない問題のことを考えれば、王城の代わりとなる施設の建設は、国家としての急務であった。

そこで、王城職員たちが一肌脱いだわけだが・・・前記の通り、一肌どころではなく、下手をすると骨が見えてしまうのではないかと思うほどに何かを脱ぎ捨てて・・・皆、必死になって働いていたのである。

一体、彼らの何が、ここまで自分たちを奮い立たせているのか・・・。

それが何なのかは、もしかすると彼らにも分かっていないのかもしれないが・・・ただ言えるのは、皆、嬉しそうに作業を進めていることだろうか。


・・・なお、必死だったのは、彼らだけではなかったようだ。


「班長!材料が足りません!」

農業()ギルド()の連中に連絡を取って!今すぐに!」

「今日は市場の休業日・・・いえ、問題はありません!どうにかします!」


王城代替施設の建設に勤しむ職員や兵士たちに対して、仕出しの弁当を作っていた王都の主婦たちもまた、火が付いたように必死になっていたのである。

その他、各種ギルドと、その下に連なる商店や飲食店、それに工房なども、休日返上で協力していたようだ。


この建設作業は、まさに王都ぐるみ・・・いや、ミッドエデン共和国ぐるみでの、大事業だったのである。

それも、報酬無しで自発的な、である。

どうしてこうなった・・・、とワルツが呆れても仕方はないだろう。


・・・ちなみに。

そんな光景を遠くから見ていたワルツが、一体何をしていたのか、というと・・・


「お姉ちゃん?準備出来たよ?」


「おっけー。じゃぁ、今から私がコレを浮かべるから、ルシアは加熱してね?」


「うん、いいよ?」


ドゴォォォォ!!


・・・といった妹のルシアとのやり取りから推測できる通り、大量の金属を精錬していたのである。

そして、彼女たちがいた場所は・・・


「また、火山を切り取ってこなきゃダメだね・・・」


「いや・・・それはどうかと思うわ・・・」


・・・以前ルシアが、火山ごと融解させて作って、王都の南街道沿いに放置していた金属材料の塊、通称『モノリス』の上空であった。

王都の上面には大樹が蔓延り、南面はモノリスが鎮座する・・・。

最近、王都に増えてきた日陰をどうにかするためにも、モノリスの処分が必要だったようだ。


「まだまだ行くよーっ!」


「・・・加熱しすぎて、蒸発させないでね?」


日進月歩で出力を増していく妹の火魔法と、サングラスを掛けながらその魔法を行使していた彼女本人に向かって、苦笑を浮かべるワルツ。


(加熱するのはいいけど、どうやって熱を抜こうかしら・・・)


ワルツは、精錬した後の後処理をどうすればいいのかを今から考えながら、ルシアが溶かした第3の太陽のように輝く金属塊に対して、重力制御を加え続けた。


・・・一方。

地上でその様子を見ていた職員たちが・・・


「・・・!」

「・・・こ、こうしちゃおれん!」

「野郎ども!休憩は返上だ!ルシアの嬢ちゃんに負けるんじゃねぇぞ!」

『おうっ!』


と、声を上げ、どういうわけかルシアと争うように、更に作業のスピードを上げた・・・。


「・・・なにそれ」


「・・・ん?なんかあった?」


「ううん・・・なんでもない・・・。気にしないで加熱を続けて?(しっかし、困ったわねぇ・・・)」


当のルシアは気づいていなかったようだが・・・ワルツは、王城の職員たちが何故必死になっているのか詳しい理由が分かったような気がして、微妙な表情を浮かべたようだ。


それからまもなくして、ワルツは再び口を開く。


「さてと・・・そろそろ、精錬の最終工程に入りましょうか」


「最終工程?」


「そ。つまり、こういうこと」


ワルツはそう言うと、何百万トンあるのかも分からないような、地上に出来た太陽のように真っ赤に輝く液体の金属塊に重力制御をかけて、いつもの様に成分の分離を行った。

そして、次の瞬間・・・


ドゴォォォォ!!


重力制御によって金属を包み込んでいた真空の壁が解除されて、あたり一面を灼熱の熱線が覆い尽す。

いわゆる冷却の工程である。


「なんか、太陽が近くに出来たみたいだね・・・」


「・・・ホントすごいわよね・・・エンチャントの効果って・・・」


至近距離でその熱線を浴びたなら一瞬で発火してしまいそうな熱さが、いつも通りに自分たちを包み込んでくることを感じながら・・・しかし、そうならないようにルシアの身体を守っているエンチャントのことを考えて、感心したような表情を浮かべるワルツ。


ただそれは、カンスト状態のエンチャントが施されたバングルを身に着けていたルシアに限ったことだったようで・・・


「暑っ・・・いや熱っ!」

「何だこの暑さは!?」

「はぁ・・・俺、暑さに弱いんだよ・・・」


作業を続ける職員たちには、相当量の熱のダメージが蓄積していっているようだ。

とはいえ、距離が離れているので、やけどするほどの熱さではなかったようだが・・・。


「えっと・・・お姉ちゃん?皆が大変なことになってるみたいだけど・・・」


「いや、いいのよ。このくらいで。下手に気張って事故でも起こされたら、そっちのほうが面倒じゃない?」


「うん・・・まぁ、それはそうなんだけど・・・」


もう少し、やり方があったのではないか・・・。

ルシアの喉からは、そんな言葉が出かかっていたようだが・・・姉至上主義者である彼女の口から、その言葉が実際に発声されることはなかったようである。


「さて・・・。それじゃぁ、納品といきましょうか」


「納品?」


「そっ。・・・こういうこと」


ワルツはそう口にすると、冷却のために面積を稼ぐという意味合いで円形に広げていた金属塊を、直径10センチメートル、長さ20メートルほどの、断面が四角い巨大な針のような形状に加工し、強制的に冷たい冬の空気を当て、空中で冷やし始めた。

そして、充分に硬くなったものから順に・・・


ドゴゴゴゴゴ!!


と、王城跡地の誰もいないスペースへと、大量に落下させ始めたのである。

その他にも板材や、太さの違う棒状ブロック・・・時には小さなインゴットサイズの鉄塊なども落下していった・・・。

・・・要するに、ワルツたちも、王都民たちと協力して新しい施設を作るために、その材料である建材を製造していたのである。


「ま、こんな感じかしらねー」


モノリスから分離した鉄とクロムの合金で作った建材を、地上へと落下させて・・・そして、最後に残った貴金属を含む高価な材料を空中に浮かべたまま、満足気に呟くワルツ。


対して地上からは・・・


『・・・・・・』


・・・一切のざわめきが無くなったようだ。


「・・・?急に静かになって、どうしたのかしら・・・皆」


「・・・お姉ちゃん分かってて言ってない?」


「えっ?」


「ううん・・・気にしないで・・・」


ワルツの理不尽さに、皆が黙り込んでいることを、彼女自身が本当に分かっていないことを察して・・・姉の口調を真似ながら、首を振るルシア。

それから彼女は現状を鑑みながら、言葉を続ける。


「でも・・・まだ()()()()()だね?」


「そうね。じゃぁ、やっぱり仕方ないから、山でも削ってこようかしら?今なら、誰も文句わいないだろうし・・・」


「・・・やっぱりお姉ちゃん、分かってて言ってるでしょ?」


「えっ?」


「・・・・・・はぁ」


ルシアは、なにやら言い知れない心の疲れを感じて、思わず溜息を付いてしまったようだ。

どうやら、その疲れは、魔力を使いすぎたことによるものではなさそうである・・・。


・・・ともあれ。

こうしてワルツとルシアは、そんな不毛なやり取りをしながら、王城の代替施設を建設するためには充分に足りているはずの金属を、更に追加で採掘すべく、久しぶりに2人で採掘に出かけることになったのである・・・。

もう・・・ダメかも・・・しれぬ・・・。

何がダメって、眠気が本当に酷いのじゃ・・・。


ただ幸いなことに、今日も、特に補足することは無いと思うのじゃ。

・・・妾が単にそう思っておるだけかも知れぬがのう?


というわけで、今日()何もかもをほっぽり出して、眠ることにするのじゃ!

ご了承くださいなのじゃ!

zzz・・・。

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