7.4-25 王都のお祭り25
「すまねぇ、ワルツ・・・」
「別にいい・・・いや、良くないけど・・・」
何か食用に適さないものを口にした結果、腹痛を起こして起き上がれなくなったため、全身ホコリまみれになりながら身体を引きずりつつ、王城の中へと戻ってきたワルツ。
それから、腹痛が収まるまで、王城のメインホールの中にポツンとあったメイド用の掃除箱の中でジッとして・・・そして再び立ち上がって歩けるようになってから。
ワルツが王城地下2階にあったパーティーメンバー専用のリフレッシュラウンジへとやってくると・・・そこには、どこで仕入れたのか分からない大量の工具と、バラバラになった手のひらサイズの銀色の筐体と電子基板、そして女性向けのアクセサリーが大量についたストラップのようなものを机いっぱいに広げるブレーズの姿があったのである・・・。
どうやら彼は、女性物のアクセサリーに興味が・・・いや、無線機を分解したはいいが、元に戻せなくなっていたようだ。
なのでワルツは仕方なく、ブレーズが分解した無線機を、逆に組み立てていたのだが・・・
「助かるぜ・・・。もう少しで妹に殺されるところだった」
「私に殺される可能性は考えてないのね・・・」
彼の頭の中からは、その無線機が誰によって作られたものなのかが、完全に抜け落ちてしまっていたようだ。
・・・ただそれは、彼の性格が単に忘れっぽい性格だったためでも、あるいは、人の話を聞かない性格だったためもなかったらしい。
ブレーズは、ワルツのその巧みな指先の使い方に、心底、見入っていたために、深い思考が出来なかったようなのだ。
「すげぇ、指先が器用だな・・・」
両手の指すべてを巧みに使って部品を押さえながら、同時にネジを回したり、コネクタを接続したりしていくワルツに、驚嘆するブレーズ。
するとワルツは・・・突然、組み立てていた手を引っ込めてから、こんなことを口にした。
「え?いや実は、指、使ってないんだけど・・・」
そんなワルツの言葉通り、これまで彼女が指を動かしていたのは単なるフェイクであり、実際には重力制御を使って部品を組み立てていたようである。
それをブレーズに見せるために、ワルツは手を放したわけだが・・・
「すげぇ・・・手を使わなくても組み立てられるとか、どんだけ修行したらそんな芸当が会得できるんだ?」
「・・・・・・重力を操らなきゃならないから、たぶん修行しても無理じゃないかしら・・・」
原理を説明しても、ブレーズに話を聞いている様子はなく、彼はその普段の言葉遣いからは想像できない純真無垢の少年のような視線を、宙に浮く無線機の部品へと向けていたようだ。
「・・・はい、どうぞ。もう壊さないでよね」
「ほぉぉぉ・・・ありがとよ!」
新品同様の姿に戻った無線機を受けっとって、それに対しキラキラと輝く視線を向けながら、感謝の声を上げるブレーズ。
・・・ただし。
女性物のストラップが机の上に忘れられているのは・・・そういったものに興味のない男性である以上、仕方のないことと言えるだろうか・・・。
それからまもなくして、ワルツたちのいたラウンジへと、カタリナと剣士の2人が現れる。
その組み合わせから予想すると・・・この3日間、ほとんど休みなく無理やり働かされてボロボロになっていた剣士を、カタリナが治療していた、といったところだろうか。
もしかすると、2人が勇者パーティーにいたころは、よく見る組み合わせだったのかもしれない。
まぁ、それはさておいて。
部屋の中に入ってきたカタリナは、見た目の姿と無線機に向ける表情が一致していないブレーズに対して、怪訝な表情と視線を向けると、おもむろにその口を開いた。
「・・・誰ですか?」
「・・・あ。そう言えば、言ってなかったわね。彼はブレーズ。シルビアの兄よ?」
「こう言っては失礼ですが・・・変わった人ですね・・・」
「・・・普通、そう思うわよね・・・」
親に初めて買ってもらった携帯端末を眺めている少年のような表情を浮かべていたブレーズに対して、苦味成分の多い苦笑を向ける2人。
そんな、中身は子ども、見た目は中年男性のようなブレーズに対して、おもむろに話しかけたのは・・・胸に大きく『瀕死』と書かれたTシャツを着ていた剣士であった。
「おう、ブレーズ。遂に無線機を支給してもらったのか?」
と、馴れ馴れしく話しかける剣士。
どうやら、彼は、この数日間、何度かブレーズと顔を合わせる機会があったらしく、ある程度親しくなっていたようだ。
「あァ?俺んじゃねぇよ」
まぁ、ブレーズの方は、そうではなかったようだが・・・。
・・・いや、これが彼のいつものしゃべり方なのである。
「じゃぁ、誰のなんだよ?」
「妹のだ」
「妹・・・あぁ、情報部のシルビアちゃんか」
「あァ?てめぇ、俺の妹に手を・・・・・・出さないな・・・」
年頃の青年の口から出てきた妹の名前に、ブレーズは一瞬反応するものの、剣士が自身の妹に好意を寄せている可能性はありえないと判断して・・・その後で彼は、何とも言い難い、哀れんでいるような微妙な表情を浮かべてゆっくりと息を吐いた。
「お前が何を言いたいのか、何となく分かるよ・・・」
ブレーズのその視線を受けて、肩を落としながら、そう口にする剣士。
と、そんな時、
ドン!!
『・・・ビクトールさん、みーっけ!』
部屋の扉を乱暴に開けて、少女の姿のエネルギアが入ってきた。
彼女は、先程まで空に浮いていた自分の船体を王都近くのどこかに停泊して、ミリマシンだけでここへとやってきたようである。
ミリマシンを駆動させるための無線電力伝送の有効距離と、制御するための通信距離を考えるなら、それほど遠くには停泊していないことだろう。
「マジか・・・」
『うん!まじっ!』
エネルギアの姿を見て唖然とする剣士と、得物(?)を見つけた狩人のような満面の笑みを浮かべるエネルギア。
そして、当然のごとく・・・
ドゴォォォォン!!
体重500kgを超える金属の塊が、剣士の胸の中へと遠慮無く飛び込んだ。
しかし、エネルギア自身に肉体改造された剣士には、その程度の重さなど、大したことは無かったようで・・・
「・・・よーしよし!」
飛び込んできたエネルギアに対して、そんな、どこかの動物愛好家が言っていそうな言葉を口にしながら、彼女を無事に抱き止めたようである。
その様子を見て・・・
「・・・なんか剣士さん・・・最近、人間離れしてない?」
「・・・奇遇ですね。私もそう思います」
「俺もあんな彼女が欲しいぜ・・・」
「・・・は?」「・・・えっ?」
とそれぞれに反応を見せるワルツとカタリナ、それにブレーズ。
ブレーズが何やら聞き捨てならないことを言っていたようだが・・・まぁ、気のせいだろう。
それからエネルギアが、ミリマシンで出来ていた金ヤスリのような自身の頬を、いつも通りに剣士の腕へとこすりつけながら、満足気な表情を浮かべた辺りで・・・
「えっと・・・剣士さんとエネルギアちゃんのことは、とりあえず置いておいて・・・ワルツさん?これからどうするんですか?」
皮が剥がれつつある剣士の腕に向かって眼を細めながら、カタリナがワルツに対しておもむろに問いかけた。
「どうするって・・・工房のこと?」
「はい。エネルギアちゃんを停めておく場所も、作業場も、皆さんの個室も使えなくなったみたいなので・・・」
その口ぶりから推測すると、カタリナは工房の様子を見に行こうとしたようである。
しかし、植物の根が大量に蔓延っている工房へは、エレベーターはもちろんのこと、緊急用の階段を使っても行けなかったらしい。
そんなカタリナの問いかけに対してワルツは・・・後頭部の髪を乱暴にかきあげながら、こんなことを口にした。
「んー、それなんだけどさ・・・もうこの際だから、大々的にやっちゃおっかな、って」
「大々的に・・・?」
「そっ。今までは地下でひっそりとやってたわけなんだけど、コルテックスとテレサの航空機の件や、ミッドエデンが工業国家化しかけてる件もあるから、これからは堂々と表に工場を作ろうと思ってね・・・」
「それでも・・・いいのですか?ワルツさんなら、あの大木くらい、切ろうと思えばどうとでもなるような気がするのですが・・・」
「えぇ。確かに、どうにかなるかもしれないけど・・・私の存在も、工房の存在も、もう隠し通すことが出来ないって、分かったから・・・。だから、形を変えて堂々と隠蔽しようと思うのよ」
「それ、隠蔽って言わないですよね・・・。まぁ、今更ですか・・・」
「そっ、今更よ?」
と、これまでの情報隠避優先の方針を改めて、ミッドエデンの国民たちを巻き込み込んだ工場運営を進めていくことにした様子のワルツ。
もちろん、技術や知識の流出については、これまで通りに管理していくつもりのようだが・・・テレサの一件で、すでに一部の者たちには知られてしまっただろう情報に関しては、一般の国民たちにも、ある程度開示してもいい、と考えたようだ。
・・・あるいは、そうせざるを得なかった、と言うべきかもしれない。
自分たちやミッドエデンを取り巻く情勢、エクレリアにいると思わしき転生・転移者たちの存在、いつ攻めてくるか分からない神や天使たちへの対処、そしてミッドエデン南部で暴走を始めているマギマウスたちへの対策など・・・。
すでに、自分たちだけでどうにかできるレベルを超えて、問題が文字通り山積していたのである。
まさに、猫の手も借りたい状況と言えるだろう。
「・・・そんなわけだから、ブレーズにもしっかりと働いてもらうわよ?」
自分とカタリナの隣にいて、話を聞いていたはずのブレーズに対し、不意に言葉を投げるワルツ。
するとブレーズは、いったい何を考えていたのか・・・
「・・・よしっ!今すぐに工房を作って、彼女を造るぞ!」
・・・唐突にそんなことを口にした。
そんな彼の視線の先に、剣士の腕に嬉しそうに抱きつく血まみれのエネルギアがいたことと、何か関係はあるのだろうか・・・。
「はぁ・・・。ま、精々頑張ることね・・・」
ブレーズに対して呆れたような表情を見せながら、溜息を吐くワルツ。
カタリナの様子に関しては・・・言うまでもないだろう。
ともあれ。
こうして、ワルツたちは、王城の地下にあった大工房を放棄して、地上に新しい工房を建設することを決めたのである・・・。
もう7章を終わらせたいのじゃ・・・。
すでに100話を優に超えておるのじゃ・・・
じゃが、最低でもあと2ヶ月(60話?)くらいはかかるのじゃ・・・。
それも、話を大幅に端折っての話じゃがの・・・。
まぁ、それはいつものことじゃから、しかたないのじゃ。
毎日、話を進めておったなら、設定とかその他のことまで、頭が回らぬじゃろうからのう。
それに、毎日、何か思い付くとも限らぬしのう。
・・・じゃから駄文が増えてしまうんじゃがの・・・。
さて。
そんなボヤキは置いておいて、今日も補足に入ろうと思うのじゃ。
今日は1点あるのじゃ。
時々、あとがきで取り上げる『いまさら説明シリーズ』の第3弾。
・・・いや、初めて『いまさら説明シリーズ』という言葉は使うのじゃがの?
で、何の話かというと・・・「」と『』の使い分けについてなのじゃ。
なお、文を強調する上での『』については、大体察してもらえると思う故、わざわざ説明はしないのじゃ?
問題は、会話を表現する上で使う括弧なのじゃ。
例えば・・・
『ビクトールさーん!』
「俺はビクトールじゃない!ビクトルだ!」
『えっ』
という会話があったとするじゃろう?
この時、エネルギア嬢の発言に付いておる『』は、機械や魔道具によって発生された擬似音声を示す二重括弧なのじゃ。
で、真ん中の誰が発言したのか分からない「」は肉声の括弧なのじゃ。
要するに、ダイレクトな発音の場合は「」。
それ以外の、エネルギア、魔道具、無線機、壁越し、など経て聞こえてくる声については、すべて『』を使っておるのじゃ。
じゃがのう。
一部例外が存在するのじゃ。
・・・複数の者たちが同時に発声した場合。
これについても『』を使うことが多いのじゃが・・・前述のように、エネルギア嬢が登場してきた場合、単に『』を使ってしまうと、混同する恐れがあるのじゃ。
・・・話の流れから推測すれば、それは無いかもしれぬがのう?
じゃから、エネルギア嬢が出てくる話においては、『』はエネルギア嬢の発言だけ使い、それ以外の者の同時発話については、「A」「A」のように同じ文を繰り返し書いておるのじゃ。
分かり難くて申し訳ないのじゃ・・・。
今日の補足はこんなところかのう。
で、質問に答えるコーナーじゃが・・・いま、まとめておるところじゃから、今日もお休みさせてもらうのじゃ。
サウスフォートレスの歴史とか・・・どこから書けばいいのじゃろうか・・・zzz。




