7.4-22 王都のお祭り22
スイーツフェスティバルの夜の部・・・。
それは、スイーツとは何ら関係のない、単に飲んで食べて踊ってを楽しむ、現代世界でも行われているような、一般的な祭りの夜の姿であった。
ただし、現代世界とは、大きく異なる点がある。
『ホッドドッグ』や『リンゴ飴』、それに『金魚すくい』など、全国どこに行っても大体パターン化している現代世界の日本の出店とは違い・・・この王都の祭りでは、何故か日用品や、店主が書いたと思わしき売れ無さそうな本、その他、『いまそこで釣ってきました』と言わんばかりにピチピチと跳ねていた魚が店頭に並んでいたりするなど、昼に営業していた業者が、そのまま残業をしているような・・・そんな出店が多かったのである。
もちろん、所々には、インタラクティブな出店もあったようだが・・・現代世界の子どもが、今の王都を出歩いたなら、おそらくは子どもながらに、絶望的な表情を浮かべることだろう・・・。
そしてここにも・・・
「ず〜ん・・・。政策を間違えました〜・・・」
と、今の気分を音で表現するコルテックスの姿が・・・。
「・・・何やってんだ?」
「今の私の気持ちを擬音で表現していただけですよ〜?」
「いや、それは分かる。俺が聞いてるのは、どうしてそんなに落ち込んでるのか、ってことだ」
「・・・はぁ〜・・・。これだから、アトラスは〜・・・。この残念な感じが分からないなんて、呆れを通り越して、絶望しか感じませんね〜。もう少し多感になったほうがいいですよ〜?きっと人生を無駄にしていると思いますから〜」
「いや、意味が分かんねぇよ・・・」
と、いつもよりも3倍増しくらいの喧騒に包まれていた夜の王都の中を歩きながら、いつも通りに不毛な会話を交わすコルテックスとアトラス。
そんな2人が歩いていたのは、前述の通り、夜の祭りの雰囲気を漂わせた王都の、その南街道であった。
謎の植物の根が土を掘り起こしたために、王城を中心にして、街の中にも所々、壊滅的(?)状況に陥っていた区域があったようだが・・・王城職員たちにも、王都民たちにも、それを気にした様子はなく、祭りは無事に続いていたのである。
それは、政府がその日の内に支援を表明したためか・・・あるいは、夜の祭り自体が、スイーツフェスティバルの延長ではなくなってしまっていたためか・・・。
いずれにしても、謎の巨大樹が突然王都に現れた程度の破滅的状況(?)くらいでは、王都民たちは動じなくなっているらしい・・・。
・・・それはそうと。
そんな、たくましい精神を身につけつつある王都民たちが騒ぎ立てている街の中を歩いていたのは、コルテックスとアトラスの2人だけではなかった。
「あの・・・どうして私は呼ばれたのでしょうか?」
と、戸惑い気味に疑問の声を上げるシラヌイと・・・
「我も、その理由を聞きたい」
少女の姿に戻っていた(?)飛竜。
それに・・・
「・・・なんか思ってたお祭りとは違うかも・・・」
王都の祭りの様子を見て、絶望的な表情を浮かべていたメイド姿のイブが、共にあったのである
地下にあった個室を、植物の暴走で失い・・・その上、人々の眼に付きすぎて、地上に下ろすことの出来なかったエネルギアの中の自室にも戻れなかった彼女たちは、1時間ほど前まで、王城前でこれからの行動について戸惑っていた。
その際、喜々として王城の中から現れたコルテックスに声を掛けられて、半強制的に夜の王都内を連れ回され・・・そして、現在に至る、というわけである。
「これには複雑な理由があるのですよ〜」
何故自分たちが呼ばれたのか、という彼女たちの問いかけに対して、その場で足を止めて、振り返りながら、そう答えるコルテックス。
それからコルテックスは、ニッコリと柔らかな微笑みを浮かべながら・・・こんなことを口にした。
「お姉さまがいた日本という国では、祭りの夜に年頃の男女が出歩くというのは、特別な意味を持っていたようですよ〜?・・・この意味、分かりますよね〜?」
そんな、ある意味で挑発するような発言に対して・・・
「・・・い、一体何を?」
「・・・何を言っているのだ?」
「ねぇよ・・・コルテックス・・・」
「ホットドッグとか、嫌な響きかもだよねー」
と、それぞれに反応を見せる、平均身長140cm以下の面々。
そんな少年少女たちを前に、コルテックスは更に踏み込んだ発言をした。
「・・・ならば、こう言えば分かるでしょうか〜?この日の夜の勝者が、アトラスを手中に収めることができる、と〜・・・」
『・・・?!』
「うわさに聞くチョコバナナもないとか・・・。っていうか、バナナってなんだろう・・・」
一人、まったく会話に参加していないメイド(?)がいたようだが・・・彼女を除けば、コルテックスの言葉を聞いて、概ね驚愕したような表情を浮かべる3人。
そんな中、シラヌイが何かに気づいた様子で、急に鋭い視線をコルテックスへと向けると、彼女に対しておもむろに問いかけた。
「・・・つまりこれは、勝負、ということでいいのですか?」
「勝負〜・・・そう、これは勝負なのです。この夜のフェスティバルにおける本当のコンテストの景品・・・。それがアトラスだったのです!」
「いや、初耳だよ」
「しゃらっぷ!」ドゴォォォォ
アトラスが抗議の言葉を上げようとしていたので、とりあえず、いつも通り、隠し持っていた猿轡と目隠し、それに赤いロープを使って、一瞬で彼のことを縛り上げるコルテックス。
この間、およそ0.1秒である・・・。
「もがぁぁぁ?!」
「まったく〜。景品は喋ってはいけないのですよ〜?」
その姿を見て・・・今度は飛竜が、眼を怪しげな輝きを浮かべながら、コルテックスに対して問いかけた。
「つまり・・・この勝負に勝てば、人を知るために、アトラス殿を自由に使っても良い、ということですな?」
「えぇ〜。もちろんですとも〜。・・・ですが、私が勝ったなら、金輪際、アトラスには触れさせませんよ〜?」
そんなコルテックスの言葉に対して・・・
「いやちょっと・・・それはどうかと思います。アトラスさんの気持ちや、勝者の気持ちが変わってしまうということも考えられますから・・・」
と、抗議の声を上げるシラヌイ。
飛竜の方も・・・
「う、うむ・・・。いつも世話になっているアトラス殿と交流してはならないというは、いささか大変なことだ。少しは条件を緩和して欲しい」
・・・困った表情を浮かべながら、同じように抗議した。
すると・・・
「・・・では、1ヶ月ごとの、契約更新で〜」
急に態度を難化させるコルテックス。
どうやら彼女は、1ヶ月くらいならアトラスを貸し出しても良い、と考えたようだ。
「・・・一ヶ月か・・・うむ。よいだろう」
「私も構いません!何度戦おうとも、その都度、勝てばいいだけの話ですから!」
「も、もがぁ・・・」
「ふっ・・・。ならば、決まりですね〜」
「あっ、リンゴ飴っぽいのはあるみたいだねー。リンゴって何か分かんないかもだけど・・・」
・・・こうして、祭りの夜に開催されることになったアトラス争奪戦。
コルテックスとしては、昼に開催されていた先の見えるスイーツコンテストなどはどうでもよく、こちらの方が本番の『祭り』だったようである。
「それで・・・最初の勝負の内容は何ですか?」
「我も、まずはそれが聞きたい」
「・・・一参加者である私に任せてもいいのですか〜?」
「・・・はい。コルテックス様なら、アンフェアな内容の勝負は仕掛けてこないと、信じていますので」
「我も、同感だ」
「・・・・・・(2人とも、思ったより、プレッシャーをかけてきますね〜・・・)」
人間には感じられないはずの刹那の時間、一瞬だけ固まってしまうコルテックス。
指摘される前まで、彼女が何を考えていたのかについては、言うまでもないだろう・・・。
しかしコルテックスは、計画を変更すること無く・・・当初の予定通り、アトラスを誰にも渡さないようにするためのプランを実行に移すことを決意したようだ。
その結果、彼女は不敵な笑みを浮かべて、首を縦に振りながら、こう言ったのである・・・。
「勝負は3本立てですよ〜?まず最初の勝負は・・・・・・魔力射的です!」ドン
・・・こうして、アトラスを懸けた3人(+1人)の少女たちの壮絶な勝負(?)が、祭りで賑やかだった大通りの屋台を舞台に、始まったのである・・・。
どこまで書こうか・・・。
それを悩んでおる今日このごろなのじゃ。
最近、戦闘シーンが無いゆえ、少しくらい詳しく書いてもいいかとも思うのじゃが・・・そうなるといつまで経っても話が進まぬ、という問題が生じてしまうのじゃ。
さっさと7.5章に入って・・・・・・いや、なんでもないのじゃ。
さて。
今日の補足なのじゃが・・・特に無いと思うゆえ、省略させてもらうのじゃ。
・・・あ、一つだけ。
地下工房がどうなっておるのか・・・。
これはそのうち取り上げる予定な故、しばらくお待ち下さいなのじゃ?
・・・ただし、いつも通り、妾が覚えておれば、のう?
まぁ、これに関しては、忘れぬとは思うがの。
・・・というわけで、質問に答えるコーナーなのじゃ。
前回のユキ殿からの質問は・・・この世界の果実について教えてほしい、という話だったのじゃ。
ちなみに、最初に言っておくのじゃが、ワルツたちの料理がうまくいかない原因に、この世界の果実は、まったく関係ないのじゃぞ?
料理が出来ないのはそれはそれで別の原因があるのじゃ。
実は、本文の中に、その答えが書かれておるのじゃが・・・それに気づいておる者は恐らくいないじゃろうのう・・・。
・・・まぁ、それはシンクの中にでも置いておいて、なのじゃ。
この世界の果実は、現代世界のものと、大体同じなのじゃ。
食物連鎖を考えるなら、環境が地球とほぼ同じこの星では、大きく生態系が変わるということは無いからのう。
果実を種ごと食べた動物が、どこか遠くで糞をして、植物の種を運び・・・そして、そこで植物が再び根を下ろして成長する・・・。
その全体のメカニズムは、食物連鎖、という言葉を使えば、わざわざ説明せんでもよいじゃろうか。
そこまでは、地球の植物たちと大差は無いのじゃ。
じゃが・・・大きく異なるのは、環境に魔力が存在するか否か・・・。
この惑星では、魔力という超物理的な要素があるゆえ・・・例えば、ヘルチェリーを加熱した際に起こるようなカプサイシンの生成や、あるいは金剛梨のようにとてつもなく硬い表皮を形成するなど、地球では考えられないような独自の進化を遂げた植物が幾つもあるのじゃ。
簡単にいえば、魔力を持った動物・・・いわゆる魔物の、その植物版、なのじゃ?
で、ヘルチェリーに関して、もう少し詳しく述べると・・・体温の高い動物、例えば火竜や飛竜などの口の中で炎を生成するような魔物には食べられたくない、という進化を遂げたようじゃのう。
何故、食べられたくないのか、という点については、幾つもの可能性が考えられる故、ここでは省略するのじゃが・・・彼らにとっては、ドラゴンたちに食べられても、得は無かったようじゃのう。
・・・いや、逆にドラゴンたちが、辛いもの好きと言う可能性も否定はできぬがの?
その他、ヘルチェリーには親戚がおるのじゃが・・・今日は取り上げず、そのうち紹介することにするのじゃ。
・・・例えば、レインボーチェリーとか、アシッドチェリーとか・・・。
果実についての説明とは、何となく論点が違うような気がしなくもないのじゃが・・・質問自体が、訳の分からない質問だった故、今日の回答はこんなところで良いかのう?
というわけで、次回の質問は・・・
『サウスフォートレスの歴史について説明したいんだが・・・その時間が無いんだ。テレサ?私の代わりに説明してくれないか?』
という、狩人殿の質問・・・というか依頼を引き受けようかと思うのじゃが・・・時間が無いのは、妾も同じなのじゃ!
自分でやるが良い!なのじゃ!




