7.4-21 王都のお祭り21
ルシアが狩人を救出していた議員宿舎の外側では・・・
「・・・シラヌイ?世界樹って・・・どういうこと?」
巨大な植物の根が土を掘り返したことによって、今にも崩れてしまいそうになっていた議員宿舎に対し、重力制御を掛けながら、近くにいたシラヌイに問いかけるワルツの姿があった。
・・・とはいえ彼女は、ぐったりとしたまま、うつ伏せの状態で地面に倒れていたのだが・・・。
「えっと・・・ワルツ様?あの、どう反応すればいいのでしょうか・・・?」
「・・・気にしないで。これが仕様だから・・・」
「あ、はい・・・。えっと・・・世界樹がどうこう、という話でしたね」
文字通り、気を取り直した様子で、深く突っ込まずに、世界樹について話し始めるシラヌイ。
彼女は、ワルツの言葉通り、いまさらに気にしたところで仕方がない、と考えて、余計な思考を停止したようである。
「・・・世界樹というのは、私が生まれ育った国・・・つまり、魔王ベガ様が治める国の王都に生えている巨大な樹の事です。見た目が、ほとんど同じだったので、思わず『世界樹』などと言ってしまいましたが・・・もしかすると、ちゃんと調べたら、違う樹かもしれません」
「ベガんところにある樹、ね・・・」
植物属性(?)な魔王ベガのことを思い出して、十分ありえる、と納得するワルツ。
ミッドエデンから逃げる際、一本の立派な薔薇を身代わりにして転移魔法(?)を行使した彼女が治める国なら・・・ファンタジーな植物の一つや二つくらいありそうだ、とワルツは考えたようだ。
「でも、世界樹じゃなかったとしても・・・何で急にあんなものが工房に生えたのかしら?」
「それは・・・ちょっと私にも・・・」
シラヌイはワルツの問いかけに対して、首を傾げなら、困惑気味に言葉を返した。
どうやら、魔王ベガが治めていた国の出身である彼女にも、原因は皆目見当がつかなかったようだ。
しかし、その直後、シラヌイは腕を組んで考え込みながら、こんなことを口にする。
「植物なのですから・・・種子のようなものが、この地の地面に埋まっていたとしか考えられませんよね・・・。まさか何もないところから植物が生えてくるなんて、ありえませんから・・・」
その瞬間、
「・・・・・・あ」
うつ伏せだったために、顔は見えなかったが、おそらくは『あ』を発音した口にしたまま、固まっただろう狐娘姿のワルツ。
それから彼女は、寝転がったまま、機動装甲に搭載されていたカーゴコンテナを顕現させて、その中に手をいれると・・・散らかっていたコンテナ内を乱暴にかき混ぜながら、何やら探しものを始めたようだ。
そしてしばらく経って・・・
「・・・無い」
・・・そんな結論を口にした。
「無い・・・?一体、何が無いのですか?」
「ユキの身体に埋め込まれてたやつ」
「えっ・・・?」
「拳大のグロテスクな卵状の黒い物体なんだけど・・・」
「・・・・・・」
「今思い出しても、あれが植物の種だったような気がするのよね・・・」
「・・・・・・」
「・・・?どうしたのシラヌイ?」
「い、いえ・・・。隣国の魔王さまは、相当な苦労をされてるんですね・・・と思いまして・・・」
「そうよね・・・・・・って、ベガの国って、ボレアスの真横だったの?」
「はい。国が細長いので、王都の位置はボレアスとの国境からは遠いですが、一応隣国です」
「ふーん・・・。なんか、夏と冬の大三角形とか、全然関係ない感じね・・・」
「・・・え?」
「ううん。なんでもないわ」
ベガとシリウスの国は、離れた場所にあると思っていたら、実は真隣で・・・しかし、首都はやはり遠い、と聞いて、その位置関係を頭の中で整理しようとするワルツ。
しかし、彼女の知っている魔族の国は、ベガの国と、ユキが治めていたボレアス帝国しか知らないので・・・魔族国家のパズルは、まったく埋まる気配を見せていなかったようだ。
それからワルツが頭の中で、2国を取り囲む他の国を、全て魔王アルタイルの国に置き換えてから、四面楚歌もいいところね・・・などと考えていると、周囲から不意にこんな言葉が飛んで来る。
「あれが噂のワルツ様らしいぞ?」
「・・・死体?」
「いや、さっき動いてるのを見たぜ?」
自作のスイーツを食べたせいで腹痛を起こし、ぐったりとした姿を現したワルツの姿を目撃した、王城職員たちの声である。
彼女の姿は、単に地面に伏せているだけなら、行き倒れた黒い狐娘のようにも見えなくなかったが・・・会場からここまで移動してくる間、ずっとホログラムの身体を引きずってきたことが、裏目に出てしまったようだ・・・。
(・・・もう倒れた時点で諦めてたけど、引きずってきたのは、流石に拙かったわね・・・。さて、どうしようかしら?)
自身が不可解な行動を見せていた事には自覚があって・・・しかし、それでも、誤魔化すことを諦めていない様子のワルツ。
現状からの起死回生を図るためにはどうすればいいのか・・・、彼女がそんな無駄なことを考えていると、民衆の中に、ある一つの流れが生じる。
「なぁ?今日は祭りの日だよな?」
「あぁ。『スイーツ』なんて余計な言葉は付いているが、祭りの日だ」
「・・・何の祭だ?」
『えっとねぇ。国に安定をもたらしたテレサちゃんや、ワルツお姉ちゃんを崇める祭りじゃない?(私のことは祝わなくていいけど・・・)』
『・・・あぁ、そうだとも。今日はワルツを祝う祭だ・・・!ぐふっ・・・』
「あぁ、そうだな!祭りには祝う対象が必要だよな!」
「そうだそうだ!」
「・・・なんでルシアと狩人さんが、民衆に混じってるのよ・・・」
『うぉぉぉぉ!!』
そして、急に盛り上がり始めた、むさ苦しい王城の男たち・・・。
その勢いは、彼らだけでなく、空飛ぶエネルギアを嬉しそうに眺める子どもたちや、そんな子どもたちと手を繋いで歩いていた母親、そしてその友人や、家族、知り合いへと、徐々に伝搬していき・・・
『わぁぁぁーーー!!』
・・・いつしか、王都の中は、歓声に満ち溢れていた。
『魔神ワルツ様ー!』
『(元)王女テレサ様ー!』
『勇者ルシア様ー!』
『あっ・・・あと、カタリナ様ー!』
と、王都の中に響き渡る、4人の名前を呼ぶ声。
中には、狩人やアトラス、そして一部のコアなファンたちに支持されているコルテックスに向けられた声もあったようだが・・・大体はその4人に向けられた言葉が多かったようである。
「・・・ホント、こういうのやめてほしんだけど・・・」
人からの注目を浴びることに慣れていないためか、横たわる身体を、その姿勢のままで引きずりながら・・・
ドゴォォォォ!!
っと、今の時間帯的に、人が少ないだろう王城の中へと、逃げていこうとするワルツ。
そんな怪しげな移動しながら、どうやって寝たまま扉を開こうか、とワルツが考えていると・・・植物の根の侵食によるダメージが小さかった王城の扉を内側から開けて、逆方向からコルテックスが姿を現した。
そしてコルテックスは、見えない馬に引きずられているような姿で移動を続けていたワルツを見つけると、嬉々とした表情を見せながら駆け寄って、こんなことを口にする。
「お姉さま〜?あの大木が邪魔なので、ちょちょいと伐採してもらえないでしょうか〜?それも、できれば今すぐに。そして、祭りの『夜の部』がちゃんと始まるように・・・」
するとワルツは、ぐったりとしたままの身体をその場で止めると、顔を上げずにコルテックスへと返答する。
「・・・見りゃ分かるでしょ?樹なんて、あろうがなかろうが、この街の住人たちは、祭りを続行する気満々よ?放っとけば、その『夜の部』とかいう祭りの後半部も、勝手にやるんじゃない?きっと」
「・・・そうですかね〜?」
「・・・変なところ鈍感ね・・・」
空気が読めない自身でもはっきりと分かっていたにも関わらず、現状を理解ができなかったのか首を傾げていたコルテックスに対して、呆れた表情を向けながら思わず呟くワルツ。
ともあれコルテックスは、姉の言葉を聞いて安心したような表情を浮かべると、そこから見えていた市民や王城職員たちに対して・・・
「・・・ひれ伏せ〜!愚民ども〜!」
・・・などと口にしてから、踵を返して、満足気に王城の中へと戻っていったようである。
その際、本当にひれ伏していた者が何名かいたようだが・・・おそらく彼らは、偶然、石か何かに躓いてしまったのだろう・・・。
(おかしいわね・・・。なんか最近、市民たちの行動が、徐々に変わっていってるような・・・・・・ま、いっか)
一定の距離は保っていたものの、自分たちに向かって熱い視線を向けてくる市民や王城職員たちの姿を見て、伏せたままの姿で、腕を組みながら首を傾げるワルツ。
徐々に変わっているのは、果たして市民たちの方なのか、はたまたワルツの方なのか・・・。
そのことを深く考えること無く、ワルツは階段の角に頭をぶつけながら、王城の中へと姿を消していったようだが・・・事実上、植物に工房を潰されてしまった彼女に、王城の中に居場所があるかどうかは・・・不明である。
・・・今日は、時間的に、体力的に、辛かったのじゃ・・・。
仮眠も取っておらぬし、デッドラインまで2時間しか無かったからのう・・・。
まぁ、それは良いのじゃ。
問題は・・・今日のような書き方はしたくなかった、ということなのじゃ・・・。
0時目標の書き方は、ライフスタイル的に、そろそろ破綻の時期を迎えておるのかも知れぬのう・・・。
本当は、もう少し丁寧に王都民たちの話を書きたかったのじゃ。
もしも修正が入るなら・・・おそらくはその辺の追記がなされるのではなかろうかのう。
少なくとも今は・・・頭が回らぬゆえ、省略させてもらうがの?
・・・というか、もうダメなのじゃ・・・。
夕食も取らずに寝るのじゃ・・・ポテチ食べたがのう・・・zzz。




