7.4-20 王都のお祭り20
「雑草って〜・・・どんなに抜いても、いくらでも生えてくるので、困っちゃいますよね〜。ね〜?アトラス〜?」
「はぁ・・・。ぜってーそんなこと思ってないだろ?最悪、人海戦術で焼き払えばいいとか考えてんだろ?」
「いえいえ〜。そんなことはないですよ〜?私が動く前に、全部アトラスが片付けてくれるものだと信じていますからね〜。こう、一本一本ブチブチと〜」
「・・・ねぇよ!」
王城の最上階(3階)にあった北側の会議室のテラスから見える光景に眼を向けながら、いつも通りにそんなやり取りをするコルテックスとアトラス。
2人の眼には、見渡すかぎりの雑草・・・ではなく、街の北側にあったエネルギアの入出用ハッチから立ち上る(?)、大量のツタのようなものがからみ合って構成された、巨大な樹のようなものの姿が見えていた。
「一思いに、空中から除草剤をばらまきたいところですが、強力な除草剤の開発が終わっていない上、そんなことをしたらお姉さまに怒られてしまう、ってところが難点ですよね〜」
「いつも、怒られることなんて気にしてないだろ・・・」
「はい。怒られたこと無いですから〜」
「・・・・・・はぁ」
悪びれた様子のないコルテックスを前に、再び深いため息を吐いてしまうアトラス。
とはいえ、コルテックスの言葉を言い換えるなら、自発的に自然破壊をするようなことは無い、と言っているようなものなので、基本、保守的な思考を持つワルツと対立するようなことにはならないだろう。
むしろ逆に、ワルツの方が、本気で除草剤を散布したいと思っているようだが・・・。
「でもどうするよ?アレ。さすがの俺でも、あのサイズになったら、引っこ抜くとか無理だぜ?」
アトラスはそう言うと、王都の上空を覆い尽くすように茂っていた巨大な植物を見上げて、腰に手を当てながら、呆れたような表情を浮かべた。
彼のその視線の先では、直径数百メートルにも及ぶ大きな幹から、これまた尋常ではない大きさの枝と葉が、太陽の光を求めるようにして、空へとその腕を伸ばしていた。
下から見上げると円形に広がっていた枝と葉の領域の大きさは、優に数キロメートルにも及び、その一部は王都の街の上にも掛かっていて、太陽の日差しを遮っているようである。
そこから見る限りでは、太陽が遮られている以外に、王都に何か影響があるようには見えなかったが・・・得体の知れないものである以上、対応をしっかりと協議しなくてはならないことについては、言うまでもないだろう。
「でも、正直な話、別に良いのではないですか〜?放っておいても〜」
・・・まぁ、この国の実質的なトップに、それを気にした様子は全く無いようだが・・・。
「というか、そんな話はどうでもいいんです。問題は、お祭りの『夜の部』が、決行できるかどうか〜・・・それだけが、問題です!」ドン
「いや、そんな事言われても・・・俺たちだけで決められる話じゃないと思うんだが・・・。飽くまでも、お祭りの主役は、俺たちじゃなくて市民たちなわけだし、みんなが『お祭りしてる場合じゃねぇ!』なんて言い始めたら、どうしようもないだろ?」
「・・・・・・くっ!」
アトラスの言葉に、一瞬だけ考えこんだ様子を見せてから、苦虫を噛み潰したように、歯を食いしばるコルテックス・・・。
どうやら彼女は、フェスティバルの『夜の部』で何かをしようと企んでいたようだが、現在の公算のままでは、それがご破算になってしまう確率の方が高いと考えたようで、どうにか打開策がないかを必死になって考え込んでいるようだ。
「この感じ・・・お前、また、ろくでもないことを考えてるだろ・・・」
「ろくでもないとは失礼な〜・・・。否定はしませんけどね〜?」
「否定しろよ・・・むしろ、否定してくれよ・・・」
コルテックスの『ろくでもない考え』には、これまでの経験から、自分が犠牲になる可能性が非常に高かった(100%)ので・・・アトラスは、横暴な妹に対して、疲れたような視線を向けた。
しかし、妹の方には、それを気にした様子はなく・・・
「・・・こうなったら、実力行使に出るしかありませんね〜・・・」
コルテックスはそう呟いてから、巨大な樹に対して背を向けると、何処かへと向かってその足を進めたのである・・・。
一方、その頃。
「・・・大丈夫かな・・・」
同じく王城の敷地内にあった議員宿舎の一室のベッドの中には・・・包まった毛布から尻尾だけを出して、その中で縮こまっている狩人の姿があった・・・。
彼女は、ルシアとカタリナに対してスイーツの作り方を教えて、その味見をした結果、今まで自室で撃沈していたのだ。
それでも、最後に味見をした時には、比較的マトモだったので、残された時間との兼ね合いもあって、仕方なくゴーサインを出したのだわけだが・・・サインを出した後で、しばらく経ってから、猛烈な腹痛と頭痛と倦怠感に襲われてベッドから起き上がれなくなり・・・そして今に至る、というわけである。
まぁ、それだけなら、大きな問題ではないだろう。
問題は・・・2人の作った料理が、不特定多数の市民たちに振る舞われる可能性があったことだった。
結果は・・・少数の犠牲者を出すだけで、大きな問題にはならなかった(?)わけだが・・・それを知らない狩人は、この数時間のあいだ、起き上がれないベッドの上で、ひたすら後悔の念に苛まれていたようだ。
時折、外から聞こえてくる轟音や叫び声、それに僅かながらの振動なども、彼女の不安を煽る要因となっていたようである・・・。
・・・料理と轟音が思考的に繋がるというのもおかしな話だが、そこは流石、ワルツたちと付き合いの長い狩人らしい考え方、と言えるだろう。
「(うぅ・・・困った・・・。薬をもらおうと思ったんだが、原因がカタリナたちだから、どんな顔をして薬を貰いに行けば良いのか分からないんだよな・・・)」
身体の不調の原因が、カタリナ本人にある、と言ったときに、彼女がどんな顔をするのか怖くて、薬を貰いに行け無かった様子の狩人。
これが単に、『料理の味見をしてほしい』と言われて、試食をした結果の出来事なら、正直に申し出ても問題にはならないはずだが・・・狩人は自身が『お墨付き』を出した料理で、遅効的に中ってしまったので、今更、文句を言うわけにはいかなかったようである。
「(仕方ない・・・。風邪を引いたということにして、今日は大人しく寝ておこう)」
そんな結論にたどり着いて、布団に包まったまま、外に出していた尻尾を力なく横たわらせる狩人。
・・・と、そんな時である。
ドゴォォォォン!!
という爆音が響き渡ってくると同時に、不意に部屋が大きく揺れた。
「・・・?!かはっ・・・!」
突然の出来事にベッドから立ち上がろうとする狩人。
しかし、彼女の体調は最悪だったらしく、一時的に起こした上半身は、すぐに再びベッドへと吸い込まれてしまったようだ。
「に、逃げなくては・・・」
今にも崩れそうな石造りの宿舎の天井と、奇妙に波打つ床の姿を見て、彼女は再び起き上がろうとするものの・・・
「む、無理だ・・・」
身体に力を入れれば入れただけ、脂汗が滴ることはあっても、身体が動こうとする気配は一向に無かったようである・・・。
その直後・・・
ドゴォォォォン!!
波打っていた地面から、緑色の何かが姿を見せ、ベッドの真横にあった本棚を容赦なく倒してきた。
「(あ・・・大規模魔法の本ばかりじゃなくて、もっと初歩的な魔法が書かれた小さな書籍を買っておくんだった・・・)」
ゆっくりと自身に向かって倒れてくる本棚と、その中にあった使えもしない広域殲滅魔法の書かれた書籍に目を向けながら・・・これが、自身の最期の瞬間かもしれない、と思いを馳せる狩人。
狩りや戦いの中で死ぬのではなく、自身の偏った勉学が原因で死ぬというのは嫌だな・・・などと思いながら、彼女はとっさに頭を手で守って、防御の体勢を取った。
せめて、手足の粉砕骨折くらいなら、カタリナに直してもらえるだろうか、と考えながら・・・。
そして本が打つかろうという瞬間に、彼女は、とある者の名前を呟いたのである。
「・・・ワルツ」
ドゴォォォォン!!
そして、周囲に飛び散る、1つ10kgはありそうな巨大な本たち・・・。
こうして狩人は、呆気無く天へと旅だった・・・・・・わけではない。
本が床へと落ちきったというのに、狩人の身体には、まったく痛みも・・・それどころか本が触れた感触すらも無かったのである。
その代わりに、彼女の耳には、聞き覚えのある声が聞こえてきたようだ。
「何やってるの?狩人さん・・・」
「あ・・・え?・・・ルシア?」
「うん。ちょっと、大問題があって、王城から人を避難させてたんだけど・・・まさか、狩人さんが逃げてないとは思わなかった。一番最初に逃げると思ってたんだけど・・・」
「・・・うぅ・・・面目ない・・・」
自身に襲いかかろうとしていた分厚い本を、火魔法を使って一瞬で灰へと変えて・・・そして呆れたような表情を浮かべていたルシアに、狩人は思わず目尻に涙を浮かべながら頭を下げた。
そして無事に助け出された狩人は、自分を救ってくれた勇者に対して、正直に事の次第を説明したようである。
その結果、逆にルシアからも謝罪の言葉が飛んできたようだが・・・その後で、しばらくの間、2人が浮かべていた微妙な表情については、詳しく述べずとも、おおよそ想像が付くのではないだろうか・・・。
何度も読み返しておって、思ったことがあるのじゃ。
『全て』という言葉。
いつも口に出して読みながら3回修正を入れるのじゃが、どういうわけか、今日は『全て』という言葉に、3回とも引っかかってしまったのじゃ。
1回や2回くらいなら、まぁよいか、で済ませることができるかも知れぬのじゃが、3回となると、やはり何か問題があるやも知れぬ・・・というわけで、今回からひらがなで書くことにしたのじゃ。
こうして、文の書き方にアイデンティティが出てくるのかも知れぬのう・・・。
まぁ、それは置いておいて、今日も補足に入るのじゃ。
・・・そうそう。
すごく今更感があるのじゃが、『はぁ・・・』と『はあ・・・』の使い分けについて、取り上げておこうと思うのじゃ。
一言で言うなら、『はぁ・・・』が溜息、『はあ・・・』が呆れの表現なのじゃ。
『あ』を発音するか、単なる息の漏れとして表現するか・・・。
そんな違いがあるのじゃ。
・・・本当、今更感があって申し訳ないのじゃが、これらには違いがあると思って読んでもらえると幸いなのじゃ。
で、次。
崩れそうな宿舎の中を、実質的な防御力が0付近を彷徨っているルシア嬢が、安全に、そして高速に移動できた理由について。
以前、エネルギアの中を、超高速でルシア嬢が移動した話があったと思うのじゃが、それと同じ理由なのじゃ。
・・・あれ、勇者と能力を対比するためのネタではなのじゃぞ?
ちゃんとした理由があるのじゃ。
それを語るためには・・・・・・おっと、説明するための材料が一つ足りないのじゃ。
これについては、本編でもそのうち取り上げるつもりなのじゃ。
まぁ、大した理由ではないゆえ、適当に読み流して貰えると助かるのじゃ。
今日は、こんなところかのう。
で、質問への回答は・・・今日はマトモに補足を書いたゆえ、次回以降に回させてもらうのじゃ。




