7.4-17 王都のお祭り17
・・・その直前のことである。
王城の地下にある大工房の中では、イブを司令官(?)とした、植物の駆逐作業が進んでいた。
しかし・・・確かに作業は進んでいて、みるみるうちに植物は少なくなりつつあるはずなのだが・・・
「・・・うぅ・・・」
剣士たちやシラヌイたち、それにドラゴンたちに向かって指示を飛ばしていたイブの表情は・・・どういうわけか優れなかったようだ。
「・・・どうしたんですか?イブちゃん?」ドシャァッ
イブが植物の特徴から読み取った、その根幹部分と思わしき部位を狙ってフォージハンマーを振り下ろしながら、現場監督に対して問いかけるシラヌイ。
現状を鑑みるなら、作業は順調に進んでいるのだから、どこにも表情を曇らせてしまうような要因はなかったはずなのに、一体何故イブは悩ましげな表情を浮かべているのか・・・シラヌイには分からなかったようだ。
そんな心配そうなシラヌイの問いかけに対して、イブは・・・
「んー・・・なんかさー。イブにも、力があったらな、って思って」
ため息のような小さな唸り声を上げながら、そんな言葉を口にした。
その場にいたシラヌイ、剣士たち、ドラゴンたちだけでなく・・・仲間たちの殆どが、人並み外れた体力や魔力を持っている姿を見て、彼女は自身の非力さを未だに悩んでいたようである。
「気にしなくてもいいのではないでしょうか。そのうち、大きくなったら、体力くらい、勝手に身につくと思いますよ?・・・実は、私もそう信じてる一人なんです」
「・・・え?」
ただでさえ、『馬鹿力』としか言いようの無い腕力でハンマーを振り下ろしているというのに、それでは飽き足りず、未だ力を欲している様子のシラヌイに対して、思わずその言葉の真意を聞き返してしまうイブ。
しかし、シラヌイの言葉の意味は、イブが聞いた通りのものだったようだ。
「おじいちゃんや・・・えっと、私の出身の村のみんなの力って、本当にすごいんですよ?1人1人が大きな山を一個まるごと吹き飛ばすくらいの腕力を持っているんですから!」ドゴシャッ
「・・・そ、そうなんだ・・・」
身長の小さなイブから見て、シラヌイが一撃で潰す植物のその根幹部は、彼女にとって、すでに山のようなサイズに見えていたようで・・・イブは、シラヌイが欲しているものが、本当に力なのかどうなのか、よく理解できなかったようだ・・・。
まぁ、それはシラヌイに限ったことでも、いま始まったことでもないので・・・イブはすぐに気を取りなおすと、シラヌイの話を聞いていて湧いてきた別の疑問を口にした。
「でもさー?どうしてシラヌイちゃんは、そんなに力が欲しいの?」
「それは・・・多分、イブちゃんと同じ理由だと思いますよ?」
「・・・いつも理不尽なことばっかりしてくるワルツ様をボッコボコにしたいからとか?」
「・・・・・・」
目の前にいる8歳児は、一体何を考えているのか・・・。
シラヌイはこめかみが痛むのか、その部分に手を添えつつ、苦笑を浮かべながら口を開いた。
「えっと・・・私の場合は、いつかおじいちゃんを超えることが、目標なんですよ。だから、もっと、緻密で繊細で・・・それでいて大きな力が欲しい。それを身につけるために、世界を旅していたんです」
「ふーん・・・。今でも十分だと思うけどなー」
「そうだといいんですけどね・・・」
そう言って、ハンマーを一旦地面に置いてから、天井の方へと目を向けるシラヌイ。
そこには薄暗い暗闇が広がっていただけだが・・・恐らく彼女の視界には、それとは異なる何かが浮かび上がってきているに違いない・・・。
「(難しい話かもだね・・・)」
シラヌイを取り巻く目には見えない彼女自身の問題に対し、思慮を巡らせながら、目を細めるメイド姿のイブ。
それから、自身の世界へと入り込んでしまったシラヌイのことは、とりあえずそこに置いておいて・・・次にイブが視線を向けたのは、エネルギアの船体の方であった。
すると、そこには・・・
「うおぉぉぉぉ!」
ドゴォォォォン!!
と、巨大な剣を振り回している剣士の姿が・・・。
「んはっ!?ご、豪快かも・・・?」
最早、切るのではなく、叩き潰している様子の剣士に対して、驚嘆の声を上げるイブ。
一方、視線を向けられた剣士は・・・
「う、腕の・・・感覚が・・・もう・・・無いんだ・・・。エネルギア・・・」
そんな片言の言葉を、自身の身体に鎧のような形になって纏わりついていたエネルギア(ミリマシン)へと、今にも死にそうな声色で呟いていたようだ・・・。
・・・しかし、
『消えろ!僕の身体に近づくな!この触手どもめ!』
・・・剣士の言葉に、耳を傾けるつもりの無さそうな様子のエネルギア。
どうやら狂戦士になっているのは・・・剣士の方ではなく、エネルギアの方だったようだ。
「・・・剣士さんが剣を握ってる意味、無いかもだよね・・・」
一応は、雄叫びを上げて、闘志をむき出しにしていた様子の剣士だったが・・・・・・よく考えてみると、それは雄叫びではなく、苦痛のために上げた悲鳴なのではないか、と思い始めたイブ。
とはいえ、彼女にできるのは、的確な攻撃の方法を教えることくらいであって、戦いそのものの方法が間違っていることを、面と向かって伝えることは出来なかったらしい。
もしも、今のバーサーカー状態のエネルギアの反感を買うようなことがあったなら・・・非力な自分は、物理的に滑らかな平面のように一切の抵抗なく、エネルギアに消されてしまう・・・イブは、そう思ったに違いない・・・。
ともあれ。
今のエネルギアの戦い方が、あまりに非効率的な動きへと逆戻りしていたので、イブは再度、戦い方について、指摘し始めた。
「エネルギアちゃん!さっきイブが言ったみたいに、ちゃんと植物の弱点を狙って攻撃しないと、切っても切っても意味ないかもだよ?」
『あ、そうだった』
そして再び、剣士を駆って、的確に攻撃を再開するエネルギア。
・・・しかし、彼女の植物に対する嫌悪は、そろそろ限界の危険水位を超え始めていたらしい・・・。
『・・・ごめんね、ビクトールさん。もう我慢できない!』
エネルギアは、そう口にすると・・・疲労のために足手まといになりつつあった剣士の身体から剥がれて、床へと黒い水たまりのようなものを形作った。
その瞬間・・・
ドサッ・・・
と地面に崩れ落ちる剣士。
その様子は、糸を切られたマリオネットそのものと言っても過言ではないだろう・・・。
まぁ、崩れ落ちたのは、人形でもロボットでもなく、生身の人間だが・・・。
『今こそ、みせてやるんだから!』
大好きな剣士と一緒に戦っていたものの、いつまで経っても消える様子のない植物に対し、業を煮やした様子で、ミリマシンの身体全体を震わせて、そんな音声を発するエネルギア。
それから彼女は、自身の姿を構成していたミリマシンの形を変えて、幾つかの小さな槍のような姿と変形すると・・・
『いっくよー?』
ドシュンッ!
と、複数の場所で蠢いていた、植物の根幹部分めがけて飛び跳ねて・・・そして着弾して突き刺さった瞬間に・・・
ドパァンッ!!
とその身体を弾けさせた。
例えるなら、榴弾が仕込まれた矢のように、である。
「・・・それができるなら、最初からやればいいなのに・・・」
「イブちゃん・・・。世の中には、簡単に説明できない色々な不条理があるんです・・・」
エネルギアが本気の攻撃(?)をした瞬間から、大半の植物のツタが枯れ始めた様子を見て、呆れたような表情を浮かべるイブとシラヌイ・・・。
この3日間、一体自分たちは何のために植物と格闘していたのか・・・彼女たちの顔に、やりきれなさそうな表情が浮かんでいたことについては、言うまでもないだろう。
・・・まぁ、例外もいたようだが・・・。
「ふぅ。では、休憩もこのくらいにして、我らのブレスを浴びせかけましょうぞ?水竜殿?」
「ふむ。テレサ様やコルテックス様、それに主様のためにも、ここいらで一肌脱ごうか、飛竜よ!」
ドゴォォォ!!(元の姿に戻る音)
「・・・で、植物はどこだろうか?」
「む?おかしいのう?さきほどまであんなにあったツタが無くなっておるようだ・・・」
どうやら、ドラゴンたちは、マイペースに休憩をしていたため、何が起ったのか理解していなかったらしく、元のドラゴンの姿に戻ったはいいが・・・そのブレスの矛先をどこに向けていいのか分からなくなってしまっていたようだ。
・・・しかし、である。
「む?あの得体のしれない植物は、我らの知らないうちに、大分数を減らしたようだが・・・まだ残っているようですな?」
そう言って、ドラゴン化したために大きくなっていた自身の指で、工房の壁に突き刺さるようにして残っていたシラヌイ製の折り鶴を差す飛竜。
そこからは、少量ながらも、未だにツタが見え隠れしているようで・・・エネルギアの一撃だけでは、植物は完全に駆逐できていなかったらしい。
飛竜の指を追って視線を向けた水竜もそれに気づいたらしく・・・彼女は、その植物に対して満足気な表情(?)を見せながら、その口を開く。
「ふっふっふ・・・まるで、火に入る夏の・・・何と申したか?」
「む・・・む・・・・・・思い出せないので、この際、なんでも良いのでは?」
「・・・そうだな。まぁよい。行くぞ?カリーナよ!」
「アルゴ様にタイミングは合わせる故、どうぞ!」
そして、折り鶴に向かって・・・
ドゴォォォォ!
ドゴォォォォ!
と、水と炎のブレスを浴びせかける水竜と飛竜。
そんな彼女たちのブレスは、折り鶴に当たった途端、相殺して消える・・・のではなく、水竜の放った水のブレスを、飛竜の炎のブレスが蒸発させ、水蒸気爆発のような現象を引き起こすはずであった。
そう・・・『はず』だったのである。
・・・しかし、そうはならなかった・・・。
ドクン・・・
まるで、心臓の鼓動のような・・・あるいは、液体を飲み込むような音が、謎の植物の発生源となっていた折り鶴から聞こえたかと思うと、
ギュォォォォ!!
と、水蒸気爆発を起こす前のドラゴンたちのブレスを、その身体全体で吸収し始めたのである。
「・・・?」ドゴォォォォ
「・・・?」ドゴォォォォ
ブレスを吐き続けながらも・・・思ったような現象が起こらない上、まったく手応えが無かったことに、首を傾げるドラゴンたち。
それを見ていたイブもシラヌイも、言葉に出来ない違和感を感じ初めていたようだ。
「・・・なんだろう・・・。何か、拙い気がする・・・」
「・・・奇遇ですね。なんというか・・・エナジードレイn」
とシラヌイが、その現象を説明する言葉として、これ以上ないほどに的確な表現を口にしようとした・・・その時であった。
ドゴォォォォ!!
まるで爆発するかのように、折り鶴から再び触手のような植物のツタが、猛烈な勢いで生え始め・・・
ドゴォォォォン!!
地面や天井や壁、それにエネルギア本体へと衝突し、触れたもの全てを侵食しようと動き出したのである。
どうやら、死にかけていた植物が、ドラゴンたちの放ったブレス・・・すなわち、高いエネルギーを持った魔力を吸収して、すさまじい速度で自己再生を始めたようだ・・・。
お、終わったのじゃ・・・。
いや、何か大事なことが手から零れ落ちた、と言う意味ではないのじゃぞ?
この1週間、凄まじい忙しさだったのじゃが、どうにか乗り切った、と言う意味で、無事に終わった、ということなのじゃ。
・・・とは言ってものう。
・・・眠いのじゃ・・・。
・・・眠すぎるのじゃ・・・。
仮眠も取っていなければ、朝5時起きで、乗り物に揺られて・・・まぁ、要するに・・・
・・・眠いのじゃ・・・。
じゃから、今日も申し訳ないのじゃが、あとがきはお休みさせてもらうのじゃ。
明日は間違いなく書く・・・予定・・・なのじゃ?




