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7.4-16 王都のお祭り16

カタリナ殿がおるから、グロ注なのじゃ!

『うまっ!』


「もう・・・妾の作ったスイーツなどどうでも良いから、さっさと次の作品の試食でもするのじゃ・・・!」キラッ


そう言って、目尻に輝く何かを、和服の袖で押さえながら、何処かへと走り去っていくテレサ・・・。

どうやら彼女は、直前の審査員たちの心ない(?)言動を前に、傷ついていたらしい・・・。


「・・・これ拙いんじゃないか?」

「・・・お前が余計なことを言うからだぞ?見た目は・・・確かにアレだが、味は美味しかったのに・・・」

「・・・仕方ない。後でユリアさまにフォローをお願いするか・・・」


と、会話の中に、情報部部長のユリアの名前を出しながら、テレサへの対応を相談する審査員たち。

どうやら、ギルド連合と情報部との間には、何らかの浅からぬ関係があるようだ・・・。


「・・・では、気を取り直して」

「次は、どの作品を?」

「まぁ、決まってるだろうな・・・」


そんなやり取りをしながら、審査員たちが次に視線を向けたのは・・・


(・・・こっち見ないで欲しいんだけど?)


コンテストが始まってから、終始透明な姿をしていたワルツが作った作品(ホットケーキ)であった。

・・・それだけではない。


「時間も押してますから、ここからは平行して試食を進めていきましょう」

「では、私は、勇者ルシア様の方を・・・」

「こちらは、その隣のカタリナ様の作品から試食を進めていこうか」


審査員たちは、ワルツの作品の他にも、その隣にあったルシアのスイーツ(?)と、カタリナが作った作品にも、同時に視線を向けたのである。


「・・・!」ビクッ


「ついにこの時が来ましたね・・・」にっこり


視線を向けられたことを感じて、それぞれに異なる反応を見せるルシアとカタリナ。

その反応は全く異なるものだったかもしれないが、その心持ちは、全く同じだったようである。


数カ月前、不意に2人を襲った、料理ができなくなる呪い(?)。

彼女たちは、今日この日を以って、そんな呪いと決別すべく、コンテストの舞台に立っていたのである。

料理中に何度も繰り返した味見は、間違いなく自分たちの料理が成功していることを物語っており、最早、失敗するほうが難しい状態にあった。


故に、ルシアは胸を張り、カタリナは小さく笑みを浮かべながら・・・2人とも堂々たる態度で、審査員たちが自分のスイーツを試食するその瞬間を待っていたのである。

・・・まぁ、『料理ができない』という点に(こだわ)りすぎて、少々おかしな方向へと熱意が向いている可能性も否定は出来ないのだが・・・。


「あの・・・ルシア様?一体これはどのようなスイーツで?」


見た目に鮮やかなスイーツが並ぶ中で、黄金色のお揚げと、宝石のように輝く銀シャリが、あまりにも異様な雰囲気を放っていたためか、思わず確認してしまった審査員の一人。


「え、これ?稲荷ずし味のスイーツだよ?」


そんな彼に対してルシアは、迷うことも恥ずかしがることも・・・そして悪びれることもなく、どこからどう見ても稲荷寿司にしか見えない稲荷寿司を、稲荷寿司味のスイーツと言ってのけた。

おそらくは、100人が見て、100人とも、それを稲荷寿司と言うに違いない・・・。


「やっぱり、お寿司を食べた後は、お寿司で口直しするのが一番だよね?そう思わない?」


「あ、はい・・・」


心の底から稲荷寿司をスイーツだと思い込んでいる様子で、自作の稲荷寿司を押し付けてくるルシアに対して、何と返答していいのか分からない様子の審査員。

それから彼は疲れたような・・・あるいは諦めたような表情を見せながら、満面の笑みを浮かべながら稲荷寿司型スイーツを差し出してくる幼い狐娘のその作品を、口の中へと放り込んだのである・・・。




・・・一方。

そんなルシアの隣では・・・


「これは・・・金剛梨を使った作品ですかな?」


「はい。見た目は単純な果物の盛り合わせですが、眼を楽しませてくれるようなカッティングを施して、豪華さを演出してみました」


「んー、なるほど・・・」


カタリナが作った、その瑞々(みずみず)しく繊細な果物の盛り合わせを見て、別の審査員が、納得げな表情を浮かべていた。

それは、淡く透き通った金剛梨の表皮部分を小皿にして、色とりどりの果物がゼラチンのような透明なソースで固めてある・・・まるで繊細な工芸品のような、あるいは宝石箱のような華やかしさを秘めている、と形容できそうな作品であった。

医者・・・それも外科医としての色が濃いカタリナらしい作品であると言えるだろう。


「食べるのがもったいないですな・・・」


「いえいえ。これはコンテストですから、食べていただかなくては、呪いが溶けt・・・いえ、なんでもありません。さっ、お食べ下さい」


「えっ・・・?わ、わかりました・・・」


カタリナが一瞬、不穏な発言をしたような気がして、不安な表情を浮かべる審査員。

しかし、カタリナの言う通り、このまま食べずに終わるというのは、彼女の作った作品に対して、あまりに失礼な気がしたようで・・・彼はカタリナに差し出された透明なスプーンを使って、ゼラチンごと果物を掬い上げ・・・そしてそれを口の中へと流し込んだのである・・・。




『うおぉぉぉぉぁぁぁぁぁあ!!』




「やっぱ、ダメだったみたいだね・・・」

「調理らしきことはしていないはずなのに、どうしてでしょうか・・・」


急に叫び声を上げた審査員2人を前に、特に驚いた様子を見せることもなく、まるでそれがいつも通りのことだと言わんばかりの様子で、首を傾げるルシアとカタリナ。

確かに自分たちで味見をした際は、間違いなくマトモなスイーツ(?)だったはずなのに、いよいよ完成品として食される瞬間になると、一変して劇物に変わってしまう・・・。

その原理がどうしても解らなかったためか、2人は深くため息を吐きながら、自分たちが作ったスイーツへと、その視線を向けた。

そして彼女たちは、手元にあった自分用のスプーンを握ると・・・犠牲者たちのことを鑑みて、スプーンの先端に少しだけ乗せるような形で、自分の作品を口に運んだのである。


その結果・・・


「・・・あれ?美味しいんだけど・・・」

「・・・こっちも、普通に食べられるんですが・・・」


と、叫び声を上げるでも、やせ我慢をしているでもなく、自身の作ったスイーツ(?)を味わっている様子のルシアとカタリナ。


「一体、何がダメなんだろう・・・」

「全く分かりませんね・・・」


そう言いながら、先程食べた部分とは異なる別の部分・・・ルシアの場合は最初に食べたシャリの部分ではなく油揚げの部分、そしてカタリナの場合はゼラチンの部分ではなく金剛梨の果肉の部分を、2人はそれぞれスプーンで取って、おもむろにそれを口にした。


・・・その瞬間である。


『・・・!?』


急に顔色と表情が変わるルシアとカタリナ・・・。


「あ、甘っ?!」

「痛っ?!」


どうやら、作った本人に対して、スイーツたちが突然牙を剥いたらしい・・・。

ちなみに、何が起ったのかというと・・・彼女のたちが思わず口にした言葉が、それを全て物語っていた。


ルシアの稲荷寿司の場合は、その皮の味が、どういうわけか甘すぎる状態へと変化していたようである。

スイーツコンテストということもあっても、ただでさえ甘く煮込んでいた皮を・・・朝から数時間に渡って、焦げないように弱火でコトコトと煮込んだ結果、皮に味が染み込みすぎて・・・いや、濃縮しすぎて、劇物並みに甘い物体へと変化していたらしい。

コンテストが始まった最初の内は、頻繁に味見(?)ができていたために問題は無かったのだが、彼女が油揚げの味見をしすぎたせいで、昼を回った段階で、油揚げの残量が少なくなっており・・・午後からは全く味見をせずに、ひたすら煮込んでいたことが、甘すぎる皮を作ってしまった原因だったようだ。


一方、カタリナの場合は・・・金剛梨というものを知らなすぎたことが原因だった。

金剛梨は、普通の植物の果実と同じく、果実が傷ついて表面が乾燥すると、自身を腐敗から守ろうとして、傷ついた部分を硬くするのである。

彼女もルシアと同じく、午前中から飾り付けを始めたせいで、果実の表面が乾燥してしまい・・・その結果、まるでガラスのように硬い薄い膜が、金剛梨の表面をコーティングしていたらしい。

もしも金剛梨が単体で飾られていたなら、その見た目と舌触りで、異常な状態にあることが感じられるはずだが・・・作品の表面に掛かっていたゼラチンがそれを分かり難くしてしまい、結果、プレパレートのように薄く硬いガラスのような薄膜が、口の中で割れて・・・言葉では説明を(はばか)られるような、酷いことになってしまった、というわけである。


「んあーーっ!!」


あまりの甘さが、自身の頭を激痛となって襲いかかったためか、口に含んでいたものを我慢せずに吐き出しながら、頭を抱えてうめき声を上げるルシア・・・。

そして、


「〜〜〜〜っ!!」


と、口の中が酷いことになっていたために、口から血を垂らしながら、声にならない叫び上げるカタリナ・・・。


まぁ・・・2人の能力を考えるなら、大した問題ではないかもしれないが・・・先に味見をした審査員の2人の方が、痙攣を起こして地面をのたうち回っているのは、非常に危険な状態であると言えるだろう・・・。


その結果、


『ひぃっ?!』


その様子を見て、思わず怯んでしまう他の審査員たち。

丁度、ワルツの作ったホットケーキを、口に運ぼうとしていた別の審査員も・・・


「あ、あの・・・審査員を辞退させてもらいます!」


そう言って、せっかく掬ったホットケーキごとスプーンをその場に置くと、一目散に何処かへと走り去っていってしまった・・・。


「・・・どうしていつもこうなるのかしら・・・」


今のところ、100%の確率で、大惨事になる自分たちの調理のことを慮って、頭を抱えるワルツ。

残念なことに、どうやら今回もその運命(のろい)から抜け出すことは出来なかったようである。


「はぁ・・・。ま、別にいいけどさ・・・。でも、誰か、私の料理の味見をしてくれないかしらね・・・」


おそらくは自分の料理も酷いことになっているのだろう、と思いながら、作ってから随分と時間が経ってしまっていたためにしんなりとしてしまっていたホットケーキに、ワルツは悲しそうな視線を向けると・・・彼女はそれをフォークで適当なサイズに切断してから・・・それを自身の顔の近くまで持って来て、


「せっかく作ったんだし・・・自分で味見くらいしなきゃ、もったいないわよね」


フォークの先端に少しだけ付着しているようなホットケーキの破片を・・・自暴自棄的に、自身の口の中へと放り込んだのである。


・・・その瞬間、


ドゴォォォォン!!


そんな王都全体を揺るがすような爆発音が、街の中を響き渡ったのだ・・・。

完!


・・・いや、嘘じゃがの?

まぁ、その続きの話は、次回に回すことにするのじゃ。


で、問題は・・・明日、いつになったら帰って来れるか分からないことなのじゃ・・・。

故に、更新できぬかも知れぬが、その時は・・・まぁ空気を呼んでいただけると幸いなのじゃ!


・・・明日は、5時起き・・・。

もう・・・本当にダメかも知れぬ・・・。

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