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7.4-15 王都のお祭り15

・・・そしてその瞬間が、ついに訪れる。


「・・・どうしてこうなったの?」


「・・・なんで?」


「・・・意味が分かりません・・・」


王城前の広場にあった大きな魔導時計が午後3時を迎えて、遂に始まったスイーツコンテストの試食会。

今日この時を、心待ち(?)にしていたワルツとルシア、それにカタリナは、その光景を目の当たりにして・・・がっくりと項垂れていた・・・。

何故なら・・・


「うぅ・・・」

「げほっ・・・」

「み、水ぅ・・・」


審査員を担当していたギルド連合の者たちが、それぞれに机へと突っ伏して、ぐったりと伏せていたからである・・・。


・・・ただし。

それは、彼らがワルツたちの作ったスイーツを食べたせいではない。

では、彼らは一体どうして、一様に真っ()な顔色を浮かべながら、苦しそうな声を上げていたのかというと・・・


「あれ?おかしいですね・・・。皆さん、ボクの作ったチェリーパイがお口に合わなかったのでしょうか?」


元魔王のユキが、()()チェリーをたっぷりと使用したチェリーパイを、スイーツと偽って(?)、審査員たちに食べさせていたからである・・・。


この世界特有の果実であるヘルチェリーを加熱したらどうなるのか・・・。

ワルツがパンの材料に使って失敗した例があるように、激辛な果実へと変わってしまうのだ。


「んー・・・味には自信があったのですが・・・」


原因が解らなかったためか、首を傾げながらそんな言葉を口にして・・・そして、自身の作った(こう)ばしい香りのするチェリーパイの切れ端を口に放り込むユキ。

もしもそれをワルツが食べたなら、口にしたものを身体が『毒』と認識して、しばらくの間、腹痛に悩まされるほどの代物のはずなのだが・・・


「うん!甘辛い!おいしい!」


・・・辛いものが大好きなユキにとっては、正真正銘、美味しいスイーツだったようだ。


・・・ちなみに、である。

どうして審査員たちが、ユキのチェリーパイを、どのスイーツよりも優先して口にしたのかについてだが・・・白い髪を持っていた彼女の見た目が、この世界に伝わる『女神』に似ていた・・・と言えば、これまでの出来事から、その理由を察してもらえるのではないだろうか。


「・・・なんか、釈然としないわね」


「・・・うん」


「・・・試食者(モルモット)がいないというのは寂しいですね」


『えっ・・・』


紅潮した頬を押さえながら、嬉しそうに『劇物』を口にするユキの姿を見ながら、納得できなさそうな表情を見せるワルツたち。

とはいえワルツは、市民たちに見られないように、透明なままの姿だったが・・・。


まぁ、それは置いておいて・・・。

彼女たちの煮え切らない心持ちが、この世界の何処かにいるかもしれない『料理の神様』に通じたのか、それとも、元々それほど多くの量を口にしていなかったためか・・・


「か、辛かったが、どうにか続けてみせる・・・!」

「今こそ・・・商売人の根性を見せる時だ・・・!」

「ふぅ・・・。水を飲んだら、大分楽になった・・・」


審査員たちは再び上体を起こして、次のスイーツに手を伸ばし始めた。


そんな彼らが、次に品定めの対象にしようと考えたスイーツは・・・テレサの作品であった。

流石に、このコンテストに特別ゲストとして参加している国家議会の議長のスイーツを食べずに終わるというのは、審査員たちにとってはありえない話だったようで・・・彼らは本当に再起不能になりそうなスイーツが来る前に、ノルマだけは達成しておこうと考えたようである。


しかし・・・


「・・・・・・なぁ?」

「・・・・・・皆まで言うな」

「・・・・・・なんとも前衛的な・・・」


・・・テレサの作ったスイーツを前に、思わずたじろいでしまっている様子の審査員たち。

どうやら、そのスイーツの見た目が・・・どう見ても、スイーツには見えなかったようである。


「すまぬのう、ギルド連合の者たちよ・・・。妾の調理の技術も知識も未熟ゆえ、見た目がとんでもないことになってしまったのじゃ・・・」


自身の作ったスイーツを前にして、審査員たちが足踏みをしている様子を見て、謝罪の言葉を口にするテレサ。

そんな彼女に対して・・・審査員の一人が、申し訳無さそうに問いかけた。


「・・・テレサ様。大変失礼なことをお聞きするかもしれませんが、これは一体・・・何と言うスイーツを作ろうとしておられたのですか?」


要するに『これは何だ?』と問いかけて来た審査員に対して、恥ずかしそうに苦笑を浮かべるテレサ。

明らかに失礼なそんな問いかけを聞いていた周りの審査員たちも・・・異論を唱えること無く、テレサからの返答に対して耳を傾けていたところを見ると・・・どうやら、皆、同じ疑問を持っていたようだ・・・。


「これはのう・・・ショートケーキなのじゃ!」


『しょーと・・・ケーキ?』


「うむ。まず・・・この白い部分じゃが、テンタクルゴートのミルクに特殊な処理を施して、抽出した液体と砂糖を適量混ぜ、それをひたすらホイップして作ったクリームなのじゃ?で、この黄色い部分じゃが、フロストチキンの卵の白身から作ったメレンゲと呼ばれるクリーム状の物質と砂糖、それに小麦粉を専用のヘラで切断するようにかき混ぜて作った生地を、一定の温度に制御されておる魔導オーブンに入れて焼いたものなのじゃ。これ単体でもスイーツとして分類されておるらしく、スポンジケーキと呼ばれておるようじゃのう?そして最後に、この赤いものは・・・サウスフォートレス周辺の森で採れるという果実(いちご)を切ってスライスしたものなのじゃ。それらを組み合わせると、ショートケーキと呼ばれる・・・とある異国(現代世界)で作られておるというスイーツになるのじゃ?ただ・・・どんな見た目になるように作れば良いのか、完成品を見たことがなかった故・・・とりあえず全部かき混ぜて、お団子状にしてみたのじゃ!」


『・・・・・・』


テレサの言葉が、まるで科学(れんきんじゅつ)の実験について説明するようなものだったためか、これが本当に食べ物なのか不安になって・・・言葉を失ってしまう審査員たち。

直前に食べた()()の件もあったので、余計に不安になってしまっていたことについて言うまでもないだろう。


・・・しかし、食べずに終わるという選択肢は彼らに残されていなかった。

例え、死ぬことが分かっていても、この国のトップである議長の作ったスイーツなので、審査をしている以上、食べなくてはならないのである・・・。

もしも食べなければ・・・おそらくは、ギルド連合の中で村八分にされて、社会的に抹殺されてしまうのだから・・・。

恐らく審査員たちにとっては、今この展開が、まるで公開処刑のように感じられていることだろう。


そんな中で最初に動いたのは・・・テレサに対して、このスイーツが何なのかを問いかけた審査員だった。

彼は眼の前にある少々グロテスクな球体へスプーンを伸ばすと・・・


「・・・ぐっ!」


意を決した様子で、それを(すく)って、口の中へと放り込んだのである。

・・・その瞬間、


「・・・・・・!?」


眼を見開き、身体を震わせ、急に立ち上がる審査員の男性・・・。

その姿を見て・・・


「あぁ・・・遺書を書いてくればよかった・・・」

「どうしてだろう・・・眼から汗が・・・」

「背景、母上様・・・。どうやら私はここまでのようです・・・」


他の審査員たちは皆、死を覚悟したようである。


しかし・・・


「うまっ!」


と、声を上げる犠牲者1号。


「・・・馬?」

「頭がおかしくなったのか・・・」

「もうダメかもしれん・・・」


しかし、皆、その言葉を聞いても、『美味い』という言葉には聞こえなかったらしく、悲観的な思考からは抜け出せそうに無かったようだ。


「・・・もうよいのじゃ。妾自身がよく分かっておる。生まれてこの方、殆ど料理をしたことのない妾が、いきなり、まともな料理を作れるわけがないことくらい、のう・・・」


『・・・・・・ぐっ!』


泣きそうな顔をしながら眼を伏せつつ、呟いたテレサの姿を見て・・・文字通り決死の覚悟を決めた様子の審査員たち。


それから彼らは、テレサが作った謎スイーツ(ショートケーキ?)をスプーンに(すく)い、それを恐る恐る、口の中へと放り込んだのである・・・。

今日は・・・少し余裕があるのじゃが、この余裕は、明後日の極超多忙な日のためのバッファを作成するために、使用しようと思うのじゃ?

じゃから、申し訳ないのじゃが、今日もあとがきはお休みさせてもらうのじゃ。


・・・え?自分の話だけ美化しておる?

そ、そんなことは無いのじゃぞ?

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