7.4-13 王都のお祭り13
一方、その頃。
そこから少し離れ場所にあったブースでは・・・
「たまにはこういうのもいいですね?ユリアお姉さま!」
と、言いながら、嬉しそうな表情を浮かべる、普段通りにサキュバスの姿のリサと・・・
「・・・・・・」ずーん
普段は普通の人間に変身しているというのに、珍しく彼女と同じサキュバスの姿のままで、疲れたような表情を見せながら、ボレアス巻き(クレープ)を作るユリアの姿があった。
本来、人間側の代表国家とも言えるミッドエデンでは、魔族であるはずのサキュバスは、あまりいい視線を向けられないはずなのだが・・・この国を実質的に治めている通称魔神のワルツのことや、変身魔法の使えないリサ、そしてそのリサに対して行使し続けている自身の幻影魔法のことを鑑みて・・・ユリアは、わざわざ変身しなくても、トータル的な負担はそれほど大きくはならない、と考えたようだ。
実際、彼女たちに対して、稀に物珍しげな視線を向けてくる者はいるものの、サキュバスだと分かると、一目散に逃げていくようなので、大きな問題は無さそうである。
まぁ、もしかすると・・・視線云々の話ではないのかもしれないが・・・。
「どうしたのですか?お姉さま?」
「・・・ううん、なんでもないわ。気にしないで・・・」
本来は隣のブースが彼女の持ち場のはずなのに、ベッタリとくっついて来ているリサの姿を一瞥してから、深い溜息をついて、そう答えるユリア。
どうやら彼女は、見物客の視線よりも、リサのことを疎ましく思っているようだ・・・。
しかしリサの方は、それを全く気にしていないらしく・・・
「あー、これ、懐かしいですねー。大好きなんですよ。お姉さまみたいにっ!」
と、危ない領域へと入りつつある怪しげな言葉を口にしながら、自身よりも、頭一つぶん大きなユリアの腕に抱きついて、嬉しそうな表情を浮かべていた。
「・・・どうしてこうなったのかしら・・・」
普段、ワルツから言われていることを意図的に無視して、主人が口癖のように度々口にする言葉を同じように呟くユリア。
・・・ちなみに。
どうしてリサの態度が怪しいのかを端的に説明すると、彼女の精神治療のために施している幻影魔法のせい・・・ではなく、元からである。
そう、リサは、ユリア一筋(?)なのだ。
「ねぇ、リサ?あなた、自分のブースに戻って料理を作ろうとは思わないの?」
「え?どうしてですか?」
「それは・・・これがスイーツを作るコンテストだからよ?」
「へー。スイーツを作るコンテストだったんですねー。初耳です」
「・・・・・・うん。今、言ったから、とりあえず隣のブースに戻って、料理作ろうね?」
数日前から言っていたはずなのに、完全に忘れている様子のリサに対して、苦笑の苦味成分を8割増くらいに増したような表情を浮かべながら、呼びかけるユリア。
どうやら、リサに掛かっている幻影魔法は、その効果を遺憾なく発揮しているようで、彼女の頭の中は、絶賛、混乱状態の真っ只中にあるようだ。
言い換えるなら、脳内お花畑状態、とも言えるだろうか・・・。
・・・しかし、である。
ユリアに戻れ、と言われた瞬間、直前までほんわかとしていたリサの表情が急に真顔へと変わった。
そして彼女は眼を細めながら、おもむろにこんなことを口にする。
「それは・・・これがお仕事だからですか?」
・・・だから、自分のブースに戻ってスイーツを作らなくてはならないのか・・・。
そんな意味をはらんでいるだろうリサの短い一言に対し、ユリアは・・・
「・・・・・・」
『うん』という一言を、何故か口に出来なかった。
リサの言葉を肯定すれば、おそらく彼女は、素直に自分のブースへと戻っていくことだろう。
彼女の今の真顔を鑑みれば、それは間違いないはずである。
それが分かっていて・・・しかし、ユリアには首肯が出来なかった。
その詳しい理由については、彼女にしか分からないが・・・どうやら彼女は、今のリサの姿に、ワルツに好意を寄せる自身の姿を重ねてしまったらしい・・・。
その結果、彼女は小さくため息を吐いてから、リサの質問に対して、こう答えた。
「・・・いいえ。これは仕事じゃないわ。単に自分の持ち場に戻って欲しいだけよ?だって、コンテストに参加してるのは私も同じなんだから、私もスイーツを作らなきゃいけないでしょ?(もちろん、ワルツ様のためにね?)」
そんな副音声を含ませながら、ユリアがそう口にすると・・・
「・・・・・・!」
何かに気づいたように眼を見開いて、驚きの表情を浮かべるリサ。
そんなリサの反応が、一体何を意味しているのか・・・ユリアには薄々予想出来たようで、彼女が、やはりこれは仕事だから戻れ、と口にしようとすると・・・
「・・・分かりました!戻ります!」
・・・どういうわけか、リサは、大人しく自ら、自分のブースへと戻っていってしまった。
「(・・・あれ?私の作ったスイーツが楽しみとか、なんとかって話になると思ったんだけど・・・ちょっと意外ね)」
妙に素直なリサの行動に対し、ユリアは、なんとなく違和感を感じていたようだが・・・とりあえず偶然ながらも厄介払いが出来たようなので、彼女はホッとしながら、超高級ボレアス巻き(?)の制作を再開するのであった・・・。
ちなみに、そんなユリアを挟んで、リサと逆側のブースでは・・・
「お兄ちゃん?スイーツができたら、味見してよね?」
彼女たちと同じ情報部のシルビアが、兄であるブレーズに対して、そんなことを口にしていた。
「・・・シルビア。お前、俺を殺す気か?」
・・・まぁ、そのやり取りは、どう見ても兄妹のやり取りとは思えないような内容だったが・・・。
「んなっ!失礼な・・・。昔とは違うんだよ?一応これでも、日々、料理の腕がうまくなるように精進してるんだからね?(毎日、狩人様が食事を作ってくれるおかげで、脳内料理しかできてないけど・・・)」
「今、なにか、聞き捨てならない事を言っただろ?」
「ううん?なんでもないよ?もう、だめだよ、お兄ちゃん。そんな細かいことばっか気にしてるから、その年になっても彼女が出来ないんだよ?」
「・・・・・・」
伝家の宝刀『彼女が出来ない』を妹に抜かれて、思わず言葉を失ってしまうブレーズ。
流石は実の妹だけあって、兄の扱いには慣れているようだ。
「そんな細かいことはいいから、お兄ちゃんは街の中でも散策してきてよ?あ、でも今は、地下工房の草刈りの方が大事かも知れないね・・・。まぁ、出来たら無線で呼ぶから、そん時にまた来てよね?」
妹のそんな言葉に、ブレーズは『来ねえよ!』と答えようとしたようだが・・・妹の言葉の中に気になった単語があったようで、彼は逆に問いかけた。
「・・・むせん?」
「うん。ワルツ様から貰ったやつ」
そう言いながら、スマートフォンのような見た目の、銀色をした無線機をポケットから取り出して、兄に見せるシルビア。
「・・・何だそれ?」
「あ・・・もしかしてお兄ちゃん、もらってないの?」
「あぁ、それを見るのは・・・これが初めてだな」
「もう、ワルツ様ったら・・・。仕方ないなぁ・・・」
ワルツがブレーズに対して無線機を支給するのをいつも通りに忘れていると、思ったシルビアは、飾りが大量に付いていた自身のその無線機を・・・
「はい!これ貸してあげる!」
兄へと、そのまま差し出した。
「・・・?」
「まぁ、いいから、これ持ってて」
そう言ってシルビアは、自身の無線機を兄に押し付けると、それから・・・
「えっと・・・先輩?ちょっと無線機、貸してもらえます?」
隣のブースにいたユリアに、そんな言葉を投げかけた。
「え?うん。いいわよ?・・・はい」
「ありがとうございます!」
そしてユリアから彼女の無線機を借りて、再び自分のブースへと戻ってくると、シルビアは兄に対し、無線機の使い方を簡単に説明し始めた。
「これ、ボタンを押すと、離れてても声が伝わるんだよ?いくね?」
『お兄ちゃんのばーか!』
「・・・おぉ・・・」
無線機から聞こえてきた妹の声を耳にして、自分が馬鹿にされているにもかかわらず、嬉しそうな表情を浮かべるブレーズ・・・。
自分を文字通り馬鹿にする言葉に、ブレーズが全く怒らないのは・・・それが普段からの、彼ら兄妹のやりとりなのか、あるいは妹の言葉すら気にならないほどに、無線機に興味が湧いたからなのか・・・。
どうやら、その両方だったようで・・・
「これ、試しに喋ってみてもいいか?」
「うん、いいよ?」
『シルビアのアホッ!』
「ちゃんと聞こえてるよ?」
「おぉ、すげぇ・・・」
お互いに貶し合っているにもかかわらず、2人とも、不機嫌になっている様子は微塵も無かったようだ。
恐らくは普段から仲の良い兄妹だったのだろう・・・。
まぁ・・・
「あ、でもこれ注意してね?無線機を持ってる全員に会話の内容が伝わってるから。あと、自身には関係ない話とかは、できるだけスルーしてよね?」
「これどうなってんだ・・・?」
・・・会話が成立しているように見せかけて、実は成立していない可能性も否定はできないが・・・。
「さてと・・・。あ、先輩?これ、ありがとうございました。後でもう一度借りると思いますが、その際はよろしくお願いします」
「う、うん・・・(この兄妹・・・いつもどんなやり取りしてるのかしら・・・)」
2人のやり取りを傍から見ていて、どうして会話が成立している(ように見える)のか疑問に思いつつも、しかし、その疑問を問いかけること無く、無線機を受け取るユリア。
その際、彼女が、ブレーズの姿をちらっと見た時、彼が無線機の裏蓋の辺りを興味深げに観察している様子が眼に入ってきたようだが・・・妹のシルビアの方は、そんな兄の行動に気づかなかったようだ・・・。
・・・いや、むしろこう言うべきだろうか。
どうしてワルツがブレーズに対して無線機を渡さなかったのか、2人とも気づいていなかったようだ、と・・・。
んはっ!
もう駄目かもだし?!
テレサ様が『忙しすぎるから、あとがきは主に任せるのじゃ!』とか言って、もう寝ちゃったかもなんだから!
忙しいのに寝てる暇なんてどこにあるのか、教えてほしいかも・・・。
で、何?
補足を書けばいいの?
補足って何・・・。
んー、よく分かんないし、何も聞いてないから、多分補足は無いかもだね。
もしもあったら、次かその次辺りに、テレサ様の方から説明があるんじゃないかな?
あ、そう言えば、テレサ様が言ってたんだけど・・・
『明日は・・・この2年で、一番忙しい日がくるのじゃ・・・』
とかぼやいてかも。
だから、更新できるかどうか分かんないんだって?
よく分かんないけど・・・。
テレサ様が忙しいなら・・・いっその事、ここいらでイブが、この物語を乗っ取って、武勇伝を書く話に書き換えていく、っていうのも悪くないかも?!
・・・うん、ごめんなさい・・・調子に乗りました・・・。




