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7.4-12 王都のお祭り12

暴走(?)を始めたコルテックスの声が聞こえてくるスピーカーを、ワルツが吹き飛ばした事を皮切りに、いよいよスイーツフェスティバルの目玉であるスイーツコンテストが幕を開けた。


そして、3時のおやつ時間に始まる予定の試食会に向けた調理が、街中で始まったわけだが・・・一般に公開されている大規模な調理会場(街を縦横に突っ切る大通り沿い)の一角に、妙な人だかりが出来上がっていたのである・・・。

言うまでもなく、人々から魔神と呼ばれているワルツが調理しているブースだ。


「ま、当然こうなるわよね・・・」


と呟くワルツ。

そんな彼女の前では・・・


「おぉぉ・・・」

「すげぇ・・・」

「調理器具が勝手に宙に浮いてる・・・」


とそれぞれに驚きの声を上げる見物客の姿があった。


彼女は今、直接見られるのが嫌だったために透明な姿になって、規定によって定められた20人分のスイーツを作るべく、ひたすら氷鶏(フロストチキン)の卵をかき混ぜていた。

具体的には、重力制御で浮かべたボウルに、10個の卵の白身だけを手際よく入れて、それを手動の泡立て機でかき混ぜていただけなのだが・・・


ウィィィィン!!


『おぉぉぉぉ・・・』


泡立て機を手でかき混ぜるのではなく、重力制御を使って高速で回す・・・例えるなら、電動泡立て機と同じ原理で卵をかき混ぜた結果、それを初めて見た町の住人たちから歓声が上がったのだ。

どうやら彼らにとって、()()泡立て機のように回転する()()泡立て機を見るのは初めてだったらしい。

それを見ていたメルクリオからの商人の中には、早速同じように動く()()泡立て機が作れないかどうかを相談している者もいるようである。


さて。

どうやらワルツの泡立てが終わったようだ。


「ほいで、これは一旦置いておいて・・・」


と口にしながら、クリーム状になった白身、所謂メレンゲの入ったボウルごと冷たい水の入ったタライに入れるワルツ。

それから彼女は、薄力粉にテンタクルゴートのミルク、砂糖、少量の塩、重曹、それに余っていた黄身を溶いて混ぜるのだが・・・もうここまで説明すれば、彼女が何を作ろうとしているのかは、大体予想できるだろうか。


そう。

初歩的なパンケーキ、ホットケーキである。

あまりに複雑な調理をすると、予想もしない『地雷』が、その過程の何処かに含まれているかもしれない・・・。

ワルツは、可能な限り、料理が失敗してしまう要素を省くことで、ベストではなくベターなスイーツを目指したようだ。




一方、その隣のブースでは・・・


「お姉ちゃんの所、すごい人だかり・・・」


姉のところから自分のところにまで溢れ出てきていた見物客を一瞥して、ルシアが感心していた。

彼女は、皆の視線を集める姉の姿を見て、もしも自分が今の姉と同じように多くの人々からの視線を向けられてしまったなら、果たしてちゃんと料理できるだろうか・・・などと考えていたようである。


だた、幸いな事に、隣にワルツが・・・そして、その向こう側に元王女のテレサがいた事で、ルシアのところには、殆ど人の視線は向けられていなかった。

もちろん全くのゼロというわけではないが、近くに知った顔があったこともあって、彼女の精神的負担はそれほど大きなものではなかったようである。


ちなみに、その『知った顔』というのは・・・


「・・・なぁ、ルシア・・・?その大量のお揚げ・・・一体、何に使うんだ?」


警備のために会場を回っている・・・と言う名目で、ワルツたちの周辺で適当に人払いをしていたアトラスである。

ワルツたちの周辺に見物客が増えすぎると、色々な意味で危険なので、彼は定期的に見物客を誘導して、滞留する人々の数を一定以下になるように調整していたのだ。


「え?このお揚げ?それはもちろん、私が食べる・・・じゃなくて、スイーツに使うためだよ?アトラスくん」


「えっ・・・本当にスイーツに使うつもりなのか?」


「えっ・・・使っちゃダメなの?」


「・・・・・・頑張れよ」


そして優しげな笑みを残して、その場を立ち去っていくアトラス・・・。

どうやら、ルシアのブースから漂ってくる言い知れない何かが、彼の足を動かしたらしい・・・。


「変なアトラスくん・・・」


立ち去っていたアトラスに向かって、その首を傾げながらも・・・油揚げを手に取って、砂糖をふんだんに使った金色の特製のシロップに浸し、火魔法で加熱するルシア。

それからも彼女の調理は続いていくのだが・・・


「・・・おいしそう」じゅるっ


スイーツ完成までに、果たして油揚げ残っているかは・・・不明である。




さらにその隣のブースでは・・・


「・・・・・・」


スパァンッ!!


いつも通りに不機嫌そうに眉を顰めたカタリナによる、結界魔法式包丁の実演販売・・・ではなく、彼女らしい巧みな魔法を使ったスイーツ作りが進められていた。


「(・・・机が金属製でないせいで、まな板ごと簡単に切れてしまいますね。困りました・・・)」


・・・ただし、最近急激に伸びつつある魔力を使いこなすには至っていないようだが・・・。


「(はぁ。仕方ありません。いつも通りに机に結界を張って、それをまな板代わりにしましょう)」


そして、今にも崩れてしまいそうなほどの切れ目が入ってしまった机の上に、魔法防御用の結界魔法を張って、自身の切断用結界魔法に耐えうる処理を施すカタリナ。

それから彼女は、先程まで切っていた、この国で最も硬い果物である金剛梨(クリスタルピア)を、その特殊な()()()の上で切断していく。


スパァンッ!!


「(うん。これなら、机を切らなくても済みそうです)」


スパァンッ!!

スパァンッ!!

スパァンッ!!


と、まるで流れ作業のように、あるいは柔らかい果実を切るように、カタリナは次々と金剛梨を切断していくのだが・・・実のところ、この果実を切断するというのは、一般的にはとても大変なことであった。


というのも、この果物の『金剛(ダイヤモンド)』という名前から推測できる通り、その表皮は食べ物とは思えないほどの硬度を誇っていたのである。

一体、どれほどの硬さかというと・・・目隠しをしていない大の兵士が、重さ30kgはありそうなバトルアックスを使って、全力でスイカ(?)割りをして・・・割ることができたら無条件で部隊長になれる、というほどに硬い代物だったのだ。


なので金剛梨は、本来、人が食べるものではなく、地竜のように顎が特別に発達した魔物や、特殊な酸を口から吐いて対象を溶かして食べるような魔物が食すような果実だったのである。

しかし、その中身は、とても甘く濃厚で、そして瑞々しいという特徴があったために、超高級品として市場に出回っていたのだ。


そんな金剛梨を食べる上での問題は、外皮を()()と、自ずとその破片も内部の柔らかい果実に付着してしまうので、下手に食べると歯が欠けてしまうという点であった。

しかし、カタリナの切断用結界魔法を使えば、その問題に悩むこと無く簡単に切断できるので、彼女にとっては、まさにうってつけの果実だったのである。


「(・・・本当に甘いかどうか、少し味見をしてみましょうか)」


切断した黄色い金剛梨を更に小さくカットして、その内側をスプーンですくい、自身の口に運ぶカタリナ。

ついでに白衣の中にいたシュバルにも少量を分け与える。


「(・・・うん、おいしい。全く問題はありませんね)」


カタリナはもちろんのこと、シュバルも満足気にスプーンごと食べていたところを見ると・・・どうやら、うわさ通りに美味しい果実のようである。


なお、彼女の隣のブースで、その試食を見ていた狐娘が、


「・・・・・・」ごくりっ


と、自身の手元にあった油揚げを見ながら、何度も唾液を飲み込んでいたようだが・・・まぁ、その話については省略しよう。




こうして、スイーツコンテストの作品作りが進んでいくわけだが、3人とも、その時点での出来栄えには、納得の表情を浮かべていたようだ。

傍から見ても、料理自体には何ら問題はなく、皆、試食を楽しみにしていたようである(?)。


だが・・・3人は、まだ気づいていなかった。

もうすでにこの時点で、『失敗』の二文字のうち、『失』の字に片足を突っ込んでいたことに・・・。

・・・リアルの話。

・・・何でじゃろう・・・虫に好かれておる気がするのじゃ・・・。

チョウやトンボやセミと言った羽虫が、放っといても纏わり付いてくるのは・・・まぁ、いいとして、スズメバチまで寄って(たか)ってくっついてくるのだけはどうにかならぬじゃろうか・・・。

服についておるのを知らずに、椅子に座って背中で潰してしまったことが何度かあるのじゃ・・・。

やはりあれかのう・・・。

身体から樹液が・・・・・・無いの。


まぁ、そんな、妾の日常の話をしても仕方ない故、今日の文の補足に入るのじゃ?

・・・うむ。

これといって無いのじゃ。

妾のブースについての説明が無いのじゃが、これについては後日述べる故、ここでは触れないでおくのじゃ?


さて。

そういうわけで、ユリアの質問に答えようと思うのじゃ。

魔力と魔法の関係が明らかにならないと、シルビアが死ぬと言う話。

・・・2日間放置したから、そろそろ死んだ頃かのう?

まぁ、食べ過ぎという話じゃったから、逆に治っておる頃か・・・。


で、魔力と魔法の関係の話には入るのじゃ?

・・・言っておくが、ここから先は、とても専門的な話ゆえ、ハードSF(ハードファンタジー?)に耐性が無い者は、心して見て欲しいのじゃ?


・・・端的に述べると、魔力は所謂MPで、魔法は現象そのものなのじゃ。

MPを消費して、魔法を放つ・・・。

ファンタジー系のRPGなどでよくあるやつなのじゃ?


ただ、単なるMPというわけではないのじゃ。

ゲームにおけるMPとは、数学的な言葉で言ってしまえば離散的な数値じゃが、この世界の魔力は、古典物理学や量子力学を拡張するような立ち位置にある連続的な現象なのじゃ。

数値で表すことは出来ても、数値ではない。

現代世界で例えるなら、電子の流量(電流)や、電子を流そうとする圧力(電圧)などに近いかも知れぬのう。

じゃから、一概に『魔力』と言っても、単なるスカラー値で表現できるものではないのじゃ。

量、圧力、方向、相互作用・・・。

それら全てについて述べると、とんでもないことになる故、簡易的に単に『魔力』と言っておるだけなのじゃ?


それで・・・その様々な性質をもつ『魔力』を、ある特定の条件下において、現代世界でも通じる一般的な物理現象へと変換させたものを『魔法』というのじゃ?

じゃから、火魔法や水魔法といった魔法は、魔力から変換された時点で、実際のところ、単なる物理現象になってしまうのじゃ。

魔力を認知できぬワルツが認識できておる時点で、それは明らかなのじゃ?


で、目に見えぬ物に対しても、魔力は作用することができるのじゃ。

極端な話、世界を構成する情報そのもの・・・。

例えば、個人が持つ知識や、歴史、あるいは時間そのものに対しても何らかの作用を及ぼすことができるのじゃ。

まぁ、それは観測が困難故、例え自由に書き換えられたとしても、本当に書き換えたかどうかは、殆どの場合において、術者以外・・・いや場合によっては、術者ですら知る術がないのじゃがの?

本編での例を上げるなら・・・ルシア嬢が、自作バングルを使って、世界の時間を書き換えて、時間を逆行させたところとかかのう。


そんな眼には見えぬ魔法の中でも、幻影魔法などは、例外的に認知できる魔法なのじゃ。

幻影魔法は、人の精神に対する認識を一部だけ書き換える魔法なのじゃ。

幻影魔法も、一応、世界の情報を書き換える魔法なのじゃが、世界の事象ごと書き換えておるわけではなく、対象となる者の認識のみ書き換えておる故、魔法が掛けられた瞬間と終わった瞬間さえ認知できれば、それが魔法だったと知ることができるのじゃ。


その他にも・・・『魔力特異体』の者と『魔力』との関係、あるいは『魔道具』とは何か、などについても話したいところなのじゃが・・・そろそろ頭がオーバーヒートしてきた故、ここいらで終わらせてもらうのじゃ。


で、次回の質問。

『天使って何ですか?わかりません!』

・・・という元天使のシルビアからの質問に答えるのじゃ。

どこからツッコめばいいのか分からぬが・・・奴め、やっぱり生きておったのじゃな・・・。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 515/1729 ・触手鶴の駆除は、カタリナ叩き起こすのが最速だったと思うのです。グダグダするのも本作の魅力ではありますが。 ・カタリナが料理音痴なのは意外。(ルシアは予想通り) [気…
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