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7.4-11 王都のお祭り11

そして夜が明け・・・再び日が沈み、夜になって、また明ける・・・。

要するに、触手のような植物が暴走を始めてから2日が経過したわけで・・・つまり、王都でスイーツフェスティバルという名の『祭り』が開催される日になったのだ。

ミッドエデンが新政府に変わって初めて行われる祭りの日、である。


今は冬だというのに、ミッドエデンの王都は、珍しく(ほが)らかな陽気に包まれていた。

空は晴れ渡っており、今日一日、雨が降る気配はもちろんのこと、雲の影に2つの太陽が隠れてしまうようなことも無さそうである。


そんな王都は、まち全体が祭りの会場になることもあって、朝から通りを行き交う人々の喧騒で賑やかだった。

街中を彩る様々な飾りや、ミッドエデン名産の食材を使った出店・・・。

その中に、木彫のエネルギアの模型や、厚紙で作られた本格的な紙飛行機を売っている店があったのは・・・やはり、王都民がエネルギアのことを受け入れているから、ということなのだろう。


その他、今回の祭りの大きな目玉が、『スイーツコンテスト』ということもあって、遥々(はるばる)隣国から、特産の果実やスイーツづくりの材料を売りに来ていた行商たちの姿も、数多く見受けられていた。

今回のコンテストに参加する多くの者たちにとっても、そういった普段はお目にかかることのない珍しい品々には大きな関心があったらしく、朝の街の中は、まだ正式に祭りが始まったわけではないというのに、先述の通り、いつもの3倍以上の人々でごった返していたようだ・・・。


・・・そして時間は朝9時になる。

街の中心にあった王城から真っ直ぐに、郊外にある巨大なモノリスへと伸びる・・・もとい、南の街道へと伸びる大通りに、一つの変化が訪れた。

普段なら多くの人々が行き交う南の大通には、特設の調理会場と、審査会場、そしてイベントの進行を行うためのステージが設置されており、そこにコンテストに参加する老若男女の人々が集結していたのだが・・・時間が訪れた瞬間、ステージの上に、王都のギルド連合に所属する各ギルドのトップや、少し(やつ)れた様子の国教会教皇、そして、この国の上下院議会議長である・・・何故かゲッソリとして目の下に大きな隈を作っていたテレサが、登壇を始めたのだ。


「・・・大丈夫かなぁ、テレサちゃん・・・」


彼女のその気分が悪そうな表情と、力なく垂れ下がった3本の尻尾を見て、『勇者』と書かれたカードの置いてある特設席に座っていたルシアが、心配した様子で思わず呟いた。


「おそらく、今日くらいは大丈夫でしょう。先程、目一杯、回復魔法を掛けておきましたからね」


ルシアの呟きに返答したのは、彼女の横にあった『カタリナ()』と書かれた席に座っていたカタリナである。

・・・なお、これは余談だが、テレサは回復魔法を行使される前の方が元気だった、という噂が彼女たちの仲間内で流れていたようだが、その真相は不明である・・・。


それは置いておいて・・・。

登壇したテレサたちや、勇者(候補)ルシアたちよりも、何よりも、そこにいた人々の注目一手に引きつけていた存在がそこにいた。

・・・いや、正確に言うと、皆、直接見ていたわけではなく、その気配のする方向へと視線を集中させていた、と言うべきか・・・。


「・・・・・・疲れた・・・」


気配だけが生じているその椅子から聞こえてくる小さな声・・・。

言うまでもなく、透明な姿のワルツである・・・。


「お姉ちゃん、どうしたの?」


カタリナとは反対側の『魔神』と書かれた椅子から聞こえてきた、心底疲れ切ったような声の持ち主に向かって、問いかけるルシア。

そんないつも通りに元気な様子のルシアに対して、ワルツはそのままの声色で理由を話し始めた。


「いやさぁ・・・草刈りが全然進まないし、料理の練習もできてないし・・・イヤーな予感しかしないのよね・・・」


と、透明になったまま、答えるワルツ。


・・・そう。

ワルツはこの2日間、まるで超回復魔法が掛かっている雑草のように、延々と成長を続けていた正体不明な植物と、昼夜を問わず、格闘(くさむしり)を続けていたのである。

彼女の言葉通り、未だ植物を駆逐するには至っていないようだが・・・とりあえず今日は、スイーツフェスティバルがあったために、中断して地上へと出てきたようだ。


ちなみに、ワルツが草むしりを続けている間、ルシアとカタリナは、植物が地下で氾濫していることを知らずに、王城でスイーツ作りの練習を繰り返しては、味見をして昏睡する・・・というループを続けていたようである。

そのせいか、睡眠は十分に摂れたらしく、2人ともワルツとは違って明るい表情を浮かべていた。


そして・・・そんな2人の表情が明るかったのには、もう一つ理由があった。

もしも、いつも通りに、料理が失敗してしまうことが分かっていたのなら、今日この日は、彼女たちにとって最悪な一日になってしまうだろうことが、コンテストに参加する前から、予想できているはずなのである。

しかし、彼女たちの表情には、『影』の『か』の字も含まれていなかったのだ。


・・・要するに、彼女たちの講師を務めていた狩人が、ゴーサインを出したために、2人とも小さくはない自信が付いていたのである。

ただ・・・どういうわけか、2人に自信を付けさせたその狩人は、急な体調不良のために、今日はこのコンテストに参加していなかったようだが・・・まぁ、それは、恐らく偶然の出来事だろう・・・。


・・・さて。

話をワルツの呟きへと戻そう。

彼女の嘆き(?)に対して、事前に姉からサラッと地下に蔓延る植物の話を聞いていたルシアが、苦笑を浮かべながら言葉を返す。


「これが終わったら、みんなで草むしりだね?」


「・・・ホント、頼むわ。もう植物とか、しばらく見たくないわね・・・。特に雑草・・・」


「直接見ていないので詳細は分かりませんが・・・余程(よっぽど)だったんですね。あとでアポトーシスの魔法を掛けておきましょう」


「うん、頼むわ。でも・・・他の生き物には注意してね?例えばエネルギアに扱き使われてる・・・まぁいっか」


途中で口を挟んできたカタリナに対して、今もなお、剣を使って草刈りを続けているだろう剣士とエネルギアのことを思い出しながら、答えるワルツ。

一応、今のところ、エネルギアの本体が植物に飲み込まれるようなことは無かったが、このまま放っておけばどうなるかは分からなかったので、ワルツは、むしろ剣士のことも巻き込んでいいから植物をどうにかして欲しい、と思っていたようだ・・・。


と、そんな時。


「おっと・・・。そろそろ、始まるみたいですね?」


ギルド連合のトップたちの話が一通り終わって、最後にテレサが壇上に設置されていた拡声用の魔道具(マイク)の前に立ったことに気付いた様子のカタリナ。


そんな彼女の視線の先では・・・眠そうだったテレサが、必死に欠伸(あくび)を噛み殺しながら、自分の言葉を待つ民衆に対して、挨拶を口にしようとしていた。

そして実際に話し始めるのだが・・・


『・・・本日は、新生ミッドエデン共和国における記念すべき第一回目のスイーツフェスティバルにお越しくださいまして、誠にありがとうございます〜』


「・・・なんじゃこれ?勝手に喋っておる・・・?」


どうやら、自身が口にした言葉とは全く異なる声がスピーカーから聞こえてきたようで、壇上に立っていたテレサは、一瞬だけ眉を顰めた。

しかし、すぐに、その声の持ち主が誰なのか気づいたようで、彼女は安心した表情を浮かべながら、聞こえてくる声に合わせるようにして口を動かし始めた。


『今日は、皆様に、妾たちが作ったスイーツについて、甲乙をつけていただくコンテストを行う予定です〜。その中には、もしかすると〜・・・当たり外れがあるかもしれませんが、外れを引いても、多分死なないと思うので、じっくりとご堪能下さいね〜?』


「ちょっ・・・こ、コル!一体、何を言っておるのじゃ?!」


『特に、そこの特設席の左側に座っている3にn』


ドゴォォォォン!!


・・・こうして、後に、ミッドエデンの建国記念祭として続いていくスイーツフェスティバルの第1回目が、その幕を開けたのである・・・。

んー・・・眠くはないのじゃが、寝ねばならぬのじゃ・・・。

明日は、3時起きなのじゃ・・・。

平日より祝日のほうが大変とはこれ如何に、とは思うのじゃが・・・自身で始めた事ゆえ最後までやらねばならぬのじゃ・・・。


というわけで、申し訳ないのじゃが、今日もあとがきと、質問コーナーはお休みさせてもらうのじゃ?

・・・っていっても、今日も補足するようなことは無かったはずじゃがのう。

あー・・・あるとすれば、この場に誰がおるのか、という話じゃが、本文で出てきた者以外は、この場にはおらぬのじゃ?

まさか、単なる(?)鍛冶屋の孫のシラヌイ殿や、どこの犬の骨とも知れないイブ嬢が、特設席に座れるわけは無いからのう。

いや、座ろうと思えば座れるかも知れぬが、皆から『こいつ誰?』的な視線を向けられるのは確実じゃろう。

というわけで、コンテストに参加する他のメンバーたちは、一般参加者に紛れて、妾・・・コルの話を聞いておるはずなのじゃ?


・・・おっと。

ついつい補足してしまったのじゃ・・・。

ね、寝るのじゃ!zzz・・・

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