7.4-10 王都のお祭り10
ミッドエデン建国以来の大事件が起こる数日前のこと・・・。
・・・あるいは、手元に除草剤がなかったために、テンポが『触手に塩をかけたら、もしかして退治できるのでは?』と考えたその日の夜、と言ったほうがいいだろうか。
月に照らされる王都の地下からは・・・
ゴォォォン・・・
ゴォォォン・・・
・・・と、なんとも言い難い低い音が定期的に響き渡ってきていた。
それは大きな振動を伴わず、微かな音が聞こえるだけだったので、王都の住人達は・・・
「また王城で、テレサ様が実験でもしてるんだろ?」
「あのおっきなお船が、地面の中を飛んでるせいじゃないかなぁ?」
「ドラゴンたちが地下に迷宮でも作ってたりしてな?」
などと・・・それが、まるで、いつも通りの事だと言わんばかりに、夕食を摂りながら談笑していたようだ。
しかし・・・そんな彼らの足元、500m付近では・・・
「んはっ?!か、火力が足りないかもだし?!ドラゴンちゃん!もっとブレスを強めたほうがいいかもだよ!?」
「この姿でブレスを吐くと、顔が熱くなりすぎるのだ・・・」
「カリーナよ。水が欲しいのかな?では掛けてやろう。儂の涎でよければ、な」
「い、いらないのだ。アルゴ殿・・・」
「ふはははは〜。火の海に変えてしまえ〜!ほら、水竜もさっさと火を噴くのですよ〜?」
「む、無理でございます!コルテックスさま・・・」
「・・・あんたたち、真面目に草刈りしなさいよ・・・」
ドゴォォォォン!!
・・・といった様子で、触手狩り・・・もとい、工房内の壁を埋め尽くさん限りに増殖していた緑色の植物の根を駆逐しようと、ワルツパーティーの面々が、懸命に草刈り(?)を行っていたのである。
「・・・元はと言えば、お姉さまが私の忠告を完全に無視したことが、ツケの始まりだったのではないですか?あの時点で手を打っていれば、ここまで大事になることは無かったはずなのですからねぇ・・・」
「んぐっ・・・」
嫌味のオフセットが掛かっていない単なる事実を口にしているはずのテンポを前に、思わず黙りこんでしまうワルツ。
誰が悪いのか、と言う責任の在り処を追求するなら・・・どう考えても、ワルツが悪いことは明白だったので、テンポの言葉は、彼女の精神に、致命的なダメージを与えてしまったらしい・・・。
ただ、それ以上、その責任の在り処について、2人とも議論することは無かった。
こういった無駄な責任追及よりも、もっと考えるべき別の問題があったのだ。
「・・・で、何なのこれ?」
・・・そう。
現状のおける目下の問題は、『責任』などという、ワルツには無意味な言葉などではなく、どこからこの緑色の植物が湧いてきて、そしてどうしてこの工房に蔓延っているのか、その原因を突き止めることこそが最優先課題だったのである。
彼女たちにとっては、可能ならその原因を突き止めて、早急に排除したいところなのだが・・・
「知りませんよ」
「そうよね・・・」
最初の発見者であるテンポにも、そしてこの工房を管理するワルツにも、皆目見当が付かなかったようだ。
唯一、その理由の一端を知っている可能性のある人物といえば、植物の根源と思わしきテンタクルクレインを折り紙で作ったシラヌイくらいなのだが・・・触手に取り込まれていた巨大な折り紙の姿を見て、彼女も・・・
「・・・・・・」ぽかーん
といった様子で、口を開けたまま唖然として固まっていたので、おそらくはワルツたちと同じように、原因については露程も知らないことだろう。
「聞いても分かんなさそうね・・・」
と、固まっているシラヌイの姿をちらっと見ながらも、手を休めること無く草刈りを続けるワルツ・・・。
・・・ところで。
ワルツは、どうしてその強大な能力を使って、草刈りを行わないのか・・・。
その理由はとても単純で、もしも重力制御を使って植物を一網打尽にしてしまえば、それと共に、工房内にあった様々な機器や仲間たちの部屋なども、まさに『根こそぎ』消し飛ばしてしまうため、無理やりな行動に出られなかったからである。
とはいえ、たとえワルツが行動できなくても、ルシアやカタリナがいれば、彼女の代わりに強大かつ効果的な魔法を使って、どうにかできるはずであった。
しかし、運が悪いことに、この場に2人の姿は無かったのである。
彼女たちは諸事情により、自作の毒b・・・スイーツの試食を行い、教師役だった狩人と共に、原因不明の昏睡状態に陥ってしまったため、今は王城にある施療室で睡眠中だったのである。
3人共、大事に至るようなことはないはずだが・・・ともかく、パーティーの大きな戦力となっている2人(+1人)が戦線を離れてしまっていたために、余計に植物への対処が進まず・・・仕方なくワルツたちは、それほど多いとは言えない仲間たちだけで、粛々と草刈りをしていたのだ。
本来なら、王城職員や街の住人たちも繰り出して作業を進めるべき状況だが・・・存在自体が秘密の地下大工房での出来事だったので、それは出来ない選択だったようである。
「誰か除草剤・・・」
「だから言ったではないですか!除草剤を持って来て欲しいと・・・」
「こんな事になってただなんて、知らなかったんだもん・・・」
「何なら、今すぐ除草剤か塩を大量に買ってきて下さい!どこに売ってるかは知りませんが・・・」
「・・・うん。私も知らない」
そんないつも通りの刺々しいやり取りをしながら、人の足よりも太い根を引きちぎっていくテンポとワルツ。
他に、アトラスとユキも、ワルツたちと同じように根を刈っていたのだが・・・以前、アトラスの腕を襲った腱鞘炎が、どうやら再び再発したらしく、彼の作業効率は著しく低下してしまっていたようだ。
一方、ユキの方は、腱鞘炎になるようなことは無かったようだが・・・魔王だった頃に使えていた魔法が使えなくなっていることもあって、思い通りに作業が進んでいないようである。
その他、身体のアクチュエータの出力的には、ホムンクルスたちの中で最大を誇っているコルテックスは・・・直接的な草刈り(?)には参加していなかった。
彼女の元になった体細胞には、残念ながら植物に対するアレルギーがあったらしく、緑色の根から出る液体に触れると、皮膚がカブれてしまうようで・・・彼女は、仲間たちのサポート役として走り回っているようだ。
よって、テレサもまた同じ役回りである。
そんな様々な理由から、メンバーの作業効率が著しく低い中、猛烈な速度で根を切断し続けている人物が1.5名ほどいた。
『う、うわっ?!こ、こっち来ないでよ!』
「ちょっ、エネルギア!無理矢理に身体を動かさないでくれ!転んじまうって!」
と口にする剣士と、その身体に鎧としてまとわり付いていたミリマシンの方のエネルギアである。
どうやらエネルギアは、自身の本体の方に迫ってくる緑色の根に、深い嫌悪を覚えていたらしく、彼女は剣士の身体を無理矢理に動かしながら、剣を振るっていたようだ。
本来なら、彼女一人でも、ミリマシンを使って剣を振るったり、レーザーで焼き切ったりできるはずなのだが・・・剣士と協力(?)して、2人分以上の成果が達成できているようなので・・・まぁ、全く問題は無いと言だろう。
その他にも、ブレーズとシルビアの兄妹も草刈り(?)に参加していたが、天使化していない2人は一般的な人間の筋力しか無かったこともあって、大して作業は進んでいないようであった。
ちなみに、情報部部長のユリアは、新入りのリサがここに来ると、ワルツの足を引っ張ってしまうのではないかという懸念があったために、2人で情報部の部屋の方で待機しているようだ。
あるいは、昼ころに届けられた荷物の件も、姿を見せていない理由の一つと言えるだろうか。
「・・・効率が悪いわね・・・」
「何ですか?お姉さま。ついに責任を放棄して逃げる算段でも考え始めましたか?」
「そんなことしないわよ・・・。ただ、このままだと、いつまで経っても草刈りが終わらなそうだと思っただけよ」
もしも仲間たちのコンディションが万全だったとしても、果たして現状を打開できるかどうかを考えながら・・・いつも通りに毒舌を口にするテンポに対して、草刈りの手を止めることなく答えるワルツ。
それからも彼女たちは、夜通しで根を引き千切を続けるのだが・・・その終わりが見えてくる気配は、今のところ、一向に無さそうだ・・・。
草刈りなのか、根を千切っているのか、切っているのか、なんなのか・・・。
できるだけ同じ表現を使いたくないと思って、色々と表現を変えてみたものの・・・しっくりと来ない表現しか無かった故、なんとなく読み難くなってしまったような気がしなくもない今日このごろなのじゃ。
・・・それに、いつも通り眠いしのう・・・。
で、じゃ。
眠いから、さっさと眠るために、補足を済ませてしまうのじゃ?
・・・地下工房にいるメンバーについて。
むしろ・・・これは言わなくとも良いかのう?
一応、全員分書いたはずじゃから、抜けがない限りは大丈夫じゃと思うのじゃ。
イブ嬢は一言しか登場しておらぬが・・・その場にいることは、話し方を見れば、まぁ、分かるじゃろう。
あと、影が薄いのは・・・妾かのう?
と言っても、雑用(夜食の配送等)をしておったから、地下にはいないことのほうが多かったのじゃ。
でも、一言くらいは喋っても良かったとは思うのじゃがのう?
・・・このままじゃと狩人殿を通り越して、影の薄い狐になってしまいそうなのじゃ・・・。
で、次。
んー・・・特に無さそうじゃのう。
というわけで、補足は以上で終わらせてもらうのじゃ?
さて・・・ここからは、質問に答えるコーナーなのじゃが・・・今日は事情があって、お休みさせてもらうのじゃ?
いやの?
zzz・・・。




