7.4-07 王都のお祭り7
「でもさぁ・・・まさかワルツ様が、お兄ちゃんみたいなちょっとアレな翼人を連れてくるとは思わなかったよ」
「シルビア・・・。オメェ、言いてぇことがあるなら、はっきり言えよ?」
『え?つまり、ワルツお姉ちゃんが、おじさんみたいな人を連れてくるとは思わなかったってことでしょ?』
「・・・・・・」
言いたいことを言え、と言った割には、エネルギアから飛んできた歯に衣着せぬ言葉を受けて、何も言い返さずに沈黙するブレーズ・・・。
どうやら彼は、その見た目や行動とは裏腹に、心は繊細にできているらしい・・・。
『ん?どうしたの?ブレーズおじさん?』
「・・・なんでも・・・なんでもないんだ・・・」ぐすっ
『・・・?』
傷つけるつもりで言ったわけではなかったためか、急に態度が変わってしまったブレーズに対して、思わず首を傾げてしまうエネルギア。
少し天然の入っているシルビアの方も、何故ブレーズが涙目になっているのか、理解に苦しんでいるようである・・・。
女性2人が顔を向け合って、お互いに首を捻っていると、そのタイミングで剣士と勇者の通話が終わったようで、剣士は通信担当の職員に挨拶をしてから、3人のところへと戻ってきた。
「・・・待たせたな」
その瞬間、
『ビクトールさーん!』
ドゴォォォォ!!
っと、剣士の胸元へと、遠慮無くヘッドダイブするエネルギア。
つい先日までの剣士なら、まず確実に肋骨を24本ほどヤられて、万事休すな状況のはずなのだが・・・
「おっと、急に抱きつくなんて危ないぞ?エネルギア」ぽふっ
彼はまるで軽い少女を抱き止めるかのようにして、金属質のミリマシンの集合体で形作られていたエネルギアを、難なく受け止めたのである。
その様子を見て・・・
「・・・?!」
と、口を押さえながら、驚愕した表情を見せるシルビア。
これまで剣士の身に降りかかっていた数々の災難を、情報部職員として知っていた彼女は、普通ならありえないその光景に、思わず眼を疑ってしまったようだ。
もしも、エネルギアが、いつも通りに剣士を轢いて、彼に大怪我を負わせていたなら・・・恐らくシルビアは、そこまで驚かなかったに違いない・・・。
一方、新入りのブレーズの方は、その光景のどこに驚くような要素があるのか分からなかったらしく、首を傾げながら、妹のシルビアに問いかけた。
「・・・おいシルビア。お前、なんでそんな、ありえない化け物を見たような表情を浮かべてんだ?」
そんな兄の言葉を受けたシルビアは、嬉しそうに剣士に抱きついているエネルギアと・・・やはり痛かったのか、彼女のことを微妙に引き離そうとしている様子の剣士に対し、直前までの表情を一変させ優しげな視線を向けながら、その口を開いた。
「お兄ちゃん・・・。世の中にはね、種族の壁や政治的な壁、それに血縁の壁よりも、遥かに分厚い恋愛の壁があるんだよ?知ってる?」
「知らねぇよ!」
「はぁ・・・。これだからお兄ちゃんは彼女が出来ないんだよ・・・」
「・・・・・・」
妹はこんなにも面倒くさい奴だっただろうか・・・と思いながら、ジト目をシルビアに対して向けるブレーズ・・・。
それからも妹の言葉は続いた。
「手を握ろうとするだけで、相手の手を潰しそうになったり・・・。抱きつこうとするだけで、身体を引き千切そうになったり・・・。好きなのに触れることが出来ない悲しみって、お兄ちゃんに分かる?」
「それ、単に殺そうとしてるだけだろ・・・」
「はぁ・・・。もう、そんな固い頭じゃ、ウチのパーティーではやってけないよ?お兄ちゃん」
「・・・・・・」
妹のその言葉に・・・しかし今度は、面倒くさいなどとは思わず、考えこむ様子のブレーズ。
新しくパーティーに参加したばかりだというのに、加入してわずか3日目にして頓挫するわけにもいかなかったのか・・・あるいは、妹に言われた言葉が癪に障ってしまったからなのか・・・。
・・・いずれにしても彼は、妹のその言葉に耳を傾け、自分や相手の身を滅ぼしてしまうかもしれないという危険をはらんでいるにも関わらず、それでも相手を好きでいられるかどうかを、自分の身に当てはめて考えたようである。
その結果、彼は一つの答えにたどり着く・・・。
「・・・そうか。よく考えてみたら、何も不思議な事じゃねぇな」
「えっ?」
「つまりアレだろ?危険とか危険じゃないとかなんて関係なくて、相手のことが好きで好きでたまらない、ってことだろ?それは、俺にも同じようなことがあるから、よく分かるぜ?」
「えっ・・・?お、お兄ちゃん、もしかして好きな人がいたの?!」
兄はてっきり、彼女いない歴=年齢、だと思っていたにも関わらず、存外な言葉が兄自身の口から飛んできたことで、妹のシルビアは思わず耳を疑ってしまったようだ。
それから彼女が、兄に対する自分の認識こそ、変な偏見に囚われていたのではないか、と考え始めていると、ブレーズが妹の問いかけに対して、自信満々な表情を浮かべながら、こんな言葉を口にした。
「あぁ。人間じゃないが機械が大好きだ!」
「・・・・・・うーん・・・」
呆れた表情を浮かべながら、『あぁ、そう』と言おうとして・・・しかし、その言葉を飲み込んでしまうシルビア。
彼女にとって、兄のその言葉は、単なる変態の戯言のようにしか聞こえていなかったが・・・眼の前で、真っ赤になっている剣士の腕へと電動サンダーのように頬ずりをしていたエネルギアや、パーティーのリーダーであるワルツがマシンであることを考えて、シルビアは兄のことを無下に『変態』の一言で片付けることが出来なかったようである。
もしも彼の好みを否定してしまったなら、それは剣士を好きだというエネルギアや、ワルツに対して忠誠(?)を誓う自分自身のことも、同時に否定してしまうことに繋がってしまう・・・そう考えたのだろう。
「そっかぁ・・・。お兄ちゃんも色々と悩んでるんだね・・・」
兄の言葉が、思ったよりも深いものだったような気がして、目を細めながら俯くシルビア。
そんな彼女の態度を見て、
「ほう?俺はてっきり変態扱いされるかと思ってたんが・・・しばらく見ない間に、お前、心が随分と広くなってたんだなぁ・・・。兄ちゃん、見直したぜ?」
ブレーズは、まるで仲間を見つけたような・・・そんな嬉しそうな表情を見せながら、満足気にそう言った。
「うん・・・色々あったんだよ。私だって、機械が大好きだから」
「そうかそうか。シルビアも機械が好きか!」
「うん!」
そう言って笑みを見せ合う翼人兄妹・・・。
そんな2人に対して、
「(絶対、意味が違うだろ・・・・・・って、痛っ!)」
と、剣士が何か言いたげな表情を浮かべながら、擦り切れて血が滲み出かかっている自身の腕を、どうやってエネルギアの拘束から解けばいいか、と悩んでいたようだが・・・普段から彼女に翻弄されている剣士自身が、エネルギアのことをどう考えているかについては、今のところ彼自身が表立って口に出すようなことはしていなので、実は不明だったりする・・・。
うむ。
今日の文は比較的まともだったような気がしなくもないのじゃ。
仮眠の時間を長く取ったことと、食事の量の調整を行った故、夜遅くになっても、ボーっとした狐になるようなことは無かったからのう。
・・・まぁ、途中で、何度か集中力が途切れるようなことはあったのじゃが、それはいつも通りじゃったから、大きな問題では無いのじゃ。
さて。
今日も補足に入ろうかのう。
今日は1点だけ。
ブレーズの奴が実は翼人だという点についてなのじゃ?
以前、ブレーズの頭から、何やら突起のようなものが生えておると言う話をしたと思うのじゃ。
で、今回明かされた情報として、彼は翼人、ということだったのじゃ。
まぁ、シルビアの兄妹じゃから、翼人なのはあたりまえなのじゃがの。
それで・・・頭に突起があって、翼が生えておる・・・。
そろそろ何の獣人か、予想できる頃じゃろうかのう?
そんな彼が、その身体の特徴を使って活躍する話は・・・将来的にあるのかのう・・・。
できれば、そういった話を通じて、どんな見た目なのかを紹介していきたいのじゃ。
・・・まぁ、妾が覚えておれば、じゃがの。
さて。
今日の補足はこんなところだと思うのじゃ。
・・・本当は、今話辺りで、ワルツがブレーズを仲間にした理由と、彼がシルビアの兄だった理由の関連付けをしたかったのじゃが、諸事情によりワルツがこの場におらんかった故、残念なことに説明出来なかったのじゃ。
そのうち、機会を見つけて、書きたいのじゃ?
・・・っていうか、それを書かねば、ブレーズがいきなり登場しました〜、で終わってしまうからのう・・・。
それは物語の進行として拙いと思うのじゃ・・・。
・・・まぁ、今更じゃがのう・・・。
で、恒例(?)の質問コーナー・・・と言う名の、世界観の補足説明に入ろうと思うのじゃ?
前々回の狩人殿の質問は・・・この世界の神は、一体どんな存在か、という漠然とした質問だったはずなのじゃ?
じゃから、今日は、この世界の神について2点だけ述べようと思うのじゃ。
まずは、1点目。
何人いるのか。
・・・実はのう、これは国によって異なるのじゃ。
彼ら、『神』と呼ばれる者たちは、大抵の場合、その国の英雄や国王たち、あるいは勇者やそれに似たような聖人たちがなる『役職』なのじゃ?
じゃから、存命しておっても、死んでおっても、国教会から指定を受けておれば、『神』として崇められるのじゃ。
で、どうすれば『神』になれるのかは・・・物語に深く関係してくる故、不明、ということにしておこうかのう。
なお、ミッドエデンには、1ヶ月前まで、20名ほどの『神』が国教会に指定されていたらしいのう?
・・・今の最新の人数は不明じゃが・・・。
で、もう1点は、勇者と神との関係について、なのじゃ。
勇者ルシア嬢の話にあった通り、最初に国の政府機関が『勇者候補』を決定すると、次に国教会での正式な手続きがあって、それから勇者候補は正式にその国の『勇者』として認定されるのじゃ。
その際、『勇者』と『神』は特殊な魔法で魔力的に紐付けされて、離れていても互いに魔力が供給できたり、国家予算や教会の予算が配分されたり・・・まぁ、色々な特典を受けることができるのじゃ?
『神』が死んでおった場合でもそれは変わらないのじゃが・・・話がものすごく複雑なことになる故、今日は説明せぬが、どこかの機会で、その辺のシステムについても説明しようと思うのじゃ。
ってなところかのう。
というわけで、次回の質問。
『人は何を以って、生物を魔物と呼ぶのだろうか・・・。世の中には莫大な魔力を持った、まるで化け物のような人間も・・・・・・おっと、誰か来たようだ』
という、飛竜の質問に答えようと思うじゃ?
まぁ、これについては一度本編で取り上げたことがあるはずじゃが・・・ちゃんとした説明の機会をもっても良いじゃろう。




