7.4-05 王都のお祭り5
アトラスたちが赤い球体を探していた同時刻・・・。
「・・・国の南部でマギマウスどもが暴れまわっておるというのに、祭りをしておる暇など・・・・・・まぁ、ワルツに考えがあるという話じゃったから、別に良いか。とりあえず、住民たちには、保証金だけを払っておけばよいかのう?」
議長室では、情報部やコルテックスから回ってきた書類に眼を通して、そんな適当な判断を下そうとしていたテレサの姿があった。
どうやら彼女は、ワルツがミリマシンを大量生産するという優先順位を、スイーツフェスティバルよりも下げてしまったことを知らないようだ・・・。
そんな彼女の相談の相手は・・・
「ふむ・・・儂には、なぜ人がネズミごときで騒ぎになるのか分かりませぬ故、この件に関してはテレサさまにお任せするのでございます」
と言いながら、愛用の鉾の手入れをしていた着物姿の水竜と・・・
「水竜様。ただのネズミではありません。ワルツ様とカタリナ様が作り出した、生物兵器です。たしか・・・バイオウエポンという名前だったような・・・」
と口にする、元魔王のユキである。
水竜は議長の秘書なので、ここにいるのは当然なのだが・・・どうしてユキがここにいるのかと言うと、またカタリナから逃げ出したため・・・というわけではなかった。
今日は、ユキに指導をする立場にあるカタリナが、王城の厨房で生物兵k・・・・・・諸般の事情により、エネルギアの医務室にいなかったので、ユキにはカタリナの作った教科書を眺める以外に、特にやることがなかったようなのだ。
しかも、カタリナの補佐を務めていたテンポも、休みを貰って自身の身体のメンテナンスをしていることもあり・・・医務室には、意識のないリア以外、誰もない状態になっていたのである。
そんな全く刺激のない場所にいて、ふと眠気に誘われた時、先日のように誤って涎を教科書に垂らしてしまうようなことがあったなら・・・とユキは考え、不意な事故を起こさないためにも、今日は医務室には行かないことにしていたのだ。
そんなことがあって、今日一日、ユキはフリーな状態になっていたのだが・・・どういうわけか彼女は、休みを謳歌するわけでもなく、まるで生来の習性であるかのように、国家のトップが執務を行う部屋へとやって来ていたのである。
彼女の250年の生涯で、一体どれほどの間、魔王を務めていたのかは不明だが、もしかすると、民衆の先頭に立ち続けることが、本当に彼女の習性の一部になってしまったのかも知れない・・・。
・・・尤も、その割には、頻繁に職務から抜け出していたようだが・・・。
まぁ、それはともかくとして。
事の真相を知っていたテレサが、ユキのバイオウエポン発言に対して、ジト目を向けながら指摘の言葉を口にした。
「・・・あれは、生物兵器などでは無いのじゃ。むしろキメラと言ったほうがいいと思うのじゃ?」
「キメラ・・・ですか。確か、キメラというのは、錬金術士たちが作り出した人工生命体か、あるいは改造生命体のはずですよね?ですが・・・ボクが聞いた話によると、暴れているのは、単なる魔力特異体のマギマウスということでしたが・・・」
「それが本当に、単なる魔力特異体なら、確かに、キメラとは言わぬじゃろうのう。じゃがのう、もしも彼らのその膨大な魔力が、人為的に付加されたものじゃとするなら・・・どうじゃろうかのう?」
「・・・つまり、眼には見えない改造を施された・・・見た目だけがマギマウスな別の生物、ということでしょうか?」
「うむ。妾も、具体的にどのような改造を施されておるかは知らぬが・・・というか、その辺りの話は、ユキ殿の方が詳しいのではないのかの?」
「えっと・・・」
・・・そして考え込むユキ。
どうやら彼女は、カタリナたちから何らかの説明を受けたようだが・・・今ではすでに、すっかりと頭から抜け落ちてしまっていたらしい・・・。
「・・・あとで、ノートを見直しておきます」
「うむ。主もしっかりと勉学に励むのじゃぞ?」
問いかけられたことを思い出せなかったことで、苦い表情を見せていたユキに対し、最近、彼女と同じように習い事が多かったテレサは、自分とユキの姿を重ねたのか、少しだけ目を細めながら小さく笑みを浮かべた。
そんな折、水竜がおもむろに口を開く。
「勉学といえば・・・ワルツ様方が、何やら厨房の方で、料理の勉強会とやらを催されておられるようですぞ?」
「料理・・・あぁ、スイーツフェスに向けたお料理の勉強会ですね」
料理と聞いてから、急に余裕のありそうな表情を浮かべて、そう口にするユキ。
・・・一方、テレサの方は、ユキとは対照的に、渋い表情を浮かべていた・・・。
「料理・・・料理のう・・・。何故、人は、調理をするのじゃろうかのう・・・」
この国の王女だったこともあって、生まれてこの方、まともに料理を作ったことが無かったテレサ。
・・・いや、正確には、作ったことがない、ではなく、作らせてもらえなかった、と言うべきか・・・。
彼女もスイーツフェスティバルでは、調理人側としての参加を王都のギルド連合から要請されており、否が応でも何らかのスイーツを作らなくてはならなかったのだが・・・ほとんど経験の無い調理が、果たしてまともにできるのかどうか、と彼女は思い悩んでいたようである。
「大丈夫ですよ?テレサ様。料理なんて、ルールさえ守っていれば、大抵のものは簡単にできるのですから」
「ユキ殿の仰る通りですぞ?テレサ様は少々、心配症過ぎるのでございます。もっと大きくどっしりと構えていれば良いのでございます」
「・・・・・・(ユキ殿はともかく、つい最近、人間になったばかりの水竜が言っても、何の説得力もないのじゃ・・・)」
テレサはそんなことを考えながら、デスクに肘を付きつつ、両手で頭を抱えた。
スイーツフェスティバル開催までに残された明日明後日だけで、狩人に料理を教わって、ちゃんとスイーツが作れるようになるのか・・・。
あるいは・・・言霊魔法を使って、ギルドの者たちを強制的に黙らせた方が早いのか・・・。
彼女は、その2択のどちらの方が簡単で堅実的なのかを、しばらくの間、考え込むのであった・・・。
それから、ユキと水竜が、テレサには良く分からない料理の話を始めた頃。
ガチャッ!
「妾〜?少し話があるのですよ〜?」
コルテックスが、いつも通り(?)に柔和な笑みを浮かべながら、議長室へと戻ってくる。
「・・・ん?どうしたのじゃ?」
そんなコルテックスに対して、机の上に置かれたA4のコピー用紙のような紙に、ずらりと書き連ねた各ギルドのトップの名前へとマルバツをつけながら答えるテレサ・・・。
テレサがいったい何をしているのか、コルテックスにはおおよその想像が付いていたようだが・・・それを確認すること無く、彼女は用件を早々に口にした。
「今回の祭りですが〜・・・公序良俗を考えて、カップルの参加を禁止にしませんか〜?」
『・・・は?』
「祭りというのは、どうしても羽目が外れやすいイベントですから、こういうときこそ、綱紀の緩みを引き締める時だと思うのですよ〜」
その場にいた3人が、自身に対して唖然とした表情を向けていることを、あえて気にすること無く、説明するコルテックス。
するとユキが・・・何故か嫌そうな表情を浮かべながら、その口を開いた。
「あの・・・コルテックス様?本当にそれ、やるのですか?ちなみに、カップルって、何を持ってカップルとするのでしょうか?(場合によってはすごく困るのですが・・・)」
「そうですね〜。例えば、アトラスと誰かが仲良く歩いているような場合。これは完全にカップルとして判断してもいいでしょう。あるいは、アトラスと誰かが仲良くないけれど、手を繋いで歩いている場合。これもカップルとして死刑にしていいと思いますね〜」
「漠然としすぎというか、対象がアトラスさんだけというか・・・っていうか、手をつないでいるだけで死刑なんですね。仲が悪いのに手をつないでいるとか、よくわからない状況ですけど・・・」
要するにコルテックスは、アトラスが誰かと仲良くしていることが気に食わない、ということ気づいて・・・何故か安堵の色を含んだ溜息を吐くユキ。
テレサも水竜も、コルテックスの考えには気づいていたようで・・・
「コルよ・・・。もうアトラスのことは、放っといてやっても良いのではないか?」
「アトラス殿も一人の男性なのでございます。彼にも女性を選ぶ選択肢を与えてあげてもよいのではないですかな?」
2人とも呆れたような表情を浮かべながら、そう口にした。
・・・しかし、コルテックスの方は、納得できなかったようだ。
それも、3人には分からない理由で・・・。
「・・・ですが、このままでは、アトラスが不幸せ〜・・・というか、大変なことになってしまいます」
『・・・?』
「ともかく、アトラスが男性で、そして私がその妹として作られた以上、兄の面倒を見るのは、当然なことだと思うんですよ〜。本当は、その逆もまた然りなんですけれどね〜・・・」
『・・・?』
コルテックスの言葉を聞いただけでは、単なる独占欲にしか聞こえなかった3人。
だが実際は、コルテックスやアトラス、それにワルツが説明していないだけで、歴とした理由が存在しているのだが・・・仲間たちがその詳細を知るのは、まだしばらく先の話である。
・・・故にテレサたちは、
「まぁ、今回ばかりは無理じゃろうのう。もう3日後の話じゃから、緊急で議会に通したとしても、通達までに時間がかかってしまうのじゃ」
コルテックスの言葉を、いつも通りの細やかな我儘として扱うことにしたようだ。
そんな反応を聞いて・・・
「そうですよね〜・・・(近い内に、抜本的な解決策を考えなくては、いけませんね〜。本当なら、お姉さまが動いてくれればいいんですけれど・・・)」
口には出さなかったが、アトラスのことを考えて、頭を悩ませるコルテックス。
その結果、彼女は、祭りの最中にとある行動に出ることを決意するのだが・・・そのことについて、テレサたちが知る由は無かったのであった・・・。
・・・自分の話を書くことが、これほどに違和感のあることじゃとは思わなかったのじゃ。
いやの?
今まで何度も自身が登場する話を書いてきたのじゃが、回を重ねるごとに、違和感が・・・こう・・・膨れ上がって・・・zzz。
・・・まぁ、いいがの。
で、今日は・・・昨日申した通り、朝が早かったために、zzzなのじゃ。
それはもう、全てのあとがきの文をzzzにしたいくらいzzzなのじゃ。
というわけで、今日も早く寝るために、さっさと補足に入るのじゃ?
まぁ、これは補足という程でもないのじゃが・・・コルが何故、アトラスから自分以外の女性を遠ざけようとしておるのか。
これはのう、本文でも書いたのじゃが、コルの独占欲的なものではないのじゃぞ?
どうにもならない理由があるのじゃが・・・それについては、8章で語られる予定なのじゃ?
・・・次章でアトラスを登場させること自体を、忘れてしまいそうじゃがのう・・・。
まぁ、補足は、こんなところかのう。
さて・・・昨日のルシア嬢からの質問、ミッドエデンの周りには、どれくらいの数の小国があるのか。
これに答えようと思うのじゃ?
結論から言うと、隣接しておる国は、大体15国前後なのじゃ。
『前後』というのは、小国同士で争いで、たまに増えたり減ったりするから、なのじゃ?
現状15国じゃが、数カ月前には16国だったのじゃぞ?
・・・本編に関係は無いがのう・・・。
ちなみに、国力の差じゃが、GDP換算で比べると・・・2ヶ月前のミッドエデン換算で、1国当たりおよそ1/10程度。
15国が集まれば、単純計算で1.5倍だったのじゃ。
・・・そう、だった、のじゃ。
故に・・・ミッドエデンが急成長を遂げた今では、わざわざミッドエデンに喧嘩を売ってくるような国は、激減しておるのじゃ。
各国とも、喧嘩を売るよりも、ミッドエデンと交易したほうが、経済的に潤う、と気付いたようじゃからのう。
・・・まぁ、その分、大国とのパワーバランスが崩れてしまっておるのじゃが・・・そちらは、本編で取り上げようと思うのじゃ。
さて。
次回は・・・
『ネコと和解せよ!ってたまに見かけるけど、あれ、いい言葉だよな・・・。で、この世界の神って、どんな存在なんだ?』
という狩人殿の疑問に答えようと思うのじゃ!
・・・個人的には狐と和解したいのじゃがの・・・。




