7.4-03 王都のお祭り3
・・・一方その頃。
1階にある厨房のその直上にある会議室では・・・
「これから王城内に隠されている・・・かもしれない、不可視の魔道具についての調査を始める!」
アトラスが、その場に集まった者たちに、そんな宣言をしていた。
そんな彼の呼びかけに、
『お〜』
と、いつも通り、イマイチな様子で応えるメンバーたち・・・。
その内訳は・・・
「今日こそ、アトラスさんのお役に立ってみせます!」
と、一人だけ意気込むシラヌイと・・・
「虚ろげな様子で闇に浮かぶ、あの赤い球体・・・。暗いところであれ見るのは・・・正直、怖いのだ・・・」
本当の姿は巨大なドラゴンのはずなのに、妙に小心者な様子の飛竜・・・。
それに・・・
「お腹いっぱいだけど、お城の中を探検したいかもだし?」
と口にしながら、昼食で膨れたお腹を撫でつつ、大きなあくびをするメイド・・・ではなくメイドの姿をしたイブ。
以上の3人であった。
要するに、先日、アルクの村の地下工房に設置されていた怪しげな赤い球状の魔道具を探すことについて、協力的な姿勢を見せていた仲間たちが、この王城の中に設置されているかもしれない件の魔道具を探すために集結していたのである。
とはいえ、唯一赤い珠を見ることの出来る飛竜はメンバーとして必要かもしれないが、球体を直接知覚する手段を持たない他の2人が協力する意味はあまり無さそうだが・・・。
それでも、せっかく協力してくれるというシラヌイとイブのことを、アトラスの方に拒む理由は全く無かったようで、彼はいつも通りに人当たりの良さそうな笑みを見せると、協力してくれる3人に対して、今日これからのスケジュールを口にし始めた。
「まずは・・・誰でも出入りできそうな場所から探そうと思う。もしも、例の魔道具が、人によって設置されたものだとするなら、人通りの多い場所に設置されている可能性が一番高いだろうからな」
「人通りの・・・多い場所ですか・・・」
とまるでオウム返しのように、アトラスの言葉を自分の口で繰り返すシラヌイ。
そんな彼女の言葉に、少しだけ戸惑ったような色が含まれていたのは・・・やはり、人の多い場所が苦手だったから、ということなのだろうか。
パーティーのリーダーであるワルツからして、人混みがあまり得意ではないこと考えるなら・・・どうやらこのパーティーには、類はなんとやら、という言葉通り、根っからの引きこもりが集まる傾向にあるようだ・・・。
とはいえ、全員が引きこもりというわけではないことについては、わざわざ説明しなくても明らかだろう。
実際、そこには、引きこもりとは無縁な人物が、嬉しそうに尻尾をブンブンと振りながら、キラキラと輝く視線をアトラスへと向けていた。
犬の獣人の、イブである・・・。
「つまり・・・人混みの中から、危険な爆発物を探し出せばいいかもなんだね?」
「いや、イブ。探そうとしている魔道具は、爆発しないと思うぞ?」
「えっ・・・なら、何のために探すの?爆発しないなら、無害だと思うかもなんだけど・・・」
「何のためって・・・・・・そういえば、何のためだろう・・・」
『えっ・・・?』
アトラス自身が魔道具を探す意味を失ったことで、急に調査中止の機運が高まってきた(?)ために、思わず声を上げる少女たち3人・・・。
しかしアトラスは、すぐに、魔道具を探さなくてはならない理由を思い出し、再び口を開いた。
「あ、そうだった。その魔道具を使って、俺たちの行動が監視されていたとしたら・・・それはそれで問題だとは思わないか?もしかすると、こうして会話している内容すらも、誰かに筒抜けなのかもしれないぞ?」
すると、その言葉を向けられていたイブは、納得げな表情を浮かべながらも・・・しかし、こんな言葉を口にした。
「ふーん。確かに、レディーのぷらいべーとを覗かれるっていうのは嫌かもだね。だけどさー、人が多いところで見られる分には、どうでもいいかもなんじゃないの?」
「・・・まぁ、確かに・・・」
「それなら、最初から、見られちゃいけないとか、見られたくない場所を、重点的に調査することの方が重要だと思うかもなんだけど?それに、沢山の人が出入りする場所なら、せっかく魔道具を取り除いたとしても、すぐにまた新しい魔道具を設置されるかもだしね・・・。もしもそうだとすれば、設置されないようにずっと監視しなきゃならないかもだけど・・・そうなると、イブの弟子のドラゴンちゃんが大変になるかもだよね?でも、それは、師匠としてどうかと思うんだよね・・・」
「・・・主よ・・・。我のことをそこまで考えてくれていたのだな・・・」
「ううん。いま思い付いただけかも」
『・・・・・・』
その一言が無ければ良かったのに・・・と思いながら、口を噤む他3人・・・。
ただ、アトラスにとって、彼女のその意見は有用なものに思えたようで、
「そうだな・・・。なら、誰かに見られると困る場所から探し始めよう」
当初の計画を修正して、臨機応変に行動することにしたようだ。
その変更に対して、その場のメンバーに否やは無かったようで・・・
「了解です。アトラスさん」
「うむ。我も異論はない」
「これでしーくれっとな王城の中を探検できるかもだね!」
それぞれに、そんな納得したような声を上げるのであった・・・。
・・・そして数分後。
最初に音を上げたのは・・・まさかのアトラスであった・・・。
「・・・最初からこれかよ・・・」
と、泣き言のように彼がそう口にしたその理由は・・・会議室から出て4人が最初にやってきた場所が、
「人生の行き止まりへようこそ〜!」
・・・運悪くコルテックスのいる、女子更衣室だったからである・・・。
「なんでいるんだよ・・・」
いきなり面倒な人物に絡まれたことで、ゲンナリとした表情を見せるアトラス・・・。
そんな彼は・・・もちろん、女子更衣室に足を踏み入れたわけでは無かった。
だが、中にいたコルテックスにとって、侵入したか、侵入していないかについてはどうでも良かったらしく、男性がこの部屋へと接近してきたこと自体が罪、と言わんばかりに、まるで近接信管を搭載したミサイルのごとく、アトラスに絡んで来たのである。
・・・まぁ、わざわざ言うほどのことでもないが、これが2人の日常だ。
「調査という言葉を言い訳にして、女子更衣室へと足を踏み入れようとする男性〜・・・。これはもう、死刑しかありませんよね〜」
と口にするコルテックス。
しかしアトラスの方は、もういいや、と割り切ることにしたようで、彼女のことは完全に無視して、更衣室の中へと声を投げかけた。
「はいはい。・・・で、どうだ?カリーナ。何かあったか?」
すると・・・
「んー・・・ここには何も無いようだ・・・」
何もないはずなのに、何故か残念そうに答えてくる飛竜・・・。
それから彼女は・・・不思議そうな声色を含ませながら、アトラスへと問いかけた。
「しかし・・・何故主は、部屋へと入ってこないのだ?主もオスなら、恥ずかしがらずに、堂々と入ってくるのだ」
「あのな?カリーナ。人の世界には不可侵領域というものがあってだな・・・」
アトラスがそう言って、今にも襲いかかってきそうなコルテックスの額を押さえながら、人の世界にあるジェンダーの壁について説明しようとすると・・・
「・・・ズルいです」
おもむろにそんな声が、アトラスの背中の方から飛んでくる・・・。
「・・・どうした?シラヌイ?」
自身の後ろにいたシラヌイが、どうしてそんな言葉を口にしたのか分からなかったために、首を傾げながら、彼女の方を振り向いて、理由を問いかけるアトラス。
するとシラヌイは・・・
「・・・え?あ、あぁ、何でもないです!ちょっと3日後の事を考えてまして、つい独り言が出てしまいました。気にしないでください」
顔を真赤にしながら、そんなことを口にして、ごまかすように顔の前で手を振った。
それからアトラスが、その様子を見て・・・
「3日後・・・スイーツフェスか。まぁそれはいいが・・・・・・まぁいっか」
と、口から出かかった言葉を飲み込むと・・・今度はどういうわけか、コルテックスの様子がおかしくなる。
「・・・ぐぬっ!そ、その手がありましたか〜・・・」
と、いつもの柔和な表情とは違い、一瞬だけ苦い表情に変わるコルテックス・・・。
そんな妹の普段とは異なる表情に、兄であるアトラスは違和感を感じたようで、彼は妹にその理由を問いかけようとする。
「・・・?何だよ急に・・・」
「いえいえ、なんでもないですよ〜?ちょっと用事を思い出したので、妾のところに行ってきますね〜?」
「はあ・・・」
普段なら、しつこく絡んでくるはずのコルテックスが、自分のことを簀巻にするでもなく、素直に離れていったことに、思わず頭を悩ませてしまうアトラス。
コルテックスが何かを企んでいる・・・。
普段から虐められている(?)彼にはそうとしか思えなかったようだ。
「くっそ・・・。今から対策を考えるか・・・」
最近、王城の中に、男性の仲間が増え始めていたこともあって・・・アトラスは男性の地位向上のために、一肌脱ぐ決意をしたとか、しなかったとか・・・。
なお・・・そんなやり取りをするアトラスたちの姿をシラヌイよりも更に後ろで見ていたイブが・・・
「(・・・これが、三角関係・・・いや、四角形?五角・・・あれ?)」
と、混乱しながら仲間たちの関係について思慮を巡らせていたのだが・・・果たしてそれが、彼女の思った通りの関係であるかどうかは・・・。
こうしてイブ嬢は混乱を始めたのじゃ。
あ、そうそう。
これだけは言っておくのじゃが、イブ嬢は、ワルツや妾(?)と同じく、オブザーバーポジションなのじゃ?
アトラス-イブ嬢ルートは、妹役のコルテックスがいる以上、どうにもならな・・・いや、そういう話はやめておくのじゃ。
イブ嬢、8歳児じゃしのう・・・。
まぁ、それはさておき。
今日も諸事情により、zzzな狐になっておる故、さっさと補足に入ろうと思うのじゃ?
これは・・・補足ではないのじゃが、『臨機応変』という言葉について、思ったことがあった故、書いておこうと思うのじゃ。
『臨機応変』という言葉は、柔軟に対処する、と言う意味で使われると思うのじゃが、この言葉を文書の中に入れようとすると意外に大変だった、という話なのじゃ。
例えば、『臨機応変に対応する』という文章があったとするじゃろう?
でも、『応』という言葉が2重に使われる故、クドく感じる気がするのじゃ。
元の言葉の意味も同じじゃしのう・・・。
あるいは、『臨機応変に変える』『変化させる』という文章。
これも同じなのじゃ・・・。
言わば、『頭痛が痛い』と同じなのじゃ?
分かっていて、ネタとして使う分には嫌いじゃないがのう?
この辺の解釈は、調べてみると、中々に奥が深いようじゃのう。
問題ないという者もいれば、その逆の者もおる・・・。
まぁ、そもそも、妾の文は、全体を通して破綻しておるから、今更そんなことを気にしたとしても大した問題では無いのかも知れぬがの・・・。
まぁ、それについてはここまでとして・・・。
他には・・・多分無かった気がするのじゃ。
それとは別の話なのじゃが、そのうち王城の中の構造を紹介する話か図のようなものがあってもいいかも知れぬのじゃ。
ついでに、『王都』の町並みに関しても然り、なのじゃ。
・・・完全に、『王都』の名前を明かすタイミングを逃してしまっておるのじゃが・・・これ、どうにかならぬものかのう・・・。
・・・・・・まぁ、よいか。
次回、『王城の3階にはテレサ様の部屋があるかもなんだけど、他の部屋に比べて、天井がそんなに高くないのはどうして?』乞うご期待?なのじゃ。
・・・もう、無意味な次回予告は止めて、イブ嬢からの疑問に答えるコーナーを作ってもいいかも知れぬのう・・・。




