7.3-25 メルクリオの影12
人によっては少々嫌悪を抱いてしまうことがあるかも知れぬのじゃ。
ご注意下さいなのじゃ?
・・・え?いまさら?
意識を失っていたクリスが目を覚ますと・・・そこは見慣れた自分の部屋の中であった。
「う〜ん・・・すっきりとした、いい気分の朝だ・・・」
触り心地の良い布団と、自身の温もりが残っていた枕・・・。
その感触に後ろ髪を引かれながらも、クリスはいつも通りに身体を起こす。
「(うぅ・・・。しっかし今日は、随分と身体が冷えるような気がする・・・。それになんだか、喉の調子もおかしいようだ。風邪のひきはじめってやつか?)」
彼はそんなことを頭の中で考えながら、なんとなく身体に違和感があるような気がして、その原因を確かめようとした・・・。
しかし、
「・・・!?」
・・・彼は気づいてしまう。
「やっべ!寝過ごした?!」
窓から入ってきていた太陽の光が、随分と鈍角で、妙に眩しかったことに・・・。
「うぉぉぉぉ?!リーダーにぶっ殺される!」
彼はそのままベッドから飛び降りると、なんとなく身体が軽かったためか『最近、痩せたかなぁ・・・』などと考えながら、クローゼットの扉を開こうとした。
そして彼は、扉に手を掛けたまま、再び固まってしまう。
「・・・ん?待てよ?俺、昨日、いつ寝た?」
なかなか思い出せない自身の就寝風景を必死になって思い出そうとするクリス。
その途端・・・彼の頭を鈍い痛みが襲い、それと共に、就寝(?)する直前の記憶が浮かび上がってくる。
「・・・っ!・・・・・・?」
リーダーと共に魔神の飛行艇に乗り込み・・・そして、邪悪な気配を纏った謎の剣士に吹き飛ばされて、身体が動かなくなってしまったはず・・・。
なのに、血が出ているわけでもなければ、身体に痛みが残っているわけでもない・・・。
更に言えば、意識を失ったはずの飛行艇の中ではなく、どういうわけか自分の部屋でいつも通りに寝ていたのである。
彼にとっては、まさに理解の範疇を超えた出来事と言えるだろう。
・・・その結果、
「・・・あ、そうか。俺、死んだんだな」
クリスは、今いるこの世界が、死後の世界であると思い至ったようだ。
「なーんだ。道理で、身体が軽いと思ったぜ・・・。どうせなら、この部屋とかも、生前のままの小さな部屋じゃなくて、もっと大きくて豪華な部屋になってくれると良かったんだが、流石にそれは俺の想像力が足りなすぎて無理・・・んおっ?!」
・・・そして彼は気づいてしまう。
「なんか、スースーすると思ったら、大事なものが消えてるじゃねぇか?!これも死んだせいか?!」
・・・そう。
本来なら彼の股の間に収まっていたはずの、その大切な『何か』が、忽然と姿を消していたのだ・・・。
例えるなら・・・まるで、性別が変わってしまったかのように・・・。
「・・・男として、俺はもう駄目かもしれない・・・」
命と同時に男としての尊厳も失ってしまった、と思った彼は・・・この瞬間、自分は地獄に来てしまったのかもしれない、と考えたようである。
・・・だが、落ち込んでいた彼・・・いや、彼女の立ち直りは思いのほか早かった。
「・・・うん、よし!死んだ後の世界ってのは、夢の世界みたいなものだ、ってコリンズが言ってたから、女体に飽きたらどうにか頑張って、○○○をまた生やせばいいか!」
一番信頼してはいけない戦友からの助言を思い出しながら、明るい表情を浮かべるクリス。
それから彼女は、クローゼットの一番奥にあった、誰にも言えない趣味のために買ってあった女性物の服を取り出すと、喜々としてそれを身につけて・・・そして、随分と線が細くなっていた自身の顔に、どこからともなく取り出したおしろいと口紅で軽くメイクを施して・・・
「よっしゃ!行くぜ・・・じゃなくて、行くわよ!」
自身の部屋と外界とを隔てていた小さな扉を開くと、言い伝え通りなら、お花畑か何かが広がっているだろう死後の世界へと向かって、意気揚々とその足を踏み出したのである・・・。
そして10分後。
「・・・どうしてこうなった?」
「俺にも分からないですよ・・・」
「・・・地獄だ・・・」
・・・王城の兵舎にある談話室には、どこかで見たことのある面影を残した女性たちが、3人並んで、暗い表情を浮かべながら落ち込んでいる姿があった・・・。
そんな彼女たち・・・クリス、ジョン、ジョセフに一体何が起ったのかは・・・まぁ、詳しくを語らずとも、ある程度、想像できるのではないだろうか。
・・・ちなみにである。
そこで凹んでいた、元男性で元天使でもある3人の女性たちは、何も、最初から暗い顔をしていたわけではなかった。
お互いにここで始めて顔を合わせた時は、生前も(?)そうだったように、仲良く笑い合っていたのである。
そんな彼女のたちの気分が、地面にめり込むほどのどん底に叩き落とされてしまったのには・・・歴とした理由があったのだ。
「ぶはははは!!」
・・・コリンズである。
彼は、ここまでの経緯を全て知っていたのだが・・・まさか全員、最初から女装してくるとは思ってもみなかったようで、彼はこの部屋へとやって来てからというもの、その違和感の無さに、息も絶え絶えの状態で爆笑を続けていたのだ。
もしも、何も知らない者に対して、彼が笑茸を食べて死にそうになっている・・・と説明したとしても、恐らく誰もそれを疑うことは無いだろう・・・。
その姿を見て・・・
「・・・俺たち死んだんじゃないのか?」
と漏らすクリス。
すると、彼と同じように、自分も首を切られて死んだと思い込んでいた童顔のジョンが、泣きそうな表情を見せながら口を開いた。
「違うみたいです・・・。コリンズ先輩の姿はどう見てもあの時のままだし・・・ここまで来る際にすれ違った他の兵士たちも、みんな一緒に死んだとは考えにくいですから・・・」
そんな、親しい後輩の泣き言のような言葉を聞いていたジョセフも・・・
「そうか・・・これが魔神に喧嘩を売った報いか・・・」
心底、後悔した様子で、そう呟いていた・・・。
どうやら皆、ジョセフと同じようなことを考えていたらしく・・・しかし、だからこそ余計に、女体化した自分たちとは違って、いつも通りの姿で笑い転げているコリンズの様子が、目障りに映っていたようである。
・・・その結果、
「・・・おい、誰か俺のバトルアックス持って来い!野郎、ぶっ殺してやる!」
目障りなだけでなく、耳障りなコリンズの笑い声によって、クリスの心の中にあった我慢と言う名の堤防は、いとも簡単に決壊してしまったらしく、彼女はコリンズの息の根を止めるべく、談話室の壁に掛かっていた飾りの槍に眼を付けて、それを手に取ろうとした・・・。
そんな時である。
ガチャッ・・・
「・・・みんな起きたか・・・」
彼ら彼女らを束ねるリーダーがこの部屋へとやってきたのだ。
ついでに、リーダーの後ろには・・・
「・・・何?もしかして、ウチの王城の兵士って、実は変態しかいないの?」
・・・どういうわけか、この国の王女であるストレラの姿もあったようである。
そんな2人の姿を見て、
「リーダー!武器を貸してください!こいつ、ぜってぇ許さねぇ!」
「もうダメです・・・お婿に行けない・・・ぐすっ・・・」
「・・・無理だ、ジョン。諦めろ。もう俺達はお嫁にしか行けねぇ・・・」
と、口々に訴えかける(?)仲間たち・・・。
すると、リーダーは、腕を組んで目を瞑ると・・・笑い声がうるさかったコリンズを一瞬にして黙らせる魔法の言葉を口にした。
「・・・おい、コリンズ。この話が終わったら、お前、軍法会議な?」
「ブハハ・・・・・・はっ!?」
「胸に爆弾を隠し持っていたり、俺に何か隠し事があったり・・・色々暴露してたよな?後で、今も隠してることを含めて、洗いざらいゲロってもらうぞ?」
「ひ、ひぃっ?!」
つい直前まで真っ赤に充血していたコリンズの表情は・・・みるみるうちに真っ青になって・・・そのうち蒼白へと変わっていった。
その際、彼と同じタイミングで、クリスたちの顔色も急激に変わっていったのは・・・果たして、どんな理由があったからなのだろうか・・・。
「・・・さて。そんじゃ、あんたたちに、新しいミッションを伝えるわよ?」
彼らの表情が青くなろうがなるまいが、そんなことは関係ない、とばかりに、単刀直入に口を開くストレラ。
そんな彼女に対して、女性化した3人が、自身の身体に起ったことを問いかけようとしなかったのは・・・王女に対する忠誠心があったからなのか、あるいは魔神の飛行艇に手を出した報いである、と現状を受け入れていたためなのか・・・それとも・・・。
・・・いずれにしても、これから彼ら彼女らの本当の戦いが新しく幕を開けようとしていることに、代わりは無い、と断言できるだろう。
「で、次はねぇ・・・」
そしてストレラは、自身に向かって真剣な表情を向けてくる兵士たちに向かって・・・この国の未来と、そして日夜働き通しな国王カノープスの待遇を改善するためのミッションの内容を、歳相応の笑みを浮かべながら、話し始めたのであった・・・。
・・・いやのう?
妾としては、こういったシモネタ・・・までは行かぬかも知れぬが、ジェンダーが関わってくるような話は、安直過ぎる故、あまり書きたくなかったのじゃ。
じゃがのう・・・昨日、『カタリナ殿+遺伝子操作』の話を書いた時点で、このネタを書くしか道は残されていなかった故、しかたなく書いた、というわけなのじゃ?
まぁ、今後のメルクリオでのストレラたちの話を書くことを考えるなら、こういったキャラクターがいてもいいかとは思うのじゃが・・・言葉に出すのも憚られるような展開にならないかどうか・・・、今からそれが気がかりでならぬのじゃ・・・。
まぁ、それは置いておいて・・・。
今日の補足に入るのじゃ?
まずのう・・・。
実はこの話、彼らが一度死んでから1日後の話だったのじゃ。
つまり・・・すでにエネルギアは、コルの休日の関係上、1日前にメルクリオの王城から離陸して、どこかへと姿を消しておるのじゃ。
まぁ、日程を断定できる要素を含ませておらぬから、いつでもいいような気がしなくもないのじゃが、一応、断っておくのじゃ?
で、明日は、1日戻って、飛んでいったエネルギア側からの話になる予定なのじゃ。
・・・多分の。
で、次。
リーダーが、女装している元男性の部下たちを見ても、大した反応を見せなかった理由について。
これはのう・・・要するに、彼らが女装する趣味を持っていたことを、最初から知っておったからなのじゃ?
どうして知っているのかは・・・妾にも分からぬがの?
まぁ、どうせ、ろくな理由は無いんじゃろうのう・・・。
あとは・・・まぁ、そんなところかのう。
次回、『カタリナお姉ちゃん!ビクトールさんのことも女の子にして!』乞うご期待?したくないのじゃ・・・。
・・・エネルギア嬢がこう言った事実はない、と書いておかねば、なんとなく本当に言いそうな気がするのは・・・妾の気のせいじゃろうか・・・。




