7.3-23 メルクリオの影10
まるで黒いスライムか何かに飲み込まれたようにも見えていた剣士の姿。
その姿を見て、元天使たちは、その背筋にひんやりとしたものを感じ取っていた。
「万事休すか!?」
飛行艇のコアを破壊しに来た自分たちのミッションが、このままだと、対象を目前にして、失敗してしまう・・・。
自分が死ぬのが先か、ミッション完了が先かを考え・・・コリンズは前者の可能性が高いことを察してしまったようだ。
一方、リーダーの方は諦めていなかったらしい。
彼は、再びマントの中へと手をいれて・・・
「・・・自決用に取っておいたこの最後の魔道具を・・・使うしか無さそうだな」
1個だけ残っていた黒く丸い魔道具を取り出して、そう口にしたのである。
作戦を成功させるために、自身に残されている選択肢は、捨て身の自爆攻撃しかない・・・。
彼はそう考えて、自ら進んで自身の命を散らしてしまうことを決意したようだ。
「仕方ないか・・・。実は俺も一個、余してたんすよ」
そう言いながら、懐に手を入れて、魔道具を取り出すコリンズ。
どうやら彼は、まるでお守りのように、胸に爆弾を仕込んでいたようだ・・・。
「・・・なぁ、コリンズ。お前、いつからそれを胸に入れてた?」
「あー・・・確か、支給された当日だったような・・・」
「・・・・・・」
彼が自分に対して色々と隠し事をしているという話を聞いていたリーダーだったが、まさか、いつ爆発するかもわからない爆弾を文字通り胸に抱えていたことまでは、想像できなかったようである。
「なーに。今更、細かいことは気にするなよ、リーダー。最後に俺たちの意地を見せてやろうぜ!」
「・・・・・・まぁ、いいだろう」
・・・ありえないことだが、もしも今回の一件を生き延びることが出来たなら・・・コリンズを軍法会議か何かにかけることを、リーダーは決意したのであった・・・。
「さて・・・問題は、あのスライム野郎をどうやって迂回して、飛行艇のコアにたどり着くか、か・・・」
「そうだな・・・。あの中から、再び、さっきの化物みたいな剣士が出てきた時が・・・恐らく、俺たちの最期だろう。奴が変身を終える前に、先手を打つぞ!」
「了解!」
そう言って・・・再び、散開しようとする2人。
彼らには、エネルギアのミリマシンに埋もれてしまった剣士のことが、まるで、お伽話に出てくる、勇者に追い詰められた魔王の変身(2段階目)のように見えていたようである。
故に、2人は、その変身が終わる前にケリをつけようとしていたわけだが・・・それが叶うことは終ぞ無さそうであった。
何故なら・・・
「こらっ、バカども!寄って集って、何、エネルギアん中でテロリストごっこしてんのよ!」
『あ・・・ストレラ様・・・』
エネルギアのミリマシンによって肉体強化されていた剣士の後を追いかけてやってきていた、この国の王女のストレラが、ようやくこの部屋へと到着したからである。
「あー、けが人なんか出しちゃって・・・。これ、労災降りないわよ?」
「え、いや・・・あの・・・」
「・・・・・・ストレラ様」
突然現れたストレラに、コリンズは思わず吃ってしまっていたようだが、リーダーの決死の覚悟は揺らぐことがなかったようで、彼は眉間にしわを寄せながら、その心中を口にした。
「・・・どうか何も見なかったことにして、身を引いていただけませんか?我々は・・・国を台無しにしてしまった魔神とこの船が、どうしても許せないのです。最悪の状況に陥ってしまいそうだったこの国を、無事に立て直していただいたストレラ様方には感謝してもしきれませんがが、我が心の中にあるこの棘だけは・・・前王を亡き者にしたこの船を落とさないかぎり、抜くことはできないのです。どうか、何卒・・・」
そう言って、頭を下げるリーダー。
そんな彼の訴えを聞いたストレラは、腰に手を当てて溜息を吐くと・・・
「はぁ・・・。なら、私たちに反旗を翻す、って判断してもいいのかしら?」
最終宣告とばかりに、そう言葉を返したのである。
しかし、心が決まっているリーダーの返答が、今になって変わることは無く・・・
「・・・そう捉えていただいても、構いません」
曲げていた上半身を元に戻すと、厳しい表情を浮かべながら、ストレラから一切眼を離すことなく、そう言い切った。
すると・・・
「そう。まぁ、それはいいんだけどさ・・・」
と、急にどうでもよくなった様子で、リーダーの言葉を一蹴するストレラ。
・・・その次の瞬間、
ドゴォォォォン!!
というソニックブームが、リーダーの身体を襲った。
・・・いや。
正確には襲ったわけではなく、彼の身体にあたる直前で、掻き消えてしまったようだ。
何故そのようなことが起ったのか、というと・・・
「・・・私に勝てたら、この飛行艇を好きにしてもいいわよ?」
そもそも、ストレラの超高速移動によって発生したソニックブームだったので、彼女が急停止すれば、それにしたがって、周りの空気の流れも、ほぼ止まってしまうから、と言えば分かってもらえるだろうか。
そしてストレラが移動した先は、リーダーに手が届くほどの位置で・・・彼女は目の前にいたリーダーの首を、自身のその細い腕で掴み上げながら、再び口を開いた。
「私としては、有能な人材を、こんなところで失いたくないのよね・・・。まぁ、貴方たちにとっては、『こんなところで』なんて言葉を使った時点で、怒り心頭、って感じなのかもしれないけどさ?」ギュッ
「ぐっ・・・・・・!」
「っていうかさ、実は言ってないことが2つあったんだけど・・・私、ワルツ姉さんの妹なのよね・・・。言い換えれば、魔神の妹ってことかしら?」
『・・・?!』
そんなストレラのカミングアウトに、驚愕する元天使たち2人。
彼らには、ストレラたちが、魔神ワルツによって連れてこられた、哀れな犠牲者か何かのように見えていたのかもしれないが・・・実際にはそうではなく、むしろ騒乱の元凶の一部であったことを、今更になって知ったようで、驚きを隠せない様子であった。
「でさ。2つ目なんだけど、前王を殺したの、私たちじゃないわよ?」
『・・・?』
「っていうか、よく考えれば分かるんじゃない?この飛行艇を使って殺したんなら、多分、攻撃の衝撃で肉塊になって原型を留めてなかったはずだけど、国葬した時には、ちゃんと形があったわよね?別にあれ、クレイモデルとか蝋人形とか、そういうのじゃなくて、本物の前王の亡骸だったんだけど・・・。んー、それとも何?飛行艇じゃなくて姉さんが直接、殺したとか?でも、それはないわね。ウチの面倒くさがり屋の姉さんが、わざわざ原型を留めるような形で、死体を残すとは思えないし・・・」
『・・・・・・』
ストレラの言葉を聞いて、黙りこむ元天使たち。
前王の死因は、何者かによる刺殺だったのだが・・・魔神や魔王クラスのバケモノが、わざわざ丁寧に刃物を使って、前王を刺すことなどあり得るのか・・・と、考え込んでしまったようである。
その結果、彼らの決意が大きく揺らいでしまったことについては・・・まぁ、言うまでもないだろう。
「・・・でも仕方ないわね。どうしても反旗を翻すって言うなら、この国の民のことを考えて、排除するしか無いわね・・・」
ストレラのその言葉に・・・
「・・・・・・くっ!」
首を掴まれながら、悔しそうに項垂れるリーダーと、
「・・・そんな・・・」
ここまでの自分たちの行動を後悔している様子のコリンズ。
どうやら2人とも、すっかり毒気を抜かれてしまったようだ。
そんな彼らに、ストレラはこんな言葉を口にする。
「でも・・・そうね。貴方たちのように愛国心に溢れる者たちを、無闇に殺めてしまうことほど、愚かなことは無いと思うのよ。だから・・・今回の件を忘れてもいい代わりに、ちょっと私の下で特別なミッションを引き受けてみない?」
そう言ってから、リーダーの首を握っていた手を放して、開放するストレラ。
それと同時に、2人が手に持っていた爆発物を、瞬時に回収して・・・
ドシュッ・・・
と、魔道具を爆発ごと握りつぶして、消し去ってしまった・・・。
『・・・・・・』
その姿を前に、口を開けたまま固まる2人。
しかし、ストレラは、彼らのその表情を気にすること無く言葉を続けた。
「難しいことではないわ?とても簡単なことよ。特に、貴方たちにとっては、と言うべきかしらね・・・」
「・・・俺達にとって簡単・・・?」
「・・・まさか、噂に聞く、臓器売買・・・」
「違うわよ!他の元天使たちに、本当のことを伝える手伝いをして欲しいって話よ!」
そう言って、深くため息を吐くストレラ。
「で、やるの?やらないの?それとも、ここで死ぬ?」
魔道具が爆発したせいで、手についてしまった黒い炭を、ハンカチで拭き取りながら、彼女が問いかけると・・・
「・・・分かりました。やらせていただきます」
リーダーは、神妙な面持ちで、ストレラへとそう返したのである・・・。
一方・・・
「俺は・・・ちょっと遠慮してもいいか?」
顔を青くしながら、後ずさるコリンズ。
そんな彼のことを・・・
「・・・コリンズ、お前にはちょっと話がある。ちなみに拒否権は無いからな?」
リーダーが逃がすことは、決して無かったのであった・・・。
・・・と、誰も損せず(?)に終わろうとしていたこの場に、厄介な人物が2名ほど現れる。
「おやおや〜。こんなところにゴキブリが2匹・・・いえ、3匹いるみたいですね〜」
休暇を阻害する相手を見つけたことで、上機嫌(?)な様子のコルテックスと・・・
「さっき、ゴミ虫が入ってきたので、首を刎ねて実験用のシリンダーの中に入れておいたのですが・・・いらないのでお返ししましょうか?」
怪しげな緑色の液体が入った2本のシリンダーに、元天使であるジョンとジョセフの首を入れた代物を手にしたテンポであった・・・。
どうやら、ストレラの計画は、この2人をどうにかしなくては進められなさそうである・・・。
更に、である。
『ちょっ・・・カタリナお姉ちゃん!ビクトールさん、息してないよ!』
剣士を長時間包み込んでいたエネルギアが、助けを求めて悲鳴を上げ始めた・・・。
そんな彼女たちを前に・・・
「・・・面倒くさいから、この船、やっぱり落としましょうか」
ストレラがそうつぶやいたのは・・・あながち冗談ではなかったようだ・・・。
『進められなさそう』なのか、『進められなそう』なのか、『進められそうになさそう』なのか、ゲシュタルト崩壊を起こして15分悩んだ今日このごろなのじゃ。
結果、1番目を選んだんじゃがの。
・・・もう、眼が疲れてきたのじゃ。
何度読み返しても、疲れない文が書きたいのじゃ。
多分それが、読みやすい文、というやつじゃと思うからの。
じゃがのう・・・。
読み返して・・・読み難くて・・・読みやすく書き換えて・・・読み返して・・・と繰り返しておると、いい加減、何が読みやすい文なのか、分からなくなってくるのじゃ。
そういう時は、甘いお菓子を食べて、ネットを巡回して・・・そして頭を一度リセットするのじゃが・・・どいうわけか、体重も一緒に増えてしまうのじゃ?
全くもって、儘ならぬのじゃ・・・。
さて。
駄文はこんなところで切り上げて、補足に入るのじゃ。
・・・うむ。
無いのじゃ。
それでも強いて言うなれば・・・元天使たちとストレラが話しておる間、剣士たちは一体何をしておったのか・・・くらいかのう?
まぁ、簡単に言うと、エネルギア嬢が、カッコいい鎧を剣士殿に着せようとして・・・こだわりすぎて、剣士殿を窒息させてしまったのじゃ。
女子あるあるというやつじゃろ?よく分からぬが・・・。
今日はこんなところじゃろう。
次回辺り、メルクリオ編とコルの休暇編を終えて・・・ようやく『奴』の話に入りたいと思うじゃ。
そうでないと・・・サイドストーリーの方で、奴を登場させられないからのう・・・。
てなわけで。
次回、『やっぱり、エネルギア轟沈!with 剣士』乞うご期待!なのじゃ?
・・・まぁ、ターボ分子ポンプを1個破壊したくらいで、エネルギア嬢がいなくなったり、船体が墜落するなんてことは、まずありえないのじゃがの。
----追記----
修正:エネルギア嬢の発言で『剣士さん』→『ビクトールさん』に変更したのじゃ?
・・・いやー、口に出して読むと、『ビクトール』というよりも『剣士』って言ったほうがしっくり来るからのう・・・。
ついつい、見逃してしまったのじゃ・・・。




