1.2-20 町での出来事11
この町では、木の板に焼き鏝を当てて文字や絵を描き、それを看板にしている店が多いようだった。服屋も然り、宿屋も然り……。そして、ワルツたちの目の前にある武具屋もまた、その例外では無かったようである。
そんな店の前までやってきた彼女たちは、しかしどういうわけか、2人そろって再び立ち止まってしまった。それにはこんな理由があったようだ。
「……やっぱり、店の中にも、あんな感じの人たちがいるのかしら?」
「……多分……」
どうやら2人は、武具屋の中にも、ガラの悪そうな冒険者たちが、たむろしているのではないか、と考えてしまったようである。
そんな中で、最初に声を上げたのは、ルシアだった。彼女は姉の服の袖をギュッと握りしめると、こう口にする。
「でも、私……お姉ちゃんと一緒なら行ける気がする!」ゴゴゴゴゴ
「そ、そう?(気のせいかしら?よっぽど中にいる人たちより、ルシアのほうが……)」
店の扉の向こう側に対し、どこか覚悟を決めたような表情を向けていた妹の姿を見て、目を細めながらそんな失礼なことを考えていたワルツ。
しかし、その内心を口にすることはなく、彼女も覚悟を決めると。隣りにいた妹を一瞥してから、武器屋の扉にその手をかけた。
◇
カランコロン……
ギギギギギ……
鈴の付いた木製の扉をゆっくりと開いて、恐る恐るといった様子で中の様子を確認する姉妹2人。するとそこには、彼女たちが想像していた通り、屈強そうな冒険者たちが、商品を物色していたようだ。
そんな彼らは、おどおどとした様子で店に入ってきた少女たちのことを――
ギロリ……
――と、一斉に睨みつけた。
力こそがすべて。弱き者たちは容赦なく淘汰される……。そんな過酷な世界の中を冒険する彼らにとっては、場違いも良いところな彼女たち2人の姿が、目障りな存在に見えたようである。――自分たちが必死になって生きている世界を、端っから舐めている者たちが現れた、と。
だたまぁ……。それも一瞬のことだったようだが。
「っ?!」
「はっ?!」
「なんっ?!」
何に気づいたのかは分からないが、ワルツたちのことを目に入れた瞬間、彼らは一斉に、言葉にならない小さな悲鳴のようなものを上げ始めたのだ。そればかりか、彼らは、ワルツたちから後ずさりするように、店の端の方へと一斉に移動すると、2人のことを避けるようにして、皆、揃ってその場から逃げ去っていった。
やはり、ワルツから、殺気のようなものが滲み出ているらしい。あるいは、ルシアが持つ異様な魔力の存在を感じ取った結果だった可能性も否定は出来ないが。
「あれ?やっぱりおかしいわね……。もしかして、閉店時間間際?」
「そっかなぁ?お店の外には、もう少し遅い時間までやってる、って書いてたよ?」
「あらそう……。じゃぁ、あれね。夕食のタイムセールを思い出したのね。どこかでやってるんでしょ?きっと……」
「……そうだね(セールって、何?)」
姉の現実逃避の言葉が、毎回意味不明だったためか、細かいことは考えないようにして、ワルツの発言を脳裏の片隅に置いておくことにした様子のルシア。
それから少女たちは、店主以外に誰もいなくなった店内を回って、目的のものを探し始めたようである。
「まずは防具よね、防具。ルシアに合う防具って言ったら……やっぱり、鎧?」
「えっ……重そう……」
「まぁ、それは冗談だけど、魔法使いな感じでいくなら、やっぱりローブよね」
そう言いながら、店内を見渡して、魔法使いのための装備が置いてある棚を見つけるワルツ。
それから彼女は、その前まで移動して、陳列してあったローブを手に取りながら、ルシアに対しこう口にした。
「そうそう、これこれ。こんな感じの……高っ?!」
「えっ……」
何かに驚いたような色を含ませていた姉の声を聞いて、ローブに付けられていたタグへと目を向けるルシア。するとそこには、ゼロが沢山並んだ数字の列が……。
「……私、こんな高いのいらない……」ふるふる
「ごめんね……ルシア……。私も買えない……」げっそり
そう言うと、そのままの表情で、手に持ったものを棚へと元に戻すワルツ。
すると、そんな時――
「……嬢ちゃんたち、ちょっといいか?」
――店の中でワルツたち以外に残っていた人物、武具屋の店主が、不意に話しかけてきたようである。
彼の見た目を一言で言うなら、鬼教官。スキンヘッドで、体格が大きく、顔に大きな切り傷がある彼は、おそらくかつては冒険者をやっていたか、あるいは今なお現役の冒険者をしているのだろう。
そんな彼に話しかけられたワルツたちは――
「「…………」」ぽかーん
――と、叱られる3秒前の子どものような表情を浮かべていたようである。店主から向けられた敵意とは異なる厳しい気配を前に、2人とも思わず固まってしまったようだ。
その結果――
「なぁ、嬢ちゃんたち。……お前たち、なに者だ?」
――という店主からの問いかけに、彼女たちはすぐには答えられなかったようである。
どうやらワルツたちは、ここに来て、まさかの強敵(?)に遭遇してしまったようだ。




