7.3-22 メルクリオの影9
少しだけグロ注なのじゃ?
「クリス!」
「ば、化物・・・!?」
まるでラスボスと言わんばかりのタイミングでやってきた見知らぬ剣士を前に、吹き飛んでいった部下に向かって安否を問うリーダーと、愛用の武器を構えて剣士を睨みつけるコリンズ。
次の瞬間、彼らの間で交わされたのは、誰何のやり取り・・・ではなく、その手に持った武器を使った、戦士同士らしい肉体言語であった。
ガァァァァァン!!
リーダーと剣士との間で交わされる刃の応酬。
しかし、リーダーが持っていたその剣は、剣士の一撃を一瞬たりとも耐え切ることができず・・・
パァァァンッ!
と、まるで、脆いガラスを硬い壁に打ち付けたかのように、簡単に砕け散ってしまう。
「っ!」
結果、抑えきれなかった剣士のそのボロボロなダガーを避けようと、剣がぶつかった際の反動を利用し、身体を反らせる元天使たちのリーダー。
結果、彼が身につけていた鎧の、腹部すれすれの部分を高速で剣士のダガーの切っ先が通過していくのだが・・・
ドゴォォォォン!!
直接、触れていないにもかかわらず、どういうわけかリーダーの腹部に大きな衝撃が加わって、彼は丸腰のまま、その場で尻もちをついてしまった。
近接戦闘中に、武器を無くして、挙句、体勢を崩したとなれば・・・次の瞬間に彼を待っているのは、剣士が振りかざすだろうネズミ色のダガーの、その直撃しか無いだろう。
「くそっ!」
「リーダーっ!」
そんな彼の絶体絶命を感じたコリンズが、リーダーの窮地を救おうと、剣を振り抜いた剣士のその隙を見計らって、横から薙ぐように剣を打ち込んだ。
だが、
キィィィィン!!
・・・眼の前にいた、黒い邪悪な雰囲気(?)を纏っていた剣士は、尋常ならざる速度でそれに反応すると、自身が振りぬいたダガーを強引に引き戻して、コリンズの刃を軽々と受け止めてしまったのである。
そこで剣士は、ここに来てからようやく2言目の言葉を口にする。
「やっぱりおかしい・・・。ものすごい勢いで身体が動くのはどうしてだ?これじゃぁ、力が満ち溢れるとかそれ以前に、違和感しか感じないな・・・」
と言いながら、困惑気味の表情を浮かべる黒剣士(?)。
どうやら彼にとっても、今の自身の動きは、想定外の出来事だったようである・・・。
しかし、そんな彼の発言の意味が全く理解できていなかった2人が、戦闘の手を緩めることはなかった。
コリンズが剣士の得物をどうにか抑えている間に、リーダーが身を引いて体勢を建て直すと・・・
「俺が援護する!コリンズ!お前は前衛だ!」
「了解!」
そんな短いやり取りをした後で、戦闘のスタイルを変化させたのだ。
その結果、後ろに下がったリーダーが、何やらぶつぶつと魔法の詠唱らしき言葉を口の中で唱え始めて間もなく・・・
「・・・デイジーフレイム!」
拳大の炎の塊が、彼の手から放たれた。
それも、今もなお、至近距離で剣士への対応をしていたコリンズの影から、である。
一方、その魔力の気配を、頭に生えていた三角形の狼の耳で聞いていたコリンズは、火球を背中ギリギリまで引きつけて・・・
「っ!」
衝突の直前に身を横に翻して避けた。
すると、当然、飛来した火の玉は剣士の眼の前までやってきている事になるので、急いで避けたとしても、普通なら反応が間に合わないはずだが・・・今の肉体改造された(?)剣士にとっては、ほぼ止まって見えていたようで・・・
「・・・・・・」
特に驚いたような反応を見せることもなく、彼は冷静に避けようとした。
・・・しかし、剣士は何を思ったか、一時は避けようとしたその火の玉に対して、ダガーを握っていなかったもう片方側の手を出すと、
「っ!」
ボフッ!
自らの身を焼くことで、その火の玉をかき消したのである。
自身の後ろにあった用途も分からないような色々な設備に、ダメージが及ぶことだけはどうしても避けたい・・・。
どうやら彼の脳裏には、一瞬、とある少女の笑顔が浮かんできたようだ。
そんな彼の機器を庇うような行動を・・・当然のごとく、元天使たち2人が見逃すはずは無かった。
「・・・コリンズ!コアの破壊を優先しろ!」
「・・・りょ、了解!」
しかし、リーダーの言葉に、一瞬だけ戸惑うコリンズ。
眼の前の敵に対応することと、飛行艇のコアと思わしき装置を破壊することのどちらを取るべきか・・・何れにしても死を免れないだろうその選択に、彼は刹那の時間、躊躇してしまったようだ。
しかしそれも本当に刹那の時間でしか無く、彼はすぐに、リーダーに言われた通り、自らも火魔法を使って、飛行艇のコアを破壊することを決意する。
そして、2人は、剣士からそれぞれ別の方向へと距離を取りながら、詠唱を口の中で呟いて・・・そして、ここに来た一番の目的を達成すべく、黒い筒に付いた爆発する魔道具に対し、火魔法を行使したのだ・・・。
「デイジーフレイム!」
「グリーディーフレア!」
その魔法名(?)と共に二人の手から放たれる、見た目が同じ2つの火球。
それは、およそ時速100km程度と、一般成人男性が投げるボールほどの速度で、黒い筒に向かって飛んでいった。
「・・・?!」
その先に何があるのか、短い時間で何となく察した剣士は、急いで火魔法が飛んでいった先へと足を進めるものの・・・しかし、流石に魔法に追いつくことは出来なかったようである。
ボフッ・・・
火魔法が黒い魔道具に到達したことで生じた、小さな衝突音。
・・・ただ。
剣士にとって幸いで、元天使たちにとって不幸だったのは・・・火魔法が当たってから爆発するまでの遅延時間が幾ばくか存在したことだろうか。
そのおかげで、剣士の伸ばしたその手は、爆発するぎりぎりのタイミングで魔道具に届き、そして、黒いターボ分子ポンプから引き剥がすことに成功する。
・・・その瞬間であった。
ドゴォォォォン!!
と轟音を上げながら、爆発する魔道具。
これが最期ということもあって、元天使たちは、持ち合わせていたほぼすべての魔道具を設置していたのだ。
故に、例え魔道具を対象から引き剥がしたとしても、それを抱え込んだ剣士を中心に、先ほど隔壁を破壊したよりも遥かに大きな衝撃を生じて、周囲にある色々なものを吹き飛ばしながら、元天使たちの悲願を成就させる・・・そのはずだったのである。
・・・だが、実際にはそうはならなかった。
爆発は確かに生じたが、それが剣士の身体を肉片に変えながら、周囲の装置を吹き飛ばすようなことはなく・・・
シュゥゥゥゥ・・・
と、剣士の腕の隙間からガスを噴出し、彼の身体を焼くだけで、収まってしまったのだ。
『・・・・・・』
その姿を見て、言葉を失う元天使たち2人。
まさか、金属製の分厚い壁すらも破壊できるほどの威力を持った魔道具の爆発が、所詮は柔らかい肉の塊でしか無いはずの一人の男性の身体だけで受け止められてしまうとは思ってもみなかったのである。
今まで魔道具の豪快な爆発を見てきたのだから、その事実を受け入れられなかったとしても、誰も彼らを責めることは出来ないだろう。
・・・しかし、どうやら、彼らが驚いていた原因はそれだけでは無かったようだ。
「・・・・・・どうしてこうなった・・・」
その爆発を受け止めて、その代償に丸焦げになってしまったはずの剣士が・・・何事もなかったかのように、丸めていた身体を起こして、話し始めたのである。
その姿は、元天使たちにとって・・・
「・・・化物め!」
「魔族・・・それも魔王の類か!」
魔神ワルツの眷属・・・要するに魔王クラスの化物に見えていたようだ。
それは、元天使たちだけでなく、つい最近までマトモな人間だったはずの剣士自身にとっても、同じだったようで・・・
「俺、何で生きてるんだ?」
吹き飛んだTシャツの内側に見え隠れしていた、焦げたと思わしき自身の真っ黒い色をした皮膚に触れながら、彼は身体の異変について、首をかしげていたようである。
痛みもなく、血も流れない自分の身体・・・。
それはまさしく、『化物』と形容する以外に表現する言葉を持たなかったのだ・・・。
・・・ただ、剣士にとって、その黒い皮膚は、初めて見るものではなかったようである。
故に彼は、その原因に少なからず関わっているだろう少女の名前を口にした。
「・・・エネルギア」
・・・その瞬間である。
『ごめんなさい、ビクトールさん』
船内放送用のスピーカーから、先程、形を失って崩れ落ちたはずの少女エネルギアの声が聞こえてきたのだ。
彼女は剣士の呼びかけに対して、スピーカー越しに何故か謝罪すると、その後で謝罪の理由を口にし始めた。
『僕の分身を少しだけビクトールさんの身体の中に埋め込ませてもらったの。今、ビクトールさんの身体が黒く見えているのは、僕の分身たちが作り出した・・・えっと、僕の本体の表面で展開している重粒子シールドと同じものだよ?』
「そうか・・・。そういうことだったか」
彼女の言った重粒子シールドがどういったものなのか、剣士には分からなかったが・・・身体の不調(?)の原因が肉体改造ではなかった(?)ために、彼は安堵のため息を吐く。
一方、そんな彼のため息の理由が分からなかったのか・・・
『やっぱり、余計なことだった?ならすぐに・・・ビクトールさんの身体から出て行くね・・・』
エネルギアは心配そうに・・・あるいは残念そうに問いかけた。
すると剣士は・・・
「いや、いいんだ。力が強くなったり、丈夫になったりする以外に違和感は感じてないんだ。それに・・・俺が戦えば、つまり、必然的にエネルギアも一緒に戦うことになる、ってことなんだろ?」
首を振りながら、小さな笑みを天井のスピーカーへと見せて、そう口にしたのである。
『えっと・・・うん!』
「なら、お前を傷つけようとしている奴を一緒に倒そうぜ?エネルギア!」
『うん!!』
エネルギアがスピーカー越しに、そう言った瞬間であった。
当たりの通気口から黒い砂のようなもの・・・船体補修用のミリマシンが、剣士の身体に向かって集中し始めたのである。
「ちょっ・・・」
自身に集まる膨大な量のミリマシンに戸惑う剣士。
そんな彼の様子に気づくこと無く・・・エネルギアは話し続けた。
『さっきは無線の部屋が壊れされちゃったから、船から離れた場所で活動出来なくなっちゃったけど、ここなら自由に動けるんだから!』
「いや、まっ・・・!」
・・・そしてミリマシンに埋もれていく剣士・・・。
例え、彼の身体が船体防衛用の重粒子シールドで守られていたとしても・・・人間は呼吸できなければ生きていけないことを、エネルギアは知らないようである・・・。
・・・おかしいのう。
最近、ワルツ周辺が、リアル魔族化してきているような気がするのじゃ・・・。
科学の知識が無い者たちにとって、よく分からない原理で動くミリマシンや、それに守られておる剣士殿の姿は・・・魔物の類か、化物にしか見えないはずじゃからのう・・・。
それはそうと、エネルギアのファンタジー的な属性は、何になるのじゃろうのう?
電気系?それともゴーレム系?
・・・できれば、新しい属性を考えたいところ、なのじゃ。
てなわけで、今日もさっさと補足に入ってしまうのじゃ。
今日は・・・2点。
他にも、もう2点くらいあったような気がしなくもないのじゃが・・・まぁ、よいじゃろう。
で、まず1つ目は何かというと・・・剣士の身体に、ミリマシンサイズのエネルギアが、どうやって入りこんだのか、という話なのじゃ。
実はのう・・・これには本編で語っていない設定が1つと、さらっとしか触れていないことが1つ、それぞれ関係しておるのじゃが・・・もう暫く先で、詳細は明かされるはずなのじゃ。
・・・妾がちゃんと覚えておればの。
もしも、ミリマシンが大量に剣士殿の身体に入り込んだとするなら・・・いや、そういう話はやめておくのじゃ・・・。
詳細については、乞うご期待!と言っておくのじゃ?
で、次。
以前、書き方で、地の文とセリフが跨いでしまうのをやめた、という話をしたと思うのじゃが・・・あれ、やっぱり本の書き方で書くことにしたのじゃ。
文が跨ぐことによって分かりにくくなる度合いが、それほど深刻ではないにもかかわらず、表現の手段が減少してしまうのは、ちょっと痛いなー、と思ったからなのじゃ?
それよりも何よりも、長い文で何をいいたいのかはっきりしなかったり、主語が不明瞭だったりしたほうがよっぽど読みにくいと思うのじゃ。
じゃから、文が跨ぐことによる読みにくさの問題については・・・もう暫く先で、妾の作文レベルが2くらいに上がった時に、見直すことにするのじゃ?
・・・今日はこんなところかのう。
次回、『訃報速報:剣士、エネルギアで溺死』乞うご期待!なのじゃ?
・・・本当にそうなってしまいそうな流れなのじゃが、果たして・・・。




