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7.3-15 メルクリオの影2

エネルギアの巨大なタラップが降りる王城の屋上で、


「・・・・・・」

「・・・・・・」


と、何も言わずに不機嫌そうな表情を浮かべながら、対峙するエルメスとブレーズ。

2人は母と息子、という関係らしいが・・・ブレーズが老け顔(?)だったためか、その様子は、夫婦の喧嘩のようにも見えていた。


「あの・・・ワルツ様?どうしてこんなことに・・・」


「私も分かんない・・・」


ギスギスした2人を前に、置いてけぼり状態のシラヌイとワルツ。


すると、そんな2人の様子に気づいたのか、ブレーズは小さくため息を吐くと、彼女たちの方を振り返って、表情を和らげてから言った。


「待たせてすまねぇな、魔神とシラヌイさん。話は終わった」


何も言っていないのにも関わらず、もう話すことは何もない、といった様子のブレーズ。

その直後、


「何が、話は終わった、ですか?何も終わってませんよ!」


エルメスは腰に手を当てながら、顰め面のままで、息子に対してそう声を荒げたのである。

そんな彼女に対してブレーズは、重力が大きくなっていないにも関わらず、勝手に落ちてくる重い額をその手で支えながら、言葉を返した。


「もうずっと前に終わってんだよ!3ヶ月前に母さんが(うち)を出て行った時にな!」


「・・・!」


息子のその一言に、驚いたような表情を浮かべて、眼を見開くエルメス。

それから彼女は・・・ワナワナと震えながら、後ずさって王城の壁に背を預けると、泣きそうな表情を浮かべながら、こう言ったのである・・・。


「ひ、酷い・・・。家出したんじゃなくて、道に迷って帰れなくなっただけなのに・・・」


『・・・は?』


急に何を言い出したんだこいつは・・・といったような表情を浮かべながら、思わず同じタイミングで聞き返してしまうその場にいた者たち。

その中で、最初に意味のある抗議の声を上げたのは、やはり息子のブレーズであった。


「道に迷ったって・・・母さん、今、何歳だよ!」


・・・と、彼がそう口にしたその瞬間である。


ドゴォォォォン!!


と、ブレーズの顔にクリーンヒットする、エルメスの()・・・。


「女性にそんな失礼なことを聞くような下賤な人間に育てた覚えはありませんよ!」


彼女は、息子を殴ったことで、痛んでいるだろうその右拳を撫でながら、目尻に涙を浮かべつつそう言った。

あるいは、本当に心を痛めている可能性も否定は出来ないが・・・。


そんな愛の拳(?)を受けて、


「くっそ!そのすぐに手が出る癖、いい加減、どうにかしろよ!」


元天使だったためか、痛そうな音が周囲に響き渡っても、単に赤くしかなっていないその頬を撫でながら、抗議の声を上げるブレーズ。

彼の話から推測すると・・・どうやら、エルメスがブレーズに対して手を上げるのは、今に始まったことではないらしい・・・。


そんな2人のやり取りを見たワルツたちは・・・


「・・・さて、シラヌイ?もう少し経ったら、出発するから、撤収の準備をしておいてね?」


「あ、はい。分かりました」


・・・もう手に負えないと思ったのか、2人をそのまま放置することにしたようだ・・・。




それからしばらくして、うるさいエルメスを、ストレラに対して迎えに来るようにワルツが無線で告げると・・・何故か、ストレラの代わりに、この国の暫定的な国王であるカノープスがやってきた。

彼は娘役のストレラに鳩尾を(オリハルコン)拳で殴られ、気絶していたはずだが・・・どうやら、朝になったために、勝手に目が覚めたらしい・・・。


「エルメス・・・」


ストレラが選んだ(作った?)と思わしき可愛い竜のキャラクターが描かれたパジャマの上から、この国の王のために作られた国旗の書かれたローブを羽織りつつ、プンプンと怒り心頭状態のエルメスに対して話しかけるカノープス。

すると、今にも4発目のストレートを息子の顔面に叩きこもうとしていたエルメスは、ブレーズの顔まであと5cm程度の距離まで迫っていた自身の拳を止めると・・・そのまま固まって、プルプルと震え始めた・・・。


「何をしてるんだ・・・?」


普段の『あらあらまぁまぁ』な姿とは違い、まるで鬼神が宿ったかのような姿のエルメスに対して、眉を顰めながら問いかけるカノープス。

するとエルメスは、ただ殴られるだけだった息子の前に崩れ落ちると・・・今度こそ涙ながらに、話し始めたのである。


「・・・申し訳ございません・・・。息子との再会があまりに嬉しすぎて・・・つい我を忘れてしまいました・・・ぐすっ」


「ちょっ・・・いや・・・んー・・・」


エルメスがそう話すと予想出来ていたのか・・・やりきれない表情と態度を見せながら、疲れたように眼を瞑るブレーズ。


一方、問いかけたカノープスは・・・呆れの色を多く含んだ苦笑を浮かべながら、その口を開いた。


「・・・普段もそのくらい素直なら、いいんだがな」


「はぁ?お前、頭、沸いてんじゃねぇか?」


国王がやってきて、何を言うかと思えば・・・そんな理解しがたい言葉を口にしたことに、ブレーズは抗議の声を上げた。


「・・・?彼は?」


初対面の男性から、国王になって国民から何度か投げかけられたことのある暴言を聞いて・・・しかし、気を悪くした様子を見せることなく、近くにいたワルツに対して誰何(すいか)するカノープス。

すると、シラヌイと一緒に、ポータブル鍛冶セットを台車に乗せて、エネルギアに運び込もうとしていた黒狐娘姿のワルツは・・・


「今度ウチで働くことになった雑用の奴隷・・・じゃなくて、元天使よ?」


一瞬だけ振り向いて、そう口にした。

彼女の言葉に・・・


「・・・元天使・・・」


急に難しそうな表情を見せながら、そう呟くカノープス。

それから彼は・・・どういうわけか、申し訳無さそうな表情を見せながら、ブレーズに対して、頭を下げた。


「この国のために戦ってくれていた元天使たちに対する対応が遅れてしまって・・・本当にすまなかった・・・」


本来、その言葉は、カノープスたちが国を立て直す際に、政策に漏れがあって、職と名誉を失ってしまった元天使たちに向けられるはずの言葉であった。

メルクリオの暫定政府は、そんな元天使たちに対して、謝罪と補償をしようとしていたのだが・・・プライドを傷つけられた元天使たちは、残念なことに対話の場に着こうとしなかったのだ。

今回、相手は一人しかいなかったが、カノープスは元天使に対して謝罪する機会を得て、それを実行したのである。


・・・とはいえ、ワルツから予め事情を聞いていたブレーズにとっては、特に意外性はなかったらしく、


「・・・あぁ、そりゃどうも」


彼はまるで単に挨拶を返するような言葉を、カノープスへと向けるのであった。

ただ、その言葉が妙にぶっきらぼうだったのは・・・彼の性格や話し方が元々そうだったから、と言う理由だけは説明でき無さそうである・・・。


そんな折。

ブレーズとカノープスとのやり取りを真横で見ていたエルメスが・・・再び、憤怒したような表情を見せながら、息子に対して口を開いた。


「こらっ!ブレーズ!もう少し口のきき方があるでしょ?」


「うっせぇな・・・」


くちうるさい母親に対して、ため息を吐くブレーズ。

それから彼は、何かに気づいたようで・・・自身に対してガミガミとうるさい母親に対しておもむろに問いかけた。


「って、なんでここに母さんがいるんだ?」


「え?だって、母さん、この国の政府の議長だし・・・」


「はぁ?おい、国王!お前ら、ウチの母さんを議長にするとか、国を滅ぼすつもr」


ドゴォォォォン!


「ブレーズ!口のききかたに気をつけなさいとあれほど・・・」


それからも、(一方的に)愛の拳(?)が飛び交うブレーズとエルメスの口論。


・・・ただ、その中で、普段はお世辞にも言葉がキレイとは言えないはずのブレーズが、母親にどんなことをされても、決して『ババァ』などと蔑むような言葉を使わなかったのは・・・きっと、エルメスの熱心な教育の賜物のおかげ、ということなのだろう・・・。

た、体力的な限界を迎えて、身体が分解しそうなのじゃ・・・。

所謂、熱中症、というやつなのじゃ。

尻尾が分厚いのは消して悪いことではないのじゃが、夏は正直暑いのじゃ・・・。

毛を刈るとすっきりするかもしれぬが・・・それじゃと、キツネではなくなってしまう気がして、踏ん切りがつかぬのじゃ・・・。


まぁ、それはさておき・・・。

どうしようかのう・・・。

あとがきで書きたいことがあるのじゃが、いかんせん、身体と頭が限界を迎えておる故、最後まで書き切るのが辛すぎなのじゃ・・・。

じゃから、申し訳ないのじゃが、今日はあとがきをお休みさせてもらうのじゃ?

・・・え?もう書いてる?

・・・いや、これはあとがきではないのじゃ・・・。

妾はそう思っておるのじゃ。


・・・次回、『朝起きたら、イブの尻尾の毛が無くなってるかもだし?!・・・ちょっと、涼しいかも・・・』乞うご期待!なのじゃ?

・・・なお、刈った人物は・・・もう間もなく出てくるのじゃ。

・・・多分、2ヶ月以内にの。

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