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7.3-14 メルクリオの影1

サブタイトルをどうするのか、悩ましいと思う今日このごろなのじゃ・・・。

・・・その後。

湖から陸に上がってきたあらかたの元天使たちを、衛兵たちが連行していった姿を見届けて・・・徐々に空がしらばみ始めたその様子を眺めながら・・・。

複雑な表情を浮かべるブレーズに対して、『捕まえた元天使たちは(無期間の)奉仕活動をさせた後、身分を保証した上で釈放する・・・』という説明をしつつ、真っ白なエネルギアの停泊するカロリスの王城へと戻ってきたワルツたち。


そして、寝ながら歩いていたポチたちを犬小屋(?)へと送り届け、ストレラが『眠っている(気絶させた)カノープスの様子を見に行ってくるわ』と言って、いなくなった後・・・。

ブレーズに対してエネルギアを紹介するために、王城の屋上にあった仮設のテラスへと2人がやってくると・・・ワルツたちが王城を出る前には間違いなく眠っていたはずのシラヌイが、


カーン!カーン!カーン!


・・・と、ワルツの作ったポータブル鍛冶セットを使って、刃物を鍛えていた。

どうやら彼女は、睡眠薬(?)が身体から無事に抜けて眼を覚まし、日課にしている早朝の鍛冶(たんれん)をしているようだが・・・


「・・・何だあれ?朝っぱら女の子がハンマー振りかざしてるだぁ?」


・・・シラヌイのことを知らないブレーズにとっては、少々異様な光景に見えていたようだ。

この国には彼女のような鬼人が殆どいなかったことも、その異様さを引き立たせる一因になっているのだろう。


「あれは・・・私たちの仲間のシラヌイ。多分、貴方の上司になる・・・かも知れないメンバーよ?」


「はあ?何だそりゃ?」


「そうよね・・・年下の少女の部下になれ、っていきなり言われても困るわよね・・・。ま、見てなさい?今に、その理由が分かるから」


感情を隠すことなく、それを言葉と表情に出すブレーズに対して、手のひらを見せながら自制を促すワルツ。


すると、2人が来たことに気付かず、ずっと作業を続けていたシラヌイの手が・・・


カーン!カーン!カン!カン!カンカンカンカカカカガガガ!!!


と、徐々にペースを上げて、まるで工作機械のような速度で鍛錬を始めた。

その様子は、一見すると、真っ赤に加熱された金属を一心不乱に単に叩いているようにしか見えなかったが・・・見る者が見ると、違った姿に見えたようで・・・


「すげぇ・・・なんちゅう集中力だ。人間業(にんげんわざ)じゃねぇ・・・」


技術に関してある程度の知識を持っているだろうブレーズには、その言葉通り、彼女の姿が人間以外の何かに見えたようだ・・・。


「ま、よく分かんないけど、そんな感じよ?・・・で、シラヌイの下で働くことに異論は?」


「・・・・・・無いな」


シラヌイのその(いと)けなそうに見える表面的な見た目には納得いかない様子だったが、今の自分の力では絶対に真似できないと思ったのか、技術的な観点からは承服することにした様子のブレーズ。


そんな、驚愕と関心と・・・そして少しの戸惑いの色を含んだブレーズのことを、ワルツがシラヌイに対して紹介しようと、彼女に近づこうとした・・・その瞬間のことである。


「・・・んーっ!もう!」


ドゴォォォォン!


シラヌイが、その手にしていた作りかけの長剣を・・・イラッとした様子で、大理石を削って作られたと思わしき王城の壁へと投げつけたのである・・・。

投げつけた長剣は、折れることなく石へと突き刺さり・・・そしてその刀身を半分ほど埋めてから、完全に停止した。


その様子を見て、ブレーズがどんなことを考えていたのかは・・・彼の身体が小刻みに震えていたことから、ある程度想像できるだろうか・・・。

ワルツの方も驚いたようで・・・その失敗作とは思えない立派な長剣に眼を向けながら、シラヌイに対して口を開いた。


「ちょっと、シラヌイ?刃がついてないとは言っても、剣を投げるとか危ないわよ・・・」


「・・・!?わ、ワルツ様?!」


その時点でようやくワルツたちの存在に気づいたのか、自分の世界(ゾーン)から現実世界に戻ってくると、顔色を変えながらその場で立ち上がるシラヌイ。

それから彼女は、急いで腰を90度近くまで折ると、謝罪の言葉を口にした。


「も、申し訳ありません!ここがメルクリオの王城だということをすっかり忘れてました!」


「えっ・・・あ、うん・・・(ここがメルクリオの王城じゃなきゃ良かったのね・・・)」


そんなことを頭の中で考えながら・・・シラヌイが鍛冶をする早朝になると、ミッドエデンにある地下大工房の壁の硬そうな岩盤に刺さっている出来かけの剣が、日に日に増えていく姿を思い出すワルツ。


それからシラヌイが謝罪を終えて頭を上げた際、彼女はワルツだけでなく、その隣に立っていた見知らぬ男性にも気づいたようで、驚いたような表情を浮かべながら、問いかけの言葉を口にした。


「あの・・・どちら様で?」


そう口にするシラヌイが、恥ずかしそうに顔を赤らめていたのは・・・やはり、自分の行動に後ろめたい部分があったことを自覚しているからなのだろうか・・・。


対して、問いかけられたブレーズの方は、頭にきて剣を投げたシラヌイの表情が、あまりにも怖かったためか・・・


「あ・・・ブレーズです・・・」


完全に萎縮した様子で、短く自分の名前だけを口にした・・・。


「んー、困ったわね・・・」


文字通り鬼の形相になっていたシラヌイと、急にしおらしくなったブレーズに対して、苦笑を浮かべながら、小さくため息を付くワルツ。

どうやら彼女には、シラヌイもブレーズも、似たような人種に見えていたようだが・・・・・・ただ、お互いに遠慮してデッドロックしてしまうような状況になることまでは、想定していなかったようである。


このままでは、いつまで経っても自己紹介どころか、一般的な会話も進まなそうだったので・・・これから上司と部下になるだろう2人のコミュニケーションが円滑に行われるように、ワルツは2人のやり取りに介入することにした。


「・・・率直に言うと彼、ブレーズは、今度からシラヌイの下で働いてもらおうと思うのよ」


「・・・えっ?!急にどうしたんですか?」


「これからやってもらおうと思うことがあるんだけど、それを始めると人手不足になると思ってね・・・。まぁ、最初は雑用として使って貰えばいいわ?使えなかったら遠慮無く言ってね?」


「おまっ・・・そういうの、本人の前で言うなよ!やる気無くすだろ!」


と、それぞれに驚きの色が多く含まれる声を上げるシラヌイとブレーズ。

そんな2人とは対照的に、ワルツは一人、納得げな表情を浮かべながら、言葉を続けた。


「というわけだから、2人とも仲良くやってよ?」


「えっと・・・」


ワルツの言葉に、戸惑いの表情を隠せない様子のシラヌイ。

自身よりも遥かに年齢の高そうな男性が、自分の部下になる・・・その状況が、内気な性格の彼女にとっては、中々に受け入れがたい出来事だったようである。


しかし、そのことについては、ブレーズ自身も理解できていたようで、彼はため息を付いて・・・まるで寝ぐせのような小さな突起が生えているその黒い髪を乱暴に掻くと・・・


「・・・まぁ、なんだ。魔神(ワルツ)が横暴なせいで、俺には選択肢が無いんだが・・・俺のことは、シラヌイさん・・・と言えばいいか?あんたが好きなように使ってもらって構わない。人殺しとかそういった仕事は願い下げだが、大抵の汚れ仕事くらいなら請け負うよ」


眼を細めながら、シラヌイへと優しげな表情を向けて、そう言葉を掛けたのである。

シラヌイが会話を苦手とするなら、年上である自分が、コミュニケーションの溝を埋めればいい・・・そう考えたのだろう。


そんな言葉を向けられたシラヌイは・・・どういうわけか、顔を真赤にすると・・・何故かプルプルと震えながら、言葉を返そうとする。


「あ、あの・・・よ、よろひっ・・・・・・っ!」


・・・そして舌を噛むシラヌイ・・・。

しかしどうやら、とりあえずは彼女も、新しい部下のことを受け入れることにしたようだ。




(これにて一件落着、ってやつかしら?)


と、碌にコミュニケーションの成立に関与できなかったワルツが、自身の成果を過大評価しながらそんなことを考えていると・・・


「・・・いま何か、大きな音が聞こえてきたのですが、何かあったのですか?」


これまた、先程までは寝ていたはずの、この国の議会の長であるエルメスがその場へと顔を出した。


「あら、エルメス。起きたのね?」


「はい。おかげさまで・・・じゃなくて、申し訳ございません!」


そして、先程のシラヌイ・・・を更に超える勢いで、地面に伏せて土下座をするエルメス。

どうやら彼女は、自分が振る舞った夜食のせいで、ワルツの仲間たちが眠らせてしまった、と思い悩んでいるようだ。

・・・だが、その悩みは、意外な話の展開を迎えた結果、瞬時に何処かへと蒸発してしまう。


「いや、別にいいわよ。何か害があったわけじゃなくて、単にみんな寝ただけだし・・・。それに、元天使たちも、ある程度、一網打尽に出来たしね(クスリを盛った犯人は・・・どうなったか知らないけど・・・)」


土下座をするエルメスを前に、手を振りながらそう口にしつつ、気にしてないアピールをするワルツ。


そんな彼女の言葉を受けたエルメスが、申し訳無さそうな表情を浮かべたまま、その顔を上げた・・・その瞬間である。


「・・・え?」


エルメスは顔を上げたまま、何故かそのまま固まってしまった・・・。


そして、彼女の視線の先でも・・・


「・・・マジか・・・」


どういうわけかブレーズが、エルメスに対して眼を細めながら彼女と同じように固まっていたのである・・・。


それぞれに意味ありげな反応を見せる2人の様子を見て、


「・・・もしかしてさ、2人とも知り合い?」


そんな考えに辿り着くワルツ。


(年齢を考えれば・・・もしかして、夫妻とかじゃないわよね?)


エルメスが、偶然にも、ミッドエデンに残してきたシルビアの母だったので、もしかするとそんな展開があるかもしれない・・・ワルツはそんなことを考えたようである。


・・・しかし、実際には、そういうわけでは無かったようだ。

とはいえ、遠からず近からず、といったところなのだが・・・。


「ぶ、ブレーズ!貴方、今までどこをほっつき歩いていたの?!」


かつてシルビアに向けた言葉を、そのままブレーズにも向けるエルメス。

するとブレーズは、心底嫌そうな表情を浮かべながら、その口を開いて、こんな言葉を返した。


「母さん・・・。その言葉、鏡を見て自分に言えよ・・・」


と、エルメスのことを『母』と言うブレーズ。

・・・どうやら、30歳ほどに見えるブレーズは・・・その見た目よりも、実年齢は低いらしい・・・。

あるいはエルメスが、自身の年齢を詐称しt・・・いや、そういった話はやめておこう。

いずれにしても、どうやらシルビアの家族は、何やら複雑な事情を抱えているようだ・・・。

今日はしっかりと眠るのじゃ。

では、お休みなのじゃ・・・zzz・・・。


・・・と、本文もあとがきも完全に無視して眠ってしまえば、どれだけ幸せか、と誘惑と戦う今日このごろなのじゃ。

眠気というのは・・・大切なことも全て、頭の中から消し去ってしまう恐ろしい存在なのじゃ・・・。

本当、睡眠不足は、百害あって一利無しなのじゃ・・・。

zzz・・・。


っと、眠る前に、2点だけ書いておかねばならぬことがあるのじゃ。


まず1点目。

内気なシラヌイと、遠慮のないブレーズ。

この二人がどうして似たような人種(せいかく)といえるのか。

・・・詳しく言うと、蛇足になってしまうかもしれぬから、この下に書いてあることは、適当に流してもらえると助かるのじゃ?


・・・内気、というのはある意味、人見知りが激しいとも言い換えられると思うのじゃ。

で、人見知りが激しい者が、その心的な障壁を取り払うと、ブレーズのようにズカズカと遠慮無く者を言うような人物になったりするのじゃ。

要するに、内気であることと、遠慮なく人にモノを言う、というのは、同列に比べられるものではない、ということなのじゃ?

単一の人の中に同時に存在できる、人格のパーツの一部、とも言えるかもしれぬのう。

で、二人とも技術的な話に興味がある、とくれば、内気か内気じゃないかという多少の性格の違いはあっても、同じような種類の人間に見える、というわけなのじゃ?

・・・まぁ、色々な解釈はできる故、異論は認めるがの。



で、2点目。

ブレーズは何の獣人なのか。

・・・正直に言うと、奴の見た目の特徴を書くのを忘れておったのじゃ・・・。

じゃから、他の登場人物たちと同様に、徐々にその姿を記述していく、というスタイルを取っておるのじゃが・・・今回出て来た情報は、

 ・黒髪(これはあまり関係ないの)

 ・頭に何やら寝ぐせのような突起物が付いている

 ・エルメスの息子で、シルビアの兄

以上、3点なのじゃ?

頭の突起は、角でもなければ、ケモミミでもないのじゃ。

それで何の獣人か当てられる読者は・・・まぁ、いないじゃろうのう。

以後、乞うご期待(?)なのじゃ!



今日のあとがきは、こんなところで終わるのじゃ。

・・・思いのほか、長くなってしまったのじゃ・・・。


次回・・・『最近、私の出番が無いんだけど、閑話を挟んでミッドエデンの王城での出来事を紹介してもいいんじゃないの?』乞うご期待!なのじゃ?

・・・いやの?

本当は、この話を書く前に、妾やルシア嬢を含む、ミッドエデンに残った連中の話を書こうかとも思ったんじゃが、それは7.3章が終わってからでも良いかと思って、今回は見送ったのじゃ。

そちらの、カオスな話については、もうしばらくお待ち下さい、なのじゃ?

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