7.3-12 掃討作戦5
軽度グロ注なのじゃ。
ドゴォォォォン!!
そんな音と衝撃が響く真っ黒な潜水艦の中では・・・
「糞がっ!何が最新鋭の兵器だっ!」
元天使で、現メルクリオ政府の存在そのものに反感を持っていたとある男性が・・・自身が乗っている潜水艦に対して、そんな悪態を吐いていた。
「総員退艦急げ!!」
「爆発のせいで耳が痛てぇ・・・」
「おい!誰か俺の水中呼吸用の魔道具知らねぇか!」
彼の他にも、生存者はいたようで、皆、一斉に脱出の準備をしているようだ。
・・・というよりも、怪我人は居ても、死人は奇跡的に出ていない・・・と言うべきか。
打ち上げようとして誘爆(?)したミサイルは、炸薬(?)の性能が悪かったためか、爆発しても大した威力を持っていなかったようだ。
「エクレリアの連中、こんなガラクタよこしやがって、どうやって戦えってんだ?!実験台になって死ねってか?!あァ?」
いきり立って、暴言を吐きつつも・・・何やら魔法を使って、流れ込んでくる水を堰き止めている様子の男性。
そんな彼に、金の刺繍で彩られた黒いキャップを被った小太りの中年男性が声を掛けた。
「助かります!技師長!」
「んなこと言ってる暇があんなら、さっさと下船しろやハゲ!」
「ちょっ・・・ま、まだ禿げてないんだからっ!」キラッ
と言いながら、汗だか涙だか、よく分からない液体を眼からこぼしつつ、その場から逃げていったのは・・・この艦の艦長である・・・。
船内だというのに、帽子を取らないのは・・・それなりの理由があるからなのだろう・・・。
「ったく、どいつもこいつも余裕ぶっかましやがって・・・」
艦の中を・・・何故か乙女走りで走っていく、セーラー服姿の中年艦長に、嫌悪の視線を向けながら、眉を顰める技師長。
そんな艦長の向かった先は、潜水艦の出入り口がある艦橋部ではなく・・・今更、何もできないはずの操舵室のようであった。
「・・・あいつ馬鹿か?みんな水中に逃げ出してるってのに、最後まで一人で残る気か?ホントにどうしようもない馬鹿だな」
彼はそう言ってため息を吐くと、天井に入った亀裂を見つめて、止水のための魔法を調整した。
その亀裂は・・・ミサイルが近距離で爆発したり、誘爆したりした際に出来たものであった。
爆発が小さかったとはいえ、艦には大きな穴と亀裂ができていたのである。
何もせずに放っておくと、船内は瞬く間に湖の水で満たされてしまうところなのだが・・・彼が、魔法で流れ込んでくる水を止めていたおかげで、急激な浸水を免れていたのだ。
そのためもあって、船員たちの大半は、自力での脱出に成功していた。
しかし、彼のように、仲間たちの脱出を支援する者や、ケガを負った仲間を介抱する者、あるいは、先ほどの艦長のように、最後の最後まで艦の操舵を諦めない者が、沈みゆく艦内に未だに残っていたのである。
そんな彼らが全員逃げるまでの時間を稼ぐために・・・技師長は逃げることなく、魔法を行使していたのだ。
彼が浸水を防ぐための結界魔法を行使し始めて、しばらく経った頃・・・
「静かになったな・・・。みんな逃げたか」
辺りから人の喧騒が無くなったのを感じたことで、普段は見せない優しげな表情を人知れず浮かべる技師長。
彼はその後も、自分から見えないところで脱出を試みているかもしれない仲間たちのことを考えて、しばらくの間、念の為に止水を続けることにしたようである。
それから間もなくして、彼は技術で食べている者特有(?)の独り言を口にし始める。
「ツケの始まりは・・・あのバカどもの言葉を真に受けたことだったな・・・」
そう言いながら・・・隣国のエクレリアから、この船を受け取った時のことを思い出す技師長。
「前王の命を奪った連中に、この船を使えば復讐ができるなんて・・・。何であんなくだらん話を真に受けちまったんだろうな・・・」
水中に隠れながら攻撃すれば、難なく勝てる・・・。
彼は、エクレリアの者に言われたその言葉と、初めてこの潜水艦を見た時の興奮を思い出しながら・・・しかし、空に浮かぶ、白い化物に、根本的に勝てるわけが無かったことを考えて、改めて後悔した。
「ホント、どんな武器を積んでるんだろうな・・・いや、そもそもどうやって飛んでるんだろうな・・・」
最近気づくと、いつも、空に浮かぶその白い大きな船のことばかりを考えている自分に、彼は・・・
「・・・くそっ!」
・・・仇敵に憧れてしまう自分を戒めるかのように、再び毒づいたのであった。
「・・・そろそろ潮時ってやつか?」
どれほどの時間、考えに耽っていたのかは本人でもよく解らなかったが、適当な時間が経過したと思ったのか、彼は漏れ入ってくる水を抑えていた結界魔法を解除して、自分も脱出することにしたようである。
「皆、無事に脱出したことを祈るぜ・・・」
そして彼は・・・結界魔法を解いた。
ザバァァァ!!
その瞬間、船内に勢い良く流入してくる湖の水。
その水が船内に満ちるにつれて、艦内の気圧が高まり、彼の耳を否応なく刺激してくる・・・。
「くっそ、耳痛てぇ・・・」
そう言って唾を飲み込んで、耳の中の気圧を調整してから・・・
「おっと、忘れてたぜ。これを口の中に・・・・・・あ?」
水中で呼吸するためのビー玉のような魔道具を口の中に入れようとした時・・・彼はあることに気づいた。
「ん?誰かまだ残ってんのか・・・?」
もう誰も居ないはずなのに、水が流れこむ以外の音・・・要するに話し声が、通路の先から聞こえてきたような気がしたのである。
「あの馬鹿艦長か・・・」
その通路の先には、操舵室しか無かったので、彼の脳裏には、先ほど気持ち悪い走り方で駆けていった艦長の姿が自ずと浮かんできたようだ。
「・・・アイツの事だから、機能しない操舵輪でも無駄にぐるぐる回してんだろ・・・。放っといて逃げるか・・・」
以前から色々な意味でいけ好かないと考えていた艦長を見捨てようかと考える技師長。
・・・しかし、どういうわけか、彼の足は、操舵室へと進んでいってしまう。
「・・・ったく、世話のやけるやつだ」
そう言いながら、彼は操舵室の前までやってくると・・・しかし、部屋には入らずに、少しだけ空いたその扉の前で、足をおもむろに止めた。
「・・・何話してんだ?」
部屋の中には一人しか居ないはずなのに、2人分の声が聞こえてくることに、首を傾げる技師長。
彼が耳をそばだてると・・・そこでは、艦長と誰かが、こんなやり取りをしていた。
「・・・やはり、この実験艦では、ミサイルの発射に耐えられなかったようです。ミサイルの方も、まだノズルの材質に難があるらしく、打ち上げる前に爆発してしまいました。炸薬の品質にも課題がありそうです」
『そうでしたか。それは仕方がありません。あわよくば、敵艦との戦闘のデータを取れると思ったのですが・・・ガラクタは所詮ガラクタでしか無かったということですね・・・』
「はい・・・。それと、乗組員の練度が低かったことも、今回の実験失敗の原因と考えられます。やはり、知的レベルの低いこの世界の者が操作するには、少々難し過ぎる代物だったのかも知れません」
そんな艦長と謎の人物(?)の会話を聞いて・・・
ドゴォォン!
「おい!てめぇ!今の話は一体どういうことだ!?あァ?!」
技師長は、操舵室の扉を蹴飛ばしながら、艦長がいるその操舵室へと押し入った。
「・・・申し訳ございません。邪魔が入りました。処理が完了し次第、帰投します」
『分かりました。幸運を祈ります・・・』
押し入った技師長に気づいて、操舵席のパネルに埋め込まれてあった通信用の魔道具の、その向こう側の人物とそんなやり取りをしてから・・・艦長は怒り狂う来客の方を振り返って言った。
「おやおや、技師長。早く逃げないと、このままでは、この船は沈んでしまいますよ?」
そう言いながら・・・いつも通りに、人のよさ気な笑みを浮かべる艦長。
そんな彼の態度と言葉に隠された副音声を分かっていても・・・しかし、先ほどの会話の内容を無視できなかった技師長は・・・
「・・・てめぇ、最初から裏切ってたな?」
今回の件に巻き込まれた他の元天使たちの言葉を代表するようにして、そんな問いを投げかけた。
すると・・・
「・・・見逃してあげようというのに・・・残念です」
艦長はその言葉通りに、心底残念そうな表情を浮かべると・・ズボンポケットから、金属の筒に取手をつけたような道具を取り出して、その穴を技師長の方へと向けた。
「・・・くそっ!」
パン!
パン!
パン!
その道具が、『拳銃』という武器であることを艦長自身に聞かされていた技師長は、その武器の特性・・・即ち金属片がまっすぐに直進するという性質を理解していたおかげで、どうにか身を翻して、銃弾の直撃を避けることに成功する。
拳銃を撃った艦長の方も、銃の扱いに慣れていなかったためか、片手で扱ったことも、技師長が弾を避けるのに成功した原因と言えるだろう。
ただ、そのせいで、あらぬ方向へと飛んだ弾は・・・
カン!
カン!
2回ほど金属の壁やパイプに当たって跳弾した後で・・・
ドチュッ!
・・・運悪く、技師長の太ももに命中してしまった。
「っ!くそったれ!」
急に太ももに焼けるような感覚が走ったかと思うと、力が入らなくなって・・・そして、身体が勝手に傾いていった結果、技師長はその場に倒れこんでしまった。
そんな彼に、
「・・・犠牲者が最小限になるように務めてくれたことについては感謝しています。あの中には、大切な仲間もいましたからね・・・。しかし、それとこれとは別の話です。・・・呪うなら自分の不運を呪いなさい」
艦長はそんな最後の言葉を口にしてから・・・
パン!
彼の額に向けて、今度こそ外さないように、両手で拳銃を発泡したのである・・・。
その瞬間、
ブシャッ!
と、吹き出す、真っ赤な血液。
ポチたちが口の周りにつけていたソレと全く同じ色の液体である。
その血液を見て、口を開いたのは・・・
「・・・・・・あ?」
・・・どういうわけか、頭を撃ち抜かれたはずの技師長の方であった。
そして、その血液を吹き出していたのは・・・・・・胴体から上が無くなった艦長の方だったのである・・・。
どうしてこうなったのか全く分からない様子で、口を開けたまま固まる技師長。
すると、彼の後ろから、不意に声が飛んで来た。
「あー、ちょっと出力を間違えちゃったわ。やっぱ人って、脆いわよねー」
どこからともなく現れた、真っ黒な髪の上に狐耳を載せた少女の声である。
彼女は腰に手を当てると・・・唖然としている技師長に対して言った。
「・・・さーて、貴方には選択肢が3つあるわ?生物学的に死ぬか、社会的に死ぬか、私たちのところで奴隷になって馬車馬のように死ぬまで働かされて幸せになるか、あるいは、ストレr・・・この国で死ぬまで強制労働に従事させられるか・・・」
「4つあるじゃねぇか・・・しかも、途中変なのが混じってなかったか?」
「んな、細かいことは良いのよ!で、どれを選ぶ?」
「・・・・・・魔神に魂を売るくらいなら、ここで死んd」
「じゃぁ、2つ目ね」
「ちょっ、待てや!」
急に姿を現した彼女が、空に浮かぶ白い化物の持ち主である『魔神』であることを察した技師長は、勝手に話が進んでいったことに抗議の言葉を口にしようとしたが・・・しかし、どうやら最初から選択肢は用意されていなかったようで、彼の抗議の声は完全にスルーされてしまったようだ・・・。
「で、貴方の名前は?」
「は?お前、馬鹿か?何で敵に名乗らなきゃならねぇんだよ!」
「あっそ。じゃぁ、適当な名前を付けて呼ぶわ。『ロリコン』・・・は別に居るから使えないとして、『変態』・・・はエンデルシアの国王のことだし・・・」
「・・・ブレーズだ」
「じゃぁ、ハゲで」
「ちょっ・・・・・・ん?お前、まさか最初から・・・」
「んじゃぁ、行くわよ?」
技師長からの問いかけを無視しながら、潜水艦の天井へと手を向ける魔神ワルツ。
そして彼女は、
ドゴォォォォン!!
と、天井に穴を開けると・・・悪態をつき続けるブレーズを連れて、重力制御で水をかき分けながら、ストレラたちが待つだろう湖面へと浮上していったのである・・・。
書きすぎたのじゃ・・・。
時間がないのじゃ・・・。
じゃから、さっさと補足してしまうのじゃ!
今日は3・・・いや4点あるのじゃ。
ポンポンと、流していくのじゃ!
まずは1つ目。
どうやってこの湖に潜水艦を持って来たのか。
それは・・・本当は本編の方で語りたかったのじゃが、そのシーンを語るのはしばらく先のことになりそうじゃから、ここで解説するのじゃ。
要するに、以前、イブ嬢が捕まっておったどこかの秘密基地的な施設のように、魔力ブースト機能のある魔法陣を使って、転移魔法を行使したのじゃ。
繰り返すようじゃが、その辺の話は、そのうち本編で取り上げる予定なのじゃ?
で、次。
技師長がいるなら・・・では、その部下はどこにいったのか。
これも、本編で書けばよかったのじゃが・・・ブレーズのやつが、真っ先に逃がしたのじゃ?
それで、『はいそうですか』といって、素直に逃げていった部下たちに、ブレーズが怒り心頭状態だったのは・・・まぁ、言わなくても良いじゃろう。
で、次。
艦長の副音声について。
これは、要するに、今回は見逃すから逃げても良い、ということだったのじゃ。
・・・まぁ、言わなくても明らかなのじゃ?
・・・むしろ、明らかであって欲しいのじゃ・・・。
で最後の4つ目。
ブレーズの名前について。
これは・・・・・・いや、やめておくのじゃ。
余計なことを言うと、もう一つの方の話の方で支障が出るからのう。
・・・でも何が言いたかったのか、一つだけヒントを出しておくのじゃ?
『パスカル』・・・。
・・・もう、答えみたいなものじゃな。
今日はこんなところなのじゃ。
・・・次回、『ミッドエデンの憲法では、奴隷の存在は認められませんよ〜。なのでお姉さまは、憲法違反ということになりますね〜。じゃぁ、死刑で〜』乞うご期待!なのじゃ?
・・・こうしてワルツvsコルテックスという夢のマッチ(?)が実現されることになったのじゃ?
・・・無いがの。




