7.3-11 掃討作戦4
「あー・・・つまり、私たちが考えていた以上に、この世界の技術は発達していたのね」
「そんなわけ無いでしょ!」
離れた場所の湖面に突如として現れた全長100mほどの葉巻型の潜水艦。
一見すると、漆黒の闇とも見分けがつかないその真っ黒な姿を、高性能センサーが搭載された眼で眺めながら、ワルツとストレラは、お互いにそんな言葉を口にした。
「ま、そうよね・・・。この世界に戦艦なんているわけ無いわよね・・・」
「・・・・・・そうね」
振り向けば、真っ白い色をした流線型の何かが王城の上に載っている姿が見えてくるはずだが・・・意図的にそれを無視して、姉の言葉に相槌を打つストレラ。
それから彼女は、陸に上がってきたワルツに対して、腕を組みながら言った。
「もしかして、姉さんたちん所のミッドエデンから、技術的な情報が漏れてるんじゃないの?潜水艦を作ってるなんて話は、コルテックスたちからも聞いたことは無いけどさ?」
「いや、それは・・・・・・無いと思いたいわね」
「・・・どういうこと?」
この世界の人間に技術の話をする際、世界のバランスが〜、と口癖のように言っているワルツのことを知っていたストレラは、姉の歯切れが何故か悪かったために、眉を顰めながら問いかけた。
「いやね?コルテックスがうちの王城職員とか、テレサとかに、いろんなことを教えてるのよ・・・。この前なんて、みんなで寄って集って、単気筒3000ccくらいのレシプロエンジン作ってたし・・・」
「何でレシプロエンジン・・・」
「さぁ?作りたかったからじゃない?なんか、自作の飛行機に乗せて、空を飛びたいらしいわよ?」
「・・・もう、情報統制とか関係無しね・・・」
「コルテックスがみんなにどんな知識を教えてるのか、全部は把握してないけど・・・外部に艦船とかの知識が漏れてる可能性は否定出来ないわね・・・」
そう言って、ため息を吐くワルツ。
平和的利用が目的で技術を使うならまだしも、それが戦争の道具として使われたなら・・・この世界に火種を持ち込んだのはコルテックスを作った自分、ということになるので、ワルツは思わず頭を抱えてしまったようだ。
・・・しかし、それからすぐに、何かを思い出したかのように、はっとした表情を浮かべて、彼女は再び口を開いた。
「そういえばさ、この国よりも西側にある・・・エクレアだったっけ?」
「・・・エクレリア、ね?」
「そうそう。そのケーキだか、切ると増える生物だか、そんな感じの名前の国」
「全然違うわよ・・・」
「ま、国の名前なんてどうでもいいんだけどさ。この前、ちょっと面倒事があって、そこまでエネルギアを飛ばしたことがあるのよ。で、そこで見ちゃったのよね・・・」
「・・・何を?」
「戦車」
「・・・・・・は?」
急に、この世界にはそぐわない単語が出て来たためか、理解できなかった様子のストレラ。
彼女の頭の中では、センシャと言う言葉が、戦車だけでなく、仙者、洗車・・・などと変換されていたようだ。
「なんか、一昔前の無限軌道の付いた主力戦車みたいな奴。そんな完成度は高くないみたいだったけど、人力で戦うことがメインのこの世界の戦闘スタイルから考えれば、完全にオーバースペックな兵器だったわ・・・」
「多分・・・相手側も、エネルギアを見て、同じこと考えてるんでしょうね・・・」
「で、何が言いたいのかなんだけどさ・・・」
ストレラの言葉を聞かなかったことにして・・・ワルツは、長かった前置きをようやく終え、本題を切り出した。
「・・・この世界に、現代世界から少なくはない人たちがやってきてる気がするのよね・・・。で、戦車作ったり、潜水艦作ったりして、好き勝手やってる・・・的な。・・・ま、私たちも人のこと言えないけど・・・」
「・・・つまり、あの潜水艦も、現代世界から来た人たちの手によって作られたってこと?」
「確証はないけどね。でも、そうじゃなきゃ・・・私もコルテックスも、色々困るのよね・・・。このままじゃ、この世界に争いごとを持ち込んだ、リアル魔神になっちゃう気がしてさ・・・」
「うん。もう手遅れよ?」
「えっ・・・・・・」
迷わずに言い切ったストレラの言葉を聞いて、自身のマイクロフォンを疑って固まってしまうワルツ・・・。
戸惑っているそんな姉の姿を視界に入れることなく・・・ストレラは、湖の上に浮かぶ潜水艦に向かって、憂慮の色を含む視線を向けながら言葉を続けた。
「姉さんたちが情報を統制しなかったせいで、いつかこの世界が滅びるかもしれないって話は・・・まぁ、正直、今はどうでもいいのよ。とにかく今は、いつの間にかこの湖に潜んでいたあのデカブツをどう料理するか・・・。それが一番の問題よ?」
「・・・・・・そうだったわね」
と相槌を打ちながらも、目の前の大きな潜水艦が、どうやってこの山間に囲まれた湖までやってきたのか、と頭を悩ませるワルツ。
しかし、それを口にしてしまうと、ストレラの話の腰を折ってしまうような気がして・・・ワルツはそれを口に出さずに、そのまま疑問を飲み込んだ。
その間も、ストレラの話は続く。
「このまま、どーん、と吹き飛ばすのは簡単なんだけど、あの中に乗ってる元天使たちは、本来は私たちメルクリオ政府が守るべき国民なのよ。そりゃ、全部が全部、ウチの国民とは限らないけど、可能な限り殺さずに捕まえたいのよね・・・」
「・・・・・・そう(国のリーダーとしては優しすぎると思うけど・・・それがストレラのやり方なのね)」
「それで全員捕まえてから、後で国家反逆罪として立件して、死ぬまで強制労働を課す・・・って算段」
「・・・・・・」
自分の妹には、どうやら暴君しかいないことを悟ったワルツは、彼女たちと自分が一体どこで道を違えたのか、頭を抱えながら悩むのであった・・・。
その後も、潜水艦をどうするか考えることが重要、と言いながらも、強制労働者を使った公共事業について話し続けたストレラ。
そして、彼女の話がようやく一段落ついた辺りで・・・ワルツは水中に潜んでいた潜水艦が、何故浮かび上がってきたのか、推測を始めた。
「それにしても、どうして急に浮かんできたのかしらね?人が死ぬような強さの衝撃波ではなかったから、潜水艦が相手なら、大した問題では無い気がするんだけど・・・」
「そうねぇ・・・対艦戦闘に慣れてない乗員たちが、アクティブソナーっぽい衝撃波を受けたせいで攻撃されると思って、白旗を上げに浮上してきたんじゃない?」
「・・・でも、白旗は上げてないわよ?」
「・・・ちょうどいい布が無かったんじゃないの?」
そんなやり取りをしながら、葉巻型潜水艦の艦橋部分に、人の出入りもなければ、白旗を上げている様子もないことを確認する2人。
と、そんな折・・・
「・・・あれ?」
ワルツは、闇にまぎれている潜水艦の小さな変化に気が付いたようだ。
「潜水艦の・・・VLS(垂直発射装置)っぽい部分の扉、開いてない?あのウロコみたいな奴」
「・・・は?いや、まさか・・・」
と言いつつも・・・確かに、潜水艦の背の部分から、8つほどの大きな扉が上方向に開いている様子を確認するストレラ。
それが意味するところは・・・即ち、弾道ミサイルか、誘導ミサイルか、巡航ミサイル・・・要するに、ミサイルの発射準備である。
「ミサイルを撃つつもり?」
「さぁ・・・この世界に、誘導に関する技術があるようには思えないけど・・・」
そう言いながら・・・アルクの村の自分の工房の中に、飛竜にしか見えなかった謎の球体が浮かんでいて・・・もしかすると集積回路の製造に関する情報が外に漏れていたかもしれない・・・などと、ワルツが思い出していると・・・
ゴゴゴゴゴ・・・!!
眩い明かりが潜水艦の上部から漏れだし・・・それから遅れること数秒後に、轟音が聞こえてきた。
その光と音に・・・
「ぐすっ?!」
「グルッ?!」
「もきゅもきゅ・・・」
と、5本目のビーフジャーキーを口にしながら、驚いたような表情を浮かべつつ、垂れた犬耳を上げようとするポチたち3人。
そんな彼女たちほどではなかったものの、ワルツもストレラも、その光景には驚愕していたようだ。
「・・・姉さん!アレ止めて!」
ストレラは、今にも発射されそうなミサイルのその行き先が、王城か、その上に停泊するエネルギアであると思ったらしく、彼女は辺りに響き渡る轟音に負けない大きさで、ワルツに聞こえるようにと声を上げた。
それからまもなくして、潜水艦の上部から吹き出す白煙と光の中から、ゆっくりと浮かび上がる円筒状の物体・・・。
・・・だが、次の瞬間、
ドゴォォォォン!!
と、ミサイルは前置きもなく急に爆ぜてしまう。
更に。
その爆発は、ほぼゼロ距離で潜水艦の他のVLSを直撃したようで・・・
ドゴォォォォン!!
ドゴォォォォン!!
他のミサイルに誘爆したためか、潜水艦の上部からは、立て続けに大きな火柱が立ち上がった・・・。
「いや、姉さん。ちょっと、やり過ぎよ?乗員の安全のことを考えてないでしょ?」
「いや、まだ何もしてないわよ・・・」
「じゃぁ、何?発射に失敗して自滅したってこと?」
「・・・うん。多分」
「・・・・・・」
本当にワルツが何もしていないことを理解して、ストレラが眉を顰めた・・・その直後、
ドゴォォォォン・・・!!
VLSのハッチが全て吹き飛び、盛大な花火のような輝きを見せたかと思うと・・・潜水艦は再び水中へと沈んでいったのである・・・。
今日はスラスラと書けた故、あとがきを書く時間があるのじゃ?
・・・まぁ、何かと言い訳を見つけてサボってみるという選択肢もあるかもしれぬがの?
例えば・・・
『うっ・・・持病のエキノコックスが・・・!』
・・・とか、の。
・・・なお、狐の獣人とはいえ、エキノコックスと共生は出来ない模様なのじゃ?
そんな、どうでもいい駄文は置いておいて・・・今日の補足に入るのじゃ?
まずは、花火っぽい潜水艦の爆発について、どんな感じなのか、少しだけ追記しておくのじゃ?
というのも、どーん、と爆発すると、軍艦とはいえ、真っ二つに折れて・・・所謂、轟沈してしまうのじゃ。
じゃが、そうではなく、徐々に沈んでいく感じだったのじゃ?
じゃから、ミサイルのロケット燃料や爆薬が、爆発的に燃焼したわけではなく、本当に花火が吹き出すような形で、ゆっくりと燃焼した・・・そんな感じで考えてもらうと助かるのじゃ。
そうでなければ・・・あー、爆発しちゃった。はい、この話は終わり・・・なんてことになってしまうからの。
というわけで、続きの話は次回なのじゃ。
で、次なのじゃ。
・・・実は、最後近くまで、ポチ嬢たちの存在を忘れ・・・いや、何でもないのじゃ。
で、彼女たちが何をしていたのかというと・・・まるで車がアイドリングしている時にガソリンを勝手に食うように、ストレラからビーフジャーキーを貰って、ひたすらかじり続けていたのじゃ。
じゃから、何も言わずに、大人しくしておったのじゃ?
・・・そう。
妾が、嬢たちの存在を忘れておったわけでは・・・・・・zzz。
・・・おっと、ついつい、意識が遠退いてしまったのじゃ。
まぁ、今日はこんな所かのう。
次回も、このくらい、スラスラとかけると良いのじゃがの・・・。
・・・殆ど、話は進んでおらぬがの。
・・・次回、『狩人さんの燃料はエチルアルコール。燃費は・・・10m/Lくらいかもだし?』乞うご期待!なのじゃ?
・・・但し、20時以降に限るがの?




