7.3-10 掃討作戦3
つい先程まで、物理的に燃え盛っていた王城の会議室。
それと共に、王城の屋根付近に停泊しているエネルギアの姿を目の当たりにして騒ぎになっていたのは・・・当然の如く、王城の塀の中だけではなかった・・・。
ざわざわざわ・・・
夜半を回った真夜中だというのに、メルクリオ首都カロリスの市中は、日中と変わらない・・・いや、日中以上の喧騒に包まれていたのである。
街のどこからでも見渡すことのできるその王城の姿を見て、市民たちが心配そうな視線を向けながら、隣人や知人たちと話し込んでいたのだ。
その会話の内容は、専ら、『この街は大丈夫か?』ということについてである。
そんな町の中にある、広くはない路地を、この時間には出歩くべきではないと思えるような齢の少女たちが、騒がしい人々を避けるように黙々と歩いていた。
その中で最も背の高かった白金色の髪の少女が、先頭を進んでいく3人の一際小さな少女たちに向かって声を投げかける。
「・・・ポチたち?どこまで行くつもり?」
そう言いながら、機動装甲が家の壁にぶつからないように微調整するワルツ。
その問いかけにポチたちは・・・しかし、何も言葉を返すことなく、尻尾を嬉しそうに振りながら歩き続けた。
「・・・・・・ま、いっか」
一心不乱に町中を進んでいくポチたちが、つい先日までケルベロスだったことを思い出したためか、ワルツには今の状況が、まるで言葉を返すことのない犬の散歩をしているように感じられたようだ。
それからワルツが、昔、現代世界で飼っていた『イボンヌ』という名前の犬のことを思い出しながら歩いていると、彼女の横を歩いていたストレラが、ため息を吐きながら口を開く。
「ごめんね。姉さん」
(ふーん・・・。変わったわねストレラ)
急に謝罪してきた妹に、意外性を感じるワルツ。
・・・しかし、どうやら、ストレラの性格が、上品になったり淑やかになったりしたわけではなかったようだ。
「ポチたち・・・一旦逃げると、どこまでも逃げ続けるのよ・・・。こればっかりは本来の習性なのか、中々躾けられないのよね・・・」
「あ・・・・・・そう」
今回の一件に付きあわせてしまい、申し訳ない、という意味で謝罪を口にしたのかと思いきや、そうではなかったために眼を細めるワルツ。
2人でそんなやり取りをしながら、町中をまるで流れる水のごとく進んでいくポチたちを追いかけて・・・そして20分ほど歩いたところで、
「えっと、ついたよ?・・・ぐすっ」
「ここがにおう!・・・グルルル」
「・・・・・・」ぶんぶん
『・・・えっ?』
ポチたちは立ち止まると、主人とワルツの方を振り向いて、そんなことを口にした。
「ここって・・・」
「・・・本当にここなのポチども?」
その周辺に、元天使たちとの関連が疑われる物があるとは思えず、思わず首を傾げたり聞き返したりするワルツとストレラ。
しかし、ポチたちに発言を改めるつもりは無かったようで・・・
「うん・・・ぐすっ」
「グルルル・・・」
「・・・・・・」こくり
3人とも、その場所に向かって鋭い(?)視線を向けたまま、ワルツたちの問いかけにそう答えた。
そんな彼女たちが、一体どこに辿り着いたのかというと・・・
「何にもない湖じゃない・・・。っていうか、湖が臭うわけ?」
そう口にするワルツの言葉通り、首都カロリスに隣接している湖の畔だったのである・・・。
「やっぱ、あれかしらね?空気ボンベの代わりになる魔道具とかがあって、水中に潜伏してるとか。で、呼吸の際に水面に出てきた空気のにおいを、ポチたちが嗅ぎとった・・・的な?」
「もしもそうだったとして、どうやって会話するのよ・・・」
そんなやり取りをしながら・・・月が沈んで、真っ暗闇に包まれた湖へと視線を向けるワルツとストレラ。
そこにある光は、少し離れた場所で輝く街の光と、ホタルのような蟲の冷光、そして、空に浮かぶ小さな無数の星たちの瞬きだけであった。
もしも、湖のさざなみの音が聞こえなかったなら、普通の人々には、闇に溶けている湖の存在すら分からず、単に光すらも吸い込んでしまいそうな無限の闇が広がっているように見えることだろう・・・。
ホムンクルスであるストレラは、そんな景色を、眼球の代わりに埋め込まれた超高感度カメラで眺めながら・・・どういうわけか、眩しそうに眼を細めつつ、その口を開いた。
「・・・何かいるわね」
「・・・ま、何かはいるでしょ」
時折、小さなさざなみが打ち寄せる湖畔にあった、大小様々な石の隙間に、イトヨのような魚を見つけながら、いつも通り的はずれなことを口にするワルツ。
そんな彼女の様子を一々気にすることなく、ストレラは細めたその眼を、湖の中ほどへと向けながら、言葉を続けた。
「多分・・・人が泳いでいるわね」
「・・・そう。じゃぁ、帰りましょうか」
「はっ?」
ワルツの言葉の突拍子レベル(?)が、無視できないほどに高かったためか、今まで気にしないようにしてきたにもかかわらず、思わず聞き返してしまうストレラ。
一方、問いかけられたワルツは、嫌そうな表情を浮かべながら、その発言の理由を口にした。
「この時間に真っ暗な湖を泳いでるとか・・・頭がオカシイ人か、精神を病んでる人か、余程泳ぐことが大好きな変態のどれかしか無いじゃない?そんな人・・・いえ、もしかしたら人たちと関わり合いになるとか、正直、ご免被りたいんだけど・・・」
「どうしてそんな思考になるのか理解したくないんだけど・・・理解できちゃうのが嫌ね・・・」
そう言いながら頭を抱えて・・・ストレラは、自身の頭の作りが姉と近いことに嫌悪(?)しながら、ワルツに対して言い返した。
「ここに何をしに来たのか・・・忘れちゃったわけじゃないわよね?」
そう言いながら、道案内のご褒美に貰ったビーフジャーキーに齧りつくポチたちに眼を向けるストレラ。
彼女のその視線の意味も、問いかけの答えも分かっていたワルツは、眉を顰めながら面倒くさそうに言った。
「・・・嫌になるわね。もう、面倒いから、どーん、と対消滅ミサイルを撃ちこめばいいんじゃない?」
「それやったら・・・多分、この湖に面する町や村は、全滅するでしょうね・・・」
「・・・そうよね・・・」
半ば本気で言ったつもりだったが、その適当な対処のせいで、関係のない人々が犠牲になるのもどうかと思ったのか、ワルツは渋々ながら泥臭い方法で、湖に潜んでいるだろう元天使たちに対処することにしたようだ。
「で、なんか案はある?」
「あったら・・・多分、私とお父様だけでどうにかしてるわね。特に無いから、とりあえず、夜に湖で泳いでる変態を捕まえて、尋問しようと思うんだけど、どうかしら?」
「真っ当にいけば、そうなるわよね。・・・そういえば・・・」
湖で泳ぐ、黒い人影に視線を向けながら、ワルツは何かを思い出したのか、顎に手を添えながら口を開いた。
「確か、伯爵夫人・・・えーと、狩人さんのお母さんが、この湖の底に、ダンジョンがあるとかないとか言ってたんだけど、そこがアジトになってるとかって無いの?」
「あぁ・・・その話、多分、冒険者達の単なる迷信だと思うわよ?政府の方では、そういったダンジョンの存在は確認して無いから・・・。って、一体どんな話をしたら、狩人さんのお母様とそんな会話をすることになるのよ・・・」
「いやね・・・いろいろあってさ・・・。詳しい説明は、後で狩人さんが眼を覚ました時にでも聞いて?」
「・・・要するに、説明するのが面倒なのね・・・」
「いや・・・違わないけど、違うのよ・・・」
と言いながら、酔っ払うと面倒くさくなる狩人の母を思い出すワルツ・・・。
それから彼女は、嫌な記憶ごと話を誤魔化すようにして話題を戻す。
「で、どうやって、捕まえる?一人二人を捕まえても仕方ないわよね?」
「流石にそんなにたくさんはいないでしょ?」
「いや、分かんないわよ?試しに、衝撃波を水中に打ち込んで、潜ってるだろう人たちを気絶させてみる?」
「物騒ね・・・。それで浮かんでくるなら良いけど、逆に沈んでいったら拙いんじゃないかしら?」
「ま、どうせこの時間に泳いでるのは変態しかいないはずだし、別に良いんじゃない?」
「・・・・・・それもそうね」
ワルツと思考が似通っているためか・・・結局、彼女の物騒な案を採用することにしたストレラ。
その結果ワルツは、水中に衝撃波を放つために、機動装甲を湖の中へと進めていった。
「んじゃ、行くわよ?」
湖畔からしばらく進んで充分に水深が深くなったところで、陸上で待つストレラや、3人のポチたちに、そんな声をかけるワルツ。
それから彼女は・・・
「近くで寝てる人たちや動物たちには申し訳ないけど・・・我慢してね?」
と呟いてから・・・
ポォォォォォン・・・!
と、潜水艦のアクティブソナーのようなピンを、機動装甲の表面に搭載されたトランスデューサーから、超大出力で放ったのである・・・。
その瞬間、
バサバサバサ!!
ギャァギャァ!!
ウォォォォン!!
と、魔物たちなどの動物たちの鳴き声で騒がしくなる湖畔一帯・・・。
その景色の所々に、篝火のようなものが一斉に灯ったのは、轟音が鳴り響いたために、湖畔に住む人々が眼を覚ましたからだろうか・・・。
そんな辺りの様子に気づきながらも、
「・・・うん。いい感じね」
湖の中心辺りに意識を集中させて呟く水上のワルツ。
彼女の眼には、1人2人どころではなく・・・20人を超える大量の人々の影が映っていたようである。
「随分と多いわね・・・」
浮かび上がってきた者の数が想定よりも多かったのか、腕を組みながら、夜に湖で泳ぐ変態の数を数えるワルツ。
それからも徐々に増え続け、50人を超えた・・・そんな時である。
ドゴォォォォ!!
ワルツから2、3km離れた場所から、黒く巨大な・・・まるでクジラのような謎の物体が、水面へと猛烈な勢いで浮上してきたのだ。
「・・・は?何であんなものが、この湖に沈んでたのよ・・・」
その姿を見て・・・思わず頭を抱えてしまうワルツ。
何故ならその黒いクジラのような物体が・・・現代世界にあるような、巨大な潜水艦だったからである・・・。
眠い・・・。
最近猛烈に眠いのじゃ・・・。
特に今日は・・・いや、今日は単純に寝不足かのう。
あとがきをちゃんと書きたいのに・・・書くことが出来ぬのじゃ・・・。
こうして駄文を書いておる間も、うつらうつらと・・・zzz・・・はっ?!
あ、あれかのう・・・最近、あとがきを書けておらぬ日が続いた故、サボりぐせが付いてしまったのかもしれぬのう・・・。
・・・もう、耐えられぬ・・・。
・・・寝るのじゃ・・・。
・・・次回、『そして永久の眠りにつく・・・・・・かもだし?』乞うご期待なのじゃ・・・。
・・・zzz・・・。




