7.3-09 掃討作戦2
爆発が起ったために、警戒態勢が引かれたメルクリオ暫定王国の王城。
その来賓室の柔らかいベッドの上に、ワルツはここまで重力制御で連れてきた仲間たちを、起こさないように優しく下ろして寝かせた。
ただ、身長のそれほど高くない仲間たちにそれぞれ1人1つずつベッドを充てがうと、部屋の中に全てのベッドが入りきらなかったので、1つのベッドの上に平面充填的に効率よく寝かせたことについては・・・まぁ、仕方のないことと言えるだろうか・・・。
・・・ただし、身長が低くとも、全身の骨格を特殊合金で作っていたコルテックスだけは、寝返りを打った瞬間、ロードローラーのように他の仲間たちを潰す可能性があったので、別のベッドに1人だけ寝かせてあるようだが・・・。
その他、ホムンクルスであるアトラスを除き、唯一の男性である剣士をどうするかについてワルツは悩んだが・・・寝ていても、まるで接着剤で固定したかのように彼にくっついて離れないエネルギアをどうにも出来なかったので、仕方なく同じ部屋の中で寝かせることにしたようである。
もしも、彼らを別の部屋へと隔離したなら・・・そのまま放っておけば、眼を覚ましたエネルギアが剣士を襲う可能性が非常に高かったので、これもまた必要な措置であると言えるだろう。
・・・まぁ、彼よりも先に目を覚ました仲間たちに、結局抹殺されてしまう可能性も否定はできないのだが・・・。
「で、作戦って何よ?」
剣士の身に不測の事態が起っても、どうにか命だけは助かるよう、彼の眼に厳重に目隠しを施しながら、これからの行動をストレラへと問いかけるワルツ。
するとストレラは、3人揃って頬ずりをしてくるポチたちの頭を、面倒くさそうに手で押して突き放しながら、言葉を返した。
「・・・麻薬探知犬もどきとして、ポチたちを使ってみようかと考えてたけど?」
「・・・何?もしかして、元天使たちって、危ないクスリでもやってんの?」
冗談半分にそう言ってから・・・その可能性が否定出来ない気がして、眉を顰めるワルツ。
天使だったころの彼らは、まるで何かに憑依されたかのように、性格が大きく変わっていたのである。
以前、天使をしていたシルビアの証言から推測すると、実際、憑依のようなことをされていたようだが・・・ワルツには、そんな彼らの様子が、幻覚を見ている麻薬中毒患者のように見えなくもなかったようだ。
彼女がそんなことを考えていると、ワルツと基本的に同じ頭の作りをしているストレラにも、姉が何を考えているのか手に取るように分かったようで、彼女は大げさにため息を吐いてから、作戦に関する詳しい話を口にし始めた。
「姉さんが何を考えているのか、予想したくもないけど・・・要するに、ポチたちを使って、元天使たちのニオイを追っていくのよ。元は犬なんだから、ソレくらいできるでしょ?」
と、言いながら、胸元のポチたちに視線を向けるストレラ。
すると3人とも、揃って尻尾を振りながら、嬉しそうに口を開いた。
「が、がんばってみる・・・ぐすっ」
「そんなの、かんたんなんだから!」
「・・・・・・」ぼーっ
どうやらポチたちは、全員やる気満々(?)のようだ。
そんな彼女たちを見て・・・
(・・・どうしよう。ポチたちが元天使たちのことを襲ったかもしれないこと、ここで言っといたほうが良いのかしら・・・)
と、内心で頭を抱えてしまうワルツ・・・。
逃げ出した元天使たちの生体反応が、ポチたちの前で突如として消え、そして彼女たちの口の周りに何やらミートソースのようなものが付着していたことを見て・・・ワルツは、一体何が起ったのかを直接見ずとも大体把握していたのである。
もしも、彼女の予想通りだとするなら・・・ニオイを追うのは不可能であると言えるだろう。
まさか、ポチたちに喰べたものを吐き出させ・・・モザイクをかけなければどこかの倫理委員会に訴えられかねない状況になっているだろうモノ言わぬソレに対して、尋問するわけにもいかないのだから・・・。
(それにしても・・・大のおとなを喰べたにしては、身体の体積は全く変わってないわよね?一体、どんな身体の作りになってるのかしら・・・)
ミノタウロスを大量に食べた飛竜もそうだが、元々人間ではない者が、マナを飲んで人間に変身すると、物理法則を超えた未知の力が働くらしい・・・。
尤も、魔法の存在自体が、物理法則を根本的に無視している(?)ので、今更、大した問題では無いのかもしれないが・・・。
「・・・どうしたの姉さん?」
「・・・ううん。何でもないわ・・・」
ワルツの様子がおかしかったことに気づいたストレラが、彼女へと事情を問いかけたものの・・・ワルツは結局、ポチたちのことについては何も言わずに、逸らかすことにしたのであった・・・。
そんな折、ベッドに寝かせたシラヌイと飛竜に、掛け布団をかけていたアトラスが、意識のない彼女たちにTシャツの裾を掴まれながら、おもむろに口を開く。
「でも、ポチたちに最初に嗅がせる犯人のニオイはどうすんだ?まさか、どんなニオイなのかも分からないのに、探せって言っても、流石に無理だろ?ってか、助けて・・・」
「そうね・・・やっぱり、サンプルは必要よね・・・」
アトラスの助けを意図的に聞き流しながら・・・腕を組んで考え込む赤いカジュアルドレス姿のストレラ。
・・・すると、そんな主人の呟きを聞いていたポチたちが、耳をピクッ、と動かしながら、声を上げた。
「まかせて・・・ぐすっ・・・」
「かんたんだっていったよ?」
「・・・・・・」コクリ
どういった理屈から自信が出て来たのかは分からないが・・・ポチたちには、元天使たちのニオイを追える、という確信があるらしい・・・。
「そ、そう・・・。なら・・・頼もうかしら?全く、いつの間に嗅いだのかしらね・・・」
ストレラは、一体どこで、ポチたちと天使が接触したのかを考えて、頭を傾げているようだ・・・。
(・・・やっぱり、言うべきかしら・・・それとも言わないでおくべきかしら・・・)
首を傾げるストレラに対して、未だに言おうか言わないかを悩み続けるワルツ。
それから彼女が、
(・・・あれ?探すって・・・喰べちゃったのに、一体どこを探すわけ?)
と、考えていると・・・
「こっち・・・ぐすっ・・・」
「あ!それ、ぬけがけなんだから!」
「・・・・・・」トテトテ
3人がほぼ同時に部屋の外の方へと歩き始めた・・・。
「ってこら!勝手に行かない!」
そう言いつつも、ポチたちを追いかけるストレラ。
そんな彼女たちの後ろを、ワルツも追いかけようとするのだが・・・彼女は部屋から出る直前で足を止めると、おもむろに振り返って・・・
「・・・というわけだから、アトラス?ここでエネルギアが暴走しないように見張ってなさいよ?」
弟に対して、そんな言葉を投げかけた。
アトラスに残ってもらい、仲間たちを再び襲ってくるかもしれない元天使たちから見守る・・・のではなく、剣士がエネルギアに襲われないように、2人の監視を頼むことにしたのである。
しかし・・・
「えっ・・・・・・マジで?」
どういうわけか、受け入れがたい様子のアトラス。
ただ、ワルツのように『面倒だから・・・』という適当な理由ではなく、歴とした理由があるようだが・・・。
「うん、マジ。コルテックスたちが起きた時に、変態!とか言われて、ボッコボコにされるとか思ってるんでしょ?どーせ」
「・・・よく解ってるじゃねぇか」
「・・・じゃ、行ってくるわ」
「ちょっ・・・」
ガチャッ・・・
そして結局、細かいことは全てアトラスに任せて、先に出て行ったストレラたちの後ろを追いかけるように部屋を出て行くワルツ。
・・・こうしてアトラスは、少女ばかりが眠りにつく部屋の中で、いつ社会的に抹殺されるかも分からない恐怖を感じながら、一晩を過ごすことになったのである・・・。
> 戻ってきたら、あとで書くかもしれぬのじゃ?
戻ってきたから、手短に書くのじゃ。
今日は・・・何を書いておったかのう・・・。
あぁ、思い出したのじゃ。
これからポチたちの鼻を頼りに、反逆者達のアジト(?)を見つけることができるかどうか・・・という展開につながっていくのじゃが、一見すると同じ犬の獣人に見えるイブ嬢の方に、そういった特殊能力が無いという点を・・・・さて、どうしたものか、と悩んでおる今日このごろなのじゃ。
詳しく書けば、ネタバレになる故、下手なことを書けないのじゃが・・・まぁ、次回辺り、その整合性は、どうにかとれるのではなかろうかのう?
・・・とハードルを上げて、撃沈する準備なのじゃ。
で、補足なのじゃが・・・今日の話については特に無いのじゃ。
むしろ、昨日の話の方にあったんじゃが・・・まぁ、大したことではない故、わざわざ取り上げんでもよいか・・・。
・・・もう駄目かもしれぬ。
というわけで・・・。
・・・次回、『ヒトデって胃を外に出して食べ物を消化するかもなんだよね?なら、ポチちゃんたちも同じように・・・』乞うご期待なのじゃ?
・・・なお、ポチ嬢たちは、ヒトデではない・・・と思うのじゃ?
・・・いや、もしかすると、生態が明らかになっていないケルベロスが、実は水生生物である可能性も否定は出来ぬがの?




