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7.3-08 掃討作戦1

会議室の中にいた者たちを何らかの方法で眠らせて、そして部屋ごと爆破した男たちが、不意にその姿を何処かへと消した後・・・。


「ストレラ!一体、何があった?!」


エネルギアの着陸(着城?)によって大混乱に陥っていた町の人々に対し、街の大広場で事情を説明しに行っていたカノープスが・・・王城の一部が爆発したことで、血相を変えて戻ってきた。

そんな彼に、


「あら、お父様?お帰りになったのですね。真夜中の演説はもうよろしいのですか?」


と、普段と変わらぬ様子で問いかけるストレラ。

彼女の隣りにいたワルツも、少し疲れが残るカノープスに対して・・・


「あれ?カノープスじゃない。最近見ない内に、ちょっと老けたんじゃないの?」


そんな少々失礼な言葉を、無意識の内に口にする。


「・・・ワルツがいたんだったな・・・」


ワルツがいると・・・すなわち何かトラブルが起こる、という構図を頭の中で組み立てながら、爆発した会議室へと視線を向けつつ、小さく呟くカノープス・・・。

それから彼は、ワルツの後ろで地面に寝そべっている女性たちの中に、自国の議長であるエルメスがいることに気づいて、心配そうに問いかけてきた。


「・・・大丈夫なのか?」


「え?あぁ・・・みんな単に寝てるだけよ?薬物か魔法で寝かされたみたいね」


「そうか・・・大事にならなければ良いんだが・・・」


ワルツの言葉を聞いて、思わず胸を撫で下ろすカノープス。

それから彼は、難しそうな表情を浮かべながら、言葉を続けた。


「それで犯人は・・・やはり元天使たちか?」


「んー、どうかしらね?不審な男たちを追いかけて問い詰めようとしたんだけど・・・」


そう言いながら、男たちが消えてしまった原因と思わしき、3人の黒髪の少女たちに視線を向けるワルツ。

するとそこでは・・・


『・・・・・・』しゅん


と、垂れ下がった獣耳を、普段よりも下げて俯く同じ顔の3人の姿が・・・。


「・・・ねぇ、ストレラ?ちょっと怒り過ぎなんじゃないの?」


少女たちの姿があまりにも不憫だったためか、3人の横で腰に手を当てて立っていたストレラに対して、ワルツが問いかけると・・・


「これがポチたちの反省の印なのよ・・・。犬だった頃の癖が抜けないみたいね」


と、呆れとも苦笑とも取れない表情を浮かべながら、彼女は小さくため息を付いた。

怒りたくて怒ったわけではない・・・そんな表情である。


「・・・仕方ないわね・・・」


ストレラも、3人のことがだんだん可哀想になったてきたのか、彼女は魔法のポシェットの中に手を入れると・・・その中からポチたちと人数分のビーフ(鹿)ジャーキーを取り出した。

・・・その瞬間、


『・・・!』


顔を上げると同時に、眼を宝石のように輝かせながら、黒い尻尾を左右にブンブンと千切れんばかりに振るポチたち。

彼女たちは先ほども何かを口にしていたようだが・・・成長期真っ只中にある彼女たちの食欲は、その程度で満たされるものではなかったようだ。

というよりも、主人からもらう食料は別格であると言うべきか・・・。


「まだ食べちゃダメよ?」


3人にビーフジャーキーを渡しながら、『待て』を命令するストレラ。

そして、全員に行き渡って、3人が主人に視線を集中させたところで・・・


「・・・よし!」


ストレラがそう口にすると、


『!』


ポチたちは、硬いビーフジャーキーを、嬉しそうにかじり始めた。


「・・・なんか、胸が痛むんだけど・・・」


ポチたちがつい最近までケルベロスだったことを知っていても、その姿はどこからどう見ても普通の人間だったために、ワルツは雀の涙ほどもないその道徳心を痛めたようだ・・・。


「そんな小さいこと気にしてたら、何もできなくなるわよ?」


と言いながら、2回目のビーフジャーキーを取り出して、次なる命令を考えるストレラ。

ワルツも・・・結局、そんなストレラに付き合うことにしたのであった。


・・・・・・


「・・・大変だな、カノープス」


「・・・色々な意味でな・・・」


目の前で王城が燃えているというのに、ポチたち相手に和気あいあいと談笑(?)を始めたストレラとワルツの2人を前に、頭を抱える男性陣2名。


なお、寝たふりをしながら作戦に参加していたコルテックスは・・・


「zzz・・・」


今は完全に夢の世界へと旅立ってしまったらしく、ワルツの重力制御で作られた不可視のベッドの上で、眩しく燃え盛る炎から顔を背けるように、うつ伏せで寝ているようだ。


その他、単に眠くて寝ているエネルギアは、大きな騒ぎがあったというのに、全く眼を覚ます気配は無かった。

どうやら、彼女がくっついて寝ている剣士は、その存在自体が、彼女にとっての睡眠導入剤のような効果を持っているらしい・・・。

あるいは、剣士と再開する今日この日まで、まともに睡眠を取れる日が無かったため、数週間分の睡眠を取り戻すように死んだように眠っている、という可能性も否定は出来ないが・・・。


・・・とまぁ、それはさておき。


大量の女性たち(と剣士)が横になる王城の正門前に、この国の王を務めるカノープスが戻ってきたわけだが、前記の通り、ワルツとストレラに半ば忘れ去られてしまったのである・・・。

なのでアトラスは、折角カノープスが戻ってきたというのに話し込んでいる姉妹たちの代わりに、詳しい事情を説明することにしたようだ。


「スマンな、カノープス。それで、ここで何があったのかについてなんだが・・・姉貴が言ってた通り、元天使と思わしき工作員に、薬を盛られて、皆、寝込んじまったようなんだ。で、あの爆発さ」


「・・・つまり、寝ていたところを、吹き飛ばされそうになったと?」


「あぁ。そういうことだな。・・・つっても、姉貴がいる以上、傷一つ付けられなかったけどな」


「そうか・・・。それで、その工作員とやらはどこに?」


「・・・忽然と消えたらしい」


「・・・転移魔法か?」


「詳しいことは、俺にも分からん・・・」


「・・・そうか。それは残念だな・・・」


そう言ってから、再び会議室のあった場所へと視線を向けるカノープス。

それから彼は、その場所に向かって手を翳すと・・・手の先から、直径1mほどの水柱を発生させ、燃え盛る王城の一角へと噴射した。


ドバァァァァ・・・


そんな轟音を立てながら、内部の壁を一部を吹き飛ばしつつ、次々と炎を消していくカノープスの水魔法。

その光景を見て、アトラスが感嘆の声を上げる。


「・・・さすがは、ミッドエデンの元魔術師。まぁ、この国では国王か」


「魔術師か・・・。昔は褒め文句だったかもしれないが・・・ルシアの魔法を見てしまうと、今では皮肉にしか聞こえないな」


「・・・それはスマンな・・・」


「いや、いいんだ・・・。そういえば、今回はルシアは来てないのか?」


「あぁ。そもそも俺たちは、コルテックスの無茶苦茶な休暇に付き合わされて、ここまで来たんだが、ルシアのやつ、ミッドエデンで何か用事があるらしくて、今日は来てないんだよ」


「そうか・・・」


そう言ってから・・・何故か残念そうな表情を見せるカノープス。

彼にとってルシアは、知り合いの中で唯一、自分よりも大きな魔力を保有している人間なので、ある意味、親戚に向けるような感情を持っていたようである。

彼の娘役をしているストレラの元になったのがルシアだったことも、その理由の一つと言えるかもしれない。


それからもしばらくの間、カノープスは放水を続け・・・そして、炎の光が見えなくなり、その痕跡の煙も弱まってきた頃。


「・・・さて。火災も収まったようだから、あとの処理は兵士に任せるとして・・・少し相談したいことがあるんだが、良いか?」


カノープスはアトラスに対して、そんな問いかけを口にした。


その言葉に答えたのは、アトラス・・・ではなく、彼らの近くで姉と会話していたストレラであった。


「お父様、無理したらダメよ?。最近、ちゃんと寝れてないんだし、これ以上働いたら、身体を崩しちゃうわよ?」


「スマンな、ストレラ。・・・大丈夫だ。疲れ自体は、回復魔法でどうとでもなるからな」


「それじゃ、無理矢理に働かされる奴隷と一緒じゃない・・・」


そう言いながら、俯くストレラ・・・。

そんな彼女の肩に、カノープスは両手を優しく乗せると、その硬そうな顔にやわらかな笑みを浮かべて、彼女に言葉をかけた。


「なに。心配することはないさ。この問題さえ片付けば、ゆっくりと寝られる日々が来るだろうからな」


「・・・・・・」


カノープスの言葉を聞いて・・・しかし、悲しそうに黙りこむストレラ。

その2人の姿は仮初(かりそめ)の親子ではなく・・・まるで本当の父と娘のようである。


「・・・いつの間に、こんなことになってたわけ?」


「・・・さぁ?」


そんな2人の関係に・・・なんとなく、居心地の悪さを感じるワルツとアトラス。

・・・その直後のことであった。


ドゴォォォ!!


何やらそんな轟音が、カノープスの腹部から聞こえたかと思うと・・・


ドサッ・・・


彼は何も言わずに地面に・・・いや、ストレラの肩の上に、力なく崩れ落ちてしまったのである。


「あーら、お父様。こんなところで寝たら、風邪引くわよ?」


そう言いながら・・・カノープスを軽々と肩に担ぐストレラ・・・。


「ほら、そこの兵士たち!ジッと突っ立ってないで、お父様を部屋まで運びなさい!」


『は?・・・・・・はっ!』


そしてカノープスは、兵士たちに運ばれるようにして、彼の寝室へと運ばれていったのであった・・・。


「・・・ねぇ、ストレラ?一瞬だけ、カノープスの鳩尾(みぞおち)に何かがぶつk」


「だから言ったのよ。働き過ぎると、いつか倒れるかもしれないって・・・。それが今日だったのね・・・」


『・・・・・・』


ストレラの言葉の意味が、なんとなく本来の意味とは違うような気がして・・・眼を細めるワルツたち。


・・・こうして、ワルツたちは、横暴な妹(2人目)によって、カノープスの代わりに働かさせることになったのである・・・。

いつも23:55分前後に投稿しておる妾。

そんな妾が、23時よりも前に投稿するというのは・・・つまり、次の日に向けて、次話を書かねばならぬ、などの特殊な理由があるからなのじゃ。


というわけで、さっさとあとがきを書いてしまうのじゃ?

・・・無いのじゃ!


・・・次回『予告通りにならなくて、イブが大反乱!』乞うご期待!なのじゃ?

・・・すまぬが、今日もあとがきを省略させてもらうのじゃ・・・。

・・・もう駄目かもしれぬ・・・。

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