7.3-05 反逆者5
コルテックスが寝たふり(?)を初めて・・・そして、メルクリオ国内で暗躍するという天使たちへの対応を結局どうすれば良いのか議論が飽和状態に陥って・・・。
ついには、その時点まで話を聞いていた(?)エネルギアが、夢の海へ出港しようと、その全体重を剣士にかけ始めた・・・そんな頃。
「・・・はっ!ね、寝てませんよ?!」
・・・会議が始まってから今まで寝ていたシラヌイが、おもむろに再起動した。
「よ、要するに、切って貼ってを繰り返すんですよね?!」
「・・・ごめん、シラヌイ。何言ってるか分からないわ・・・」
慌てながら、何やら長い棒のようなものを振り回すジェスチャーを見せるシラヌイに対して、いつも通りに苦笑を浮かべながら対応するワルツ。
どうやらワルツとしては、彼女が会議中に寝ていたことを、咎めるつもりはないらしい。
「えっ?あ・・・・・・す、すみません・・・寝てました」
「いや、ま、疲れてるのは分かってるから、別に良いわよ」
シラヌイとそんなやり取りをしてから、今もなお、うーんうーん、と唸っているストレラたちの方へと、ワルツがその視線を戻すと・・・
コンコンコン・・・
会議室の扉が叩く音が、部屋の中に響き渡ってきた。
「カノープスかしらね?」
「さぁ、どうかしら?今頃、お父様は・・・ただでさえ忙しいっていうのに、どこかの誰かのせいで、大混乱に陥った城下町の騒ぎの沈静化に振り回されて、休む暇もないくらいに忙殺されている頃じゃないかしらね?エネルギアで王城に乗り付けるとか言い出したの、どうせ、姉さんなんでしょ?」
「・・・・・・うん。ごめん・・・」
と、不毛やり取りをするワルツたち姉妹。
・・・しかし、そんなやり取りを交わしている間、来客が部屋の中に入ってこないところを見ると、どうやら、カノープスがやってきたわけではなさそうだ。
尤も、彼が、会議室の外で、大人しく中からの返事を待っている可能性も完全には捨てきれないが・・・まさか国王が自分の城の中で、入室の許可を待っているなどということはまずありえないだろう・・・。
「・・・この気配、あのスズメね・・・」
「スズメ?」
「えぇ、この国の議長。シルビアの母親よ。彼女、ちょっと気にくわないのよね・・・」
そう言ってから、その場で席を立つストレラ。
それから彼女は、両手を口に添えると・・・
「はいはい。今、取り込み中だから、立入禁止よ?」
嫌そうな表情を浮かべながら、そんな言葉を会議室の入口に向かって投げかけたのである。
すると・・・
ガチャ・・・
「失礼いたします・・・」
ストレラの言葉に何を思ったのか・・・議長を務めるシルビアの母であるエルメスが会議室の扉を開いて、中へと入ってきた。
そんな彼女の手には、
ガラガラガラ・・・
と、ワゴンが引かれており、その上に何やら甘い匂いのする食べ物のようなものと、大量のコップが載っているところを見ると・・・夜遅くまで会議を続けるストレラたちのために、夜食を用意してきたようだ。
「お茶とお菓子をお持ちしました」
そう言いながら、ワルツの隣にワゴンを止めて、緑茶の配給を始めるエルメス。
すると、その様子を見たストレラは・・・
「入ってきたらダメって言ったじゃない・・・」
不満気に抗議の声を上げた。
「あらあら、そうでしたか。申し訳ございませんが、聞こえませんでした。ですが、せっかく作ったものですので、とりあえず置いていきますね?ストレラ様?あまり夜更かしし過ぎたらダメですよ?」
と、ストレラに優しげな視線を向けながら、完全に子供扱いしているような言葉を向けるのエルメス。
一方、ストレラの方は、何か言いたげな表情を浮かべながらも・・・
「ぐぬぬ・・・」ぷるぷる
必死になって、口から出てこようとしていた言葉を飲み込んでいる様子であった。
ここで何かを言ってしまえば、自分が子どもであることを認めてしまうことになる・・・そんな表情である。
直接いがみ合っているわけではないものの、(一方的に)一触即発状態の2人の様子に気づいたワルツは、何かを我慢しながら震えているストレラ・・・には話しかけづらかったのか、エルメスに対して問いかけた。
「・・・何かあったんですか?」
「いえいえ。何かあったわけではありませんよ?ただ・・・ストレラ様は、ろくに休みを取ることなく働いておられるようなので、心配なだけです」
「・・・そうでしたか」
全く寝ることのなく、昼も夜も問わず、執務を続けられるホムンクルスのストレラ。
そんな彼女のことを知らなかったエルメスにとっては、ストレラの健康のことが気になって仕方がなかったようだ。
エルメスに、年の近い娘がいることも、余計に気になってしまっていた原因と言えるだろうか・・・。
・・・しかし、そんな彼女の本心を聞いても、
「・・・・・・」
承服しがたい様子のストレラ。
彼女には、余程エルメスを受け入れられない理由があるらしい・・・。
「ダメよ?ストレラ。喧嘩したら」
「何をどう見たら、これが喧嘩に見えるのよ・・・」
と、ワルツがまたわけの分からないことを言い出した、と言わんばかりの表情を浮かべながら、ストレラが彼女に対してジト目を向けた頃・・・
「・・・さぁ、これでも食べて、頭を一度リセットしてください」
エルメスがそう言って、小さな皿に乗った・・・不思議なものをその場にいた者たちに配ったのである。
「・・・何ですか?これ・・・」
少なくとも、自身のデーターベースには無かった、その・・・謎の物体が何なのかを問いかけるワルツ。
するとエルメスは、よくぞ聞いてくれた、と副音声で言っていそうな表情を浮かべながら、皿の上に浮かぶ、少し焦げ目のついたソレについて説明を始めた。
「これは・・・この地方で伝わる綿飴です」
「わ、綿飴?綿飴って、空中に浮いてましたっけ?っていうか、焦げてましたっけ?」
「他の国ではどうかは分かりませんが、この国では、小さな風魔法を使って浮かばせる雲のような綿飴が人気なんですよ。溶けないように綿飴本体に氷魔法を行使しながら、表面を火魔法で加熱すると、少し焦げ目がついて、朝日や夕日に照らされた雲のように見えるんです。細やかな魔法のコントロールが要求されるので、誰でも簡単に作れる、というものではないんですよ?」
と、自慢気に胸を張るエルメス。
どうやら、この綿飴は、彼女自身が作ったもののようだ。
「ふーん・・・触れる雲、ってやつですね・・・」
そう口にしてから・・・ワルツは、ハッ、としたような表情を浮かべて、少し前の出来事を思い出す。
(あ・・・そういえば、ユキがイブに対して、触れることのできる雲を見せる、とかいう無理難題を約束してたような気がするけど、これで良いんじゃないの?)
そんなことを考えながら、さっきまで寝ていたイブの方へと視線を向けると・・・
「もきゅもきゅもきゅ・・・ゴクン。・・・ん?なんかあった?ワルツ様」
・・・いつの間にか起きていた彼女は、その場にいた誰よりも早く、魔法で浮かぶ綿飴を口の中に放り込んでしまっていた。
「ううん。なんでもないわ・・・(あーあ、ユキ。これで、逃げ道がまた1つ塞がったわね・・・)」
時間が立つに連れて、徐々に選択肢が消えていくユキのことを慮って、一人小さく苦笑を浮かべるワルツ。
その後で、口を開いたのは・・・ワルツの隣りに座っていた狩人であった。
「ふーん。なるほど。魔法を使った料理か・・・。この考えはなかったな」
「どうしたんですか?狩人さん」
「いやな?今度、王都でスイーツコンテストがあるだろ?その時のネタに、これを使おうかと思ってな・・・。っていっても、私が出展と思っているのは綿飴じゃないぞ?」
「そうでしたか・・・。でも、狩人さん、魔法使えるんですか?」
「それは・・・・・・あれだろ?こう・・・・・・うん・・・」
それからも、どうにか魔法を使うための方法を口に出そうとする狩人。
・・・しかし、ついに彼女の口から言葉が出てくることはなく・・・彼女は泣きそうな表情を浮かべながら、金色の焦げ目のついた綿飴に対して、悲しげに齧りつくのであった・・・。
(魔法の料理に使えそうな細かな魔法が使える人間は、仲間内では・・・シラヌイくらいしかいないしね。彼女がコンテストに出るって言ったら、ライバルになるわけだから、助けなんて求められないわよね・・・)
と、美味しそうに綿飴を頬張るシラヌイに対して視線を向けつつ・・・細かな魔法は得意でも、料理が苦手なカタリナのことを意図的に思考から排除して考えるワルツ。
それから彼女が、同じくコンテストに出場しようとしているルシアが一体どんな料理を作ろうとしているのか、眉をひそめながら考え始めた・・・そんな時のことであった。
「・・・あ、あれ?」
バタッ・・・
配給して空になった皿を回収していたエルメスが、どういうわけか、突然、その場に倒れこんでしまったのである。
「えっ?!だ、大丈夫?!」
「えっと・・・急に・・・眠気・・・・・・zzz」
「・・・・・・」
急に意識を失って、寝込んでしまった様子のエルメスに、眼を細めるワルツ。
その直後・・・
ガシャッ・・・
「ね、ねむいかもだし・・・・・・zzz」
お茶を飲もうとして・・・机の上に溢してしまったイブも、そのまま突っ伏して眠ってしまう。
それからも、バタリバタリと、次々に意識を失っていく仲間たち。
その結果、その部屋の中で最後まで意識を失わずに残っていたのは・・・
「だ、大丈夫か?!みんな!」
と、声を上げるホムンクルスのアトラスと・・・
「やっぱり、このスズメ、何か毒を仕込んでたわね・・・」
同じくホムンクルスのストレラ。
それに、
「・・・睡眠薬?それとも魔法?」
致死性の毒でなければ、腹痛すら起こさないワルツと、
「もきゅもきゅもきゅ・・・・・・zzz」
・・・寝たふりをしながら、睡眠薬が混ぜられているかもしれない綿飴を頬張るコルテックスであった・・・。
「・・・ピンチかもしれないんだから、いい加減起きなさいよ、コルテックス」
と、ワルツが声を掛けるも・・・
「zzz〜・・・」
コルテックスは口で、ずずず〜、と言って、起きる気配を全く見せなかった。
そもそも彼女はここに休暇で来ていて・・・更に、時間を考えれば、いつもならすでに寝ている時間なので、完全に業務時間外、というなのだろう。
お役所仕事、ここに極まれり・・・とも言えるだろうか。
「ま、毒は入ってないみたいだから、そんなに焦らなくてもいいかもしら・・・」
もしも、皆が食べたものに致死性の毒が含まれていたとしたら、今すぐに城の壁を抜いて、まっすぐにエネルギアの船体へと戻り、急いでカタリナの治療を受けさせなければならないところだが・・・ワルツが腹痛を起こしていないところを見ると、食べ物に含まれていた成分は毒ではなく、あるいは睡眠薬だったとしても極端に強いものではなかったようなのである。
まぁ、睡眠魔法のようなものである可能性も否定はできないのだが・・・何れにしても、仲間たちが眠ってしまった事自体に、特に大きな問題があったわけではなかったので、ワルツは焦らずにそのまま皆が起きるのを待つことにしたのであった。
そんな折・・・
コンコンコン・・・
『お話がございます、ストレラ様』
兵士らしき者が、会議室の扉をノックする音が聞こえてくる。
「(さーて、どうする?)」
「(飛んで火にいる夏の虫ってやつだな)」
「(zzz〜)」
「(もう、面倒くさいから、皆殺しでも良い気がしてきたわ・・・)」
このタイミングでやってきた兵士がどういった類の者なのか、わざわざ考えるまでもなく明白だったので・・・ワルツたちはニューロチップを持つ者たちだけがやり取りできる超高速思考空間の中で、これからの行動を話し合ってから・・・
「(・・・じゃ、そうことで)」
「(プランGだな)」
「(zzz〜)」
「(え?プランZ?そんなプラン、無かったわよね?)」
やってきた兵士・・・の皮を被っているだろう元天使と、その背後にいると思われる他の者たちに対処するための作戦を開始したのであった・・・。
書き方について、何かを掴めそうで・・・しかし掴めない今日このごろ、なのじゃ。
・・・まぁ、よいか。
こういう時は、無理に追求すべきではないのじゃ。
で、あれじゃ。
自宅に戻ってきたのじゃ。
やはり、自分の布団が最高なのじゃ・・・。
さっさとあとがきを書き終わって、布団にダイブしたいのじゃ・・・。
というわけで。
補足に入るのじゃ?
今日は2点あるのじゃ。
まずは、エルメスが真っ先に倒れた理由なのじゃ。
文中において、彼女は何も口にしておらぬはずなのに、どうして眠ってしまったのか。
・・・わざわざ書かなくとも、分かるじゃろうか?
要するに、味見したのじゃろう。
それも、できたてホヤホヤではなく、睡眠薬のようなものが混ぜられた後で、皆の前に出す直前になってから、の。
雰囲気としては・・・大量に作ったは良いが、全員分出そうとして、1皿だけ余ってしまい・・・それを自分の胃袋の中に方つけた、といった感じではなかろうかのう?
詳しくは、想像にお任せするのじゃ!
・・・まぁ、まだ睡眠薬と断定したわけではないがの?
で、次。
・・・エネルギア嬢は?
エネルギア嬢は、そもそも食べ物も飲み物も食べぬはずじゃから、睡眠薬は意味を成さないはずなのじゃ。
それでも眠っておったというのは・・・つまり、疲れて眠たかったら単に寝てしまった、ということなのじゃ。
きっと、この日まで、眠れぬ日々が続いたんじゃろうのう?
・・・どうして眠れなかったのかについては・・・まぁ、言わずもがなじゃろう。
会議も彼女にとっては、退屈なものじゃったんじゃろうのう・・・。
・・・それとは別に、もう一点だけ。
皆が眠ってしまった理由についてなのじゃ。
1日中色々なことがあって、満身創痍(?)状態にあった故に体力的な限界が近かった皆の身体は、それほど強くはない(かも知れない)睡眠薬か魔法であっても、簡単に眠ってしまう状態にあったのじゃ。
・・・そう、まるで、今の妾のようにのう・・・・・・zzz。
んはっ?!
あ、あと少しであとがきが書き終わるのじゃ・・・!
・・・次回、『お、起きたら誰もいなかったかもだし?!』乞うご期待!なのじゃ?
・・・こうしてイブは、ポチたちと幸せに暮らしましたとさ?なのじゃ?
・・・多分の・・・zzz。




