7.3-04 反逆者4
「・・・こちらです」
妙に余所余所しい口調で、ストレラがワルツたちを案内した先は・・・
『・・・・・・え?』
来客用の寝室・・・ではなかった。
「・・・ほら、ちゃっちゃと部屋に入っちゃって?早速会議を始めるわよ?」
その部屋の扉を開いた瞬間、元の口調に戻ったストレラがそう口にした通り、単に長い机と椅子が並んでいるだけの会議室だったのである・・・。
「・・・ストレラ?本当に、休ませない気?」
容赦のないストレラの仕打ち(?)を前に、思わず彼女に確認を取ってしまうワルツ。
しかし、ストレラは冗談でここに皆を連れてきたわけではなく、至って真面目だったようで・・・
「え?まさか、単に寝るために来たわけではないんでしょ?」
ワルツたちの希望を無視して、サラッとそんなことを口にしたのである。
「もちろん、私とお父様の手伝いをしに来てくれたのよね?最近、大変な目にあっていたのに、音沙汰がなくて・・・いい加減、頭にきて、ミッドエデンに宣戦布告しようかと考えてたんだけど、この一番忙しいタイミングで来るなんて、さすがはお姉さま方。ピンチには駆けつけるヒーローって感じよね」
『・・・・・・』
ストレラの言葉に含まれていた副音声が刺々しいもので、なおかつ最終通告的な意味合いを持っていたためか、返す言葉が見つからない様子のワルツとホムンクルスたち。
それから彼女たちは・・・仕方なく会議室の中へと入って、適当な席につくと、3人揃って机に両肘をついて頭を抱えたのであった・・・。
それから、簡単にストレラからの報告を受ける仲間たち。
但し、イブとシラヌイは夢の中へと旅だったために・・・そして剣士は纏わりつくエネルギアへの対応で忙しかったために、話を聞いていないようであった。
そんな仲間たちの中で、まともにストレラの話を聞いていたのは・・・
「ふむ・・・」
彼女の話の一体どこが興味深かったのか、尻尾をゆっくりと揺らしながら前のめりの姿で話を聞いていた飛竜と、
「そうか・・・。そんなことがあったんだな・・・」
ミッドエデン政府の重要なポストに就いている狩人。
そして、
「それ、めんどいな・・・」
「もう寝かせてください・・・」
アトラスとコルテックスのホムンクルスたちであった。
まぁ、ホムンクルスたちの中でも、唯一睡眠を摂るコルテックスは、まもなく肉体的限界が訪れそうであったが・・・。
「ふーん。で、私たちに、その反逆者たちを全員抹殺して欲しいと?」
と、パーティーのリーダーで、睡眠を摂ることのないワルツが、ストレラが何を言わんとしているのかを予想して問いかけた。
・・・なお、ストレラがワルツたちに説明した内容は、要約するとこういうことである。
最近、政府打倒を謳う者たちが、国内の各地で、辺境の村を占拠したり、鉱山を占拠したり、物流を妨害したりしているのだという。
それも、事件は、断続的に1箇所ずつで起こるのではなく、ほぼ毎日、複数の場所で同時に起こるために、メルクリオ政府としては、対応に限界を感じているらしい。
対応に当たる兵士やカノープス、それにストレラにとっては、まさに眠れぬ日々が続いているのだろう。
「そう。ホントはさっさとみんな消してしまいたいのよ・・・。でも、気にくわないからって、皆殺しにするわけにはいかないのよね・・・」
ワルツの言葉に、苦々しい表情を浮かべながら、返答するストレラ。
過激な発言とは裏腹に、彼女は反逆者たちの反乱の原因についても、ある程度、理解しているようだ。
「・・・随分と、相手の肩を持ってるんじゃない?」
と、ストレラの思考の背景が見えなかったために問いかけるワルツ。
するとストレラは、大きくため息を吐きながら、反逆者たちが何者なのかについて口にし始めた。
「・・・つい先日まで、国と世界の秩序を守ってきたエリートたちが、ある日突然、不条理な理由で、一文無しの無職になっちゃった、って考えたら、同情しちゃうのよね・・・」
「なにそれ・・・?」
「・・・天使たち」
「あー・・・そういうこと」
かつて、この国、メルクリオ神国を治めていた自称神。
彼の特別な魔法によって、国民たちの中から選ばれた者たちが、神の使い・・・すなわち天使として、使役されていたのである。
当時、天使に選ばれていた者たちは、この国におけるエリート中のエリート・・・そう言っても過言では無かったのだ。
そんな彼らは、ワルツの侵略(?)の際、魔法をかけていた主である神(?)が死んでしまったことで、呆気無く、普通の人間に戻ってしまったのである。
しかも、天使だった頃の記憶の大半と、その地位も名誉も同時に失って・・・。
そんな彼らが・・・侵略してきたワルツや、彼女が据えた新しい国王、そして政府に反感を抱かないわけがなかったのである。
輝いていた頃の自分を返して欲しい・・・さもなくば、自分たちの手で取り返すまで・・・。
そう思い至っても、何ら不思議なことではないだろう。
「天使の再雇用とか考えても見なかったわ・・・」
ストレラの言葉を聞いて、カノープスにこの国を任せようと考えた当時の自分たちの思考の中に、天使たちへの身分の保障が完全に抜け落ちていたことを今更になって思い出すワルツ。
一方、この国を任された後で、この国の影の支配者(?)となったストレラも・・・
「私たちだって、彼らのことに気づいたのは最近のことなのよ・・・。それから元天使たちに、再雇用の話を通達してみたんだけど、それに対して回答してきたのが、実のところ1割もいない、っていう最悪な状況なのよね・・・」
と、この件を失念していた結果、覆水盆に返らず状態に陥ってしまったことに、後悔している様子であった・・・。
彼女の言葉を裏返すなら・・・つまり、残り9割の天使たちは、全員とまでは言わないが、相当数が反政府側に回ってしまった、ということなのだろう、
「・・・ってわけで、どうにかするのを手伝ってほしいのよ。できれば・・・物理的に」
「身も蓋もないな・・・」
と、実働の際は、真っ先に駆り出されるだろうアトラスが呟く。
するとストレラは、再びため息を吐きながら、言葉を返した。
「私だって、本当はやりたくはないわよ。でも、痛みを伴ってでも、早急にどうにかケリを付けないと、後々まで禍根を残すと思うのよね・・・。他に何か良い対処の方法があれば、ぜひ教えてほしいわね。せっかくこうして会議室にみんなを連れてきたんだし・・・」
『・・・・・・』
問題の根が深く無いとはいえ、その原因がワルツを始めとした自分たちにあったためか、口を閉ざして頭を抱える一同。
そんな仲間たちの中で、最初に口を開いたのは・・・ミッドエデンで国防省長官(?)を務めている狩人であった。
「・・・そうだな。できれば力でねじ伏せるようなことは最後の最後まで避けるべきだと思う。多分、ワルツたちにとっては、赤子の手をひねるくらいに、ものすごく簡単なことだとは思うんだが・・・私が同じ立場に立たされたら、同じことをしてしまうような気がするんだ」
そんな狩人の言葉に、追従するように口を開いたのは・・・エネルギアへの対応で忙しいために、話を聞いていなかったと思いきや、しっかりと聞いていた剣士であった。
「・・・だな。俺も姐さんの意見に賛成だ。俺たち勇者パーティーのメンバーは・・・実は、今の元天使たちと同じような境遇を持っていたりするんだ。魔族に国を奪われたり、そして追われたり・・・。だから元天使たちがどんなことを感じたり思ったりしているかは、よく分かるんだよ」
『へー。ビクトールさん、そーぜつな過去を持ってるんだね』
「い、いや・・・うん・・・そうだな・・・(何が壮絶って・・・今、この時が、一番壮絶な気がするな・・・)」
自分の言葉に相槌を打つエネルギアを前に・・・過去に起った出来事が、全て小さく感じられてしまうような気がしなくもない剣士。
その次に口を開いたのは・・・椅子の背もたれの隙間に、腕よりも太いウロコ付きの尻尾をくぐらせて、それをメトロノームがタイミングを取るように定期的に振っていた飛竜であった。
「・・・全くもって、人というのは興味深い生き物だ。他者の過去と未来のことまで考えて行動を決めるのだからな。・・・良いのではないか?己の前に立ちふさがる障害を全て排除しても。以前、それが王の資質だと、どこかで聞いたことがあるのだが?」
「そりゃそうかもしんないんだけどさ・・・タイラントな王様って、意外に面倒なものよ?人の先頭に立つ以上、自身の発言が揺らぐ訳にはいかないから、後で、やりすぎましたー、なんて言って、行動と発言を撤回する訳にはいかないしね・・・。甘えたくても甘えられない孤独・・・っていうのかしら。そんなものに、死ぬまで、人生を縛られることになるんだから」
「ふむ・・・そう言われればそうなのかも知れませぬな・・・」
と、ワルツの指摘に腕を組みながら考えこむ飛竜。
そんな彼女が、隣でイビキを掻きながら口を開けて寝ているイブに視線を向けて、優しげに眼を細めたところを見ると・・・恐らく彼女は、ワルツの言葉を自身のことを当てはめて・・・そして、どういった時が他者に甘えている時なのか、と考えているに違いない。
「ま、丁度、そこに暴君がいるから、実際のところはどうなのか、って聞いてみれば分かるんじゃない?」
と、少々脱線気味に、ワルツがコルテックスに対して水を向けると・・・
「・・・もう、眠いので、皆殺しでいいではないですか〜。問題が起ったら次の日にゆっくりと片付ければ良いんですよ〜。・・・って言っても、政治の手腕がないと、後で問題が山積して、首が回らなくなりますけどね〜」
彼女は、本当に眠そうな様子で眼をこすりながら、適当な様子でそんな返答を口にした。
コルテックスのその発言は、全くもって適当な言葉のように聞こえるが、実際のところは、それが彼女なりのやり方なのだろう。
まぁ、それでもミッドエデンの政治は恙無く回っているので、横暴かつ適当であっても、大量に集まってくる情報をまとめ上げて、適切に処理する能力さえあれば、行動の結果など、後でどうとでもなるのだろう・・・。
そんな彼女の言葉に対して・・・
「・・・じゃぁ、やっぱり、コルに皆殺しを頼もうかしら?」
ストレラがウンウンと納得したように頷きながら、そう口にすると・・・
「・・・zzz」
・・・コルテックスはついに、狸寝入りならぬ狐寝入りを始めてしまった。
これもまた、彼女の政治的手腕、というやつなのだろうか・・・。
もう少し、なのじゃ・・・。
明日の夜に自宅へと戻れるのじゃ・・・。
それまでは・・・かゆ、ねむ、なのじゃ・・・。
で・・・今日も目立って補足すべきことはない故、あとがきは省略させてもらうのじゃ。
シラヌイ殿が空気なのがすごく気になるのじゃが・・・まぁ、これからどうにかしていくのじゃ?
・・・次回、『暴君対決!どれだけ殺れば統計でも悲劇?』乞うご期待!なのじゃ?
・・・このネタが分かる者は、一体どれだけおるんじゃろうか・・・。




