7.3-01 反逆者1
リーンリーンリーン・・
青々とした木々が生い茂る山間の街には、今晩も鈴虫のような音色を奏でる虫の鳴き声が響き渡っていた。
周囲を雄大な大自然に囲まれ、近くにある湖へと続くなだらかな斜面に作られたこの街・・・メルクリオ暫定王国首都カロリスにおいてその音色は、年中を通し、文字通りごく自然なBGMである。
そんなオーケストラの奏でる曲が鳴り響く街の中では、虫たちだけでなく、当然、ワイワイガヤガヤと人々の喧騒も満ち溢れていた。
冬でも山岳部以外は雪の降ることのないこの地方においては、一年を通してアルコールの美味しい季節(?)なので、これについても、ごくごく自然なことであると言えるだろう。
・・・というよりも、相当数の人が住んでいる以上、仕事を終えた者たちが一日の終りにささやかな宴を催すのは、全世界を通して当然のことであると言うべきか・・・。
そんな中・・・。
ハメを外しすぎて酔っ払った住民たちが、1次会を終えて、2次会へと突入しようとしていた・・・そんな時間の出来事である。
リーンr・・・
・・・急に虫の鳴き声が止んだ。
「・・・ん?」
「どうした?」
「・・・いや、何でもない。気のせいだ・・・ヒック・・・」
普段から森の中で狩りをしているような狩人たちの中には、その鋭い感覚で、小さな異変を感じ取った者もいたようだが・・・すでに出来上がっていたためか、その原因が何なのかまでは気づかなかったようである。
・・・しかし、その異変は、人々の気のせいなどではなかったようだ。
ソレに最初に気づいたのは・・・明日の朝食に使うハムとチーズを肉屋で買った帰りに、母親に手を引かれて路地を歩いていた、まだ幼い子どもであった。
「あー!おっきなお月様が登ってきたよ?」
「そうね。でも、あのお月様は、登ってきたのではなくて、これから沈んでいくのよ?」
と、今もなお、西の空に浮かんでいた大きな月に目を向けながら、そんな説明を口にする母親。
・・・だが、子どもは首を振ると、母親が見ていた月の方向とは逆の方向・・・すなわち東の方角を指差して、再び口を開いたのである。
「でも・・・ほら、だんだん登ってきたよ?」
「えっ・・・」
うちの子は一体何を言ってるの?、と戸惑いを隠せない母親。
彼女は、思わず首を傾げながら・・・しかし、子どもの指が示す先に向かって視線を向けた。
するとそこには・・・
ヌッ・・・
っと、音も無く現れた、月の光を白く反射する、巨大な飛行艇の姿があったのである・・・。
うわーーー!!
「うん。みんな私たちのことを歓迎してくれてるみたいね」
「ねぇよ!」
一体どこをどう見たら、逃げ惑う市民たちの姿が歓迎している姿に見えるのか・・・。
ワルツの勝手な解釈に、アトラスは全力でツッコミを入れた。
そんな姉の隣では・・・
「ふっふっふ〜。逃げ惑うが良い、愚民どもめ〜。はっはっは〜。人が○○のようだ〜」
と、評議会議長をしているコルテックスが、隣国の人々に対して、そんな暴言を吐いていた。
ワルツと違って、勝手な解釈はしていないようだが・・・今はオフとはいえ、国を治める者の発言としては問題アリと言わざるを得ないだろう・・・。
そんな妹の暴言に対して、先ほどの姉のように、アトラスがツッコミを入れるか、と思いきや・・・
「・・・それ、俺も言いたかったな・・・」
・・・どういうわけか、彼は羨ましそうな表情を見せて、そんなことを呟いた。
その様子を見る限り・・・やはりアトラスも、ワルツやコルテックスたちの兄弟、ということなのだろう・・・。
まぁ、そんないつものやり取りについては、艦橋の片隅にでも置いておいて・・・。
「やっぱ、底面にもホログラムパネルを貼っておくべきだったかしら?重力制御システムで惰性航行をすれば音は大体消せるけど、姿までは消せないからね・・・」
先ほどの冗談(?)とは打って変わって、ワルツは苦々しい表情を浮かべながら、そんなことを口にした。
超音速飛行を前提に考えて造船した結果、エネルギアの外装部分には、真っ白な耐熱材が露出していた。
人々からの視線を欺くことを考えるなら、ワルツが使っているようなホログラムシステムを船底に貼り付けるべきなのだが・・・それをしてしまうと、今度は船体表面の耐熱性が落ちてしまい、超音速飛行が出来なくなってしまうのである。
高速での移動を優先するか、あるいは、人々の眼に付かないようにすべきか・・・。
結果として、ワルツは前者を選択したわけだが・・・それがここに来て、裏目に出てしまったようだ。
特に、このカロリスにおいては、以前エネルギアによる戦闘が行われていたために、人々の間には未だこの船に対して、拒否反応が残っているようなのである・・・。
このまま王城へと着陸(?)すると・・・町中はただでさえ大混乱だというのに、それに輪をかけて酷いことになるのは必須と言えるだろう。
・・・それを考えたのか、
「・・・帰りましょうか」
カロリスを目の前にして、まさかの発言をするワルツ。
すると当然のごとく、
『・・・え?』
その場にいた仲間たちは、疑問半分、呆れ半分で聞き返した。
「いや、このまま着陸したら、絶対大変なことになるわよ。きっと」
『・・・・・・』
そんなワルツの発言に、言い返す言葉が見つからなかったのか、黙りこむ仲間たち。
それから彼女たちは、目を細めながら、逃げ惑う人々の姿が見える艦橋の床面へとその眼を向けるのであった・・・。
このまま帰るのも、仕方ないこと・・・皆、一様にそんな表情である。
すると、そのタイミングで・・・
『・・・この馬鹿姉!』
・・・カロリスの王城から、末の妹の憤慨した声が無線機に飛んでくる。
何も連絡無しに突然現れて・・・そして街を混乱に陥れたのだから、当然と言えるだろう。
『いや、申し訳ないと思ってるわよ?不必要に混乱させるつもりは無かったんだから・・・』
『思ってるだけじゃなくて、行動に移しなさいよ!少し考えたら分かるでしょ!』
『・・・うん・・・ごめんなさい・・・』
完全にご立腹状態のストレラに対して、子どものように消え入りそうな謝罪の言葉を口にするワルツ。
その様子は・・・むしろ、姉に叱られる妹、といった雰囲気である・・・。
『ったく・・・。で、これからどうするの?』
『これから大人しく国に帰ろうかと・・・』
『・・・人の国をいいだけ荒らして、帰るって?』
『えっ・・・・・・じゃぁ、1晩だけ泊めてもらえる?』
『・・・は?』
責任を取って、どうにか事態が収集するように協力するのかと思いきや・・・図々しくも、泊めろ、と言ってきた姉に対して、怒りを通り越して、呆れるストレラ。
そんな彼女が再噴火する前に、ワルツはダメコンを投入することにした。
『・・・私たちが1晩泊まってる間に・・・連れてきたアトラスを貸すから、扱き使ってちょうだい?』
『はっ?俺?』
するとストレラは・・・
『そう。じゃあ、頑張んなさいよ?アトラス。期待してるから』
・・・全ての面倒事をアトラスへと投げつけた・・・。
『完全にイジメだろ、これ・・・』
余りの理不尽に、頭を抱える様子のアトラス。
・・・とはいえ、ここまでは、いつも通りの流れである。
そんな彼に・・・意外にも援軍が現れた。
『大丈夫ですよ〜?アトラス〜。私も手伝いますからね〜』
ここまで、話の流れを静聴していたコルテックスである。
彼女の発言は、窮地に追い込まれた兄の援護、といったニュアンスの発言だった・・・はずなのだが・・・
『げっ・・・コルテックスも来てるの?!・・・なら、来なくてもいいわ・・・』
どういうわけか、今度はストレラ側に拒絶されてしまう。
・・・それには、歴とした理由があったのである。
その理由は・・・こんなコルテックス本人の言葉から推測できるだろうか。
『ストレラ〜?遠慮しなくても良いんですよ〜?混乱の収拾など、私にかかればお茶の子さいさいですからね〜。反逆者は、問答無用、皆殺しにしてしまえば良いんですよ〜』
『・・・そう言うと思ったわ・・・』
と口にしながら、無線機の向こう側で、今頃、コルテックスが来たことについて、頭を抱えているだろう様子のストレラ。
・・・しかし、どういうわけか、
『いや、チョット待ってよ・・・?』
彼女は考えを改めるようにそう口にすると、
『・・・うん。やっぱ、来て!』
何を血迷ったか、暗にコルテックスの反逆者虐殺を容認するようなことを口にしたのである・・・。
そんな180度、言葉を翻したストレラの様子に、流石に冗談が過ぎた、と思ったのか、コルテックスは自身の発言を訂正しようとするも・・・
『・・・あの、ストレラ〜?本当に殺すようなことはしn』
『頼りにしてるわよ?コル?』
ガチャッ・・・
・・・ストレラは、コルテックスが訂正する前に、通信を切ってしまったのである。
「・・・・・・どうしましょうか〜」
その事実に戸惑うコルテックス・・・。
「・・・応援だけしてるわ」
「・・・別に手伝ってもいいけど、今の本気で怒ってるストレラに俺が替え玉で対応すると、後でひどい目にあうのはコルテックスだからな?一応、言っておくぞ?」
と、珍しく困惑しているコルテックスに対して、言葉だけを送る姉兄たち。
「・・・・・・困りましたね〜」
普段は、ミッドエデンの政を一手に引き受ける凄腕議長(?)のコルテックスだったが、しかし、残念ながら、今の彼女には、この窮地を乗り切るための手立てが見つかったようだ・・・。
うーむ・・・。
困ったのじゃ・・・。
最近、ナレーター比率が高かった故、会話の比率を上げた結果、微妙な感じになってしまったような気がしなくもないのじゃ。
恐らくじゃが・・・この感じ、比率に臨界領域のようなものがあるような気がしなくもないのじゃ。
『これ以上会話の比率を増やすと、微妙に感じる限界』的なもの、なのじゃ?
この章では、それを探ってみようかのう?
・・・まぁ、できるかどうかは分からぬがの。
で・・・簡単に補足しようと思うのじゃ。
今話から、コルの休暇前編の後編・・・・・・要するに、新章が始まったのじゃ?
タイトルにもある通り、反逆者がどうこう、という話になる予定なのじゃ。
問題はそれをどこまで拡大していくか・・・。
未だ、そのサイズについては何も決めておらぬのじゃ・・・。
とはいっても、7章はまだ.3じゃから、もうしばらく拡大してもいいとは思うのじゃがの?
・・・まぁ、駄文が書けるところまでは、拡大していってみようかのう。
・・・zzz・・・
・・・はっ!
ね、眠いのじゃ。
じゃから、今日はここまでなのじゃ。
・・・次回、『3つ首のケルベロスの尻尾の数は?』乞うご期待!なのじゃ?
・・・実際、どうなのじゃろうか・・・。
首はよく見るのじゃが、尻尾を見ることはないのじゃ。
もしも首の付け根と同じ仕組じゃというのなら・・・きっと尻尾も3つあるのじゃろうのう・・・。
・・・え?妾も尻尾が3つあるのに、首はどうして1本なのか?
それは・・・宇宙の法則がそうなっておるからなのじゃ!
とはいえ、例え乱れが生じても、普遍じゃがの?




