7.2-19 再々訪アルクの村6
その後も続いた、シラヌイとワルツの鉄に関する話題。
「(むむむ・・・)」
・・・その話についていけなかったためか、飛竜は内心で頭を抱えていた。
「(こ、こういう時、アルゴ殿はどう対処しておられるのだろうか・・・)」
自身と同じく、正体がドラゴンである先輩の水竜ならどうするか・・・と考えて、頭を悩ませる飛竜。
しかし、どんなに考えても、難しい話を聞いた瞬間に死んだ魚のような眼を見せる水竜の表情しか浮かんでこなかったようで・・・彼女は結局、考えることを諦めてしまったようだ。
「(理解せずに相槌を打つわけにもいかぬが・・・だが、このままでは、わざわざ人の姿になってまで、ワルツ様の下についた意味が無いではないか・・・)」
飛竜はその内心で、今の自分には何ができるのか・・・と悩んだ挙句、最終的に一つの答えへと辿り着いた。
「(・・・我も、何か、ワルツ様に教えてもらえるようなものを見つけるとしよう)」
先の2人がそうであったように、話題のきっかけは『不思議に思うこと』だったのである。
この場所の床と天井が何故光っているのか・・・あるいは、鉄道という言葉は何を意味しているのか・・・。
自分が何か不思議に思うことを見つけて、それを問いかければ、ワルツから真理にも近い知識を教わることができる・・・飛竜はそう考えついたようだ。
「(何か無いものか・・・)」
イブが今もなお興味深げに見つめている白く輝くタイルと、シラヌイが興味を示したトロッコの話題以外で、何か疑問に思えることは無いか・・・。
飛竜は周囲に見える真っ白な景色に眼を向けながら、見える空間の中に『不思議』が無いかを必死になって探した。
・・・その結果、眼に入ってきた『とあるもの』に気づいた飛竜は、宝物を見つけたような笑みを浮かべた後で・・・しかし表情を引き締めてから、トロッコの話題が一段落を終えたワルツに対して問いかけたのである。
「わ、ワルツ様?」
緊張のあまり、声が上ずってしまう飛竜。
「ん?何かしら飛ry・・・カリーナ?」
しかし、ワルツの方に、それを気にした様子は無さそうであった。
「あ、あの・・・聞きたいことがあるのですが、あれは何でございますか?!」
飛竜は勢いに任せてそう口にすると、白い光りに包まれていた地下工房の一角を指差した。
そんな彼女の指先が一体どこへと向けられているのか、疑問に思ったワルツは、機動装甲の全方位カメラだけでなく、ホログラムの身体も飛竜の指の先へと向けて、そこへと意識を集中させる。
・・・しかし、
「・・・何もないじゃない?」
どういうわけか、ワルツには何も見えなかったらしく、怪訝な表情を浮かべながら、そんな言葉を返してきたのである。
「え?そ、そんなはずは・・・ほら、あそこに、丸い赤い珠が浮かんでいるではないですか?」
「えっ・・・なにそれ怖い・・・」
「えっ・・・」
必死になって説明する飛竜とは対照的に、ワルツには本当に見えていなかったらしく、彼女は眼を細めたり、眉を顰めたりして、球体の存在を確認しようとしていたようだ。
その他、近くにいたシラヌイや、床に張り付いていたイブも・・・
「えっと・・・すみません。私にも見えません・・・」
「・・・ドラゴンちゃん、もしかして眼が節穴・・・じゃなくて、飛蚊症になっちゃったかも?」
ワルツと同様に、2人とも、飛竜が指摘した『赤い珠』を見ることは出来なかったようである。
つまり、その赤い珠は、飛竜にしか見えない代物、ということなのだろう・・・。
「む、むむむ・・・」
今もなお、そこにあるというのに、誰にも分かってもらえないその謎の物体へと眼を向けながら、どう説明していいものか、と考えて、思わず唸ってしまう飛竜。
もしもこれが普通の人間なら、自分の発言が狂言であると思われたかもしれない・・・などと思って、言葉を引っ込めてしまうところなのだが・・・。
飛竜は人ではなく飛竜であったためか、それとも彼女の元々の性格がそうであったためか・・・自身の言葉を引っ込めること無く、むしろ、その存在を実証するために、彼女は赤い珠の方へと恐れること無く近づいていったのである。
そして・・・その赤い珠を、自身の硬いウロコが少し残っているその手で躊躇なく掴むと、先輩の水竜と違って背中から生えているその太いしっぽとメイド服を振り回しながら、ワルツたちの方へと振り返って、これ見よがしに言ったのである。
「これが見えぬのですか?」
「・・・ごめんね、カリーナ・・・。ちょっと見えないわ・・・」
飛竜のその行動と態度が、どう見ても、嘘を言っているようには見えなかったためか、むしろ、自分の目が腐っているのではないか、と思い始めたワルツ。
そのせいか、『見えない』と言い切るのではなく、『ちょっと』という言葉をつけてニュアンスを柔らかくしたようである・・・。
その一方で、
「・・・うわっ・・・なにそれ?」
「・・・何か毒々しい色をしていますね・・・」
飛竜がソレに触れた瞬間、イブとシラヌイには急に見えるようになったらしく、彼女たちは各々にそんな感想を口にした。
2人ともに嫌そうな表情を浮かべているところを見ると、少女たちにとってその赤い珠は、得体のしれない気持ちの悪い物体に見えていたようである。
そんな彼女たちとは対照的に、清々しい表情を浮かべていたのは・・・その不気味な珠を右手に握っていた飛竜であった。
「ふぅ・・・それを聞いて安心した。一時は、我の眼がおかしくなったのかとヒヤヒヤしていたのだ・・・。それで・・・これは何なのですか?ワルツ様?」
「・・・・・・」
・・・しかし、先に述べた通り、ワルツには見えない・・・いや、正しくはワルツにだけ見えなかったようで、彼女は、飛竜の手に握られていた不可視(?)のソレに対して、なんとも言い難い複雑な表情を浮かべながら、どう答えて良いのか考えあぐねているようであった。
尤も、ソレがどういった類のものなのかについては、大体の予想が付いていたようだが。
「・・・魔法に関するもの・・・それも、多分、かなり面倒なものでしょうね」
純粋な工学の原理だけで作られていたワルツには見えないモノ・・・すなわち、それが、魔力的な何かであることは明白であった。
それも、普通の人間には見えず、飛竜だけにしか見えない状態で・・・。
その球体が、もしもルシアやカタリナや、あるいは、ここに訪れたことのある仲間たちによって設置されたものではないとするなら・・・つまり、見知らぬ第三者が設置したものとなるだろうか。
特に今回の場合は、誰が設置したのか、身内の魔法の能力を踏まえて考えるなら・・・
(・・・ほんと、面倒くさいわね・・・)
・・・仲間以外の第三者が設置した、と断定して間違い無いだろう。
では、その者は、魔法で出来た球体を使って、一体、何をしようとしていたのか・・・。
(ま、どーせ監視よね)
飛竜が珠を手に掴んだ際、爆発するなどの方法で危害を加えてこなかったところを見ると、球体を設置した者はどうやら、この施設の持ち主がしていることに興味があったようである。
おそらくは、今、こうしてワルツたちがやり取りしている内容についても、リアルタイムでどこかへと筒抜けになっているか、あるいは、その見えない赤い珠の中に記録されているのではないだろうか・・・。
「・・・うん、飛竜。それ、遠慮せずに、ひと思いに壊しちゃってちょうだい」
「えっ・・・い、良いのですか?」
「多分それ、私たちのものじゃないし、外に余計な情報が漏れるっていうのも嫌だしね」
「・・・・・・承知しました」
ワルツのその言葉の真意を感じ取ったのか、眉を顰めて頷く飛竜。
それから彼女は・・・
バキンッ!!
と、その幼い見た目とは裏腹に、圧倒的な握力を秘めるその手で、赤く濁った水晶のようなソレを、一気に握りつぶしたのである・・・。
「・・・さて、飛竜?貴女にはちょっと働いてもらわなければならないことができたんだけど、一緒に付き合ってくれるかしら?」
握りしめた際の音だけは聞こえたのか、事が終わったところで、飛竜に対して問いかけるワルツ。
果たしてここにあるその球体が1個だけなのか・・・彼女はそれが心配になって、唯一、球体を見つけることができる飛竜に、探してもらおうと考えたようだ。
そんなワルツの言葉に・・・
「えっ・・・」
・・・しかし、どういうわけか戸惑いの声を上げる飛竜。
最初はイブやシラヌイと同様に、自身も何か知識を学びたくて、その種になりそうな事柄を口にしただけのはずなのだが・・・気づいてみると、自身の予想とは違う方向へと、話が進んでいったのである。
どうしてこうなった、と困惑しても無理はないだろう。
・・・とはいえ、ワルツの頼みに対して、否やは全く無かったので、飛竜は嬉しそうに笑みを浮かべると、首を縦に振りながら、こう口にした。
「は、はい!不束者でございますが、こちらからも、何卒よろしくお願い申し上げます!」
「いや、頼んでるのはこっちなんだけど・・・」
飛竜の緊張した気持ちが漏れ出てくることを感じて、思わず苦笑を浮かべるワルツ。
ともあれ、こうして、ある意味においての工房の『大掃除』が、その幕を上げたのである。
とは言え、単に浮遊する球体を探すだけなので、わざわざこの物語において深く取り上げることはないのだが・・・。
ただ、その際、飛竜が珠を探す他にも、施設にあった様々な物、そして事について、気になったことを色々とワルツに問いかけていた、ということだけは述べておこうと思う。
そのほとんどを、飛竜は理解できていないようであったが・・・ワルツの話を聞いている間、彼女の表情は、実に充実したものであったようだ・・・。
よ、読みにくいのじゃ・・・。
原因は、一文の中に、幾つもの要素を詰め込みすぎておることじゃと思うのじゃが、それをバラバラにすると、箇条書きのような文になってしまうのじゃ・・・(全体の10%)。
・・・あるいは、文の書き方がパターン化しておる点かのう・・・(全体の10%)。
・・・眠いのに書いておる点も原因としては否定できぬかのう(全体の20%)。
・・・え?元々そう言う書き方じゃから、諦めろ、じゃと?(全体の100%)
・・・も、もう駄目かもしれぬ・・・。
というわけで、昨日から1週間は、自宅におらぬ故、あとがきで補足が出来ぬ日々が続くのじゃ・・・主に、睡眠不足的な理由で。
これ、後で、文を修正するのが大変そうなのじゃ・・・。
眠いと何を書こうとしておったのか分からなくなるからのう・・・。
というわけで・・・ね、寝るのじゃ・・・zzz。
・・・次回、『汎用寝具エネルギア』乞うご期待!なのじゃ?
・・・もしも、エネルギア嬢が擬態した布団と枕を使って寝たら、次の朝、起きた時、きっとボロボロな狐になってしまうのじゃろうのう・・・zzz。




