7.2-18 再々訪アルクの村5
ちょっと乱調があるかもだし・・・
どこまでも続いていそうな、白く輝く平行平面。
その所々にある黒っぽい四角い壁は、どうやらこの空間に小部屋を作り出している壁のようだ。
「・・・ここどこ?」
「・・・古民家の地下・・・だったはずですよね」
「・・・なんとも異質な・・・」
酔っ払うと面倒臭くなる狩人の母キャロラインを、どうにかその部下たちと酒場の店主に押し付けた後。
自宅の様子を見に行くと言っていた狩人と酒場の前で別れたワルツたちは、そこから数歩の距離にあったそれほど大きくはない家へとやってきていた。
その家に入って、ホコリが薄っすらと積もった床材をパズルのように剥がし・・・そして見えてきた地下への通路を降りたところで・・・酒場の空気に酔っていたイブとシラヌイと飛竜は、急にシラフに戻らざるを得ないほどに、その光景を見て唖然としたのである・・・。
「え?ここがどこなのかって?私ん家だけど?」
『えっ・・・』
ただでさえその未来的な光景に驚いていたというのに、ワルツ宅、と聞いて、より一層、驚愕の度を深めるシラヌイたち。
そんな彼女たちの中で、例外的な反応を見せていたのは・・・仲間たちの中で最も背の低いイブであった。
「そっかー・・・これがゆーふぉーの中かもなんだね!」
「いや、飛んでないわよ?」
と、彼女に対して、呆れたような表情を見せながら指摘するワルツ。
しかし、イブにとって、この空間が空を飛んでいるか否かは大した問題ではなかったようで、彼女はワルツの指摘を聞かずに、青いメイド服のスカートを靡かせながら、光る床を蹴ったり叩いたりしていた。
「これ、どんな仕組みになってるんだろ・・・」
「え?そんな複雑な構造じゃないわよ?強化ガラスの基板上に、10層くらい色々な金属や有機化合物を薄く塗り重ねて・・・で、一番上と下の層に電圧をかけると、勝手に光るのよ。もちろん、光らせるためには、ずっと電力を供給し続けなきゃならないけどさ?」
「うん!全然分かんない!」
「・・・そうよね・・・。あぁ、あれよあれ、魔法!」
「・・・・・・」
説明するのが面倒になったワルツが、よく使う言葉『魔法』。
細かいことを説明しなくてもよくなる彼女としては、まさに魔法のような言葉かもしれないが、それを聞く側の人間がどう思うのかについては・・・まぁ、詳しく言わずとも明白だろう。
「ワルツ様・・・私に説明するのが面倒になったかもなんだね・・・」ずーん
ワルツのそんな態度が何を意味しているのかを考えたためか、消え入りそうな声を口にしながら、目線を下げるイブ。
恐らく彼女は・・・自分と接することが面倒になったことの裏返しかもしれない、と考えたのだろう・・・。
「・・・全く、仕方ないわね」
イブが一体どこまで本気で、床と天井に貼り付けた有機ELパネルのことについて知りたいのか、ワルツには分からなかったが・・・彼女はイブの悲しげな表情に耐えられなかったのか、イブが充分に納得するまで説明をすることにしたのであった・・・。
・・・そして、およそ10分後。
「ふんふん・・・つまり、電子と正孔が発光層の中で結合した時に特殊な励起状態が発生して、本来なら熱に変わるはずのエネルギーが、放射光に変わるかもなんだね?」
・・・どういうわけかイブは、短い時間の間で、有機ELパネルの原理を理解していた・・・。
「・・・わ、私もよく分かんないけど、多分ね・・・」
ワルツも原理まではちゃんと理解しているわけではなかったので、とりあえず自身の中のデーターベースにあった辞書の中身を説明しただけなのだが・・・分からないところは想像力で補ったのか、イブが予想以上の速度で知識を飲み込んでしまったことに、ワルツは思わずたじろいでしまったようである。
一方、そんな2人のやり取りを横から見ていたシラヌイと飛竜は、眼だけは開いていたが、身体の中から魂が抜けていたようで、その眼に光は無かった・・・。
ELパネルの発光の原理を理解したとしても、この世界の魔法のように誰でも自由に扱えるわけではないので、耳から声は入ってくるものの、脳内では処理しきれなかったようである。
「それで・・・これ、どうやって作るの?」
「いや、だから言ったじゃない?金属材料や高分子材料をアルコールや水などの溶媒に混ぜて、十数層塗り重ねるって・・・(あ、言ってないか・・・)」
「なるほど・・・・・・今なら分かるかも!」
『・・・・・・』
そんな適当な説明で本当に分かっているのか、と首を傾げるワルツ他2名。
しかし、そんな2人の反応に構う素振りを見せず、イブは満面の笑みを浮かべながら、原理を教えてくれたワルツに対して問いかけた。
「今度、実際に作り方を教えてほしいかも?」
「い、いや・・・う、うん・・・仕方ないわね・・・」
8歳の少女と交わす会話ではない・・・というよりも、そもそもこの世界の住人と交わす会話ですらない、などと思いながら、ワルツは、ルシアやカタリナやテレサたちの事を思い出して、渋々作り方を教えることにしたのであった・・・。
そんな、前衛的な会話(?)に一段落が訪れた辺りで・・・
「それで・・・ここには何の用事があったんですか?」
シラヌイが、そこまでの話題を変えるようにして、ワルツへと問いかけた。
「特に理由は無かったんだけど、最近ずっと放置してるから、様子だけは見ておきたいかなー、って思って」
「えっ?!ここは放置されている場所なんですか?!」
「えぇ。ちょっと王都から来るには遠いしね・・・」
と、困った様子で、事情を説明するワルツ。
それから彼女は・・・しかし、余計な一言を口にしてしまう。
「高速鉄道とかがあれば、遅くても2時間くらいで来れると思うんだけど・・・」
その瞬間、
「・・・・・・鉄」
鉄道の『鉄』の音に反応したのか、表情が変わるシラヌイ。
それから彼女は、まるで何かの電源スイッチが入ったように言葉を続けた。
「その話、もうすこし詳しく聞かせてもらえませんか?」
『えっ・・・』
ついさっき、どこかで見たような構図に、困惑するワルツと飛竜。
ワルツの方は、また面倒な説明をしなくてはならないのか、と・・・。
そして飛竜は、再び呪文のような長い説明を聞かなくてはならないのか、と懸念していたようだ。
・・・ちなみに。
最初の質問者であるイブはその中には含まれず、一人、床のパネルや、黒っぽい金属のような素材で覆われた作業部屋の様子を見学しているようであった。
飛竜も、そんなイブに付いていけば、わざわざワルツの説明に付き合うようなことはしなくても良いはずなのだが・・・彼女は真面目なのか、話の内容が分からずとも、ワルツの言葉に耳を傾けることにしたようだ。
「鉄道のことが知りたいって?」
「はい。なんとなく・・・こう・・・鍛冶屋と関係があるような気がして・・・」
「それ、多分、鍛冶屋道なんじゃ・・・ま、いいけど。でも、貴女の考えていることとは、恐らく全然違う話だと思うわよ?」
「えっ・・・」
・・・そして、先のイブと同じように、悲しげな表情を浮かべるシラヌイ。
このパターンで行くと・・・どうやらワルツは、彼女に対しても、ちゃんと鉄道の話をしなくてはならないようだ。
「・・・鉄道っていうのはね、ものすごく長い鋼材を2本並べて・・・そしてその上に鉄で出来た車を置いて走らせる、って乗り物よ?文字通り、鉄でできた道の上を、ね」
するとシラヌイは、2本の長い鉄が並んでいる姿を想像してから・・・ハッ、とした表情を浮かべて再び口を開いた。
「つまり・・・トロッコですか?」
「あぁ、そういえば、この世界にもトロッコはあったのよね。まぁ、だいたいそんな感じ」
「じゃぁ、トロッコと・・・その鉄道は同じものなんですか?」
「原理的には全く同じだけど・・・上に乗せる物は、鉱石じゃなくて、人やいろんな荷物ね」
「トロッコに・・・人・・・」
そう口にしながら・・・何故か目を細めて微妙な表情を浮かべるシラヌイ。
その表情は・・・トロッコにまつわる何か嫌な思い出がある・・・そんな様子である。
「・・・何かあったの?」
急に表情を変えた彼女のことが気になって問いかけるワルツ。
するとシラヌイは、苦笑を浮かべながら、思い出(?)を話し始めた。
「えっと、大したことではないのですが・・・小さい頃、家の裏山にあった鉱山のトロッコに、おじいちゃ・・・祖父に無断で乗ったことがあるんですよ。最初は動いてなかったんですけど、何かの拍子にブレーキが外れて・・・そりゃもう、すごいことになりましたね・・・」
「・・・それで?」
「いえ、それだけです」
(えっ・・・何でそこで話を終えるのよ・・・)
トロッコに乗って、何か事件が起ったまでは良いが、肝心なところを話そうとしないシラヌイに、頭を抱えてしまうワルツ。
飛竜の方も、トロッコのことは分かっていたらしく、聞き耳を立てようとしたところで出鼻をくじかれてしまったようだ。
ただ、話の内容が、あまりポジティブなものではなかったようなので、ワルツたちはそれ以上問いかけるようなことはしなかった。
機会があれば、その内、彼女の口から直接語られることになるのではないだろうか・・・。
・・・新幹線の中と旅先で書いておるのじゃ・・・。
旅先、と言っても、遊んでいるわけではないのじゃぞ?
詳細は・・・秘密なのじゃ!
というわけで・・・申し訳ないのじゃが、補足を書いておる時間が全く無いのじゃ・・・。
流石に、補足を書くために、本編を書く時間を削るわけにもいかぬしのう・・・。
明日あたりは、ゆっくりと書けるとは思うのじゃが・・・・・・いや、難しいかもしれぬ・・・。
ヘタをすれば、本編すら掛けない可能性も・・・・・・・・・・・・もうダメかもしれぬのじゃ・・・。
まぁ、どうにか書けるように努力はするのじゃ?
もしも書けなくとも・・・・・・いや、書くのじゃ!
・・・次回、『トロッコブレイカーシラヌイ』乞うご期待!なのじゃ?
・・・どうやらシラヌイ殿は、トロッコを使って戦うことにしたようなのじゃ。
・・・別に、トロッコを壊すわけではないのじゃぞ?
・・・多分の。




